表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/103

3 下の村と川 ~~肉を喰らう~~

開いて頂いてありがとうございました!

本日は2話投稿しました。これが1話目です。

引き続きお楽しみ下さい。


あとあらすじを少し変更しました。

ちょっとどうかと思いながら、機会を見て書き直そうと思っていたのです。

館から出ると、テウデリクは、黒犬にまたがった。自分で歩いてもいいのだが、二歳の身体では、多少辛い。それに村を2歳児がふらふら歩いていると、領主の息子としての威厳に関わるので、テウデリクは村を抜けるときには犬に乗ることにしていた。


「黒千代」と、自分が付けた名前で呼び、首の横を撫でる。黒千代は、尻尾を振りながら、慎重に下り坂を進んでいった。


フォルトゥナトスを丘の下まで送って行くと、テウデリクは、そこで別れ、ミーレと共に村を突っ切って進んだ。下の村を通らなくてもよいのだが、そうやって、常に領主の人間を人の目に晒していることが、統治の上で重要だというのがテウデリクの信条だったのだ。


目をきょろきょろさせず、まっすぐに行先を見つめる。人が通りかかることもあるが、こちらからよけたりはしない。


この点は、どういうわけかロゴも同じ意見だった。

テウデリクが犬に乗り始めた頃、食事をしているときに、ロゴが、

「おい、人とぶつかりそうになったらどうする?」と問うたのに対し、テウデリクは、

「相手が避けなければ弾き飛ばします。」と答え、ロゴはおおいに満足したのだった。


ロゴとしては、「フランクの領主の息子なんだから。」という理屈くらいしかないが、テウデリクとしては、当然のことだ。


戦士たるもの、馬で村を走り抜けなければならないこともある。緊急の用のときもある。そのときに、人を避けながら走っていればその分遅くなる。それでいくさに負ければ洒落にならない。

だから普段から、「こいつは譲らない奴だ。」とはっきりと村人の心に刻みつけておかなければならないのだ。どちらが譲るかが、明確に決まっていないと、事故の原因にもなりうる。一度譲るからには、今後も必ず譲るくらいの覚悟がなければ、却って迷惑になるのだ。


よく小説などで、威張った貴族が、

「おいそこは俺の道だ。脇に寄れ。」と言うことがあるのは、本来は、そういう立派な理由があるのだ。もちろん、その手の貴族が、有事に走り出すということもないので、ほとんどの場合は、無用に特権意識を振りかざしているだけなのだろうが。


もっとも、テウデリクの隙のない風貌と、恐ろしげな黒犬、そして、異常なまでに張り詰めた空気で薙刀を掲げて後を固めるミーレという一行を見て、道を開けない村人はいなかった。そうなると、幼児の一行であるということが、更に恐ろしさを醸し出していた。


村を抜けたテウデリクは、そこで黒千代から降り、横についたミーレと簡単に話しながら歩いていく。ミーレは、ここ2年ほどで、完全にテウデリク好みの近習に鍛えられた。命ずる前に、テウデリクの要求を察して対応できるし、細かいところに気を配り、速やかに、かつ正確に物事を処理する能力は、この時代の王の官吏にも見習わせたいほどの水準に至っていた。ひょっとするとコンスタンチノープルの役人よりも、厳格な仕事ぶりかもしれない。


ミーレは、今日はテウデリクがフォルトゥナトスと話している間、館の外の空き地で薙刀を振るっていた。

テウデリクは、父から短刀スマクラサクスを貰っていた。貰ったというと穏当に聞こえるが、かなり強談に及び、もぎとったというに近い。テウデリクとしては、刃物は、諸々の活動に必要不可欠なので、その点は譲れなかったのだ。あとは、片手斧フランキスカもある。本当は、片手斧は、成人にのみ与えられるべきものなのだが、テウデリクは飛び道具もやっぱり必要だし、工作などのためにも必要だからということで、行商人に幼児向けフランキスカをロゴに注文して貰ったのだ。


ミーレは幼女だから、ちゃんとした武器はまだ扱えないが、薙刀のような長ものであれば、技術のなさをカバーしやすいから、テウデリクが木を削ってミーレに与えたのだ。刃物はついていないのだが、それでもそれなりに戦闘力はある。ミーレに命じて、毎日鍛錬させていた。


ここ2年で、ミーレもすっかり変わってしまったので、それはそれでレイナの悩みになっている。


テウデリクの目標は、とりあえずこのミーレを最低限の自己防衛ができる程度に育てておくこと、テウデリクの身の回りの世話を完璧にこなせるように育てること、ある程度の事務処理ができるようにしておくこと、だった。


夜には文字も教えている。その意味では、クロティルドたちの予想は既に超えていたということになる。


テウデリクとミーレは、畑が点在する平原を抜けて、荒野に出た。あるはっきりとした境界があって、そこから「荒野」となっているのではなく、畑が少なくなってきて、徐々に風景が荒々しくなってきたあたりが荒野だ。もっとも、羊飼いたちがいるので、無人ではない。


村からかなり外れたあたりに、川が流れていた。ロワール河に流れ込む川だが、特に明確に名前はついていない。村の者は、「魔の川」と呼んでいた。それはその川の対岸は深い森になっていて、魔物が住むからである。もっとも、川自体には魔物がいなくて、森から魔物が出てくることもほとんどなかった。それでも、森の中に人間が一人で入るのは、極めて危険な行為だった。軍勢が押しとおるのは、ほぼ問題がない程度であり、全くの人類未踏の地というほどではない。テウデリクたちが向かっていたのは、その川だった。


川に着くと、ミーレは黙って枯れ木や落ち葉などを集め始めた。薙刀はできるだけ手から離さない。枝を拾うときに、いったん地面に置くことがあっても、その前には、周りを観察して、危険な動物がいないことを確認してからにしている。

もっとも、黒千代が、あたりを警戒しているから、基本的には大丈夫なのだが、それでもやはり警戒は必要なのだ。


テウデリクは、ミーレが集めてきた枝などを集めて、火を熾した。腰にぶら下げた火打石を取り出す。


この火打石というのが、ここ数か月にテウデリクが最も苦労した品物だった。

この時代、火を熾すという技術も後退していたのだ。木と木をこすり合わせて火を着けたりするのが一般的で、多くは、どこかの家から貰ってくるというのが村の日常である。館では、夏でも暖炉に火が入っていたが、実のところ、それも大変な労力を要することだ。薪がいくらあっても足りないのだ。それでも、いちいち火が必要になるたびに、丘の下の村から貰ってくるわけにもいかず、原始的な方法に頼るよりは、まだ薪を浪費した方がましだという状態だった。


テウデリクは、信長だったころから、火打石には、相当な見識を有していた。おそらく当時の日本人の中でも、最も火打石に拘る人間の一人だっただろう。子供の頃から、どのような火打石がよりよいか、ずっと研究を重ねてきたのだから、火打石自体は、河原をうろついていたら、満足の行くものが見つかった。

問題は火打ち金の方だった。火打ち金は鋼が良いのだが、それは昨今のガリアでは製造されていない。その他の金属器といえば、武具だが、流石に火を熾すために、剣を削るわけにもいかない。

穴の開いた鍋を館の物置で発見したときは、おもわず、「おっ!」と叫んだものだ。その鍋を踏みつけ、岩で殴りつけ、細かく解体して、その破片を火打ち金として用いることにした。

これで、ある程度、着火ができるようになっている。


ミーレにも渡してある。また、館の使用人にも渡してやったら、非常に驚かれたものだ。フォルトゥナトスにもくれてやろうと思っていたが、すっかり忘れていた。


火を熾したころには、ミーレの薪集めもほぼ終わっていた。ミーレは黙ったまま、薪を組んで、火力を安定させる。


「よし。」テウデリクが声を掛けた。

「はい。」ミーレが言葉少なに答える。


そして、テウデリクとミーレは、服を脱ぎ始めた。

脱いだ服はそのまま持って、川に入る。そこで、それぞれ自分の身体と服を洗い、河原に戻って、焚火の周りに立てた棒に干した。


それから、もう一度、川に入る。

初夏とはいえ、少し寒いが、これは我慢だ。テウデリクは、水練は、体力づくりの基本だと考えていた。


川の幅は、約10トワーズ(約20メートル)で、最も深いところだと、ミーレの背でも底に足が届かないくらいだった。流れはそれほど速くないから、よほど油断しない限りは安全面では問題ない。ミーレも泳げるようになっていたし、テウデリクも当然泳げる。


テウデリクは、身体に力を入れて、全身から赤い光を放つ。錆猫から野蛮魔法を学んでから、いつの間にか、自分で制御できるようになっていた。ここからは、少し危険な行動をしなければならない。また、犬の黒千代は川の中まで入ってこられないから、河原で火の番をさせている。そうすると戦力はテウデリクとミーレだけだから、万全を期す必要があった。


浅瀬を選んで川を静かに渡る。川には危険な生物がいないことは分かっているが、それでも魔の森の間際であるから、注意する必要がある。水面を睨み、水の流れに乱れがないかを確認しながら、少しずつ進んで行って、向こう岸に着いた。岸には上がらず、木々の間を注意深く確認していく。先にテウデリクが確認して、その間はミーレが後ろを警戒し、そのあとで、交代して、同じように確認をする。


周辺の安全を確認してから、仕掛けてあった罠を開いた。


かなり大きなネズミが掛かっていた。見た目はネズミだが、野兎ほどの大きさはある。暴れすぎて力尽きたのか、もう動きを止めている。


テウデリクは、スマクラサクスを抜き、音も立てずに、ネズミの首に突き立てた。ネズミは、一瞬、驚くほどの力で身体を弾けさせたが、そのままぐったりと動かなくなった。


そして、テウデリクは、そのネズミを肩から掛けていた袋に入れ、罠に餌を仕掛けて元の場所から少し離れたところに仕掛けた。


それから、テウデリクとミーレは、言葉を交わすこともなく、上流に向かい、他の罠を一つずつ確認して行った。次はミーレの番なので、テウデリクがミーレの薙刀を預かり周りを警戒し、ミーレがテウデリクのスマクラサクスを預かり獲物を確認するのだ。このように、二人で交互に罠の確認をしていき、掛かっていた獲物を始末していった。


結局、その日は、3匹のネズミを捕まえた。


・・・


ネズミというのは正確ではない。厳密にはこれも魔獣に入る。テウデリクはこれをどう呼ぶべきか知らなかったが、とりあえず、「邪鼠じゃそ」と呼ぶことにしていた。ネズミよりも大きいし、普通の肉のように食べることができる。


・・・


元の岸に戻った二人は、大急ぎでネズミをさばき、肉を串に刺して焼き始める。調味料も何もなく、野菜を足して鍋にするでもなく、単純に焼くだけの料理だ。毛皮はあとで持って帰って用人に処理させておくことにしている。


身体が冷えないように焚火に温まりながら、二人は漸く緊張を解き、雑談を始めた。


「魔の森も、端の方では、あまりきついのは出てこないようだな。」

テウデリクが考えながら言った。


「そうですね。油断は禁物ですが、これで5回目になりますけど、大丈夫な感じですね。」


実は一度だけ、危ない感じのときがあったのだ。森の奥でざわざわと動く音がしたのだが、咄嗟にテウデリクとミーレが動きを止め、静かに対岸に戻って岩陰から見ていたら、一本の角の生えた豹のような魔物が、静かに罠に近づいてきて、テウデリクたちの獲物を食べて帰っていったのだった。

それ以外は、危険なことは起きていない。


肉を齧りながら、話を続けた。少し生臭く、生き物の匂いがするようだが、かなりの距離を歩いてきた二人の空きっ腹にとっては、ごちそうであることは確かだ。くず肉は、黒千代に与えている。


「そういえば、館にも肉を持ち帰るべきだろうか。」

「うーん・・・、そうですね、毛皮の処理を用人に任せている時点で、別に隠しておくおつもりはなかったんですよね?」

ミーレが返事をする。かなり鍛えたお蔭で、敬語も完璧だ。


「魔物の肉を食うと、魔物になるという阿呆がいるのだ。」

テウデリクは顔をしかめた。村の教会の司祭であるジェーロムに、それとなく聞いてみたら、血相を変えて、「なりませぬぞ。」と言われたのだ。ジェーロム自身が破戒僧ではないのかと言いたいところだが、重要なのは、教義上禁じられているかどうかではなく、村の権威者の意見がどうか、なのだ。

テウデリクとしては、そのような下らぬ理由で、折角の肉類を諦めるつもりはないのだが、今の段階では、教会と事を構える力はない。


「館の中だけで、やってみては如何でしょうか。」

ミーレも考え込む。もちろん、それも一つの手ではある。もっとも、父がなんというか読めない。領主であるロゴは、たいていは外で何かを狩ってくるから、それほど肉には困ってはいない。肉は、ロゴが最優先で食べ、次にテウデリクとクロティルドに回される。それから従士たちが食べる。これは戦う者だから当然のことだ。そういう意味では、テウデリクも優遇されているわけで、テウデリク自身としては、ある程度の肉は口にしている。なにしろ、フランクの子は、肉で育つというのが伝統なのだ。


テウデリクがここで邪鼠じゃそを食べているのは、もっと食べておきたいという理由と、ミーレにもたくさん肉を食べさせて体力をつけさせ、身体を作ることが目的だった。ロゴに提案してみても、自分の食べる肉の量に違いが出ないのなら、うん、と言わないかもしれない。


「とりあえず、飢饉の年には、村にも分けることにしよう。そのときには、教会の阿呆がどうわめこうが、僕は無視することにする。」

テウデリクが決心する。決心するとはいえ、要は先送りでしかない。色々と不満はあるが、まだ2歳の身だ。少しずつ自分のできる範囲、自分の影響力を及ぼせる範囲を広げていくしかない。今のところ子飼いの部下としてはミーレしかいないのだから。


肉を食べ終わると、二人は、簡単に後片付けをして荷物をまとめ、少し下流に向かった。罠を掛けるのは、いつもの焚火地点から上流と決めていて、下流には人工物を置かないようにしていたのだ。


その理由は、空にあった。


ミサゴが1羽、空を舞っている。

ミサゴとは海の魚を狩る小型の鷹なのだが、稀に川などでも見られる。雑草が丘は海からは少し離れているが、このミサゴも海からはぐれて来たのだろうか。


テウデリクはミサゴを見たことがなかった。鷹は大好きなのだが、このような種類の鷹は見たことがない。狩りの方法が独特なのだが勇敢なので、いつ見ても目を奪われる。あたりの警戒は怠らないが。


ミサゴが勇敢だといわれるのは二つ理由がある。

一つは、水中にまっすぐに飛び込んで泳いでいる魚を捉えることである。

もう一つは、ミサゴは獲物の大きさを選ばない。重すぎる魚であっても果敢に挑戦し爪を引っ掛けてそれから離水するのだが、場合によっては飛び上がることができず爪を外せないまま溺死することもある。それでもミサゴは小魚だけを狙うようなことはせずに、大物を躊躇いなく狙うのである。

その姿は実に美しい。


「いますね、オスプレイ(ガロ・ローマ人はそう呼ぶ。)。」ミーレが言った。

「うむ。実に美しい。」テウデリクが答えた。


巣の場所が今のところ分かっていない。テウデリクが狙っているのは、ミサゴの卵だった。孵化する直前に奪取して雛から育てれば、鷹狩に使えるのではないかと睨んでいるのだが、今のところ巣の場所が分からない。卵を産んでいるかどうかも分からない。テウデリクたちは、ここ数日間観察を続けているが、どうやら長期戦になりそうなのだ。

ご一読ありがとうございました。

冒険というには地味ですが、ずっと使いたかったオスプレイ、やっと出せました。動画サイトなどで、オスプレイの狩りの姿を見ていると、本当に恰好良いので、皆様お暇があれば是非ご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ