第26回 王脩、管統の説得をする
今や、袁紹の勢力圏は曹操のものになった。
しかし、楽安の統治を任されていた「管統」だけは、曹操に降伏せず、独立の構えを見せていた。
曹操から見れば、吹けば飛ぶほどの小勢力であるが、その忠義の心を買って、曹操としては、自分の家臣団の一員に加えようと考えていた。
そこで、王脩に白羽の矢が立ったのである。
曹操が王脩に言う。
「淑治よ。お前とともに袁譚に仕えていた、管統を知っているか?」
「はい。特別親しい間柄とまではいきませんが、忠義の心が厚い、優れた人物だと思います。」
「そうか。お前も知っているだろうが、袁譚の旧臣で唯一、未だに私に歯向かっている。そこで淑治よ、お前に管統への対応を任せたい。」
「対応というのは、家臣になるよう説得せよ、との事でしょうか?」
「ああ、そうだ。ただし、いくら説得してもだめな場合は埒が明かん、管統の首を取って参れ。そこまで加えての対応だ。」
「わかりました・・・。有用な人材であることは間違いないことから、必ずや曹操様に臣従させる方向で説得に当たります。」
「よろしく頼むぞ、淑治。」
こうして王脩は、管統が立てこもる楽安に向かった。
楽安では、曹操の使者、と名乗っただけで、拒絶されたが、王淑治、と名乗ると入城が許された。
そして、早速対面することになった。
王脩の予想では、一人曹操に敵対していることから、その心労などで疲れや、やつれが強く見えるかと思いきや、非常に闊達な様子であり、少し驚いた。管統が言う。
「曹操の使者に会う気は無かったのだが、王淑治殿となれば話は別だ。袁譚様のご遺体を埋葬してくれたと聞いている。心より感謝いたす。」
「私も袁譚様には、多大なご恩を頂きましたので、当然のことをいたしたまでです。」
「淑治殿、一つ聞きたいのはそこなのだ。何故、あなたほど忠義に厚い方が、曹操に膝を屈したのだ?」
「私も、当初は戦い続けるべき、と考えました。しかし、友の一言で、思い直し、その結果、曹操様に仕えることに致しました。」
「よければ、その一言はどの様なものかお聞かせ願いたい。」
「はい。“我々が働くのは民のため”という言葉です。」
「なるほど・・・。民のために働くことを考えれば、袁譚様でも曹操に仕えても同じ、ということか・・・。」
「もちろん、家臣になった以上、君主のために働くのは当然ですが、最終的にはそれが民のためになる、というのが私やその友人の考えです。」
「もし、今回の説得を断ったらどうなる?」
「曹操様には、説得、若しくは管統殿の首を持ち帰る様に命じられております・・・。」
「私の首を・・・。その前に、淑治殿、この状況であれば、あなたの首が先に飛ぶのでは?」
管統の周辺には、十名ほどの護衛兵がいる。
「はい、その通りです。しかし、その際は私の忠義の証として、私の首を曹操様にお送りいただければと思います。」
「そこまでの覚悟があるのか・・・。」
「使者としてきた以上、身命を賭して臨んでおります。私としては、管統殿の才を、これからの世のために役に立てていただきたい、と考えています。」
管統は、ここまで曹操に屈しなかったのは、己の意地にかけて、袁譚への忠義を貫くのが恩を被った者の当たり前だと思っていた。
しかし、王脩の言葉を聞いて、その頑なさが己の至らない点であるのでは、と思えてきた。
管統は言葉を止め、しばし考えた。
王脩は、その管統をずっと見つめている。
管統が目を開け、言った。
「淑治殿。私を曹操様に会わせてくれ。これにて、降伏をすることにする。」
「ありがとうございます。曹操様もお喜びになるでしょう。」
こうして、王脩は管統の説得に成功し、ここに完全に袁家の勢力は消滅、河北一帯全土が曹操の勢力下にはいることになったのである。




