第28回 王脩、旅達の死を知る
王脩は、父親の墓参りから魏郡に戻ると、自分の功曹に未だ北海郡で主簿をつとめている黄文を頂きたい、と曹操に上奏をした。
普段、何も要求が無い王脩からの珍しい願いであり、曹操はその願いを聞き届けた。
こうして、王脩と黄文はまた二人で働くことになったのである。黄文が言う。
「太守殿。この度は、私如きを抜擢して頂き、ありがとうございます。」
「練達殿。こうしてまた二人で働けることを嬉しく思う。今は比較的安定した状態ではあるが、もともと袁家の支配地であった故に、油断をすると大きな反乱なども起こりかねない。その辺りは、注意深く観察して頂きたい。」
「かしこまりました。太守殿のお役に立てるように、尽力を致します。ところで・・・。」
「何でございましょう。」
「旅達殿が亡くなったそうです・・・。」
「旅達殿が・・・。」
王脩は、いつも懐に忍ばせている赤い大きな布を取り出して見つめた。この布を見えるところに掲げれば、いつでも来てくれる、という約束をしたものであった。
一度も使ったことは無い。
使う前に、旅達の方が先に現れたからだ。
王脩は聞く。
「以前、会った時は元気そうでしたが・・・。」
「どうやら、殺されたみたいです・・・。」
「殺された・・・。一体誰に・・・。」
「わかりません。旅達殿の死は秘密裏に処理をされた、というところまでは知っています。」
「何故、その様なことをお知りか?」
「殺されたのが北海郡でしたので・・・。」
「旅達殿は、情報の売買を生業としていた。その辺りの諍いが原因、でしょうか・・・。」
「しかし、それなら秘密裏な処理にはならないと思います。殺したのはもっと上の方ではないかと・・・。」
「上の方・・・。」
「はい。旅達殿は、曹家や袁家にも頻繁に出入りをしていたそうで、相当奥深い内情まで、色々と知っていたのではないでしょうか。知りすぎたことで・・・。」
「殺された?」
「はい。私はそう思います。」
「そうなると、殺すよう指示した人は、一人しか思いつきませぬが・・・。」
「はい・・・。名前を出すのは、憚られる方ではないかと・・・。」
「確かに、あり得ぬ話ではないですね。」
二人の脳裏に浮かんだ名前、それは「曹操」である。
曹操であれば、秘密を知りすぎた旅達を殺すという決断をするのは、そう難しいことではない。
曹操は、この頃、北方の制定を終えて、その目を「南方」に向け始めていた。
もし、旅達が自分たちの情報を南方に割拠する「劉表」や「孫権」に提供などされれば、それは厄介な話である。曹操は、そう言った可能性がある限り、今までは便利に使ってきたが、害になりうる旅達を処断するのは、当然と言えた。
旅達が殺されたということは、その他の関係者も既に亡きものとなっているのであろう。王脩は、旅達を心の中で弔いながら、赤い布を燃やした。王脩が言う。
「我らが君主は、天下を取る器だ。しかしながら、それだけ恐ろしい方ともいえる。気を引き締めて臨まねばなりますまい。」
「そうですね・・・。裏表なく、しっかり働き成果を挙げなければいけないと思います。」
こうして、曹操に仕えることに不安を抱えながらも、王脩と黄文は、魏郡の民のために身を粉にして働くのである。




