第22回 王脩、袁尚と対面する
本拠地である平原を袁尚に奪われた袁譚は、北海郡まで退却して体制を整えた。そして、この無用な戦をやめるための道筋を探るために、王脩が使者として袁尚のもとに送られた。
袁尚は王脩の目通りをすぐに認め、ここに対面することになった。袁尚が言う。
「そなたが、最近名を上げている名士の王淑治か。今回はどんな用件で参った?」
「はい。率直に言えば、袁譚様との戦をやめて頂きたい、ということでございます。」
「兄である袁譚が、私を正当な後継者と認めれば、この戦はそれだけで終わる。そういうことか?」
「いえ。誰が袁紹様の後を継ぐかは、古来より長幼の順を重んじれば、袁譚様が適任かと。袁尚様、ここは矛をおさめて、袁譚様と兄弟手を取り合って、袁家を盛り上げていくのが一番なのではないでしょうか?曹操に負けたと言っても、その有する力はまだまだ袁家が勝ります。」
「父である袁紹は、私が跡を継ぐことを望んでいた。それは兄上も知っている周知の事実だ。兄上がそれを受け入れれば済む話だ。」
「先ほども申し上げた通り、物事には順序がございます。まずは長男であられる袁譚様。これを動かすことは許されません。古来より、長幼の順を守らずにして混乱を生じさせた事案は、挙げればきりがございませぬ。」
「若き名士の王淑治殿はこういっているが、我が参謀陣の名士の方々は如何かな?」
袁譚は、自分の参謀の意見を求めた。代表格である「審配」が答える。
「長幼の順に縛られていては、何が最善かわからなくなってしまいます。王淑治殿、周りをご覧ください。袁家に仕えている者ほとんどが、我が主、袁尚様の味方だ。頭を下げて命乞いをするのは、袁譚殿の方ですぞ。」
続いて、「逢紀」が言う。
「そもそも、袁譚殿は軍事のみで、政に興味はございますまい。その様な方が、この広大な袁家の領土を安堵できるとはとても思えませぬ。」
更に「郭図」が続く。
「左様。袁譚殿も諦めが肝心。今であれば、命までは奪わずに解決することができますぞ。」
四人は失笑した。王脩は深く息を吸って一気に言い放った。
「皆様のお考えはよくわかりました。袁尚様は、どうやらこの取り巻きのお三方に担がれているご様子。ならば、こちらが何を言っても通ずるものではなさそうです。しかし、せめて、曹操を倒すまでは兄弟で手を取り合うことは出来ないのでしょうか?」
袁尚が言う。
「兄上が後顧の憂いで、曹操戦に集中できん。曹操など、私一人で十分だ。」
「わかりました。もう何も言いますまい。王淑治、これにて失礼させていただきます。」
王脩は袁紹の下を去り、北海郡に戻った。
王脩が報告する。
「袁尚様は、全く聞く耳をお持ちでありませんでした。審配、逢紀、郭図の三名に担がれてその気になってしまっているご様子。打つ手はございません。」
「そうか、戦わざるを得ない、ということだな。」
「はい、袁譚様が袁紹様の正当な後継者である、という限り、この戦は止められそうにありません。」
「逆に言えば、私が折れれば、戦は止むのか?」
「あちらの言い分を聞く限りでは、その通りだと思います。」
「しかし、すまん。さすがにそれは出来ない。」
「何か妙案があればいいのですが・・・。この王淑治の力が足らず、申し訳ございません・・・。」
「何を言う。お前だけだ、信用できるのは。青州に属していた各県も、既に袁尚に与している最中、私を助けようとしてくれているのだから・・・。」
「必ず、この状況を打破する手が何かあるはずです。知恵を絞って考えたいと思います。」
「わかった。私の方も考えよう。妙案や話したいことがあればいつでも構わん、私の下に来てくれ。」
「わかりました。」
こうして、袁尚との最初の対話は決裂し、袁譚も王脩も打つ手がなくなった。王脩は苦悩に満ちながら、新たな策を模索することになるのである。




