第21回 王脩、別駕として袁譚を支える
別駕の仕事は、刺史である袁譚を支え、時には袁譚の代理も務めるといった重職である。
袁譚陣営では、よほど火急の件でない限り、まずは別駕のところに案件が上がってくる。それを別駕自ら決裁するもの、刺史である袁譚が決裁するものに振り分ける。
ほとんどの案件は別駕が処理することになっており、孔融のときとはその点が大きく異なっていた。
「ここまで重要な案件も、別駕の意思一つで可否が決まるのか・・・。」
王脩は別駕の決裁範囲が広すぎるところが、袁譚が政に興味をあまり示さない一旦なのではと思った。王脩は袁譚に相談をすることにした。
「袁譚様。率直に申し上げて、別駕の決裁範囲が広すぎる様に思います。重要な案件に関しては、袁譚様自らがご決裁されるのがよろしいと思うのですが。」
「そうか・・・。実は、私はあまり政が得意ではない。それ故に、先の別駕である劉献の決裁権限を広くしたのだ。」
「なるほど・・・。しかし、これでは別駕を担う者に権力の集中が起こるのではないかと思料致します。」
「それほどまでに、か。淑治としては、是正すべき、ということか?」
「はい。ご検討いただけますでしょうか?」
「検討の余地はなかろう。淑治、お前の視点で整理しものを提出してもらえば、私はそれに従う。ただ、私の補佐はしっかりと頼みたい。」
「かしこまりました。早速、草案を作成して、速やかに提出を致します。」
こうして、王脩は決裁権限の是正を行った。
まずは、これで袁譚を政に巻き込むのが王脩の考えであった。袁譚は袁譚で努力をしており、王脩や主簿への諮問の機会が飛躍的に増えてきた。
袁譚が政にもやる気を見せるようになった最中、袁紹と「曹操」の中で、戦の機運が一気に高まって行った。
「官渡の戦い」である。
国力では、袁紹が圧倒しているものの、この戦いでは「君主の器」が試された戦いとなった。
優柔不断で猜疑心の強い袁紹に対し、即断速攻の曹操。
曹操は苦しみながらも、策略を用いて、袁紹軍を撃破したのである。
兵站を担当していた袁譚は大いに慌てた。王脩を呼び出して言う。
「先ほど、我が父が曹操に敗れたという情報が入った。どうすればよいか。」
「曹操の矛先が青州に向かってくるのはまだ先の事になるでしょう。まずは防備を固め、各地の物資量の調整を図るのが良いかと。」
「淑治よ、お前に任せてよいか?」
「もちろんです。直ちに手配を致します。」
王脩の働きにより、青州の防御態勢は整った。
何とか、曹操軍が攻め込んでくる前に、最低限の準備が出来た、という感じであった。
しかし、ここで訃報が入る。
「袁紹死す」
この一報に、袁譚の周りは大騒ぎとなった。そしてもう一人「袁尚」の動きが活発になった。袁紹は、袁譚の弟であるが、袁紹は袁譚より袁尚をかわいがり、自分の後継者に、という意思を持っていた。
そこで、この袁紹の死と共に、袁尚は愚かにも曹操ではなく、家督争いの対象である袁譚を攻めたのである。
思いの外の大軍であり、袁譚は一敗地にまみれた。
この時は、王脩が兵を引き連れて救出に向かい、何とか袁譚は脱出することが出来た。袁譚が言う。
「淑治よ、助けに来てくれるのであればお前だけであろう、と待っていたぞ。」
「何をおっしゃいます。今回は急なことでしたが、袁譚様の率いる軍は精鋭揃いです。まだ完全に負けたわけではなく、一旦、北海郡にて体制を立て直すのがよろしいかと。その道すがら、敗残兵や義勇軍を吸収しながら進めば、それなりの兵数を確保できます。」
「わかった。淑治の言う通りにしよう。しかし、今は跡目争いをしている場合ではないと思うのだが・・・。」
「ごもっとも。ここは兄弟連携して、まずは曹操に対抗をするべきです。また、長幼の常識から、袁紹様の後を継ぐのは袁譚様であるべきです。この度の戦いは、袁尚殿の取り巻きのせいであると考えられます。」
「袁尚は扇動されていると・・・。」
「はい。状況が整いましたら、この淑治を袁尚殿の下に派遣して頂ければ、無用な戦をやめ、兄弟一丸となって曹操に臨む体制を作り出して見せます。」
「淑治は本当に頼もしい・・・。では、まずは北海郡に戻り、態勢を整えよう。」
こうして、袁譚は一旦北海郡の郡治である劇県に退却を始めたのである。




