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鉄薫る世界にて  作者: キャバルリー
第四章:虚偽の魔術師 ~マジシャン編~
22/71

第二話

───午後1時頃、北西区域ニビヤシアック、アジア街の喫茶店にて。

幸いにも空いている喫茶店を見つけた俺達は早速店に入って席に着いた。

そして俺はブラックコーヒー、ローゼンクロイツはミルクティーを注文した。


「…さて、まず始めに、僕にはローゼンクロイツとしてインタビューに答えて欲しいかい?それとももう一人の僕のほうがいいかな?」

「もう一人…ってどういうことですか?」

「あ、ならいいよ、忘れてくれ」


もう一人というのは、彼のプライベートについてという意味だろうか。

良く分からないがとりあえずインタビューを始めよう。


「えっと、では最初の質問ですが、ローゼンクロイツさんはこの都市には仕事で?」

「いきなり愚問だよ。僕はこの街がホームなのさ。仕事で来たんじゃない、帰ってきたんだ」


彼がキャスタニアで暮らしているなんて思わなかった。通りで人々が彼の存在に無関心なわけだ。

しかし何故こんな危険な都市でわざわざ生活しているのだろうか。


「すみません…でも、この街って治安が良くないのに大丈夫なんですか?」

「そこは心配いらないさ…っと、詳しいことは言えないけど」

「それってつまり、やはり裏にファミリーが?」

「一応僕は個人事務所の取締役も勤めてるんだけど、この街でやっていこうと思えばファミリーに関わらないことは不可能さ」


これだけの大物にもなると他の事務所に所属する必要がないのか。


「なるほど。では、次の質問ですが…」


俺が質問しようとしたその時、ローゼンクロイツは誰かに向かって手を振った。

その方向を俺も見てみると、そこにはステラと、彼女の娘であるキャリーがいたのだ。

あの事件の後、俺は一度だけウィルソン一家に招かれた。そこで娘さんにも出会っていた。


「あら、これは面白い組み合わせねぇ。相席いいかしら?」


そう言いながらステラ達は俺達のテーブルに近づいた。


「ええもちろん、ステラ夫人」


ローゼンクロイツはさっと立ち上がるとステラのために椅子を引いてあげる。


「フロッドおじちゃん久しぶり!」


キャリーはそう言った時、ステラはとっさにこの子の口を押さえる。

ローゼンクロイツも苦虫を潰したような表情を浮かべていた。


「…もしかして、さっきのってローゼンクロイツさんの本名ですか?」

「あ、えっとね晃司君、さっきのは…」

「ああ、僕もついにおじちゃん呼ばわりか…悲しいねぇ…あ、そうそう、僕の本名はフロッドって言うんだ」


大スターなのに本名を隠す気は一切ないらしい。懐がとても大きい人だ。

ローゼンクロイツ改めフロッドは、ステラの手を振りほどいたキャリーの手の平をそっと握った。


「はい、これ。キャリーちゃんの好きなペロペロキャンディーだ」

「うわぁ、ありがとうフロッドおじちゃん!!」


子供というのは残酷なものだ。容赦なく相手の心を抉り取る。


「いやぁ、悪いねぇフロッド君」

「いいんですよ、別にこの街じゃ隠しても無駄だし」


ステラとキャリーが席につき、改めてインタビュー…というより世間話が始まった。


「いつまでこっちにいるんだい?」

「しばらくはこっちにいるつもりですよ。仕事も山積みですしね」

「わーい、またフロッドおじちゃんと遊べる!!」


キャリーの発言からして、ウィルソン一家とフロッドは付き合いが長いのだろう。

特にステラはこの街で顔が広い。こんな大スターと繋がりがあってもおかしくはない。


「あんまり無茶はしたらダメよ?若い頃にもちゃんと体を労わらないと」

「ご心配どうも。でも僕はこの仕事が楽しいから大丈夫です」


フロッドの話し方や人との接し方を見るに、少しキザではあるがいい人であるのに間違いはなさそうだ。

もはや自分のコーナーとしてではなく彼についての記事を独自に立ち上げても良さそうな位、彼のプライベートな一面は良いネタになりそうである。


「晃司君もフロッド君にちゃんと媚売っときなさいよ?こんな大スターをこんな身近でインタビューできる機会なんてそうそう無いんだから!」

「え、ええ。これからも是非取材させてください」

「もちろんいいとも。どんな形であろうと僕のマジックを一人でも多くの方に伝えたいからね」


しばらく大スターを交えての楽しい一時を過ごした後、俺達は店を出た。


「僕はまだちょっと用事があるから、ここでお別れだね晃司」


フロッドはそう言って右手を差し出してきた。


「今日は本当にありがとうございました。あ、最後に写真いいですか?」

「写真かい?ならこれでいいかな?」


そう言うとフロッドは左手でスーツの胸ポケットからトランプを取り出した。

そしてトランプをシャッフルし始めて、扇状にトランプを広げる。


「一枚持っていってくれ。君の欲しいものだと思うよ」


まさかと思い、俺は一枚のカードを選んで絵柄を見た。

そこにはフロッドが決めポーズをとった写真と、でかでかと今後のマジックショーの告知が描かれていた。


「まぁそれは色んな場所に配っているものだけど、雑誌のどこかにでも載せてくれると幸いだよ。あ、今回は特別にそれだけでいいかな、ギャラは次回以降貰うことにするよ」


願ったり叶ったり、この街でこんないい出会いにめぐり合うなんて思いもよらなかった。


「ありがとうございます、では僕はこれで失礼しますね」


俺は深々と頭を下げて三人と別れた。



───同時刻、喫茶店前。

晃司と別れ、アタシは改めてフロッドと話を始めた。


「相変わらず外の顔は気前いいね、あんた」

「冗談キツイなぁ…でもステラさんが彼と知り合いだったとは、世間は狭いですねホント」

「確かにそうね。あ、キャリーあそこで大道芸やってるから見に行ってらっしゃい」

「分かった、ママ!」


キャリーは嬉しそうに街の一角で大道芸を行うピエロの所へと走って行った。


「…で、本当の用は何なんだい?」

「すみませんねいつも」


フロッドはそう言って一枚の写真を渡してきた。

そこには日本人男性の横顔が写っていた。


「…これだけかい、流石にきつそうだね」

「そうなんですよねぇ。一応LEにも頼んでるんですが、期待できそうになくて。相変わらずあそこは人使いが荒くて大変ですよ」

「だろうねぇ。ま、アタシにまかしときな。アンタも少し売れっ子になり過ぎて動きにくいだろう?」

「否定は出来ませんね。ただあんなにびっくりされたのは彼ぐらいですけど」


晃司君がまさか彼と接触したのは意外だった。

これも何かしらの縁なのだろうか。


「彼、この街に来て全然経ってないんだけど、結構いろんなこと知っちゃってねぇ」

「へぇ…それは楽しみだ、いずれインタビュー以外の形で会えそうで」


フロッドはそう言ってニヤリと笑ってみせる。

ジェシーが見せる笑みとは違い、彼の笑みはどこか子供っぽい。


「あまり虐めてやらないでやってよ?彼もお得意さんの一人だから」

「…裏はないんですか、彼?」

「今の所ね。彼の会社がちょっと臭うかなってぐらい」

「なるほど、それじゃああまり心配はいらなさそうですね」


フロッドと会話をしている途中で、大道芸を見終えたキャリーが戻ってきた。


「フロッドおじちゃん、ピエロさんがこれ渡してって言ってた!」


キャリーは一枚の封筒を持って帰ってきていた。

アタシとフロッドはピエロのいたところを見直すが、既にピエロの姿はない。


「ありがとうキャリーちゃん」


フロッドは冷静に封筒を受け取って封を開ける。

中には一枚の手紙が入っており、早速読み始めた。


「虚偽の魔術師に告ぐ…これ以上我々の世界に入り浸るのなら、こちらもそれ相応の対応をさせてもらう。

 こちらとて君のような大物とは仲良くありたい。ご理解頼む…とある道化師より」

「…向こうも動いているみたいだね。あんまりモタモタできないよこりゃ」

「ねぇ、どういう意味なのそれ?」


純粋な気持ちでキャリーはフロッドに質問する。


「どうやらあのピエロさんは僕を知っていたようだ。もしかしたら今度マジックバトルをしに来るかもしれないっていうことさ」

「マジックバトル?凄く面白そう!」

「キャリーちゃんにも見せられる機会があるかも知れないよ。楽しみにしていてね」


フロッドはそう言ってキャリーの頭を優しくなでてあげる。

彼は子供の心を掴むのが上手い。流石マジシャンというべきか。


「アタシ等はそろそろ帰るよ、仕事頑張ってね」

「旦那さんにもよろしくお伝えください」

「ああ、伝えとくよ」


アタシとキャリーはフロッドに手を振ってアジア街を歩いていった。

あの写真の男は恐らく日久組の幹部の一人だろう、過去に重役会議に向かうところを見たことがある。

そんな大物を探すのは骨が折れそうだが、これも仕事だ。

それに彼とも付き合いが長い。彼には是非上手いこと仕事を進めて欲しい。



───午後4時頃、フウリーガーデンにて。

私はベッドの上でうつ伏せになって週刊外道伝を暇つぶしがてらぺらぺらと眺めている。

その上でアリーチェが私の背中に跨って一緒に雑誌を見ていた。


「日本語って訳分かんないね」


私もアリーチェも日本語なんて全く分からない。

たまに登場するグラビアぐらいしか楽しむところがないが、日本のグラビアはとてもソフトだ。

まぁ流石に幼すぎてヌード写真はダメなんだろう。というか水着とは言えこんな幼い子が堂々と写っていても大丈夫なのだろうか。

こっちだと法律的に少々危ない写真だ…私が法律なんて言葉を使うのもどうかと思うが。


「アリーチェ、この子結構可愛いと思わない?」

「えー、こんなガキ全然ダメダメじゃん!私のほうが何倍も可愛いじゃない!」

「それは言えてるかも」


ダラダラとした時間を過ごしていたその時、扉をノックする音が聞こえてきた。

一瞬、部屋に静寂の時間が流れる。


「…私が出るわ」

「うん、分かった」


アリーチェが私から降りた後、私はベッドから降りて相棒の一人をホットパンツの後ろに差し込んで部屋の入り口に近づいた。

そして覗き窓から外を様子見る。


「あら、あらあら嬉しい来客だわ」


顔を見るや否や私は扉を開けて向こうに立つ男にハグをかましてあげた。


「ゲホッ…タバコ臭いからやめてくれ」


何よ、せっかくお姉さんが抱きついてやってるのにそのそっけない反応は。

私は男から離れて、改めて彼を部屋に招き入れた。


「こっちに帰ってきてたなら連絡してくれたらいいじゃない、フロッド」

「君に連絡する義務はないだろう、恋人でもあるまいし」


フロッドは相変わらず冷たくそう返す。

そして彼を見たアリーチェはいつも以上にムスッとした顔で彼を睨んでいた。


「またキザ野郎なんかにハグハグしちゃって…!」

「久しぶりだねお嬢さん、ほら日本の土産」


フロッドは右手を出すと一瞬でチョコレートの入った箱を出して見せた。

私ですら彼のトリックは見抜けない。流石テレビに出られるだけの実力はある。


「…貰ったげるわよ!」


アリーチェはカリカリしながら、しかし嬉しそうに箱を受け取った。

私達は部屋に置かれたソファーに向かい合うように座った。


「…で、どうせあんたのことだから仕事のことでしょう?」

「ご名答だジェロシア。実は今ステラさんたちに頼んで日久の幹部の一人を探してもらっている」

「それで、そいつを殺せばいいのね?」

「話が飛びすぎだ。一応僕はその幹部と友好的に接する必要があるんだ。だが他の連中についてはどうでもいい」


つまり、私は彼のお仕事の手伝いをしろと。


「なら私達は何処まで干渉すればいいのかしら?」

「まず僕は幹部と接触してマジックショーを行わなくちゃいけない。そういう約束だからね」

「向こうはあんたのこと知ってるの?」

「それについてだが、本性含めばれてる可能性が高い。それでもあえて僕は正面から行きたいんだ」

「どうしてかしら?わざわざあんたが危険な橋を渡るだなんて」


私がそう言うと、フロッドはニヤリと笑って一枚の手紙を取り出した。


「この手紙をピエロから預かってね。もしかするとこのピエロとマジックができるかもしれないんだよ」

「…なるほど、あんたマジックの腕を見せびらかせたいだけでしょ」

「ああそうさ。道化の姿で喧嘩を売られた以上、こちらもプライドがあるからね」

「で、私達はマジックが終わった後の片付けをすればいいのね?」

「その通り。報酬は五千でどうだい?」


五千という数字を聞いて、またアリーチェが何かを言いたそうな顔をしだす。

それを見たフロッドは咳払いをした。


「五千とチョコレートケーキ2ホール。最近出来たいい店があってね」

「グ、グヌヌ…チョコレートケーキ…」

「何ならその店主に頼んでもいいよ。まるで童話の世界に住んでいるような美しく儚い少女が現われたら裏メニューを出してあげてくれってね」

「ダァー!それでいいわよもう!ホントケチな男!」


フロッドはアリーチェみたいな子供を操る達人だ。

チョコレートケーキ如きで心が揺れるこの子もちょっと問題があると思うが。


「交渉成立ね」

「決行日はまた連絡するよ…っと、こっからは話が変わるけど、僕が日本に行ってる間何かあったかい?」

「スティンガーが死んだことぐらいね、あの関連で」


丁度定例会の日だっただろうか、彼が急遽日本に行ったのは。


「ああ、アイツが。まぁどうでもいいか」

「それと、あの件はすっかり片付いたわ。あんたが働かないから沢山殺せたし」

「それは良かった」

「後は…そう、面白い日本人がいるのよ」

「奇遇だね、僕も変わった日本人にさっき会ったよ」


ほう、彼のであった日本人についても少し気になる。


「へぇ、どんな日本人なのかしら?」

「ライターさ。しかもステラさんとも知り合いらしくて、色々裏のことも知ってるらしいよ」


…どこかで聞いたことあるような日本人。


「まさかと思うけど、それって世羅田晃司じゃない?」

「…そうだけど、どうして君が?」


つくづくあの男はこの街の住人と関わりを持つわね。

まさか彼とまで出会ってしまうとは、もはや偶然というには出来すぎている。


「フフッ、彼知ってるのよ、私のこと」

「…イブリースのこともかい?」

「ええ、勿論。私の仕事現場も生でばっちり見てるのよ。そのことを雑誌の記事にまでしてる」

「そいつは面白い。何だ、ならもっと彼にぶっちゃけても良かったかもしれないねぇ」


楽しそうに笑う私達を横目に、アリーチェはイライラしていた。


「何よ二人して、あんなのの話してさ…」

「僕にジェロシアにアリーチェ、更にステラさんやビッグジョージとまで面識があると…もう彼もこの街の住人だ」

「本人はそうありたくないらしいけど、もう手遅れでしょうね」

「だろうね。さて、僕はそろそろ仕込みに戻ることにするよ」


フロッドはそう言ってソファーから立ち上がった。


「そういえば、あんたとまともに組むのって久しぶりじゃない?」

「言われてみればそうだね。僕と君達じゃやり方が全然違うからねぇ。それじゃ、また後で」


フロッドは手を軽く振って部屋から出て行った。


「私達はしばらくお休みにしましょうか、来るべき仕事のために。もちろんアリーチェちゃんも私達の仕事に付き合うでしょ?」

「もちろんよ!…ナンバー1と2が一緒に仕事するところは見たいし…」


ローゼンクロイツ、本名フロッド・レグナス。

世界最高の魔術師は、この街でもう一つの仮面をかぶる。

私達この世界に住む人々は彼の職業を皮肉って虚偽の魔術師や道化と呼ぶ。

さぁ、イブリースナンバー2の仕事がまた見られる。楽しみで仕方が無いわ。

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