36 オスプレイ ~~卵の奪取~~
開いて頂いてありがとうございます。
オスプレイ(ミサゴ)は、ずっと以前に触れた程度でしたが、テウデリクは慣らして鷹狩りに使いたいと考えています。
話は、ポワティエで二人の大公が、それぞれの勝手な思惑を抱えながら密談をしていた時から数か月前に戻る。
テウデリクは、シノと2人で、魔の川とロワール河の合流地点の草むらに潜んでいた。
「あの向こうにあるのが、オスプレイの巣です。」
シノが指差した。林の中の木の上にあるらしいのだが、外からは見えないような場所を選んでいるようだ。
「卵は確認したのか。」
「いえ、しかし常に一羽が巣にいます。交替で温めているんだと思います。以前は二羽同時に飛んでいたこともあったので。」
「で、あるか。」
草を踏む音がして、ミーレが後ろから近付いてきた。
「あたりには魔物も猛獣もいません。今なら安全です。」
「よし、やるか。」
空を見上げる。
オスプレイが一羽、川の上を飛び回って獲物を探していた。
最後にもう一度、武装を確認する。
テウデリクが短刀、片手斧、盾、和弓。
ミーレが薙刀、和弓、小刀。
シノが和弓、小刀、そして数本の手裏剣を持っていた。
「野蛮魔法を。」
指示すると、ミーレとシノがそれぞれ息を整えて力を込める。
「「できました。」」
「よし。」
それからテウデリクが地形を見て、それぞれの場所を指示する。
同じところから3本の矢が放たれたら避けやすいだろうが、三方向から射られたら、どれかに当たる可能性が高い。
テウデリクは川辺の草むら、シノは少し川から離れた岩の影、ミーレは少し下流に近づいた合流地点の窪みに、それぞれ配置した。
テウデリクは、シノとミーレが自分を見ているのを確認すると、両手の指を10本上げた。一本ずつ折って行く。5まで来たところで指でのカウントを止め、頭で数えながら弓を構える。
3,2,1、
ヒュッ
という音と共に、3人が同時に矢を射た。
すぐに次の矢をつがえ、どんどん連射する。
オスプレイは、見惚れるくらいに華麗な回転を見せた。いくつもの矢を掻い潜って飛び続ける。
「当たらぬか。」
テウデリクは呟く。
自分もそうだが、ミーレもシノも和弓の練習は相当積んでいるはずなのだ。飛んでいる鳥を落とすことなど容易なはずだが、このオスプレイは、テウデリクが信長であったころの鷹よりも巧みに矢を躱していた。
「テウ様っ!」
シノが注意を呼びかける。
「分かってる!」
オスプレイは、まっすぐにテウデリク目掛けて飛んできた。
(攻撃してくるのか?)
そう思った瞬間、オスプレイの身体が白く光るのが見えた。
「こいつも魔物か!?」
テウデリクは驚きの余り叫んだ。
オスプレイは、テウデリクの近くまで飛んできたかと思うと、急旋回した。
「うぉっ!」
突然の殺気を感じて、テウデリクは跳びすさった。テウデリクがいたあたりの草がすっぱり斬れたのが見えた。
「ミーレ、シノ、注意しろっ! こいつは魔法を使うぞ!」
テウデリクが叫ぶ。
「旋回したときに、見えない刃を放つようだ!」
そう説明しながら、和弓を置き、盾を拾ってシノの方に駈けだした。
「ミーレはそのまま牽制、シノはそこで待っていろ!!」
テウデリクの指示の途中で、オスプレイはミーレの上空で再度急旋回した。
「キャッ」
ミーレは指示どおり飛んで避けたのだが、目に見えない攻撃は避けるのが難しい。どこか負傷したかもしれないが、テウデリクの場所からは様子が分からない。
「シノっ!」
テウデリクは、盾をかざしてシノのところに辿り着いた。盾で自分とシノを護り、シノに攻撃に専念させる作戦だ。
オスプレイが、ピイィィーと鳴く。
今度は、もう一度こっちに攻撃を仕掛けるつもりらしい。
「来るぞ! 急旋回した直後を狙え!」
シノに指示しながら、片手斧で盾を叩いて挑発する。
ミーレのいるあたりから矢が飛んできた。オスプレイの羽ばたきが乱れスピードが落ちる。
「テウ様、もう一羽がっ!」
シノが叫んだ。
どうやら、相手の連れ合いが参戦するようだ。
(くっ、迎え撃つ余裕はないか。)
「両方僕が引きつける。少し離れて隠れた場所から撃て!」
「はいっ」シノが答えた。
「分かりました!」遠くからミーレの声も届いた。
オスプレイの連れ合いだろうか、二羽が交互にテウデリク目掛けて急降下してきては、見えない刃を放った。
もっとも、集中してみれば、白く光る刃が見える。
見えるのなら、避けるのはそれほど難しくはない。
何度か刃を避けているうちにオスプレイも学習したのか、二羽同時に刃を放ってきた。しかも至近距離まで来てからなので、避ける間がない。
背中に盾を背負い前から来る刃を片手斧で弾いた。
ガシッという音で背中に衝撃が走るのと、ガツンという金属と金属がぶつかるような感触がして、片手斧が大きく押し込まれた。
後ろの刃は盾で防いだようだが、前の刃は軌道を変えるのが精一杯で、左腕に激痛が走った。
「今だ! 下の方をやれっ!」
テウデリクが叫んだ。
二羽のオスプレイが急旋回後、同時に上昇していく。ミーレとシノの攻撃が片方に集中するように指示したのだ。
遅れて上昇していたオスプレイの身体に2本の矢が進んでいく。オスプレイは、今日何度も見せた華麗な羽捌きを見せるが、躱し切れずに1本の矢を翼に受けた。
無事だった方のオスプレイがもう一度戻ってきた。
「こっちは僕がやるっ! お前たちは、傷ついた方に止めをさしてくれ!」
テウデリクが命じた。
傷ついたオスプレイは、矢を翼に付けたままバタバタ羽ばたいて逃げようとするが、高く飛び上がることができず、低空飛行を続ける。シノが物陰から出て走り出す。人としてはありえない速さで走って、オスプレイに追いついた。シノの手から手裏剣が放たれ、オスプレイの胸に当たった。
「ピイィィー!」
オスプレイは、悲痛な声を上げて地面に落下していく。
その間に、無事な方のオスプレイは、テウデリクを狙って急降下してきた。ミーレは傷ついた方のオスプレイを追いかけられないようで、無事な方を狙って矢を射ている。オスプレイは、それを避けながらテウデリクを狙うのでスピードが上がらない。
「来いっ!」
テウデリクが叫んだ。
オスプレイがテウデリクの目を見る。魔物だから表情は分からないが、連れ合いを傷つけられて怒っているのは確かだろう。
ぎりぎりまで近づいて、オスプレイの羽根が微妙な動きを見せた。
(今だっ)
野蛮魔法で強化された視力で、オスプレイが向かって左に旋回することが予測できた。
「えいやあぁ!」
テウデリクは叫びながら片手斧を投げつけた。2トワーズ(約4メートル)ほどの距離なので、避ける間もない。
オスプレイの首に斧が激突して、オスプレイはあっけなく地上に落ちた。
・・・
二羽のオスプレイの死体は後回しにして、木に登って卵を回収した。卵は二つあった。そしてオスプレイを焼いて食べた。
両親を殺して卵を奪い、それを孵化させて自分が親であるかのように振る舞い育てて慣らし、自分の便利な使役獣にする。
なんとなく良心が痛むのは現代人の感傷に過ぎないのかもしれない。少なくともテウデリクたちは、何とも思わなかった。動物には、親の仇とかそういう概念がないのだろうから。
ミーレは、右の太腿に切傷を負っていた。テウデリクも左腕が傷ついた。手元にあった薬草を噛んで貼り付けた。
「さあ、帰ろう。」
「「はい。」」
「ミーレ、シノ、今日はお前たちのお蔭で遂にオスプレイの卵を手に入れることができた。ご苦労であった。」
テウデリクが褒めた。ミーレとシノは嬉しそうに微笑んで、テウデリクの後ろから着いて行った。
帰り道、テウデリクはシノに新たな使命を与えた。
「シノ、東のレイズの村に潜入せよ。そこでおそらく新しい糸紡ぎ機と機織り機が使われるようになると思う。それを調べよ。」
「はっ」
グィンドは、機械の設計図は責任を持って破棄すると約束したが、その約束が守られるとは最初から期待していない。それでも約束させたのは、後から処罰する口実に使うためだった。そのための証拠集めを準備させるのだ。
「ミーレはガーリナを護衛して海岸地帯の視察に行くように。」
「はっ」
「僕もできるだけ一緒に行くようにする。」
「分かりました。」
「あの・・・」ミーレが口ごもりながら聞いてきた。
「なんだ。」
「ガーリナには、野蛮魔法の件、どうなさいますか?」
そうだった。その場は誤魔化したが、ガーリナもミーレやシノのように、「秘密の何か」を希望していたのだった。
「僕からきちんと説明しなければならないな。」
正直、ガーリナは美人ではない。だが、テウデリクとしては、別にガーリナの容姿がどうだとか、そういう理由で継承を躊躇っているのではなかった。ガーリナは基本的に事務方に育てていっている。本人の適性もそちらにあるようなのだ。だから野蛮魔法は特に必要がない。それだけのことなのだが、それでガーリナの心に不安や不満が生じるのであれば、やっておいた方がいいかもしれない。それに海岸地帯まで往復することが増えれば、体力は十分にあった方が好都合でもある。
(もっとも、方法があれだからな。)
武官として想定しているネイやヤンコーにやっていない理由がそれだった。織田信長だったときのテウデリクなら躊躇わずにやっていただろうが、転生してから、男色に抵抗を感じるようになったのだ。
「まあ、説明してガーリナがそれでもして欲しいというのであれば、することにしよう。」
テウデリクは締めくくった。
・・・
雑草が丘に着いた。
ミーレとシノには、館に行かせた。テウデリク専用の布団を用意させるのだ。寝ている間は、そこで卵を温めるつもりだった。起きているときは、腹巻きのようなものを付けておく予定だ。かなり面倒だが、孵化した瞬間に自分を見せなければならないと思っている。
テウデリクは、まずは、離れの方に行く。用人たちに指示してゴームル専用の建物を建てさせたのだ。簡素な造りだが、家事等は館で一括してやるのだから、要は寝るところと工作をするところがあればそれで十分だからだ。
「テウ様、お帰りなさいませ。」
ユーローが挨拶をした。
手には小瓶を握っている。死にそうなほどの悪臭がした。
「うっ・・・。ユーロー、これは何の匂いだっ!!」
テウデリクが仰天して質問した。
「はいっ、スライムの体液と馬の尿を混ぜて煮ました!」
ユーローがにっこりと微笑みながら答えた。
(冷静に答えるなよ!)
テウデリクは思ったが、口には出さない。ユーローが必死に研究しているのは分かっているのだ。
「どんな感じだ?」
「はいっ、なんか、うまく行きそうな感じです! でも、あと一歩な感じです。」
「そうか。ネイがスライムの体液を取ってきたお蔭だな。」
「はい。多分、もう少しで真っ白な布を作れます!!」
テウデリクは奥に進んだ。
「ゴームル、具合はどうか。」
「暇ですじゃ。」
ゴームルは寝台から返事をした。起き上がろうとする。
「よいよい、寝ていろ。お前はまだ完全には回復していない。」
「取られたのは目ですから。足腰には問題ありませんわ。片足は元から問題ありましたけどな。」ゴームルはにやりと笑った。
「ゴームル喜べ。ユーローが漂白剤を完成してくれそうだ。これでグィンドやレイズの鼻を明かせるぞ。」
「そうですな。あやつらが泣く顔を見てみたいものですわい。」ゴームルも機嫌よく笑った。
「あと少し、何かが足りないのだがな。」
「・・・イソアザミの花」
横から声がした。幼女だ。
幼女は、雑草が丘に来てからも、ほとんど喋らなかった。
レイズの村で両親をゴブリンに殺され、村人たちからは見捨てられそうになった。そして親の死に責任があると思っていたテウデリクたちに保護された挙句に、ゴームルがレイズ側の人間に傷つけられたことを知った。
色々とショックもあっただろうから、テウデリクもできるだけそっとしておいたのだ。
何故かゴームルにだけは懐いたので、なんとなくゴームルの近くにいさせていたのだった。
「イソアザミの花? それはなんだ?」
テウデリクが聞いた。
「・・・海岸に咲く花です。汚れを落とすと聞いています。」
幼女は決意したような表情でテウデリクの顔を見て答えた。最初はおどおどしていたが、今ははっきりと喋っている。
(もともとはしっかりした子なのだ。)
両親を助けて欲しいと村人に頼んでいたときには、驚くほどしっかりと喋っていた。
テウデリクは優しく幼女を褒めた。
「そうか。お前は薬草のことを良く知っているな。ありがとうな。早速試してみることにしよう。」
「・・・マイナ。」
「ん?」
「私の名前。マイナです、テウデリク様。」
きちんと名前を教えてくれた。
「そうか、マイナか。良い名だ。マイナ、僕はこの村だけじゃなく、父の所領の村全てを豊かにしようと思っている。マイナ、お前も協力して欲しいのだ。」
「・・・はい。分かりました。」
マイナは腹を決めたようだった。
「そういえばゴームル、あの女はどうした。」
グンドヴァルドゥスの小間使いをトゥールで襲撃して奪って来たのだ。
「はあ、看病してくれていましたが、手が空いているときは館の仕事を手伝うように言っています。」
「使い勝手はどうだ。」
物の性能でも聞くような調子で尋ねた。戦利品扱いだからだ。
「最初はあれこれ言って口答えしておりましたがな、諦めたのでしょう、今はもう大人しく言うことを聞くようになっております。」
「ふむ。」
立ち去るときに、「好きに使ってよいのだぞ。」と小声で念を押しておいた。ゴームルも小声で、「エロですな、テウ様。」と返事した。
ご一読ありがとうございました!




