22 トゥールへ! ~~他の村々を実際に見るのは初めてだった。~~
遅くなって済みませんでした。更に今日の投稿は少し短めです。
慌てて投稿したのですが、多分不備はないはずです。
野蛮魔法が使えるようになったミーレとシノには、とりあえず自分で魔力を制御できるように訓練をするように指示し、シノには、ある程度制御できるようになれば領内の各村への経路に慣れるように申し付けておいた。まだ地図を描いたり測量をしたりして周りへの警戒が散漫になるのは危険だと考えたからだ。
そして今、テウデリクは、母クロティルドと共に馬車に乗っている。他には家宰のゴームルが御者をしていて、それと侍女のレイナも乗っているが、その他は食糧や水、お金が後ろに置いてある程度だ。
ロゴと2名の従士は騎馬だ。それに、西隣の村からはジャケが来ている。ジャケは一人で馬に乗って雑草が丘にやってきてそこで合流した。
あとは、ロゴの従者が2人、馬車の脇を歩いている。
雑草が丘からトゥールに出るには、西側に歩いて魔の川に出て、そこから南下してロワール川に出てから東に真っ直ぐ進むという経路もある。少し遠回りになるが、川岸なので馬車でも比較的旅がしやすい。
しかし今回は領内の巡回も兼ねるということで、館からすぐに東に折れ、悪路を進んでいるのだ。馬車が頻繁に止まるので、従者は泥だらけになっている。
行軍の場合は徒歩の兵もいるので、一日の踏破距離はおよそ7,8里程度だ。馬車だともっと早いが、馬車には女が乗っているし従者も歩いているので、せいぜい10里も進めばいい方だ。いずれにしても、それほど急ぐ旅でもないからゆっくり進んでいる。
館を出て二日目の昼頃、東隣の村に着いた。
村長が出てきてロゴに丁重に挨拶をして、それから村長の家に案内する。村長の家族は分散して別の家に泊まりに行き、村長と妻のみが接待役として残る。接待には人質という意味もあるが、これは形式的なものでロゴとしては別に自分の村がいきなり反乱を起こすなどとは考えていない。
村長に命じて食事の用意をさせ、その妻に給仕をさせた。
「あなたさまがテウデリク様ですか。」
村長が話しかけてきた。
「うむ。」
「家宰のゴームル様とロゴの息子、テウデリク様のお二人で羊毛を扱っておられると聞きました。お蔭様でこの村も糸紡ぎの辛さから解放され、畑を広げることができました。この前の定期市のときには、ソリドゥス貨も下さいましてありがとうございました。」
丁重に礼を言われた。
二度目の定期市もかなりの収益が上がったので、直轄の村に限定して現金を配ったのだ。本当は資金の使い道は厳選したかったのだが、現金を配ることで得られるものもある。目に見える利益はやはり強いのだ。
次の日、村人たちに見送られながらロゴの一行は更に東に進んで行った。
ロゴは、
「なんでかな、今まではこんなに歓迎されなかったんだけどな。」と首を傾げていた。
野宿を挟んで、次の日の昼下がり、領地最東端の村に近づいた。
「ここは封臣のレイズの村ですな。」
ゴームルが馬車の上で村を見ながら言った。少し口調が苦々しげである。
「で、あるか。」テウデリクも短く答える。
ロゴの領内の村には羊毛の供給を呼びかけた。税として徴収するのではなく、あくまでも糸紡ぎと機織りを代行して、その分手間賃代わりに完成品を館が一部確保してから残りを返している。ところが、その呼びかけに応じなかった村が一つだけあった。村長は招きに応じてやってきたのだが、テウデリクの説得にも応じずに帰ってしまったのだった。なぜ供出しないのか、理由もいわなかった。それ以来、テウデリクの頭の中では、この村は黒い色で塗っている。テウデリクの経済圏には入っていないという意味だ。
畑が点々と耕されている。この時代、連作する技術がないから開拓地済みの土地であっても休耕中のところが多い。耕されているところも、人間の数が少なく活気がない。なによりも、前の村で見られたような歓迎する空気が全くない。
(ロゴが何かやったのだろうか。)
あちこちに巡回に行っているので、ここで悪さでもしたのだろうか。もっともガリアの人民は痛めつけられるのには慣れているから、よほど悪辣なことをしない限りこのような反応はちょっと考えられない。
「レイズか。」ゴームルが呟いた。
人家が増えてきたあたりで、馬に乗った男が走り寄ってきた。
「ロゴ様のご一行様でしょうか!」
馬上から呼ばわる。
「ああそうだ、ロゴだ。レイズは元気か。」
「はい。」
見知らぬ男はロゴや他の者の風貌を見た。ほとんど目に留まらない程度に嫌悪感を見せる。ロゴたちは気にならないようだが、他人の感情に敏感なテウデリクには感じ取れた。
(なんだこの男は。)
「レイズ様からのお言葉です。」
男は重々しく言った。跪いて聞けとでもいうような口調だ。
「お疲れでしょうから、お湯の用意をしてございます。城下の商家に風呂の用意をさせておりますので、そちらで泥を、あ、いや、汗をお流し下さいますように、とのことでございます。」
「ああそうか。お風呂は好きだよ。ありがとう。それからレイズの顔を見に行くかな。晩飯の用意を頼むぜ。」ロゴが答える。
テウデリクは、ぴょん、と馬車から降りた。
「テウ、どこに行くの?」
「しょんべん。」
言い捨てて歩き出す。この奇妙な村、レイズとかいう腹の読めぬ男の謎を知らぬうちに、レイズの懐には入りたくなかったのだ。別に危険を察知したというわけではないので、ロゴにもゴームルにも何も言わない。しかし、状況は把握したい。
「あとで砦に行く。」敢えて『城』とは言わなかった。主家の住まいが『館』と呼ばれているのに、封臣たるレイズが『城』とは不遜であろう。
もっとも、『城』と呼ぶのが正しいかもしれない。
馬車は村に入ったばかりなのに、レイズの居館は遠くに高くそびえたっているのが見えた。神々しいばかりに白く輝いている。
貧しい村に華やかな城。そこから導き出される結論は明らかだ。重税が課せられているのだろう。そうすると封主であるロゴに対する冷淡な態度も理解はできる。
村を歩き回る。村の人間はテウデリクと目を合わせようとしない。子供たちは、物陰から敵意に満ちた目でテウデリクを見ていた。
(嫌な感じだな。)
テウデリクは敵意に晒されることには慣れている。織田信長としての前世において、そのようなことはいくらでもあった。仮にこの村の人間が全て完全武装していたとしても、それだけで心が怯むということはありえない。だから、冷たい視線を浴びても、蠅が飛んでいる程度の不快感があるかどうかというくらいだ。
広場に出た。人が集まっている。
(なんだ、寄合か。)
一揆でも起こすのだろうか。
(なんなら煽動してあの城を襲撃させるか。)
今すぐどうこうとは思わないが、そういう手もあると心の隅に書き留めておく。とりあえず人だかりの方に近づいて行った。
「お願いします!」
幼女が頼み込んでいる。
(また幼女か。)
と思うが、テウデリクが幼児なためか、どうも幼女とのエンカウントが多いようだ。
「お願いします! お父さんとお母さんを助けて!!」
幼女の願いに対し、大人たちが困った顔をしている。その中に見知った顔があった。村長だ。館に招いて羊毛の供出を説得したのだが、頑として首を縦に振らなかった男だ。
「どうした。何があったのか。」
テウデリクは近づいて尋ねた。
「・・・」
大人たちが、さっと道を開ける。お通り下さいという意味ではなく、近づくのも嫌という雰囲気だ。
(よほど嫌われているのだな。ロゴが何をしたというのか。レイズの責任ではないのか。)
もっとも、封臣の施政が悪いとすれば、それはロゴの責任でもある。嫌われるのは仕方のないことだ。だからテウデリクはそれを責めようとは思わない。
「村長、僕の顔を知っているな。何が起きているのか説明せよ。」
漠然と質問しても無駄だと思ったので、名指しで命じた。
「はあ・・・。」
村長は露骨に嫌な顔をした。
もともとテウデリクは気の長い方ではない。
すぐに返答が跳ね返ってこないことほど、テウデリクの癇に障ることはない。しかし、ここは直轄領ではないし、テウデリクは領主の息子でしかない。ぐっと堪えた。
「理由を述べよ。」
再度返答を促した。
幼女がテウデリクの顔を見た。幼女の目もテウデリクに対する敵意が現れていたが、それよりは急場の問題が大切なようで、話し始めた。
「お父さんとお母さんが森に入って帰ってこないんです。昨日のお昼に出て行って、夜には帰るって言ってたのに、まだ帰ってこない! 森にはゴブリンがいるのに。」
「それなのに、なぜわざわざ森に行ったのだ。」
テウデリクが問うた。
「なぜですって!!」
他の女が人だかりの後ろの方から叫んだ。
「村に病いが流行っているのよ! 森にしか薬がないのよ!! それなのにロゴ様は、『狩りのために』と言ってゴブリンを殺すことを禁じておられるの! レイズ様は、何度もロゴ様にお願いしに行っているのに、どうしてもゴブリンには手を付けるなって命令しているんでしょ!」
テウデリクは考え込んだ。そのような命令をしたことは聞いたことがない。他の村でもそういうことは聞いていない。
「村にいる商人は高いお薬しか売ってくれないし! これもレイズ様が安く売るように命令しているのに、商人はロゴ様に賄賂を出しているから絶対に言うことを聞かないって!」
なるほど、読めた。そういう構図か。しかし、それよりも、この幼女の両親の問題が先だ。
「そちの両親は薬師なのか。」
「そうよ!」幼女が答えた。
「よし、僕が探しに行く。方角を教えろ。」
ご一読ありがとうございました。
明日も遅くなるかもしれません。一時的なものですが、ちょっと色々重なってしまいました。




