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42 出陣 ~~北と東へ~~

開いて頂いてありがとうございます。

数か月後、雑草が丘の下の広場には、軍勢が勢揃いしていた。


その陣容は、


ロゴとその直属(従士20名)   歩兵(20名)

テウデリクとその直属ネイ   歩兵ヤンコー 弓兵ミーレとシノ

ジャケら封臣4名(従士10名)  歩兵(30名)であった。


歩兵は村から徴発していて荷物運びなども兼ねている。


そして、

ガレオと従士4名、歩兵10名も参加していた。


42騎、歩兵61人、弓兵2人。合計100名を超える一軍である。


「ガレオ殿、このたびは参陣ありがとう。心強いぞ。」

ロゴが親しげに話しかけた。

「ギリエンのところからは、うちも被害が出ているからな。丁度良い機会なのだ。」

ガレオがそっけなく答えた。


馬に乗ったジャケが近づいた。

「レイズの野郎は来てないのだな。」

「ああ。」

ロゴは不快そうな顔をした。

「喜んで馳せ参じますって、言ってたけどな。」

「それっきりということか。」

「あとで絞めてやろうぜ。」

ロゴとジャケは、わっはっはっと笑った。

他の封臣たちも、レイズのことは嫌っているらしく、一緒に笑っている。


封臣たちは、基本的には良く館に来るからテウデリクとも顔見知りだ。

顔見知りではあるけど、ゆっくり話したことがないから、この機会に挨拶をしている。


「いくぞ!」

ロゴが叫んで、なんとなくみんな進み始めた。

隊列はいまいち定まっていない。

なんとなくロゴが先頭に立って、横をジャケが進む。

その後ろからロゴの従士たちが進んでいく。


その後ろにガレオの一団が歩騎揃って続く。

それから、封臣らや歩兵らや、荷車がぞろぞろついていく感じだ。

テウデリクたちは最後尾になっている。

テウデリクは3歳児なので、子馬に乗るのがやっとだ。ネイも馬に乗るのは、まだ少し覚束ない。そういうわけなので、遠慮して最後尾についている。


うっかりするとロゴたちが先に進んでしまうので、その都度ネイを先頭に走らせて、進みを緩めるように頼む。場合によっては、完全に停止して貰うようにしている。隊列を開けすぎると無防備になるからだが、基本的にフランク人は、そんなことは気にしない。敵に襲われてから攻撃を考えれば良いことであって、攻撃される前から防備のことを考える習慣がないのだ。そこまで考えさせると、頭から煙が出るだろう。


初日は最北端の村に泊まった。

村長が挨拶に来たので、テウデリクは、開発が進んでいることを褒め、更に尽力するよう励ました。


次の日は、境界に向けて進んでいく。

境界となっているのは、小高い丘だ。丘が連なっていて、人の行き来がしにくいから、なんとなく境界になっているだけで、明確に川があるとかそういうものはない。


隊列は、ゆるゆると荒地を進んでいく。


挿絵(By みてみん)


横合いからシノが走ってきた。

「テウ様。」

息も切らさずに声を掛けた。

「どうだ。」テウデリクは馬を進めながら聞いた。

「半里進んだところ、道の右手に小さな藪があって、その中に弓兵が10隠れています。敵の本軍は、更にその後ろにいます。騎兵が5、歩兵が30です。騎兵は、盾と短刀スクラマサクス片手斧フランキスカで武装しています。歩兵はおそらく村の人間です。装備は槍。盾は持っていません。」


「ご苦労。ここからは一緒に進め。」

言い捨ててテウデリクは馬を駆って先頭に向かった。ロゴと打ち合わせなければならない。


・・・


ギリエンは、馬に乗って敵が近づいてくるのを待っていた。

(レイズの野郎、ロゴが攻めてくるって知らせてきやがったが、本当だったんだな。)


実はかなり疑っていた。封臣が主君の動静を敵に知らせるというのは、相当な裏切り行為だ。普通は信じられないから、罠か何かかと疑っていた。


(ガロ・ローマ人は信用ならん。)

フランク人は強欲で野蛮かもしれないが、そのような裏切りは余り聞いたことがない。


(レイズの使者は、できればロゴを殺して欲しいと言っていたが。)

簡単なことではない。

もっとも、ロゴは先頭を切って来るだろうから、最初の一撃で射殺すことができるかもしれない。そうすればこのいくさ、こちらの勝ちだろう。


兵数ではギリエンの側がかなり負けている。歩騎あわせて50に満たないから、ロゴの半分以下だ。騎馬に至っては、10分の1に近い。

(伏兵が頼りだな。)


そう考えながら前を見る。

「来ましたぜ。」

従士が声に出す。

「ああ。」

さっきから土埃が立っていたが、その影から軍勢が姿を現した。

100名ほどの軍勢であるが、この時代、この地方では、大軍ともいうべき数だ。


「敵が突撃を始めたときに、ぴったり矢を放つようにするんだぞ。」

ギリエンが従士に指示する。従士は、伏兵に合図をする役目を担っていた。

弓を持った10名は、いずれも弓の名手だったから、それが一斉にロゴに向けて射撃すれば、おそらくロゴは死ぬだろう。死なないにしても傷つくはずだ。そうすると敵は崩れるはずだから、そこで突撃すれば簡単に打ち破れるだろう。この時代の戦争は、大抵そういうことで勝負がついた。


そう考えていたら、ふと右の方に嫌なものを感じた。

(ん、何だ?)


そう思った瞬間、ひゅーっという音がして、自分の肩に矢が刺さったのに気付いた。


「右か!?」

ギリエンが驚愕して叫んだ。

従士たちも矢を受けて落馬した。


「敵だ! 敵が射ってきているぞ!!」

ギリエンは全ての人間が知っていることを叫んだ。狼狽の余り、まともな指揮が思い浮かばない。


弓は更に何本も飛んでくる。

正面のロゴの軍勢が、「わあっ」と声を上げながら突き進んできた。

それと同時に、左の藪に伏せてあった弓兵たちが藪から追い出されて出てきた。どこからともなく現れた数名の騎馬武者に追い立てられている。弓は至近距離に入られると無防備になる。騎馬武者は余裕があるのか、弓の弦を切るだけにして、あとは馬の足で無力化した弓兵を囲い込んでいく。


右側から弓を撃って来ていた敵もこちらに向かって突撃してきた。驚いたことに、馬に乗りながら弓を射かけてくる武者がいる。

(いや、あれは子供、か?)


そう考える間もなく、ギリエンは矢を膝に受け、落馬してしまった。


「ああー、だめだぁー」叫びながら歩兵たちが逃げ出す。

本来ならそれを差し止めるべき騎兵らが全て落馬しているので、歩兵は誰からも止められることなく崩壊した。


(伏兵が読まれていたのか。)

ギリエンは信じられない思いだった。

この時代、伏兵を置くということ自体、珍しい戦法だった。それに気づいただけでなく、逆に二方向から助攻を仕掛け、タイミングを合わせて正面から威圧するという戦法など、絶えて久しかったのだ。ギリエンもそのような戦術があるなど、聞いたことがなかった。


「う・・・。」矢を力任せに引き抜き、盾にすがって立ち上がったが、その時には、首の下に剣が差し込まれていた。


「ギリエン殿とお見受けした。命惜しくば、降参せよ。」

馬に乗った幼児が、冷厳に申し渡した。


・・・


しばらくの後。


「ガレオ殿、お手柄でしたな。」

ロゴが上機嫌で話しかけた。

「敵の歩兵主力は、全てガレオ殿が捕虜になされたのだ、素晴らしい戦だったわ!」

ガレオはテウデリクと一緒に敵側面に回ったのだ。

テウデリク、ミーレ、シノが矢を射かけ、あとは突撃しただけなのだが、ガレオは潰走した歩兵を捕虜にしていた。


「いやいや、テウデリク殿の指揮は素晴らしかったな。しかもあの弓は神業ともいうべきだわ。」

ガレオも、薄く笑いながら答えた。


「ジャケも良くやったぞ! 敵の弓を全滅させたからな!」

「テウデリク殿が殺すなっていうから、全員生け捕りにしたぜ!」

ジャケも笑いながら答えた。

「ま、全然歯ごたえがなかったが、いいいくさだったわ!」


「ギリエン殿、貴殿は捕虜となったのだから、しばらくの間、我が館に客人となっていて頂こう。」

「やむをえまい。好きにしろ。」

ギリエンは不貞腐れて答えた。もともと戦力差が激しすぎたのだ。抵抗しようとしたのが誤りだったかもしれない。そもそも自分の館にこもってそこで抗戦すべきだったかもしれない。そうすれば、ロゴも村を焼く程度で諦めて帰ったかもしれない。そういう状態になったら適当なところで手を引くのが、この時代の作法ともいうべきだったのだ。迎撃したから、ここまでやられてしまったのだ。


「好きにさせて頂くが。」テウデリクが尋問した。

「こちらから攻めてくること、なぜご存知だったか?」

「ふん。お前のところの封臣、レイズから使者が来たのだ。グィンドとかいう奴が来た。」


「やっぱりか、あの野郎! 裏切者だ!!」

ロゴが怒鳴った。

「殺しましょうぜ!」

封臣も一緒になって怒鳴った。


封臣は主君に忠誠を誓約する。

叛旗を翻すことは許されている。しかし、それは正々堂々と行うべきことであって、断りもなく参戦することを怠り、しかも敵に内報していたとなれば、犯罪者として追われ、捕えられたら殺されるのは当然のことだった。


「ロゴ殿、これでギリエンのところは無防備だ。うちの者に褒美を与えるがよいな。」

ガレオが発言した。


「おお、それは当然だ。ガレオ殿の所領に近い村を二つ、それでどうかね?」

「加えて、ギリエンの身代金の三分の一を頂戴したい。」

「よかろう! 約束したぞ!」

ロゴとガレオは、手を打ち合わせて約束を確認した。


そしてガレオは、捕虜にした敵の歩兵を、縄でくくって去って行った。帰り際に村を略奪するのだろう。


「メーグ、お前は歩兵を連れてギリエンの城に行け。家族を降伏させて、金目のものを全て持って帰ってこい。」

ロゴは封臣の一人に命じた。

メーグも王の従士時代からの部下で、他の大貴族の息が掛かっていないから、こういうときに使いやすい。

「はっ」

メーグは歩兵を指揮して去って行った。


「テウたちは、ギリエン殿を館にお連れしろ。」

「はっ」


「俺たちは、いくつかの村を周ってくる。テウ、捕虜はたくさんいる方がいいのだな。」

「はい。お願いします!」

これで人手不足が解消されるだろう。


・・・


数日後、雑草が丘前の広場には、再びロゴの軍勢が揃っていた。

「次は東だ!!」

ロゴが威勢よく叫ぶ。

ガレオの軍勢は参加していないが、それでも前回の北征とほぼ変わらぬ陣容だった。

テウデリクはネイ、ヤンコー、ミーレを外し、ヴェルナーを加えていた。ヴェルナーは文官ではあるが、ゆくゆくは軍略家としても育てるつもりなのだ。


「テウデリク殿、やっとレイズとグィンドに復讐できますな!」

ジャケが話し掛けて来た。

トゥールの町で滞在していたとき、ゴームルが傷つけられ、機織り機の秘密が奪われたのだ。そのときに同行していたのがジャケだったので、責任を感じている。もちろんグィンドに対する怒りもある。


「奴の砦についたら、かたっぱしからぶっころしてやるんだ!!」

ジャケが叫び、他の戦士らも同意を示して斧を盾に打ち付けた。


「じゃあ、行くぜ!!」

ロゴが叫んで、軍勢は東に向かった。


・・・


(そろそろ東の村だな。)

テウデリクは馬を進めながら思った。

東の村は、発展著しいと聞く。

村長が熱くなっていた。

東の村は、雑草が丘の下の村から最も近い。村人も開発の有用性は理解していたから、村長一人が先走ることもなく、村が一丸となって炭焼き、水車、水道管の敷設、共同風呂の建設、便所の設置をどんどん進めているという話だった。


(早く見てみたいものだ。)


村長は50歳くらいの男だったが、見た目よりもずっと若い気持ちを持っていたようだ。何度もテウデリクのところにやってきては、分からないところを質問したり、進捗状況を説明しにきたりしていた。

テウデリクもできるだけ人手を割いて、道の整備をしてきたから、今では村長の足でも日帰りができるくらいに移動しやすくなっていた。


シノが走って戻ってきた。息が切れている。顔が真っ青だ。

「テウ、さ、ま。」

「どうした。」テウデリクが聞いた。

「東の、むらが」

「うむ。」

「焼き払われています。」

・・・

テウデリクは黙った。詳しい説明がなければなんともいえない。

「村人が殺されていて、たくさんの人が、殺されて、生き残った、人たちに、聞いたら、東から、レイズ、様の、軍勢が、攻めて来て。」

「で、あるか。」

「は、はい。」

「シノ」

「はい。」

「レイズの軍勢はどれくらいいたのか。」

「騎馬の者ばかり、10名ほどだそうです。」

「全て騎馬であるか。で、レイズの軍勢は、あたりにいるのか。」

「わ、分かりません。」

「周囲を確認せよ。」

指示をした。もっとも、テウデリクはレイズがこの辺りで伏せているとは思っていない。奴はそういう男ではない。もうこの辺りにはいないだろう。しかし念には念を入れる必要がある。


(レイズめ、許さぬ。)

そう思いながら、馬を走らせ先頭のロゴの下に報告に行った。

ご一読ありがとうございました!

ロゴについて、ご感想頂きました。作者としても、ロゴは理想の上司的存在です。なかなか得難いですね。先王の従士頭として、数千人の従士の長であっただけのことはある、という感じです。

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