第19回 王脩、政敵を助ける
袁譚は、北海郡の反乱軍の掃討に目途が付いたことから、本拠地である「平原」に戻ることを決めた。その際、王脩を側近として伴う決定をした。
王脩のためのささやかな送別の宴が、黄文をはじめとした書房の面々の主催で開かれた。黄文が言う。
「淑治殿。今度は平原にて名を上げられること、楽しみにしております。」
「自分の名を上げるというのは、自分の職責を果たした時の副産物でしかありません。練達殿にわざわざ言うまでもないことと思いますが・・・。」
「私は引き続きこの劇県にて、新しく入られる相と郡丞のために誠心誠意、職務を全うしようと思います。」
「さすがは練達殿、地に足の着いたお言葉だ。私も袁譚様の支えになれるよう、尽力するつもりです。」
その他の面々とも別れを惜しみ、中には涙する者もいた。
王脩が別れの挨拶をする。
「今宵は、私如きのために、これだけの人々にお集まりいただいたこと、まことに感謝をしております。働く場所は別々となりますが、我らが仕えるのは青州刺史の袁譚様であり、同じであります。これからも各人、大いに励みましょう。」
こうして、送別の宴は終わりを迎えた。
―翌日―
袁譚は北海郡を新しい相に任せ、平原郡に向かった。
平原郡への道のりは平坦な平野が多いことから、おおよそ四日程度で着く見込みとなっていた。
同行する王脩は、軍勢の動きがきびきびとしており、袁譚の威容が浸透しているのが見て取れた。
「あとは、政にもう少しご興味を持ってくだされば・・・。」
王脩は心の中で呟いた。
王脩がまだまだ短い期間であるが仕えてみて、袁譚にもった印象が、この呟きに込められている。軍事に関しては、才能もやる気も表に出るが、政務に関しては、しばし返答を保留するなど、やや決断力に欠けるところがあるのである。
ある意味、孔融とは真逆の君主に仕えることになった王脩は、積極的に袁譚の政の助けをしていこうと心に決めた。
―数ケ月後―
袁譚陣営で、事件が起きた。
かつて、王脩を誹謗中傷し、袁譚にたしなめられた劉献だが、その後も度々、あることあらぬことを並び立てて、袁譚が抱いている王脩への信頼感を無くさせようと躍起になっていたが、あまりのしつこさに袁譚はとうとう激怒し、劉献を罷免どころか死罪にする、という決定をした。
これに最初に反応したのが、王脩である。王脩が言う。
「袁譚様。劉献殿への死罪の決定、ご再考をお願いします。」
「淑治よ。何故、お前が止めるのだ?私はお前のために、この決定をしたのだぞ。」
「まず、死罪を適用するには、公平な裁きを受ける権利を劉献殿にお与えしなければなりません。これは法に則り必要なことで、袁譚様といえども、例外ではありません。」
「君主たる者も、法の適用の外ではないということか?」
「左様でございます。また、劉献殿は私の事を色々と申しているとのことですが、私の至らぬ点を指摘してくれているのかもしれません。私は是非、直接その声に耳を傾け、直すべきところ、反省すべきところは反省したいと思います。」
王脩は続ける。
「更に言えば、劉献殿の才覚は、これから袁譚様にも必要になってくると思います。この様なことで、有能な者の命、仕事を奪ってはならぬと思料致します。」
「・・・。わかった。当の本人の淑治が言うなら、劉献の死罪は取り消し。今回は譴責だけに留めよう。」
「ご英断、ありがとうございます。」
こうして、劉献は死罪を免れただけではなく、今まで通りの待遇となった。さすがの劉献も、これ以後、王脩のことを悪く言うことは無くなった。
この王脩の言動はまた評判となり、名士の間でも話題となり、更に名を上げたのである。そして、今度は袁譚の父である袁紹からお呼びがかかったのである。




