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三国志・王脩伝ー義に厚き漢ー  作者: 涼風隼人


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第25回 王脩、曹操に仕える

 曹操軍の兵士には節度がある。

 

 むやみに焼き討ちをせず、行政に関わる文書は保護対処とし、決して棄損しない様に命じられており、その命令が末端まで浸透しているからである。

 

 よって、情報を持っている役人なども、歯向かわない限りは殺したりはしない。政に不備が生じないための配慮である。

 

 そして、名士として名の通っている者に関しては、曹操が直々に会い、適材適所で登用をしている。王脩も曹操と対面する日がやってきた。

 

 王脩は一つの願いをもってこの対面に臨んでいた。

 

 曹操が言う。

 「お主が王淑治か。若き時より、その名声を轟かせていると聞いている。これからは、その持ち合わせている能力と、名声を私のために活かしてくれ。悪いようにはせん。」

 

 「ありがたきお言葉、もったいなく思います。その様な時に、不躾ではございますが、一つ、お願いがございます。」

 

 「ほう、聞こうではないか。」

 

 「私は今まで袁譚様にお仕えして参りました。袁家から受けた恩義に報いるために、袁譚様のご遺体を私にお渡し願いたく・・・。」

 

 「袁譚の遺体か・・・。しかし、袁譚は私の事を裏切ったのだ・・・。通常の埋葬の対象には、ならぬ。」

 

 「そこを、何とかお願い申し上げます。このお願いをお聞き届けいただいた暁には、この王淑治、生涯をかけて曹操様にお尽くし致しますことを、ここに誓わせて頂きます。」

 

 「うむ・・・。気持ちは、わかるがのう。」

 

 ここで、一人の男が前に出て、曹操に言う。

 「よいではありませぬか。王淑治が忠義に厚いのは私も存じております。その思いにこたえれば、曹操様におかれましては、なくてはならない家臣となりましょう。」

 

 この男は誰か。

 

 かつて、王脩が仕えていた孔融である。

 

 孔融は北海郡を出てから、隠棲生活を送っていたが、天下の名士を曹操が見逃すはずもなく、曹操陣営に迎えられ、曹操の側近くに仕えていたのである。

 「そういえば、文挙との関係もあったのだな。」

 

 「はい。誠心誠意、私に仕えてくれました。」

 

 「しかし、忠義に厚い漢が何故、文挙から袁譚に仕える相手を変えたのだ?」

 

 「それは、私が命じたからです。北海郡とその民を王淑治に託したのです。」

 

 「そうか・・・。わかった。異例ではあるが、淑治よ。袁譚の遺体を引き渡す故、通常の儀礼に則り、葬ってやるとよい。」

 

 「ありがたきお言葉。王淑治、生涯をかけて曹操様に尽くします。」

 

 曹操との対面が終わると、孔融が近付いてきて言った。

 「淑治よ。久しいのう。お前には、苦労を掛けた・・・。」

 

 「いえ、先ほどは本当にありがとうございます。また、こうしてお会いできたこと、心より嬉しく思います。」

 

 「私もだ。曹操様は癖があるが、名士を大事になさるお方であるから、お前も重用されることになるだろう。これからも、よろしく頼むぞ。」

 

 王脩は拝礼し、その場を立ち去った。そして、晒されたまま朽ち果てようとしていた袁譚の遺体を引き取った。

 

 その変わり果てた姿に王脩は膝から落ち、泣いた。

 

 袁譚は、王脩をはじめから仕えていたような側近として遇してくれた。こちらの提言にも、よく耳を傾けてくれた。

 

 その時の袁譚を思い出すと、王脩の涙は止まらなかった。

 

 本来であれば、四世三公の高貴な家柄であるので、厚葬されるべきであるが、曹操はそこまでは認めてくれなかった。

 

 よって、通常の礼に基づき、王脩は袁譚を葬った。

 

 その後も王脩は、墓前から中々離れようとはせず、哭泣し続けた。そして心の中で語りかけた。

 「袁譚様・・・。この様な弔いしかできないこの王淑治をどうか、お許しください。袁譚様から頂いた恩義を忘れず、私はこれからも民のために生きてまいります。どうぞ、安らかにお眠りください。」


 その姿は、周りの者たちも心を打たれた。この話は曹操の耳にも入り、王脩の忠義の心を称賛した。


 そして曹操に仕えて、最初の大仕事を任されることになるのである。

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