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三国志・王脩伝ー義に厚き漢ー  作者: 涼風隼人


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17/22

第17回 王脩、孔融の後を継ぐ

 王脩は、功曹としての仕事をこなし、報告や承認が必要な事項については、余すことなく孔融に伝えていた。

 

 その時の反応が、やはり明らかに以前の孔融とは違い、快活さが失われているのが一目でわかった。

 

 「やはり、黄巾賊の残党のことだろうか・・・。」

 王脩は心の中で呟く。ここ最近、各地で小規模な反乱が再び頻発し出したのである。今のところ、各県で対応を出来ているが、今までと違い、何度でも何度でも立ち上がってくる不気味さを感じさせるしつこさであった。

 

 王脩は、孔融の心労を少しでも減らそうと考え言う。

 「孔融様。黄巾賊の反乱に関しては、どうぞ私に討伐の役目をお与えください。必ずや、成功させて見せます。」

 

 「淑治よ。気持ちは本当にうれしく思う。しかし、今回は北海郡各地で毎日のように反乱軍の事について、報告が上がってくる・・・。もう、全てに対応をするのは不可能だ・・・。」

 

 「しかし、今のところは各県でその対応は出来ていると聞いています。今しばらくの辛抱かと・・・。」

 

 「そうだな・・・。少し、深刻に考えすぎているのかもしれぬ・・・。今宵は体調がすぐれぬ、少し早いが休ましてもらう・・・。」

 

 「お大事になさってください・・・。」

 

 孔融の様子を心配ながらも、王脩はひとまず自邸へと戻った。自邸の書斎で書に当たっていると、外から声が聞こえてきた。

 「淑治殿、淑治殿・・・。」

 

 王脩は外を見ると、そこには旅達がいた。

 「旅達殿!どうやってここまで。」

 

 「まあ、難しい話は置いといて・・・。重要な話である故、失礼ながら参上させてもらった。」

 

 「さあ、中にどうぞ。」

 

 王脩は聞く。

 「それで、重要な話と言うのは?」

 

 「淑治殿は信じない、と思うのだが・・・。」

 

 「是非、おっしゃってください。」

 

 「最近、孔融様は元気がないであろう?恐らく、孔融様の政治力でこの北海郡をまとめるのは限界だ。恐らく、逃げる算段をしていると思う。」

 

 「孔融様が逃げる?そんな、馬鹿な・・・。」

 

 「ありえない話じゃないよ。孔融様は名士中の名士だが、戦争屋ではないからな。よく言うじゃないか、君子危うきに近寄らず、ってさ。」

 

 「確かにそうですが・・・。それなら、私も孔融様をお守りするのにご一緒しなければなりませぬ。」

 

 「ちょっと待ってくれ。そしたら、残された民はどうなる?役人はどうなるんだ?淑治殿、あなたはもう、そんな自分一人の都合で身の振り方を決められる軽い方じゃないんだよ。」


 「では、私にどうしろとおっしゃりたいのですか?」


 「孔融様の後釜として、まずは混乱を最小限に抑えることだろうな。」


 「私にできるわけがございません。」


 「できるさ。王淑治、というのは既に名士として名が通っているんだ。淑治殿についてくる人間は大勢いる。」

 

 「しかし・・・。」

 

 「そう、その後の話なのだが・・・。」

 

 「北方の雄、“袁紹”がこの辺りの土地に興味を示しているらしい。孔融様が逃げれば、恐らく入ってくるだろう。それを迎えるまで、淑治殿が孔融様の後釜としてこの北海郡を何とか維持する。これが、俺の思う最善の策だ。」

 

 「・・・。この話、孔融様に直接してよろしいか?」

 

 「言いわけがないであろう、と言いたいところだが、明日にでも聞いてみるといい。孔融様がどういう反応をするかの責任は持てないが・・・。」

 

 「わかりました。いずれにしても、孔融様の真意を確かめたいと思います。」

 

 「必要な時は、あの赤布を出して、いつでも知らせてくれ。すぐに動く。」

 

 こういうと、旅達はどこへともなく消えていった。


―翌朝―

 王脩は、執務の始まる時間に孔融の所へ向かった。孔融が言う。

 「淑治よ、随分早いな。何か、火急の要件か?」


 「孔融様。率直にお聞かせ願いたい事がございます。」


 「なんであろうか?」


 「孔融様は、北海郡をお捨てになるおつもりですか?」


 孔融の顔色が変わった。それは、怒りではなく、全てを諦めた様な顔つきであった。

 「淑治よ・・・。お前には、何も隠し事が出来ないようだ。はっきり言おう。今の北海郡は、もう、私の手には負えない・・・。」


 「私が命がけでお助けしても、無理でしょうか?」


 「・・・。淑治の気持ちはありがたい。淑治が一〇人いれば可能かもしれないが、一人では無理であろう・・・。」


 「ならば、私もお連れください。この命は、既に孔融様に捧げているつもりです。」


 「それは、駄目だ。私の願いとしては、淑治よ。お前にはここに残って、私の代わりをしてもらいたい。」


 「しかし・・・。」


 「わかってくれ、淑治よ。私は北海郡を離れ、一旦、隠棲する気だ。そんなことに、優秀なお前の才覚を無駄遣いしてほしくないのだ・・・。」


 「しかし・・・。しかしながら・・・。」


 「淑治よ、もう、何も言うな。私は、今日にでも出奔するつもりであった。頼む、私の後をお前がまずは継いでくれ。そしておそらく、袁紹軍がこの北海郡のある青州を制すことになるであろうから、お前はそこに仕えるとよい。淑治よ、お前は自分が思っている以上に、名士として地位は格段に上がっている。袁紹も悪い扱いはしないであろう・・・。」


 「そこまでおっしゃられると、わかりました、と言わざるを得ません・・・。せめて、お見送りをさせてください。」


 孔融は単身、馬にまたがった。そして、当てもなく、西方へと旅立っていった。


 孔融は自分に後釜として、と話していたが、孔融の代理としての「郡丞」がいるので、まずはそちらに話を持っていこうとしたが、郡丞も孔融の逃亡を察知し、既にどこかへと消えてしまった。


 こうして、王脩はひとまずは北海郡を一時的にではあるが掌握し、孔融や旅達の言う通り、袁紹が現れるのを待つことになるのである。

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