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12 砂鉄採り ~~腰に来る作業だった~~

少し短いですが、本日2話目です。

数日後、館に帰って来たロゴに頼んで、用人を何人か貸して貰うことができた。

館の倉庫から食糧を取り出し、魔の川に向かう。魔の川の近くまで来たら、そのまま川岸に沿って下りだした。テウデリクは、村を越えてすぐに黒千代から降りたから、全員が徒歩だ。用人たちは交替で荷車を引いている。荷車には、たらいと袋がたくさん積んであった。食糧と天幕も入っている。


「そろそろロワール川ですね。」ミーレが声を掛けてきた。

館から南西に1リュー(4キロ)ほどいくと魔の川にぶつかり、そこから南に折れて更に2リュー進むとロワール川なのだ。

距離があるし、道も悪いから、日帰りでは少し難しいのだ。


ロワール川に出た。

「ほう、大河だな。」とテウデリクは言ったが、すぐに思い出した。

(そういえば、夢でも見た川だった。確か海までいかなくても砂浜になっていたはずだな。)


河口までいくとなると、更に5里(20キロ)ほど行かなくてはならない。

また、そこまで進むと、ロゴの領地を出てしまう。特に敵対しているわけではないが、勝手に砂鉄を採っていると難癖をつけられる可能性がある。


(いずれ川岸の砂浜の砂鉄では足りなくなるかもしれぬ。そのときは、隣の領地に喧嘩を売って、強奪する算段をつけなければならないかもしれぬな。)


心の中で若干物騒なことを考えつつ、テウデリクは用人たちを指揮してロワール川を少し下っていった。下っていくためには魔の川を渡らなければならないが、浅瀬を選んでなんとか荷車ごと渡ることができた。ロワール川に合流するあたりでは、既に対岸は魔の森ではなくなっている。しかし魔物の出やすい地域なので、人里はない。


ここまでで、既に15キロほどは進んでいることになる。朝早く出たとしても、かなり早い速度だ。荷物が少ないのとテウデリクが道を把握しているというのもあるが、やはりこの距離だと日帰りは難しいだろう。


「このあたりだ。」テウデリクは宣言した。

ロワール川の河口からはまだ距離があるが、もう対岸がかすむくらいの川幅になっている。景色は海に近い。砂浜と見間違うような地質で、浜のあちこちに黒い筋が見えた。砂鉄の筋だ。


用人たちの一部に食事の用意をさせている間にテウデリクは作業を始める。盥に黒い砂を採り、そこに水を入れてかき回し、上澄みを捨てる。それをなんども繰り返していくと、底にわずかながら真っ黒な砂が残る。それが砂鉄だ。

それをいくつかの盥で並行して作業して、その砂を別の盥に集める。その別の盥にもう一度水を入れて、何度か繰り返し上澄みを捨てると、かなり不純物を排除した砂鉄になる。四半刻ほどやって、やっと一握りほどの砂鉄が採れた。それを持ってきた袋に入れる。


食事の用意ができた。

やり方を見ていた用人に、作業を始めさせ、順番に交替しながら食事をさせる。かなり腰にくる作業だから、こまめに休憩させなければならないが、人数はそれなりに連れてきているから、なんとかなっている。テウデリクも野蛮魔法で強化して一緒に作業する。

夕方には、数袋分の砂鉄が採れた。


晩飯を食べて天幕を張って寝る。テウデリクはミーレと二人の天幕に入ったが、話す余裕もなく眠りに落ちた。


次の朝、やはり食事の用意をさせながら、しばらく更に砂鉄を集める。用人たちも作業に慣れてきたようで、ペースが上がってきている。

遅くなると帰れなくなるので、適当なところで切り上げてすべての砂鉄を荷車に乗せた。子供一人が余裕で入るくらいの袋が12個、砂鉄でいっぱいになった。もっとも水を含んでいるから、純粋な量としてはそれほどでもなさそうだ。1トン弱くらいだろうか。


帰りの荷車は重かったので、引っ張る人間と後ろから二人で押す人間と同時に三人ずつ働かせ、短い目に交替していき、疲労がたまらないように配慮したが、魔の川沿いまでくると、用人たちは、へとへとになっていた。特に魔の川を渡るのが大変だった。一度荷車から袋を下ろして、一つずつ背負って渡り、最後に荷車を渡らせるのが重労働だった。


テウデリクは、声を掛けてねぎらいながら、用人たちの働きぶりを観察していく。手を抜く人間や、誤魔化しをする人間、少しでも自分の配分を減らそうとする人間を見極めているのだ。その一方で、工夫して楽な方法を考えて、周りに教えたりしている人間や、見るからに疲れているのに、努めて楽しそうに振る舞い、周りの空気を和ませている人間なども良く見ておく。自分自身の家来ではないだけに、すぐに処罰したり褒賞を与えたりすることはできないが、それでもじっくりみておくことにする。


帰り道は昼飯を食うと、動けなくなってしまいそうだから、強行軍で進んだ。

いつもテウデリクたちが罠を仕掛けているあたりまで来た。


「とまれ。ここで一度休憩する。」

テウデリクは用人たちに声を掛けて止まらせた。

ざっと見まわして、様子を確認する。

全員が疲れ切っているが、まだもう少しもちそうだ。


テウデリクは、比較的疲れていなさそうな用人を二名指名して、焚火の用意をするよう指示した。

そしてミーレと共に川を渡って罠を調べに行く。


用人の一人が、

「テウデリク様、そっちは危ないです!」と警告するが、「いつもやっていることだ。大丈夫だ。」と返答する。


罠から獲物をとってきた。しばらく日が空いていたので、5匹の邪鼠が掛かっていた。


焚火の用意を終えた用人に指示して捌かせた。


「え、こいつを食うんですかい?」用人が不安そうに言った。


「いやなら食わんでもよいぞ。ただ、僕とミーレはいつも食べている。体調に影響はない。」テウデリクは断言した。


「大丈夫かなあ。」

用人たちはおどおどしている。肉を食いたいという衝動は、この時代の庶民に共通する欲望だ。館の用人は、村人に比べると肉には恵まれているものの、これだけの肉を自由に食べて良いとなると、相当に魅力的ではある。

しかし、魔物の肉となると、やはり恐ろしい。


「お前たちは昨日と今日、大変良く働いてくれた。僕は自分の財産がないから、今のところお前たちに褒美を与えることができない。しかし、お前たちは今疲れ切っている。お前たちの身体は、肉を必要としているんだ。だから肉を与えようと思っている。」

テウデリクは話し始めた。


「魔物の肉を食うのは怖いという者がいるのは分かる。しかし、魔物の肉を食って死んだ者がいるとは聞いたことがない。僕としては、食いたくないというのなら、無理に食わせようとは思わない。しかし、僕も無責任に、多分大丈夫だから食えと言っているのではない。自分自身が食べてみて安全だったからお前たちに勧めているのだ。」


用人たちが、うなずいた。この理屈は通じるようだ。


「もっとも、これは誰にも言わない方がいいかもしれないな。あれこれ言う者がいるかもしれない。」


用人たちは小声で相談をしはじめた。お互い秘密を守れるか確認し合っているのだろう。そういう相談をすること自体が、用人たちの「食いたい」という気持ちを表している。


「おお、いい匂いがするな!」テウデリクは、努めて明るい声を出した。用人たちの目が一気に吸い寄せられる。


「テウデリク様! 頂きます。」用人たちは口々に言いながら、おそるおそる口を付け始めた。


「うめえ!」

「うん、うめえ! 少し獣臭いけど、うめえ!!」


どうやら成功だったようだ。


(しかし思いのほか体力を使う作業だったな。一泊だけでは、充分な砂鉄を採ることができないし、効率が悪い。次は人数を増やして荷車も三つくらいにして、3泊くらいでゆっくりと移動するようにしなければならないかもしれない。)


自分の家臣であれば容赦なく使っただろうが、ロゴに借りている人数だ。あまりにこき使って、「もうテウデリク様の御用はしたくありません。」的な雰囲気になってしまっては、次から頼みづらい。情報漏れのリスクも考えつつ、敢えてここで肉を与えたのは、やむを得ない判断だった。


昼食を終え、用人たちを指示して更に北上した。

北の森の際まで来たら、用人たちを解放して、各自館に戻るようにいう。あとはテウデリクが荷車を引き、ミーレが押してグラインガドルの家に向かった。


グラインガドルは、家の外に走り出してきた。


「おお、テウデリクさまだあ。あの、炭っていうやつはあ、すごいやつだあ。あれは鍛冶屋には絶対に必要なものだあ。」


試してみたのだろうが、今更な感じはする。


「そうか。もっと鉄が欲しくなったのではないか。」

テウデリクが笑いながら言った。


「欲しいだあ。鉄があれば、もっといろいろなものが作れそうなんだあ。」


「のこぎりだ。のこぎりを三つ作ってくれ。」

テウデリクは指示した。


「大きなのこぎりを二つ、小さなものを一つだ。」


そして付け加えた。


「鋳造ではなく、鍛造だぞ。」


「たんぞう?」グラインガドルが首を傾げた。

「そうだ、それで薄くて強いのこぎりが作れるぞ。よかったなグラインガドル。」

テウデリクはそういって笑った。

ご一読ありがとうございました!

明日も複数話投稿できると思います。

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