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三国志・王脩伝ー義に厚き漢ー  作者: 涼風隼人


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第15回 王脩、功曹に任じられる

 孔融の危機を救い、反乱の鎮圧に寄与した王脩は、高密県に戻った。しかし、すぐに孔融から呼び出しがかかり、再び劇県へと向かった。

 

 孔融はわざわざ王脩を出迎えてくれた。王脩は恐縮しながら、二人で正堂へと向かった。孔融が言う。

 「淑治よ。一つ、お願いがある。」

 

 「何でございましょうか。」

 

 「お前が高密県の県令として、まだまだやりたいことは多いのかもしれんが、今一度、私の側で仕えてくれぬか?」

 

 「孔融様のお側で・・・。それは、光栄ではございますが、一体、何をするのでしょうか?」

 

 「お前を“功曹”に任じたいと思っている。」

 

 「功曹、でございますか。」

 功曹というのは、人事に関わる仕事を行う役職であるが、側近としての色合いが強いと言っていいであろう。

 

 「ああ。この前の反乱軍鎮圧の時、私を助けてくれるのならば淑治、とすぐに思い浮かんだ。私は、お前が近くにいると安心できるのだ。」

 

 「・・・。わかりました。高密県の事は、今の県丞に任せれば、しばらくは問題ないと思います。私でよければ、お側でお仕えさせて頂きます。」

 

 「そうか・・・。それは、本当にありがたい。礼を言うぞ。」

 

 王脩は、県丞に県令の職務を引き継ぐべく、一旦高密県へと戻った。

 

 県丞は王脩の下でしっかり学んだため、引継ぎは滞りなく行われた。そして、王脩が県令でなくなると聞いた民たちは大騒ぎで、是非、このまま高密県にいて欲しい、と懇願した。

 

 その民たちを前に王脩は大きな声で言った。

 「私は、皆の力のおかげで、ここまで県令としてやってくることができた。これからは、現在の県丞が県令になるわけだが、彼をしっかりと支えて欲しい。私は今後、北海郡全体の人事を預かる立場になるので、高密県の事もしっかりと見るつもりだ。何も心配することは無い。」

 

 県丞が言う。

 「県令殿と全て同じといかないまでも、私も皆の幸せを願い、政務に励む。その点、何も心配はしないで欲しい。誠心誠意、つとめるつもりだ。」

 

 民たちの騒ぎは、落ち着いてきた。王脩が言う。

 「さあ、新しい県令殿。自信をもって、この高密県をよろしく頼む。あなたを県令に推したのが私の功曹としての最初の仕事となった。自信をもってやってくれればよい。」

 

 「もったいないお言葉、ありがとうございます。淑治様の下で働けたこと、我が幸運であります。」

 

 こうして、王脩は再び孔融の下に戻ったのである。

 

 帰着早々、王脩は孔融に呼び出された。孔融が言う。

 「淑治よ、功曹としてひとまず、優先して処理する事項などは決めてあるのか?」

 

 「はい。適材適所の人員配置をしたいと思います。」

 

 「具体的にはどの様にするのだ?」

 

 「はい。各県に出向いて、実際に県令、県長から下々の役人まで、出来得る限り直接話を聞いて、その仕事ぶりを評価し、優秀な者は抜擢、そうでない者は、降格、罷免も視野に入れて考えています。」

 

 「なるほど・・・。しかし、かなり大掛かりではあるな。」

 

 「はい。それでも、郡の人事を預かる以上は、妥協することなくやってみたいと思います。」

 

 「わかった。私にできることがあれば、何なりと言ってくれればよい。」

 

 孔融との話が終わると、待ちかねていたように一人の男が近付いてきた。黄文である。黄文が言う。

 「淑治殿、お久しぶりでございます。反乱軍の鎮圧のお手並み、見事でございました。私など、書房を守るのに手いっぱいでしたのに・・・。」

 

 「練達殿、お久しぶりです。反乱軍の鎮圧は、孔融様が城門を開けて出撃することをご英断した結果です。あの時も、お会いしたかったのですが、叶いませんでした。」

 

 「これからは、また、二人で働く機会もあると思いますが、どうぞ、よろしくお願い致します。」


 「こちらこそ。ところで早速ですが、今晩私の家で酒を酌み交わしませんか?」


 「おお、その言葉お待ちしておりました。是非にお願い致します。」

 

 二人は日の入りとともに職務を切り上げ、淑治の邸宅に向かった。そして、久々に心行くまで酒を楽しんだ。

 

 そうしながらも、やはり、仕事の話になる。

 

 黄文が言う。

 「淑治殿は今度、功曹になられたが、どの様に取り組むお考えですか?」

 

 「先ほど孔融様に話しましたが、全役人を今一度評価しなおして、適材適所の人員配置にしたいと考えております。」

 

 「かなり、大掛かりな・・・。私など、すぐに主簿を外されてしまいそうだ。」

 

 黄文は笑いながら言った。王脩が返す。

 「孔融様が申しておりましたが、練達殿の仕事ぶりには満足しているご様子でしたよ。」

 

 「本当ですか?それなら、私にとっては名誉なことです。」


 「練達殿も、孔融様に認められて今の仕事についているのですから、ご自分が名士の一員であると、お考え頂いていいと思います。」


 「私が、名士などと・・・。」


 「いえ、世間では既に、孔融様と、自分で言うのは差し出がましいですが、王淑治に認められた人物、といって評判になっていますよ。」


 「その様なことになっているとは、全く知りませんでした。身の引き締まる思いです。」


 「ところで、書房の様子はどうですか?」


 「はい。相変わらず忙しく働いております。書佐に抜擢した一番古株であった吏の者など、特に精力的に頑張っております。」


 「なるほど・・・。私が孔融様にしていただいたように、若い者を抜擢することも必要ですが、その下支えを長くしてきた者がもう少し日の目を見るといいのかもしれませんね。」


 「確かに・・・。第一線で頑張ってきた者は、もっと報われていいように思います。」


 功曹の仕事には、若くて優秀な人材の推薦や抜擢も大きな仕事の一つとしてあるが、王脩は、今まで頑張ってきた者たちに注目して、人事改革を行うことにした。


 一方が立てば、一方が立たずで、人事の問題は難しいものであるが、王脩は重ねてきた実績を重視する考え方で、郡、各県の人員の異動や登用を行うようにした。

 

 全員から賛成されるものでなかったが、特に「裏方」として、今まで頑張ってきた者たちには概ね好評であった。


 こうして、功曹としての職務に励んでいる際に、また一つの事件が発生するのである。

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