第12回 王脩、孫一族に相対する
王脩は主だった面々を正堂に集めた。そして言う。
「昨日は、私のために集まってくれたこと、感謝する。非常に楽しい時間であった。しかし、今からは職務に集中してもらいたい。」
全員が頷く。王脩は続ける。
「さて、昨日、県丞殿と話をして、この高密県で差し当たって早めに処理しなければいけないのは、孫一族の事だと思うが、皆、意見はあるか。」
皆が押し黙っている中、一人の男が手を挙げた。高密県の治安維持の責任者である「県尉」である。県尉が言う。
「私も、高密県の一番の問題は、孫一族が我が物顔でのさばっていることだと思います。しかし・・・。」
「しかし、どうしたというのだ?」
「はい・・・。我が方に兵士は二〇〇人ほどおりますが、その一部が孫一族に篭絡されており、こちらが何か手を打とうとすると、その情報が漏れており、うまくかわされてしまいます。」
「県尉殿・・・。一部が篭絡されている、と知っていながら何も対処していないのは何故だ?」
「一部、と申し上げましたが、今となってはどこまで孫一族の手が我が部隊に伸びているのか、その実、わからないというのが現状になります・・・。」
王脩は目を瞑って考えた。そして、言う。
「わかった。県尉殿、此度は私が全面的に指揮を採ることにする。県尉殿は、兵士に相府の門前に集まる様に命令を出してくれ。その後は、ここの留守を頼む。」
「県令殿が直接指揮、でございますか。」
「この問題は、私自身が出ていかなければ解決しない、と話を聞いていて思った故に、そうしようと思う。」
県尉は言われるままに、城内の兵士全員に招集命令を出した。兵たちが続々と相府の門に集まってくる。王脩が言う。
「私はこの度、県令の任を授かった王淑治である。只今より、孫一族の屋敷に向かうので、私についてきてくれ。」
兵士たちはざわつく。王脩が言う。
「何をざわついている。県令の命令が聞けぬと申すか?命令を聞けぬという者は申し出よ、即刻、処断致す。」
兵士たちのざわつきは止み、皆、王脩の後についていった。
ほどなくして、孫一族の邸宅の前に到着した。王脩が大声で呼びかける。
「私は、県令の王淑治である。吟味したい件がある故、門を開けよ!」
邸宅からは何の反応もない。しばらく間をおいて、王脩が再び呼びかける。
「誰もいないのか?そうであれば、この門をこじ開けてでも中に入れてもらうが、それでもよいか?」
また邸宅からは何の反応もなかったが、しばらくすると門が少しだけ開けられ、そこからいかにも裏社会の顔役の様な、顔に大きな傷があり、いかつい体躯の男が出てきた。この男が言う。
「県令殿、何の騒ぎか。ここが我が孫一族の邸宅と知ってのお呼びかな?」
「もちろん。お前が族長か。罪を犯した逃亡者を匿ったり、民へのたかり、ゆすり、盗みなど、やりたい放題と聞いている。それは事実か?」
「さあ・・・。全く心当たりはございませんな。多くの兵をお連れだが、ここで戦でもするつもりですかな?」
「無論、むやみに武力を行使することはこちらとしても避けたい。しかし、話によってはここで一戦交えることを辞するものではない。」
「県令殿が指揮を採るのですかな?」
「ああ。県尉には私の留守を預けてきた。」
ここで、男の顔色が変わった。王脩が言う。
「どうした?お前たちが篭絡している県尉はここにはいないぞ。兵士たちは、私の号令で即座に動く。」
「いや・・・。県令殿、ここは話し合いで何とかしたいと思うが、如何か?」
「今までの罪が全て許されるわけではないぞ。その上で今後の話し合いなら、こちらも応じる用意がある。」
「わかった・・・。中で話そう。」
男が左手を振ると、門外から見えていた無頼者たちがそそくさと奥に下がっていった。王脩は客間に通され、そこで族長と二人で話をすることにした。王脩が言う。
「こちらは、そなたの条件など聞く気は無いことを最初に言っておく。その上で、こちらの要求としては、罪を犯した者を匿わない、民に迷惑をかけることを一切しないことを、書状にて約してもらう。その約束が守られなければ、何ら予告することなく、こちらの邸宅を攻撃する。」
「・・・。わかりました。以後、本日の約束を守り、県令殿の命令に服します。」
「ところで、お前たちが賄賂や酒食で篭絡しているのは県尉とどれだけの兵士だ?」
「県尉殿と二〇名程の兵士に賄賂を定期的に渡して、今まで何事もなくやってきた・・・。」
「そうか。今後は、この王淑治がいる以上、その様な手はもう通用しないと思ってくれ。」
「わかりました・・・。」
こうして、孫一族は王脩の前にひれ伏せた。
王脩は相府に戻ると、県尉を尋問し、自分の罪を自白させ、孫一族から賄賂を受け取った兵士の名前も聞き出し、即日、全員調査の上、むち打ちの刑罰を加えて上で罷免にした。
この一日で、県丞以下、全ての役人は、今までの県令とは違うことを改めて認識した。そして民たちは、わずか一日にして、孫一族の問題を解決した王脩に拍手喝采で、その仕事ぶりを称えたのである。
この話は、あっという間に世間に広がり、王脩の名声を更に高めたのである。
そして、その様な若き名士を、中央が見逃すはずもなく、あらぬところから、誘いを受けることになるのである。




