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11 糸紡ぎと炭作り ~~内政改革じゃ~~

開いて頂いてありがとうございます。本日は2話投稿しました。これは1話目です。

テウデリクはミーレ、黒千代と館に戻った。今日は少し忙しくなりそうだった。


「ゴームル、例の物はできたか。」

ゴームルは、にやにやしながら出てきた。歩くのは例によって辛そうだが、それが今日は飛び跳ねているように見える。


館の一階の端に、それは置いてあった。

テウデリクは、椅子に腰かけ、少し操作してみる。

「ミーレ、羊毛を一塊持って参れ。」

「はっ」ミーレが走り出す。


テウデリクがゴームルに作らせたのは、糸紡ぎ車だった。

このガリアの地では、羊毛はスピンドルというコマのようなものを空中で回して、その回転を利用して糸にしていく。熟練した女の手でも、大変な時間がかかるのだ。戦国時代の日本人もびっくりの手間の悪さだった。テウデリクは、昔、農家が使っていた糸車の仕組みを思い出して、ゴームルに説明したのだった。どうやらゴームルには相当な才能があったらしく、なんだかんだ言って、それなりのものを作ってしまったのだった。


テウデリクが試しに羊毛で操作してみると、くるくると糸車が回り、驚くほどの速さで糸が紡がれていく。

「すごいぞ、これは速い!」テウデリクが満足げに叫んだ。

「テウ様! 流石でございます!」ミーレが称賛する。

テウデリクは改めてゴームルを見た。この戦士あがりの老人のどこにそんな才能が隠れていたのだろうか。


「ゴームル、見事な働きであった。戦場いくさばで大将首を獲るよりも大きな手柄だ。ミーレ、母者とレイナをお呼びして参れ」テウデリクが命じた。


これで、クロティルドの協力が得られるだろう。


「なに、テウデリク?」

クロティルドたちが3階から降りてきた。

テウデリクは、

「ゴームルに言って作って貰ったんだ。試してみて。」と言って、糸紡ぎ車の使い方を説明した。


クロティルドが半信半疑で座り、足で糸紡ぎ車を回し始める。

「おっ」妙齢の貴婦人にあるまじき声が出た。

「うぉっ、な、なんじゃこりやああぁ。」

素で驚いている。


「あら、これはどういう仕組みかしら。」

慌てて言い直しているが、今更遅い。


「ちょっと、奥様、私にも!」レイナがクロティルドを押し飛ばすようにして、定位置を奪った。完全に目を奪われている。


「うおおおおー」野太い声を出してしまっている。下女たちが集まってきて、押し合いながら興奮してみている。このような便利な仕組みがあって良いものだろうか。これは、ものすごい物だ。すごすぎる。


「ここは、もう少し足を踏み込めた方が楽なのにね。」

「この回転は、ちょっと遅すぎるわ。もう少し速くても大丈夫だと思うの。」

「ここに、羊毛の塊を置いておく台が欲しいわ。」


あれこれ注文を付けだしている。

ゴームルの顔を見ると、難しい顔をしているが、どうやら創作意欲を掻き立てられているらしい。


「母者、これを母者たちの意見を聞いて改良して量産するつもりだ。そうするとこの館の女たちにも使わせられる。この領地は、糸の一大産地になる。」


「うっ」ゴームルが唸った。一つ目は楽しく作ったが、量産するとなると骨だ。


「そこで、下の村から子供を雇う。報酬はここの朝昼晩飯だ。構わないかな。」


クロティルドは、気もそぞろに、「うん」と返事した。

これは、小さな一歩だが、産業革命の始まりといってよい事件だ。




テウデリクは、昼飯を食うと、すぐに外に出た。今日は忙しい。もちろん、ミーレと黒千代も一緒だ。柵を出てすぐに黒千代にまたがる。


「ミーレ、悪いが走るぞ。」そう言って、ゆっくりと走り出した。別に走らなくても構わないのだが、気がせくのだ。

「はっ」ミーレが答えて、一緒に走り出した。


村を駆け抜ける。

村人は、テウデリクを見ると、いつものように道を開けたが、今日は様子が違う。みな、少し腰を屈めて挨拶をしている。

昨日、羊を救い、ネイたちを先に逃がしたのが影響しているのかもしれない。

しかし、テウデリクはあまり気にしていない。


村を突き抜ける。いつもの魔の川に向かう方向ではなく、別の方角に向けて走る。そっちには、普通の森があり、「北森」と呼ばれているところがある。魔物はほとんどでないが、害獣が出るのでやはり危険がある。その森のきわに、鍛冶屋の家があった。


「グラインガドル、入るぞ。」

テウデリクが入っていった。


「おお、お館の子どもさんだなあ。今日は何か、」

用かあ、と聞かれる前に、テウデリクは、


「炭の作り方を教える。それでいい仕事ができるようになるから、色々協力しろ。」と言い捨て、外に出た。


土の上に棒で線を引いていく。

あわてて出てきたグラインガドルに、

「この線の中を掘れ。深さは半キュビット(約25センチ)だ。」と指示した。


ミーレに、「枝を拾いに行くぞ。」と言って、森の中に入っていった。


グラインガドルは、

「すみって、この前言っていたやつかあ。おれ、鍛冶屋だから、すみとか、あんまり関係ないんだあ。」と言いながら、しぶしぶ穴を掘り始めた。


テウデリクがやろうとしているのは、原始的な炭焼きの方法であった。

地面に穴を掘り、底に燃料となり木や葉っぱを入れ、その上に木を置き、火が充分燃え始めたところで、上から土をかぶせる。そうすると不完全燃焼して炭ができあがるのだ。


鍛冶屋は、村の需要を賄うには十分すぎるほどの仕事しかしていない。村では、それほど多くの金属器を使わないし、ロゴもいつも戦争しているわけではないから、鍛冶屋の仕事はそれほど多くはないのだ。

そうすると、村での重要度も低いから、村の収穫も多くは分けて貰えない。だからグラインガドルは、森で野獣を狩ってその肉で栄養を補っていた。


そこで、鍛冶屋を兼ねて炭屋をさせようと思っていたのだ。炭があれば、なんでも生産性が上がる。もちろん鍛冶屋の仕事も質が高くなるはずだ。


テウデリクは、そのあたりを説明するのが面倒だったので、とりあえずやってみせてグラインガドルを説得しようと思っていたのだ。


・・・


夕方になって。

グラインガドルは、作業を終えた。

火を入れ、既に土をかぶせている。


「これで炭ができるんだなあ。それで、炭って、何かいいものができるのかね。」

やっと聞きたかったことが聞けた。

逆にいうと、今日の午後は、その疑問を抱えたままグラインガドルは穴を掘り続け、それが終わるとテウデリクたちの枝集めを手伝っていたのだ。


手を洗い、鍛冶屋の家の中に入る。


「炭を燃やすと、安定した強い火を得ることができる。そなたの鍛冶仕事にも役に立つはずだ。」

テウデリクが説明する。

「また、炭自体も売り物になる。村に持っていって、使い方を説明すると、おそらく食べ物を多くわけてくれるだろう。」


冬の間、村でも炭の需要は大きいだろう。また、テウデリクは羊飼いたちに、炭火を持っていかせることを考えていた。スライムに襲われても、すぐに火を使って撃退できるとなると、羊の管理に子供たちの労働力を注ぎ込まなくてもすむようになる。その分、畑の働き手が増えるから、大人としても楽なのだ。


「ふうん。そんなにいいものなのかあ。」グラインガドルが首を捻る。今一つ実感がないらしい。


「ああそうだ、これをやろう。」

思い出して火打石を与える。


「ああっ、火の出る魔法の奴だなあ。」

「そうだ。」面倒になって、適当に答え、使い方を説明する。


「おおー。」

グラインガドルが感心する。炭よりも食いつきがいい。もっとも、炭の有用性が分かれば、こんなものでは済まないはずだ。


「鉄はどうしてるんだ。」

「鉄かあ。古くなったものを溶かして、新しいものを作るのがほとんどだあ。たまに行商人が新しい鉄を持ってきてくれることもあるんだあ。でも、なかなか手に入らないから、新しい何かを作ることはあんまりできないんだあ。」

グラインガドルが愚痴る。


そういえば、ゴームルも、グラインガドルに工具を頼みに行くとき、使えなくなった鉄類を持っていっていた。そもそも鉄の産出がほとんどないようだ。ガリアという地は、全くもって未開だな。

と、考えながらテウデリクは続けた。



「よし、僕が新しく鉄を供給できると思う。すぐにではないがな。人手がいるのだ。」

これはロゴに頼んで用人を貸して貰うつもりなのだ。


テウデリクは、魔の川を思い出していた。

魔の川を下るとロワール川に出る。ロワール川を下ると海だ。大西洋に出るのだが、そこに砂浜がある。テウデリクの記憶では、砂浜では砂鉄が採れるはずだ。それを集める胸算用なのだ。


「これで、仕事がいろいろ忙しくなるはずだ。しばらくしたら、見習いをよこすつもりだから、そのときは仕事を手伝わせながら、色々教えてやってくれぬか。」


これで、幼児たちの修業先を一つ確保した。


そして、テウデリクは、グラインガドルにもう一つ頼みごとをした。


「うーん? そういうのは、できるといえばできるけど、館の人が作れるんじゃないかあ。」

グラインガドルは不思議そうな顔をしたが、館の人間には頼めないのだ。館の人間だと、自分流に作ってしまうから、ちょっとテウデリクの考えているものをそのまま作ることはできないだろう。

「だからお前に頼むのだ。」

テウデリクはそう言って、帰途についた。


クロティルド、レイナ、下女たちは、行列になって並びながら、糸紡ぎ車に熱中していた。


(次は、砂鉄だ。それとできれば染色と編み機だ。)テウデリクは次の目標を設定した。染色については、染料がどういうものだったか、それをどこで調達すればよいか、よく分からない。編み機については、構造を良く覚えていない。少し時間が掛かりそうだ。しかし、女たちの手が空きそうだから、その労働力を他に向けるように考えていた。


肥料を作らせるのだ。


ご一読ありがとうございました。

この時代の技術水準が良く分かりません。また、登場人物の能力の向上が速すぎるようにも思われますが、ちょっとそこは調整しました。ご理解賜りたく、お願いします。

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