第18回 王脩、袁譚に仕える
黄巾賊残党の反乱が各地で勃発し、その規模も侮れないものとなっていた。
そして、その対応ができる者が勢力を伸ばし、できない者は、表舞台から消えていった。
その象徴が、河北中心に勢力を急拡大している袁紹と、北海郡から逃亡した孔融、である。
孔融が去った今、功曹である王脩がその代役をつとめていた。各地から、続々と反乱の情報が入ってくる。
「孔融様が逃げたくなる気持ちもわからんでもない。」と、王脩は心の中で思った。
既に、北海郡の有する軍事力では、とても対応をできない状態になっていたのである。
そこに現れたのが、袁紹の長男である「袁譚」が率いる軍であり、北海郡を荒らしまくる黄巾賊の残党を順調に掃討していった。そして、袁譚は郡治である劇県を訪れた。
直ちに城門を開け放ち、全役人と兵士が整然と並び、王脩が代表として袁譚を迎えた。
その様子を見て、袁譚は満足したのだろう、軽く頷いてから言う。
「出迎えご苦労。私は、青州刺史の袁譚である。この北海郡は、今日から我が袁紹軍が統治する。しばらくは、こちらを本拠地として、各地の黄巾賊の残党どもを掃討するつもりだが、問題ないか?」
「私は、王淑治と申します。北海郡の相、孔融様の命を受け、袁紹様の軍が来られることをお待ちしておりました。こちらを本拠地としての、軍事行動の展開、何ら問題ございません。」
「王淑治・・・。聞いたことがある。北海郡随一の若き名士と聞いている。ひとまず、“待中従事”に任命しよう。しばらくは私の下で、側近として働いてくれ。北海郡について、わからないことも多いからな。」
「・・・。わかりました。王淑治、本日より袁譚様のためにこの身を捧げることを誓わせて頂きます。」
こうして、北海郡は袁紹軍の支配下に置かれた。歯向かわずに、歓迎の意をもって出迎えたため、原則、役人の処遇は現職に留任させる、という通達も出された。
北海郡が初めての袁譚は、何を聞いても迅速、的確に応える王脩を重用するようになった。それを僻んだ袁譚の側近である「劉献」が言う。
「王淑治は、つい最近まで孔融殿の家臣としてつとめていたのに、まるで、最初から袁譚様の側近が如き感じでございます。いささか忠義の心が疑わしく感じますが・・・。」
「名士というものは、必要とされたところで仕事をするもの。王淑治は、孔融殿についていくことを懇願したが、許されずに、後事を託されたのだ。それ故、我らに歯向かうことなく歓待して、今がある。あらぬことを言ってはならぬ。」
劉献は、自分の行動に恥じ入り、そそくさと退散した。
袁譚による反乱軍の掃討戦は順調に進んだ。さすがに今や中華一と言われる袁紹軍である、と王脩は感じた。
王脩は書房に、主簿をつとめる黄文に会うために向かった。
王脩が言う。
「練達殿、どうですか。仕えるお相手が孔融様から袁譚様に変わって。」
「淑治殿のおかげで、我々の身は保たれました。まずは、その御礼から申し上げねばなりますまい。」
黄文は王脩に拝礼し、王脩も拝礼を返した。黄文が言う。
「孔融様の時に比べると、諮問される機会と言うのは、かなり少なくなりました。今は、軍事行動を最優先で動かれているからだと思っていますが。」
「そうですね。喫緊の課題は、やはり、反乱軍の掃討戦になりますからね。そちらの方で、お忙しくされているのは、側に仕えていてよくわかります。」
「しかし、淑治殿もいきなり待中従事に任命されるとは、さすがであると、皆口をそろえて言っております。」
「たまたまの事でしょう。北海郡の掃討戦が終われば、もう、私も用済みとなりましょう。」
王脩は笑いながら言った。黄文が言う。
「その様なことはございますまい・・・。天下に名を馳せる王淑治を存外に扱えば、袁譚様の名声にも傷が付くというものですからね。」
「四世三公のお家柄であられるだけあり、戦は強いが、おうらかで優しさのお気持ちを持たれていると、私は感じています。」
「なるほど・・・。まずは、民の暮らしを平穏に導くためにも、袁譚様に尽くしていこうと思います。」
「そうですね。今、我々がしなければいけないことだと思います。」
こうして、王脩はしばらく袁譚を支えるために、全力を注ぐのである。




