第20回 王脩、袁紹と対面をする
「袁譚陣営に、王淑治あり」ということが、名士間の中で話題になっていた。そして、袁譚の父である袁紹が王淑治に是非会ってみたい、と言ってきたのである。
子として、袁譚は断り切れず、王脩を袁紹の本拠地である「鄴」に向かわせることにした。袁譚が言う。
「父上は、名士と対面し、その関係を築くことに力を入れている。私も淑治にいずれは声がかかるだろうとは思っていたが・・・。淑治にとって、悪い話ではないのであろうが、私にとっては、お前がいなくなるのは非常に痛い話だ。」
「過分なお言葉、恐れ入ります。袁紹様の周りには、それこそ天下に名の通った名士たちが綺羅星の如く集まっていると聞いています。私への関心など、すぐにお忘れになるのではないでしょうか。」
「その場合は、私宛に文でも出してくれ。私の方から、淑治を返して頂きたい、とお願いするつもりだ。」
「なんという温かいお言葉・・・。心より感謝申し上げます。それでは、またお会いする日まで・・・。」
こうして、王脩は袁紹のいる鄴へ向かった。
鄴へは、馬を飛ばせば三日ほどの旅程である。
王脩は日の入り前に、何とか鄴に到着することが出来た。
名家袁氏の本拠地と会って、王脩が今まで見てきた城の中では、一番立派で見るからに難攻不落の様相を呈する様な威容である。
王脩はすぐさま到着の報告を入れたところ、今からすぐに会いたいとのことで、すぐさま正装に改め、袁紹の所へ向かった。袁紹が言う。
「おお、よくぞ参った。そなたが、王淑治か。名士としての噂、数多く私の耳にも入ってきている。これからは、袁譚ではなく、私に仕えてもらいたい。」
「・・・承知いたしました。しかし、私如きがこちらに勢ぞろいしている名士の方々と同じくらいお役に立てるのかどうか・・・。」
「淑治よ。お前は非常に謙虚であることも聞いているぞ。しばらくは、袁譚に仕えていた時と同様、侍従従事として、忌憚のない意見を聞かせてくれ。」
「かしこまりました。以後、よろしくお願い申し上げます。」
こうして、王脩は袁紹の側近として取り立てられた。
―三ヶ月後―
王脩は、侍従従事として、袁紹に忌憚のない意見を言い続けた。他の名士たちが黙っているところも、袁紹のためと積極的に発言をし、より良い案を提示してきた。
王脩としては、職務を全うするために発言をしているわけであるが、袁紹はいささか意見の多い王脩にやや、食傷気味となっており、王脩が発言をすると、目を瞑ったり、顔を横に向けるなど、明らかに王脩を拒絶する所作をあからさまに見せるようになってきた。
そして、王脩に新しい辞令が出た。
即墨県の県令として赴任せよ、というものであった。
袁紹としては、何かと口を出す王脩の「厄介払い」といってもいいであろう。袁紹が言う。
「淑治よ。お前は孝廉に挙げられた時も、県令の職を続けたいから辞退させてくれ、と孔融殿にお願いしたという話を聞いている。即墨県も問題が多いかもしれんが、県令としてその持てる力を発揮してくれ。」
「かしこまりました。すぐさま、即墨県に向かいます。」
王脩は、県令の仕事にやりがいを感じているので、袁紹の下で直接働くより、今回の人事は、側近から外されるといった左遷人事にも感じるが、別段気にしていなかった。
即墨県に向かう準備をしていると、そこに旅達が現れた。
旅達が言う。
「淑治殿、即墨県行きはもう少し後にした方がいいぜ。」
「旅達殿、お久しぶりです。しかし、何故、私が即墨県に行くことを知っているのですか?」
「情報源は言えん、勘弁してくれ。」
「わかりました。でも、待てというのはどういうことですか?」
「間もなく、袁譚様の使者が袁紹様に会うはずだ。そこで、行先は平原、つまりは袁譚様の所に戻るということさ。」
「袁譚様の下へ・・・。それは、ありがたいお話ですが。」
「実は、別駕の劉献が病で亡くなった。その時、劉献は後任に淑治殿、あんたを押したようだ。もっとも、そうでなくとも、袁譚様は淑治殿を呼び戻したと思うが。」
「劉献殿が・・・。」
「ああ。だから、もう少し即墨行きは待ってくれ。」
「わかりました。ところで旅達殿。私はあなたに何も報いていないのに、何故、情報をくれるのですか?」
「興味本位、ってやつさ。商売とは別に、俺は淑治殿の生き様に何故か興味がわいてきてね。」
「そうですか・・・。それでは、今度、酒食くらい、ご提供をさせてください。」
「それは、ありがたい。楽しみにしておくよ。」
旅達はひとしきり話し終えると、また、どこへともなく消えて言った。
―数日後―
旅達の話通りになった。即墨県令の話は無くなり、平原に戻るべし、との命令が出たのだ。
王脩は、すぐに平原に向かった。
袁譚が直接出迎えてくれた。そして言う。
「既に聞いているかもしれないが、別駕の劉献が病死した。その後任を是非、淑治、お前につとめてもらいたい。」
「私には荷が重いようにも感じますが、より一層精進して、袁譚様をお支えできるようになれればと、思っております。」
「受けてくれて、安心した。私の右腕として、忌憚のない意見を聞かせてくれることを期待している。」
こうして王脩は袁譚の下に戻り、別駕という重職に就くことになるのである。




