43 混戦 ~~西と東~~
最近、下手な地図を投稿するやり方が分かってきました!
自分でも頭の中が整理できて、いい気分です。
少しでも分かりやすくお読み頂ければ、と思っています。
「父者、すぐに雑草が丘にお戻り下さい。」
テウデリクは献言した。
「あ? なんでだ!? まずはレイズの野郎をぶっ殺すのが先だろ?」
ロゴが怒鳴った。ロゴには特に愛民思想などはない。しかし、封臣に裏切られ、自分の財産である東の村を焼かれて、頭に来るのは当然のことだ。激怒している。
「レイズの村は、おそらくもぬけの空です。」
「ん? なんでだよ。」
「レイズは騎馬の兵ばかりでここを襲ったらしいです。およそ10騎。おそらくもう少し少ないでしょう。これは、更に大きく移動するつもりがあるからです。そして、自分のところに我々が向かっているのは当然知っているはずです。そうすると、奴が考えることは二つ。一つは、とにかく逃げること。もう一つは、できるだけ父者の領地を荒らしていくことです。」
「あの野郎!! 切り刻んでやる!!」
ロゴが怒鳴った。
ジャケや戦士たちも口々にレイズを罵っている。
「静まれ、静まれーい!」
テウデリクが大音声を上げた。
正直言うと、ロゴはテウデリクにとっては大切な父親だが、天下統一を目前とした最強の戦国大名であったテウデリクからすれば、未熟この上ない。配下の戦士らも子供のように見える時がある。
ロゴたちは度胆を抜かれたようにして黙った。
「父者、まずは雑草が丘です。今から急行すればレイズを捕えられるかもしれません。あいつのことだ、東の村を焼いた後、わが軍の横を擦り抜けて雑草が丘の館を狙うかもしれません。そうすれば、我々に最も大きな打撃を与えられるでしょう。」
ジャケが意見を述べた。
「腹が立つが、テウデリク殿の言うことは間違いない。レイズの野郎はそういう奴だ。大人しく自分の城で俺たちが来るのを待っているとも思えない。」
戦士たちも、口々に同意した。
「よし分かった。騎馬の者は全員俺に続いて雑草が丘に戻るぞ! テウ、お前は自分の配下と歩兵を連れて東の村に行け。それからレイズの村に行って、城を占領して来い。」
「はっ!」
テウデリクは承知して、馬を駆って歩兵をまとめはじめた。
「おめえら、雑草が丘に急ぐぞ!!」
ロゴが絶叫し、戦士らも雄叫び声を上げて、疾走して行った。
・・・
東の村では、まだ焦げ臭い匂いが残っていた。
風呂、便所など、重要な施設が狙い撃ちされていた。
数名の人影が、力なく歩き回っている。
「そちは職人であったな。」
テウデリクが近づいて馬を止めた。
「へえ、網細工をやっておりました。」
「村長は無事か。」
「ここにおりますです。」
指差した先には、襤褸雑巾のようになった村長の遺体が転がっていた。
テウデリクは馬を降りた。
「村長・・・。」
いい男だった。
落ち着いた年齢の割に、心が若いところがあって、少年のように夢中になってテウデリクの政策を追い掛けてきていた。
しょっちゅう館に来ては、納得のいくまで質問を繰り返し、分からないところは下の村にまでテウデリクを引っ張り出して、指差しでの説明まで求めてきた。
遅くなって風呂に入るよう勧めて、一緒に入ったときには、「うちの風呂にも早く入って頂きたいものです。」と言ったものだった。
自分の村に戻るときには、「早く俺の村を見に来て下され、いや、今は駄目だ。もっと完成してから見せますので、そのときを楽しみにして下さい。」と満面に笑みを浮かべて言っていた。
このガリアには、遣り甲斐のある仕事というものがほとんどない。
働いて、知恵を絞って、努力して、それが自分の利益に繋がったり、誰かの利益になったり、そういう何らかの結果に結びつくことがない。
そのガリアの地で、この男はしっかりと自分の仕事を見つけていた。
自分は幸せ者だと、何度も何度も繰り返して言っていた。
その男が、死体となって転がっている。もはや夢を語ることもない。
レイズという、自分の欲望のことしか考えず、自分の汗を流したこともなく、何かを築き上げたこともない男、ポワティエ大公の甘ったれな末っ子のために殺されたのだ。
「テウ様。」
シノが遠慮がちに声を掛けた。
「シノ、レイズの村に先行して、様子を探れ。」
「はい。」
シノは反問せず、走り出した。
テウデリクは歩兵の中から5名を選び出し、村人の埋葬の手伝いと生き残りの保護を命じた。
そして、主力を率いてレイズの村に向かった。
東の村の端には、焼け落ちた水車の残骸が、まだ煙を上げていた。
・・・
ロゴの軍勢が、雑草が丘についたとき、雑草が丘の館から、角笛の音が聞こえた。救けを求める合図だ。
「こっちも吹け!!」
いつも角笛を任されているロゴの従士、テイズが高らかに角笛を鳴らした。
「全力で進め!!」
ロゴが叫ぶ。馬腹を蹴って進む。馬がいななき、武者たちがそれを励ます。
雑草が丘の中腹に数騎の戦士が見えた。
中央に純銀色に輝く甲冑を来た男がいる。白馬に乗っている。
「野郎だ、レイズの野郎だ!」
ロゴが怒鳴った。
侵入者は館に押し入ろうとしていたところだったようだが、ロゴに気が付いて慌てて丘から降りて行った。
「追いついて殲滅しろ!!」
ロゴたちは地面を轟かせて疾走する。
侵入者たちは、下の村を走り抜ける。火を着けながら逃げていくようで、村から煙が上がった。
「あんのやろう、ケチ臭いやり口しやがって!!」
戦士の一人が怒りに燃えて罵った。
ロゴの騎馬隊が下の村を突き抜けて進んでいくときに、一人の男が前に立った。
「お待ち下さい、お待ち下さい!! 急ぎ申し上げたきことがございます!!!」
「うるさいっ!」ロゴが走り抜けようとしたが、封臣の一人、ザイルが驚いて立ち止まった。
「ゼフルではないか、こんなところでどうしたのか?」
ロゴが馬を止めた。
「ザイル、お前の村の人間か。」
「はい。うちの用人です。どうした、今は急ぎだ。」
ゼフルが言った。
「ザイル様の村の近くに、騎馬の敵兵が50人ほど現れました!!」
ザイルの村とは、ジャケの村の南隣、雑草が丘から見ると魔の森の裏側に当たる。ロワール河から北に1里ほどの距離にあった。
「なにっ、俺の村にだと? 村が襲われたのか!」
「いえ、それが、そのまま森に消えたのです。」
ロゴが迷った。レイズは逃げるだけで戦力としては大したことがないが、騎馬が50となると、場合によってはこちらが全滅しかねない兵力だ。
「ええい、メーグ、レイズの野郎を追え! 他の者は俺とザイルの村に行くぞ。」
「おうっ!!」
・・・
ガーリナは安堵の溜息をついた。
テウデリクは出陣前、
「雑草が丘が無防備になるのが心配だ。いざというときは、全員揃って館を放棄して裏の岩山に隠れろ。守りきれそうなときには、用人と村人を指揮して粘れ。」
と指示を受けていた。
そして、村の男たちを常時数名、館に詰めさせていたのだった。
突然、見慣れぬ騎馬武者が丘を登って来た時には焦ったが、ここで慌ててはならないと知っていたから、まずはクロティルドを宥めて落ち着かせ、村の男たちに命じて門を閉め、閂を掛けさせたのだ。
そして用人に命じて角笛を吹かせ、村の男たちには閂を押さえさせ、手の空いた者には槍を持って、柵を壊そうとする武者を突き殺すように命じていたのだ。
ガーリナ自身は、櫓に登り弓を構えた。
(私は野蛮魔法が使える。弓も一応は射てる。)
ミーレやシノのように、遠くまでは放てない。一度射ると警戒されるから、機会は一度しかない。それでも、不用意に近づいた武者を一人射殺すことができた。そのため、攻め手は警戒して少し距離を取っていたのだが、その時にロゴの軍勢の角笛が聞こえた。敵が退却を始めたときは、本当に安心した。
「ありがとう、ガーリナ」
クロティルドが背後から声を掛けた。
「はい、奥様。無事に済みました。親方様が救けに来て下さったお蔭で被害も出ませんでしたね。」
「あなたは立派だったわ。テウも喜ぶと思うわ。」
クロティルドは優しく言った。
「君が指揮をしたのかね。」
捕虜となっていた、北の領主、ギリエンが声を掛けた。
捕虜といっても、身分のある者だから繋がれてはいない。逃亡しないという宣誓をさせていて、館内は自由に歩かせていたのだ。
「はい。」
「見たところ、子供、というか幼児だな。立派なものだ。」
「いえ、テウ様のご指導があってこそです。」
「ふむ。テウデリク殿か。こちらは、彼に射られた矢傷がまだ痛むぞ。」
ギリエンは右肩をさすって陽気に笑った。
「ギリエン様、さきほど私は、ロゴ様の家宰として、あなた様を解放致しました。」
ガーリナが言った。
「そうだったかな。」
レイズが攻めてきた時点で、安全が保障できなかったので、ギリエンとその家族に対しては解放を宣言し、裏口から逃げる許可を出したのだが、ギリエンは、「逃げるのはみっともないので。」と言って断り、館内に留まっていたのだった。
「一度解放すると申し上げた以上、その言葉を違えることはございません。どうぞご自由にお帰り下さい。」
「ふむ。筋の通った立派なお考えだ。お言葉に甘え、妻子は先に帰らせて頂こう。しかし、俺としてはロゴ殿に挨拶してから退去することにする。ロゴ殿が戻ったときに俺がいなければ、いくら解放されたからといって、無作法な感じがするのだ。」
「承知致しました。それでは、これよりはお客人としてご滞在下さいませ。後程、馬と剣をお返し致しますが、あくまでもお客人として招かれて滞在なされていること、お忘れなきよう。」
「もちろんだ。客として招かれている以上、主の留守中に悪さをするような真似はせぬ。」
・・・
一方、ロワール河のほとり、新開地改めナントの町で。
ゴームルは、北の方から煙が見えるような気がするという物見櫓からの報告を受け、何かまずいことが起きている気がしたため、ナントの西岸部分から十数名の村人を武装させて東側の商業区に配置していた。
「代官様! 騎馬の戦士が数名こちらに駈けてきます!! すごい速さです。」
(北だと? 普通に考えれば味方だが、北で煙が立っているというのが気になる。)
ゴームルは、盾と槍を構えた村人をナントの北側の道に整列させた。町の北側には、簡単な逆茂木を仕掛けてあったから、直ちに側面に回られるおそれは少ない。ナントの西側に合図を送って、増援をよこすよう指示する。
「いいかお前ら! 盾の列を突破できる騎兵はこの世に存在しない!! うん、とふんばっておれば、敵は突き刺されて死ぬか、突破できずに逃げ帰るか、どちらかなのだ!」
「おう!!」
村人が威勢よく声を返す。
もっとも、不安感は拭えない。
後ろを気にする者もいる。これは仕方がないことだろう。
「俺は足が一本、眼が一つだ! しかし、お前たちが崩されても、俺が必ずお前たちを守ってやる!」
「おう!!」
村人の声が少し大きくなった。
(近づいてくる。敵か。味方か。)
先頭を走っているのは、銀色に輝く甲冑を来た騎士だった。他の者は槍を持っているが、この男だけは剣で武装している。
(なんじゃあのド派手な格好は。)
先頭の騎士は、盾の列に気が付くと、走る速さを緩め、他の者を先に行かせた。
「突破しろっ! 突破しろ! 相手は素人だ、すぐに抜けるぞ!」
抜いた剣を振り回しながら、そう叫ぶ。
騎馬隊がナントの歩兵の列に激突した。盾の列は崩れそうになったが、なんとか持ちこたえた。敵が数名、槍に貫かれて馬から落ちる。馬も傷つけられ悲鳴を上げた。村人の一人も悲鳴を上げて倒れた。敵の片手斧を投げつけられたのだ。ゴームルは、盾の列の後ろから槍を突きだし、片手斧を投げた敵の腹を貫いた。
敵の騎馬隊は、突破に失敗して、一旦離れたところに下がった。
更にその後方から角笛の音が聞こえた。
(敵か? 味方の救援か?)
ゴームルが考えていたが、そのうちにゴームルの背後にもナントの西岸側からの増援がやってきた。30人はいる。
負傷した村人を入れ替え、陣列を更に厚くした。後ろに予備を置き、側面に回られたときに備えた。
(押し出すか? いや、敵の後方の集団の正体が分かってからだ。)
ゴームルは敵を睨んだ。
後方の集団が疾走してくる。
正面の敵はきょろきょろとあたりを見回していたが、どうやら諦めたらしく、馬を降り、盾と剣を捨てて地面に座った。降伏したのだ。
ロゴの封臣、メーグが到着した。
「おお、ゴームル殿か。見事ナントの町を守りきられたのだな! レイズの野郎はそこにいるか?」
「レイズ? この襲撃はレイズなのか?」
ゴームルは驚愕した。そうか、あの銀色にてかてか光っていた奴がレイズだったかと、納得した。
そして、座っている降伏兵を調べた。
レイズはいなかった。グィンドもいなかった。
・・・
レイズの城は、ほぼ無人に等しかった。
美しい小姓が残って城内をうろうろしていたので、その首を刎ねて門前に吊るした。
城下の商人たちの家も退去した後だった。
テウデリクは、村長から事情を聞いたが、
「はあ、レイズ様は、ロゴ様が東の村、うちのところからいえば西の村ですが、ロゴ様がその村を襲って虐殺しているから、お諫めに行くといって出て行かれました。その隙に、商人どもが、傭兵を使って、村の人間を攫って退去していきました。商人はロゴ様の命令だ! と言っておりましたが。」
テウデリクは村長の目をじっと睨んだ。
「村長、そちは、レイズの嘘を知っておったな。」
「は? なんのことでございますか?」村長の目が泳いだ。
ヴェルナーに命じて村長の家を捜索させていたのだ。
「ソリドゥス金貨が3枚、デナリウス銀貨が57枚、銅貨が3袋、肉が小樽に2個、小麦が大きな袋に10、蜂蜜が大瓶に3本、その他贅沢品が多数隠されていました。」
ヴェルナーが戻ってきて報告した。
村人たちからどよめきが上がる。
「こ、これは、私が先祖から受け継いだもので、それに自分で節約して溜めこんだものでございます。」
村長が青ざめて言い訳した。
「俺たちが飢えていたとき、村長は、『これで全部だ。』と言って、半分腐りかけた小麦を出してきたぜ。」
「何もない、が村長の口癖だった。」
「俺たちは騙されていたんだ。」
村人が口々に言う。村長を囲み、不穏な空気がたちこめてきた。
「この村長、レイズと語らって、村人を騙し、領主たるロゴの名誉を貶め、不正に蓄財していたこと、明らかである。この者を吊るせ。」
テウデリクは命じた。
「ヴェルナー、歩兵を二十名付けるので、城を接収し、村の生活を安定させよ。村長の代わりとなるものを代理とせよ。」
「はっ」
「村長の正式な任命は、父者がなされる。それまではその代理と共にこの村をおさめよ。」
「分かりました。」
歩兵に命じて、商家を破却させた。値打ち物はほとんど残されていなかったが、ヴェルナーに預けて村に分配するようにさせた。
ご一読ありがとうございました!




