44 迎撃 ~~西と東再び~~
開いて頂いてありがとうございました。
最近、第一章を読み返すことがあるのですが、なんか失敗している感じですね。最初から第二章のようなトーンで書いていれば良かったかと反省中です。
「魔の森を突っ切るぞ。」
ロゴが決断を下した。
魔の森の南側を迂回する道は悪路だ。南側、魔の川の西岸は沼沢地帯で騎馬での通行には時間が掛かった。北側を迂回すると、かなり遠回りになる。また岩場が多くて、やはり走りにくいのだ。
「夜に掛かりますぞ。」従士の一人が注意を促した。陽はまだ高いが、夕方までに抜けるのは無理だろう。
「うん。やむを得ない。夜に入ってしばらく行軍したら、魔の森を抜けられるだろう。」ロゴが苦しげに言った。それでも50騎もの正体不明の軍勢が自領をうろついているとなると、無理をしてでも急行する必要はある。
雑草が丘の下の村を突き抜け、魔の川を渡り、ロゴの主力騎馬隊は、魔の森に入って行った。
・・・
レイズの村でテウデリクは歩兵をまとめ、雑草が丘に帰るよう指示した。
ここでの兵力は無駄になっている。雑草が丘を固めておく必要性の方が高いだろう。
テウデリクとシノが残った。シノには、レイズの城にいた馬を与えている。シノは乗馬の練習はほとんどしていないが、ネイが練習を始めたときに、少しだけ乗ってみたことがあった。多少は走れるという程度だ。
「テウ様、どうなさいますか?」
シノが聞いた。
「ふむ。」
テウデリクは考え込んだ。
「南に下ってロワール河に出る。そこから西に向かってナントへ行く。」
「はっ」
シノにはテウデリクの決断の理由が分からなかったが、とりあえず服従した。
「急ぐぞ!」
「はいっ」
レイズの村からは、東にトゥールに向かう道が続いている。そして南にも、ロワール河に向かう道があった。ロワール河沿いには、旧ローマ街道が崩れ去りながらも残っているから、そこへの交通は需要があったのだ。
(レイズは、雑草が丘を襲って、ポワティエの父親の下に逃げるだろう。そこで通過するのがナントだ。今から急げば、それを阻止できるかもしれない。)
既に夕方近い。おそらく空振りに終わるだろうが、レイズが騎馬隊で周辺を荒らしているのなら、間に合う可能性がある。
馬を走らせていると、半刻ほどでロワール河に出た。
「テウ様っ!」
シノが短く警告する。
「うん。」
船が数隻、上陸しようとしていた。
かなり大きな船だ。
しかも、荷馬車を二台下船させている。
「あのような船、珍しいな。」
ロワール河の水運は、今はほとんど機能していない。多少の漁船がある程度だ。ちゃんとした運搬船はトゥールにしかない。そこから傭船してきたのだろうか。
かなりの人数が降りて来ようとしている。
「シノ、矢は何本ある?」
「20本です。」即答があった。今日は出陣以降、一本も使っていない。
テウデリクは前方に馬を走らせた。
「止まれーい!! この領地に何の用か!」
船から荷物を下ろしていた者たちは、驚いてテウデリクの方を見たが、幼児が子馬に乗っているのを見て、げらげら笑いだした。
「僕は、ここの領主の息子、テウデリクである! 返答なき場合、侵略とみなすぞ!!」
再度呼びかけたが、やはり返事がない。
(100人くらいか。)
かなりの大人数だ。騎馬の者も5名くらいはいる。
騎馬武者が一人、笑いながら近づいてきた。剣を抜き、ぐるぐる振り回しながら近づいてくる。
「領主の息子か! 人質にとれば、身代金が取れそうだぞ!!」
テウデリクは、その騎馬武者を無視して、謎の集団の本隊の方を見た。重要そうな荷物を下ろしているようだ。
弓に矢をつがえて、荷卸しをしている男を狙って撃った。
「うおっ!」
男は自分が射程距離内にあるとは思っていなかったようで、矢を受けてそのまま倒れた。荷物が船の縁に当たって、蓋が空き、ガラガラと音を立てて散らばった。
「こいつ! なんてことしやがるんだ!!」
近づいてきた騎馬武者が剣を構えて突進してきた。
テウデリクは、子馬を返して距離を取ろうとするが、騎馬武者の馬の方が早い。互いの進路が一直線になった頃合いで、テウデリクはひょいと後ろを向き、瞬時に矢を放った。ガリアではありえない技術だ。
「ぎゃあぁー!!」
武者は、首に刺さった矢を両手でつかみながら絶叫して落馬した。
「再度問う! お前たちは何者か! 当地に用なくば退去せよ!!」
身分の高そうな男が現れた。
「俺はグントラムという男だ。シギベルト王にお仕えしている者で、オーヴェルニュの大公をしている。所用あって通るまでのこと、妨害は無用にされたい。」
「妨害とは笑止千万。誰何に答えなかったのはそちらのこと、あまつさえ剣を抜き斬りかかってきたではないか。それに所用とは不審極まりないぞ。このような人里離れたところで渡河して、所用があるなどとは承服し難い。一度当家に出頭の上、詮議を受けられよ!」
そう言っている間に、船は荷卸しを終えて、離岸していった。やはり傭船であったのだろう。仕事を終えたら面倒は避けたいものと見受けられた。
テウデリクは、落馬した男の乗っていた馬を捕え、それに乗り換えた。やはりこの方が高くて便利だ。首筋を叩いて宥め、新しい主人が誰か、理解させる。
「おいおい、そんなに喧嘩腰にはならないでくれよ。そちらは、一人だろ。こっちは100人もいるんだ。正面から闘ったらそっちも困るんじゃないか?」
グントラムは説得をし始めた。
テウデリクは一考した。馬と弓には自信があるし、シノも側面に伏せさせておいた。しかし、ここは早く済ませてレイズらを追いたい。グントラムと名乗る男は、特にこの領地に害意もなさそうだ。
「こちらは、増援を呼んだところだ。いくらでも睨み合いにはお付き合いしても良いのだぞ。なんなら一人ずつ削っていってやってもいい。しかし、こちらも面倒事は避けたい。通行料を払えば通してやろう。さっき荷馬車に積んだ、青色の箱を置いていけ!」
箱を指定したのは、食糧を積んだものなどでは価値が低いからだ。
「青い奴は駄目だ。これは俺の命の次に大切なものだ。これにしてくれ。」
グントラムは別の箱を指さした。
テウデリクは、「開けて中身を見せろ!」と呼ばわりながら、さっと横を向いて矢を放った。
戦士が一人、絶叫しながら藪からよろめき出て、倒れた。
「死傷者は連れて行って構わぬ! 下手な小細工はやめてさっさと箱を開けて中身を見せろ!」
グントラムは、箱を開けた。弓のようなものが入っている。
「これだ! 逸品だぞ! ゲルマニアの奥地、エルフの王が使っていた、魔法の弓だ! それから死傷者はいらぬ。そちらで好きに処分せよ。ただ、その馬は返してくれ。移動の死活問題なのだ。」
「よかろう。それを置いて早急に立ち去れ! 一人だけ剣と槍を持たずに残れ。その者に馬を渡すこととする!」
テウデリクはそう言って、グントラムの一行の通過を許した。
グントラムの一行が通り過ぎ、残った者に馬を返してから負傷者の首を刎ねた。うろつかれては面倒なのでやむを得なかったのだ。
それから、移動しようとしたが、シノが川岸を覗いている。
「どうしたシノ、行くぞ。」
「あ、テウ様。さっきテウ様が射殺した男が落とした箱ですが。」
「うむ。」
「箱を川から引き揚げるときに、何か落としたようなのです。」
テウデリクも一緒になって川底を覗きこんだ。
大きな槌のようなものが沈んでいる。1キュビット(約50センチ)ほどの短い柄がついている。
「何か気になるが、今はこれは引き揚げられなさそうだし、運ぶ余裕もない。先を急ごう。」
時間を喰ってしまった。
レイズたちはもうロワールを越えてしまった可能性が高そうだ。
・・・
あたりは薄暗くなっていた。
魔の森を行軍するロゴたちは、警戒しながら馬を速足で進める。
幸い、起伏はそれほど激しくない。
木も密生していないから、馬で移動するのはそれほど大変ではない。
しかし、魔物が時々襲ってくるのだ。
ここまでは全て無傷で撃退してきたが、これから夜に入る。魔物の力が強くなる時間帯になるのだ。
「ぎゃあぁー!」
従士の一人が突然絶叫した。木の上から蔓のようなものが降りてきて、首に巻きついたのだ。
「こいつめっ!」
他の従士が片手斧を投げつけ、蔓を断ち切るが、巻きつかれた従士は既に首の骨を折られて死んでいた。
このようなことをする魔物は知られていない。
魔の森には、人間の知らない魔物が幾種類も棲息していた。
「馬に括り付けておけ。」
ロゴが手短に指示して進み続けた。遺体を魔の森に放置するのも忍びないからだが行軍速度を落とすわけにもいかない。
「そろそろ森から抜けるな。」
ロゴが独り言を言った。
「そうですな。もっとも油断は禁物です。」
ジャケが応じる。
ザイルが、
「親方、我が村のためにありがとうございます。」と言った。
「当たり前のことだ。」ロゴが答える。
ザイルはキルペリク王側近のフランク人の息子だが、レイズのように親の威光を笠に着たりせず、しっかりロゴに仕えてくれている。
「親方様。」
少し離れた茂みのあたりから、女の声がした。
「ん?」
「親方様。」また聞こえる。
「俺も焼きが回ったな。魔の森なのに、女の声が聞こえるぜ。」
ロゴが口にした。
「私です、ミーレです。」
「レイナの娘、ミーレか?」
「はい。今、そちらに行きます。」
茂みがごそごそ音を立てて、ミーレが姿を現した。
「ミーレ、こんなところで何をしていたのだ。」
「ザイル様の村の周辺の土地を調査していたのですが、急ぎ報告に上がりたく、魔の森を横断しようと思っていたところでした。ここで親方様にお会いできたのは、幸運でした。」
「おい本当にミーレか? 魔物じゃねえだろうな。」ジャケが不審げに言う。
「まあいい。」
ロゴは軽く聞き流してミーレを自分の馬に乗せた。
「進みながら聞くぜ。」
「はい。ザイル様の村の西方2里ほどの森の中で、46騎の正体不明の集団が何かを捜索していました。」
正確な数字が出た。
ミーレは、シノほどではないが、野蛮魔法も使えるので、多少は探索の心得がある。
「正体不明か。」
「はい。ただ、配下の者が、リーダーらしき男に、『大公様』と呼びかけていました。水色の髪、小太りで、慎重な物腰の人でした。武人らしくは見せませんでしたが。」
「大公様だと?」
ロゴが首を傾げた。
大公ともあろう者が、ロゴの領地にこそこそ忍び入って、攻撃を仕掛けるでもなく、森の中をうろうろしているなど、俄かには信じがたい。
「このあたりで大公といえば、ポワティエ大公だよな。」
ジャケが言った。レイズの父親だ。ミーレが言った特徴も一致する。
「示し合わせてたのかもしれんな。」ロゴが推理する。
本当は全くの偶然だったのだが、ロゴたちには分からない。
「ミーレ、案内できるか?」
「はい。あれは2刻ほど前の場所でしたが、それから移動していなければ大丈夫です。」
話しているうちに魔の森から出た。
「よし。諸君、俺たちは魔の森から出た。犠牲者は一人だな。本当は、ここらで野営と行きたいところだが、おそらく馬で1刻ほどの距離のところで、敵が今頃野営している。今からそこを襲撃することとする。」
「「おう!」」
戦士たちは、今日一日、敵の動きに翻弄され続けてきている。
闘争を欲する気持ちが高まって来ているのだ。
そこで一晩寝てから攻撃というのは、締まりがない。すぐにでも闘いたいのだ。
「では、ミーレ、頼む。」
「分かりました。」
・・・
ポワティエ大公グンドヴァルドゥスは、不快な思いで眠りについた。
折角大枚を叩いて傭兵を集め、長躯ロワール河を越えてロゴの領地に潜入したのは良いのだが、吟遊詩人フォルトゥナトスが見たという古の墳墓など見当たらなかったのだ。
(フォルトゥナトスの奴、狼に追われて恐ろしさの余り幻でも見おったか。)
フォルトゥナトスと曲者・グントラムに一杯喰わされていることには気づかないまま、グンドヴァルドゥスは、アーサー王が使っていたという伝説の魔剣、カリブルヌスの捜索を諦め、野営することとしたのだ。
(明日は焼き討ちだ。)
近くに手頃な村があった。あそこを焼けば、もう一つの目的は達成される。
(戦好きシギベルト王のお喜びになる顔が目に浮かぶようだ。)
一人にやりと笑う。
(それに王妃、ブルンヒルド様も俺のことを褒めて下さるだろう。)
なにを隠そう、このポワティエ大公、グンドヴァルドゥスは、美貌の王妃のことが大好きなのだ。
「うぎゃーああぁぁー!!」
断末魔の声が響いたので、グンドヴァルドゥスは跳び起きた。
「なんだ、なにがあったのだ?」
そう周りに聞くが、周りの人間も起きだしてきて、みな大声を上げているから、自分の声すらも聞こえない状態だ。
「敵だ! 敵だぞ!!」
誰かが叫んでいるが、なんのことやらさっぱり分からぬ。
野営地の外縁部が襲われているようなので、グンドヴァルドゥスのところは安全なようなのだが、本能的に生命の危険を感じた。
グンドヴァルドゥスは、右往左往する配下の者どもや、傭兵たちを突き飛ばし、鞍も付けずに自分の馬に飛び乗ると、とにかく遠くへと走って逃げ去った。
・・・
海岸地帯、塩田施設群宿泊所。
ネイとヤンコーは、ユーローとマイナと話し込んでいた。
「そうかあ、ネイたちは初陣をしたんだな。」
ユーローが少し羨ましそうに言った。
やはり男の子だから、そういうのは憧れるのだ。
「でも、ユーローはすごいんだよ。漂白剤も作ったし、今は塩の味を良くする研究も進めているんだよ!」
マイナがユーローの肩を持つ。
「へえ。塩の味を良くするって、どういうこと?」
ヤンコーが不思議そうに聞いた。
「うーん、お肉を焼くときに、そのままだとちょっと臭かったりするだろ?」
「うん。」
「そういうときにお塩を付けて食べるとおいしいときがあるだろ?」
「うん。」
「そのお塩をここで作っているんだけど、ちょっと苦かったり、変な匂いがしたりするんだよ。」
「ふうん。」
「それをどうやって美味しくするかを研究しているんだ。」
「へえ。」
ユーローは、研究の話になると止まらなくなる。
今回も延々と話し続けた。
半分寝掛かっていたネイが、ふと頭を上げた。
ヤンコーも立ち上がり、剣を腰に付ける。
ユーローは話し続けていたが、マイナが異常に気付いてユーローを制止した。
「どうしたの?」
「海岸から物音がする。」
ヤンコーが小さな声で答えた。
「ヤンコー、ユーローとマイナを連れて、森の奥に入れ。例の場所だ。俺はジャルさんたちを呼んでくる。」
ネイが火を消しながら指示した。
「承知」
ネイが外に出ると、海岸に舟が付けられているのが見えた。音をたてないようにして走り、ジャルたちを起こして森の奥に避難させた。
森の奥には、藪に囲まれた場所があって、いざというときの避難場所に予定していたのだ。
「ヤンコー、みんなを頼む。俺は様子を見に行く。」
ネイがヤンコーに命じたが、ヤンコーは首を振った。
「ネイは、みんなを守っていて。俺が見に行く。」
ネイは一瞬黙ったが、「分かった。」と答えた。
舟から降りた数名の人影が塩田に足を踏み入れていた。
一人が、木と木をこすり合わせて火を作り、松明を点けた。
「俺は建物の方だ。お前らは、こっちをやれ。」
「おう。」
松明を持った男が、建物に火をつけて回り、他の男たちは塩田の堤防を崩しはじめた。大釜を斧で叩き割ったりしている。
「誰かいたか?」
集団の一人が松明を持った男に声を掛けた。
「いや、いねえ。気が付いて逃げたか、もともと無人だったか、どっちかだろ。普段から、あまり人がいないって聞いてはいたからな。」
松明の男が答えた。
「しかし、面倒臭え仕事だよな。こんな夜にアホみたいだぜ。」
「しょうがねえ、寝取られた男にも意地があるんだろ。」
男の一人がそういうと、全員が、ガハガハガハと哄笑した。
「よし、あらかた壊したぞ。引き揚げよう。」
一人が言って、集団は再び舟に乗って去って行った。
ご一読ありがとうございました。
AOEなどのリアル・タイム・ストラテジーでは、プレイヤーの時代が進化した途端に、周辺のAIが攻撃的になって、各所に攻撃を仕掛けて来られたりしますね。今がそんな感じです。太閤立志伝のイメージで書き始めたはずなのに・・・。
おそらく次回で、ひと段落して、別の局面に入る見込みです。




