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9 聖ゲルマヌス ~~聖職者かくあるべし~~

お気に入り登録、100人を超える方にして頂きました!本当にありがとうございます。引き続きお楽しみ下さい。

今回も誤字チェック等する余裕がなかったのですが、とりあえず投稿させて頂きます。

ヒューゴは住むところの手配を頼んでから、パリの修道院に向かって歩き出した。修道院は、特に名前がついていない。後に聖ゲルマヌスの名前をとって、サン・ジェルマン・デ・プレという立派な名前が付くのだが、今は単に「パリの修道院」で通じるのだ。


(ゲルマヌスとは、どういう人間なのだろうか。)

ヒューゴは歩きながら考えた。トゥールのグレゴリウスのような善人の皮を被った俗物であれば、徹底的に軽蔑してやろうと思っている。もともとヒューゴは正統派聖教会に対して特に信仰心などはない。単に神聖魔法という名の文明魔法の研究をするために、パリにある書物を漁りに行くだけだと割り切っているのだ。


修道院の門は開かれていた。これはトゥールの修道院も同じである。何人たりとも、入ることが拒まれることがないことを示している。

一方で、門には、「入ルナカレ」という札が吊るされている。これは、教会に悪意を持つ者が侵入すると神の罰が当たることを示している。入ったとしても、教会から処罰されるとか報復があるというわけでもないが、悪意のある者は、神罰が怖いから入らないのだ。


ヒューゴはそのまま入ってぶらぶらと歩いた。修道院の造りは、どこも大抵同じような感じだから、大司教の執務室もおおよその想像がつく。


・・・


執務室の前には控室があったが、誰もいなかった。


コンコン

ノックをした。

一応、軽蔑すべき人間であるという情報は今のところ、ない。そうであれば人間として当然の礼儀は守るべきであろう。


コンコン


誰もいないようだ。


勝手に入るわけにもいかず、ふらふら歩いていると、中庭に出た。

「うりゃあー!」

妙な叫び声がしている。


「とりゃあぁ!」


老人が珍妙な声を上げながら、両手を振り回していた。これはどういう趣向だろうか。


「うわっ」

ヒューゴは思わず声に出して飛びのいた。

いきなり足元に火が出現したのだ。


「おいこらっ、そこのじじぃ! 危ないじゃないか!」

「ん? おおっ! 誰かいたのか?」

老人が狼狽えた。


「ちっ」

ヒューゴは舌打ちをしながら、足で火を消そうとした。


・・・


消えない。踏みつけても、砂を掛けても消えない。


「魔法か。」


面白いではないか。魔法には魔法だ。


「水、コノ忌々シイ火ヲ滅殺セヨ」

ラテン語で唱えて、足元で燃え盛る火を力づくで殲滅した。


「ほう、これを消せるのか?」

老人は目を輝かせた。


ヒューゴは、冷静になれと自分に言い聞かせながら、

「ご老人、火を振りまくときには、周りに気を付けられよ。咎無き人を傷つけることは、神の命ぜられるところではありますまい。」

と言った。一応、修道院の人間らしいから、それらしい言い方をしてみた。


老人は、にやりと笑って、

「随分と抹香臭いことを言う幼児じゃな。ワシが想像していたのと、ちと違う感じじゃが、自分を偽るのは良いことではないぞ、ヒューゴ殿。」

と答えた。


ヒューゴは、驚いて、

「老人、なぜ俺の名を知っている?」と聞いた。老人は、


「トゥールの商人、ギムザリウスから、手紙が来たのでな。おいでになるのを楽しみにしておったよ。グレゴリウス大司教に紹介状を書かせなかったのは、なかなか面白い。ああ、そうじゃ、ワシがゲルマヌスじゃ。」

と両手を振り回し、唾を飛ばしながら挨拶してきた。



 ○ ○ ○ ○ ○



ロゴは雑草が丘の館の最上階から、丘の下を見おろし、苦い顔をしていた。

「5000くらいかな。」

「2000くらいでは?」従士頭のテイズが角笛を吹くのを止めて答えた。

「そうかな、3000はいるんじゃないかな。」

「どうでしょう。3000はいそうですけど。」


この噛みあわない会話は、この時代特有の現象であった。

ローマ帝国滅亡後のガリアでは、数を正確に数えるという習慣が失われていた。

そういうのは、商人が得意とすることであって、戦士、僧侶、庶民はもちろん王侯貴族も上手に数を数えることができない。

たくさんか少ないか、勝てそうとか弱そうとか、そういう感覚しかないのだ。


テウデリクが館の上に上がって来た。

「おうテウ、どうだった?」

「父者、敵は1500程度です。人間とドワーフが半分ずつ、全員厚い盾を持っていますから、弓矢で被害を与えるのは難しそうです。一応、火矢の準備をさせています。」

「おう、火矢は厄介だからな。」

「一部はそのまま登ってくるでしょうが、一部は下で工作をするようです。どうやら、何か攻城兵器を即席で作るのではないかと思われます。」


「でかい道具を使うんだな。」

「はい。何を作るつもりかは分かりませんが、既に木を切って取りかかっているようです。」

「まあいい。蹂躙してやるさ。」

「壁から出られるのですか?」

テウデリクが質問した。

城外に出ると取り込まれるおそれがある。

数で押し負けて撤退するときに、敵に付け込まれたら一気に落城する。堅く門を閉ざして矢合わせをするのが常道と思われるのだが、ロゴは打って出るつもりらしい。


「うん。馬で突っ込んだら、盾ごと倒せるだろ?」

「そうですが、戻れませんよ。」

「ん? そうかな。」

「はい。」

突き抜けるのならともかく、いつかは城に戻らなければならない。そのときの背中は良い的以外の何物でもないだろう。


「やめた方がいいか?」

ロゴが聞いた。

「はい。」

テウデリクが答える。


「んじゃ止める。」

「父者は、門の内側で、壁や門が破られたところに突っ込んで殲滅して下さい。」

「おう。」

「母者は、今のうちに裏から逃がしましょう。」

「そうだな。」


テウデリクの母、クロティルドは、部屋の奥に座っていたが口を出した。

「私が逃げるわけないでしょ。」

「母者、逃げて頂く必要があります。」

「私だけ夫と子供を置いて逃げるわけにはいかないわ。」

「お、クロティルド、さすが俺の嫁だぜ。」


「しかし母者。母者は身重の身体。お一人のみの問題ではありますまい。」

テウデリクが指摘した。


「「え?」」

ロゴとクロティルドが、びっくりした顔をした。


「え?」

テウデリクの方が驚いた。

「気づいてなかったのですか?」

クロティルドが慌てて指を折り始めた。


「えっと、前のあれが、ほら、お腹一杯鹿肉を食べた日に始まって、そのときに始まって、ああもう食えねえって思ったのが、確か、確か、いつだっけ?」


突然振られたロゴも、狼狽え気味に、

「鹿な。鹿。食べたな。あれはうまかった。酒に良く合うんだ。」

と言い始めた。


「父者、母者、鹿は今関係ありません。とにかく母者は僕の弟か妹がお腹の中にいるんです。その子たちを守らなければならない。」


ロゴは厳しい顔をした。

「テウ、お前の言うことは分かった。だがな、クロティルドの腹の中にいるのも俺の子だ。俺の子なら、敵に背を向けちゃならねえんだ。たとえ赤ん坊であったとしてもな。」


テウデリクは溜息をついた。

「分かりました。出すぎたことを申しました。」


綺麗にまとまったが、4歳の息子に妊娠を告げられた夫婦という事実は変わらないのだった。


ミーレが駆け込んできた。

「親方様、テウ様、敵が登り始めました!」

「おう、じゃ、行くぜ。」

ロゴはクロティルドの顔も見ずに館の下に降りて行った。闘う顔になっている。

テウデリクも黙って下に降りて行った。

いくさの時間だ。


・・・


丘を埋め尽くすようにして軍勢が登って来ていた。

おおよその射程は把握しているようで、城壁から一定の距離を置いて後続が来るのを待っている。横一線に並んでから城を目掛けて詰めてくるのだろう。


一人の人間が、頃合いを見計らって、

「いけえーぃ!」

と叫んだ。

軍勢は「おう!!!」

と応じ、盾をかざしてじわじわと進んできた。


城門では、テウデリクとネイが立っていた。後ろにミーレとヤンコーが控えている。物見櫓の一つにはヴェルナーが入っている。城壁の兵の配置をそこから指揮することになっている。

ロゴは城門の裏側にいて騎乗している。破られたところに駆けつけ、城壁を越えてきた敵を殲滅するのが役目だ。


従士の半数と村人たちは城壁を守っている。弓兵も100を超える数が揃っている。


テウデリクは城壁の味方に呼びかけた。

「皆の者! 矢は腐るほどあるぞ! 好きなだけ使え! 敵を貫くのだ!!」


「おー!!」

兵士らが返した。


旗が翻っている。

ロゴが辺境伯に決まったので、自前の旗印があってもいいかもしれないという話になり、急遽作ったのだ。これがいわゆるお披露目ということになる。


日の丸を使った。

テウデリクが推したのだ。

やはり元日本人の戦国武将として、世界を舞台に自分の武威を示す際には、どうしてもこれが一番しっくりくるのだ。


長い棒の先に横竿をつけ、そこから縦長の布を垂らしている。その布の上部に真っ赤な丸い印をつけた。簡潔にして完成した形だ。テウデリクは、かなり気に入っている。


ミーレが、

「そろそろ射ちますか?」

と尋ねてきた。

「そうだな。」

テウデリクが答え、弓を構えた。


ネイが、

「各個に射て!!」

と叫び、城壁の弓兵らも、順次矢を放ち始めた。城壁の裏側には火が焚かれていて、そこで弓の先に括り付けた藁束に着火してから放つのだ。

弓兵の後ろでは、女たちが藁を弓に括り付ける作業をしている。


ブリトン王国の軍勢は盾を構えているから、簡単には倒されない。しかし、盾のほとんどは木製だから、火矢が刺さると消さなければならない。消すときの動作でどうしても隙ができるから、その間に射られてしまう。

また、テウデリクやミーレは和弓の練習をかなりしているから、遠くの敵であっても盾の隙間を狙うことができた。


攻め手の絶叫が聞こえてくる。ある程度は削ることができているようだ。

もっとも、敵は1500ほどいるから、少しばかりの損害は無視できる程度のようだ。じわじわと攻め寄ってくる。もっとも近づけば近づくほどに損害は増えていっている。


敵側も盾の陰から矢を射返してきた。

ほとんどは城壁に遮られているが、それでも守り手に被害が出ている。苦痛の声がいくつも上がった。


かなり近くまで登ってきている。

テウデリクは、

「火矢やめい! ここからは普通に射て!」

と叫んで指示した。

この距離なら、盾でも貫けそうなのだ。それよりは速射できる方が重要だ。


ブスッ、ブスッという音を立てて、矢が盾に突き立っていく。

やじり真銀ミスリス性なのだ。

もっともテウデリクたちは、これが真銀だとは知らない。よく分からないが、ドワーフのグラインガドルにミョルニルを使って鍛えさせたら、やたらと攻撃力の高い金属が出来上がるので使っているだけなのだ。


至近距離から射つと、盾を割ったり鎧を貫通して肉を傷つけるほどになってきている。それでもブリトン軍は前進を止めずに迫って来た。


敵が壕の近くまでやってきたところで、テウデリクは刀を抜いて、ひょいっと城門の下に飛び降りた。ネイ、ミーレ、ヤンコーも後に続く。


4人の幼児が飛び出してきたのを見るが、敵軍は全く侮る様子を見せなかった。どうやら前のいくさの生き残りが状況を報告していたようだ。


「斬れ!」

テウデリクは、当たり前ながら配下たちに指示を飛ばす。別に言わなくても分かるのだが、こういうのは勢いが必要なのだ。


「ぐわっ、うっ!」

「おおぉぉー。」

敵の悲痛な叫びを聞きながら、素早く駆け回り、敵の陣形を崩していく。崩れたところは盾で守るのがおろそかになるから、更に火矢が降り注ぎ、敵の攻撃が停滞した。


「戻るぞ!」

テウデリクが声を掛け、壕の外側から、城壁の上に飛び移った。野蛮魔法があるからこそできる跳躍だ。


ネイたちも戻ってくる。

「おお!!」


城壁の味方たちは、テウデリクの勇戦に喝采を送る。


ブリトン軍は壕の下を通り、城壁に梯子を立てかけた。


前回は梯子すら用意して来ていなかった。

今回は、ロゴの城が堅いことを知り、梯子を作ってきたのだろう。

流石に工芸種族、ドワーフが作っただけあって、しっかりとした梯子がいくつも城壁に立てかけられた。


「テウ、やっぱり出るぜ!」

ロゴが叫んで、城門を開いて撃って出た。


テウデリクの感覚とすれば、ロゴは大将だから安易に出るべきではない。しかし、ここで敵を一掃するのは確かに正しい。


ロゴと数名の騎馬武者は、城門から渡り橋を下ろして飛び出して、壕の外側を周り始めた。敵が弾け飛ばされるように転がっていく。血しぶきが舞い上がるが、すでにロゴたちはそこにはおらず、別のところで更に敵を崩していっている。

敵の体勢が崩れたところに城壁からの矢が降り注ぎ、その隙を突いて立てかけられた梯子が押し返される。矢だけでなく、城壁からは槍も投げられている。

ロゴたちにも敵の矢が当たるが、甲冑が守ってくれているようで、傷には至っていないようだ。


梯子も倒された末に火矢を射かけられて、燃え始めている。これで使えなくなるだろう。


ロゴたちが一回りして戻ってきた。

城門から入るときが危険なので、それに合わせてテウデリクたちも再び城門から飛び降りて退路を作った。


「父者! この隙に城へ!!」

テウデリクが叫び、ロゴが、

「おう! お前もすぐに戻れよ!!」

と返事をして城内に戻った。


「3番! 梯子を押し返せ! 2番と4番は、敵を潰せ!!」

ヴェルナーの声が響いた。

一つだけ残った梯子から敵兵が城壁に登ったらしい。ここは押し返さなければならないが、ヴェルナーの指示で守り手が集まってきて、城壁の上で激戦が始まった。


数名の敵兵が城壁を越えて城内の広場に降りてきたが、村人たちから囲まれ棍棒やら投石やらで倒されている。武装のほどでは敵が有利だが、圧倒的な数の力ですぐに侵入兵は討ち取られてしまった。


「梯子は残り一つだけだぞ! それを潰せば、敵に攻め手がなくなるぞ!!」

テウデリクは大声を出して味方の動揺を鎮めた。


従士たちはロゴに対する忠誠心は充分にある。

村人たちも、テウデリクの内政の恩恵を実感しているから必死に戦う気持ちがある。城が破られたら全滅だということも理解している。

破られた! という認識でパニックにならない限りは逃げずに闘ってくれるだろう。


しばらくの間、城壁での戦闘が続いたが、物見櫓からの火矢で梯子が崩れ、後続が来なくなったため、壁上の敵兵は殺されるか、壕に飛び降りるかして、城側が壁を守り切った。


カンカン! と鐘の音がして、ブリトン軍は退却していった。

敵の背中に矢が降り注ぎ、更に損害を増やしていった。


・・・


ロゴが再び城門から出撃して、倒れている敵兵にとどめを差していく。城方の兵士らも出ていって、矢や槍などを回収していった。


「テウ様、あれを!」

ヤンコーが気が付いて指差した。

丘の下で、南の方から小勢が突っ込んで来ている。ブリトン軍の背後から襲いかかる形になっている。騎馬が10騎ほど、槍と盾で武装した歩兵が10人ほどだ。

ブリトン軍は本陣を下の村の外れに置いていたが、そこに突っ込んで暴れまわっている。


「あれは、全滅するぞ。」

テウデリクは言いそうになったが、堪えて見ていた。言葉にすると配下が動揺しかねないのだ。


援軍は、ひとしきり敵の本営付近で暴れまわると、一気に向きを変えて丘の下の広場に襲いかかった。

敵の工作部隊が攻城兵器を作っていたが、そこで技術者たちを斬り捨てて行く。


「ナントの兵でしょうか。」

ミーレが心配そうに言った。

「おそらくそうだな。」

流石に野蛮魔法でも、そこまでの距離は見えない。ただ、援軍の時間といい、人数といい、ナントからの兵とみて間違いはなさそうだった。


敵の本軍が態勢を立て直して援軍に襲いかかった。丘から退却してきたブリトン軍も同様に援軍を撃破しようとしている。


「逃げろ!」

ネイが悲痛な声を上げた。


援軍は、堅くまとまると、丘の上を目指して敵を突破しようとしたが、そのまま敵に包み囲まれて見えなくなってしまった。

ご一読ありがとうございました!

戦闘シーンは、難しいですね。

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