表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/31

# 第九話 止まれない脳



 コンサータをやめてから。


 またキレやすくなった。


 自分でも分かるくらいに。


     ◇


 まず音が駄目だった。


 笑い声。


 車の騒音。


 店の電話。


 全部神経に刺さる。


 しかも頭の中が止まらない。


 考えが次々浮かぶ。


 怒り。


 フラッシュバック。


 過去。


 失敗。


 全部同時。


 脳が常に暴走している感じだった。


     ◇


 その日も眠れていなかった。


 夜。


 知り合いと飲み屋へ行った。


 正直、酒は好きじゃない。


 だが家にいると頭がおかしくなりそうだった。


 店の奥では若い客が騒いでいた。


 大声。


 下品な笑い。


 机を叩く音。


 最初は我慢していた。


 だが途中から頭痛が始まる。


 ズキズキする。


 視界も狭くなる。


 来た。


 危険なやつだ。


 分かっていた。


 すると、騒いでいた男の一人が後ろへ下がってきた。


 椅子がぶつかる。


 その瞬間。


 頭の中で何かが切れた。


 俺は立ち上がっていた。


「うるせぇんだよ」


 気付けば胸を突き飛ばしていた。


 男がよろける。


 店が静まる。


 周囲がこっちを見る。


 男も一瞬キレた顔をした。


 だが俺を見て止まった。


 多分、顔がヤバかったんだと思う。


 自分でも分かる。


 あの時の俺は完全に危ない顔をしていた。


 結局、喧嘩にはならなかった。


 待ち伏せも無かった。


 向こうが引いた。


 俺は席へ戻った。


 だが、全然スッキリしなかった。


 むしろ冷えた。


「ああ、今の普通に捕まるやつだな」


 そう思った。


     ◇


 帰宅後。


 鏡を見る。


 目が死んでいた。


 昔なら、

「舐められなかった」

 で終わっていたと思う。


 だが今は違った。


 もし殴っていたら。


 もし頭を打っていたら。


 もし警察呼ばれていたら。


 そういう考えが少しだけ浮かぶ。


 歳なのか。


 薬のおかげなのか。


 分からない。


 だが昔より、

「壊した後」

 を考えるようになっていた。


     ◇


 それでも不眠は悪化していった。


 眠れないと、本当に危ない。


 自分でも分かる。


 だから睡眠薬を増やした。


 一種類。


 二種類。


 三種類。


 最終的には、それでようやく眠れるようになった。


 完全じゃない。


 だが寝れる日は、かなり違う。


 頭痛も減る。


 フラッシュバックも少し弱い。


 何より、怒りが爆発しにくい。


     ◇


 昔の俺は、

「ムカついたら行く」

 だった。


 煽られたら降りる。


 騒がれたら怒鳴る。


 イキった奴がいたら潰す。


 そういう一直線の人間だった。


 だが最近は違う。


 面倒なんだ。


 捕まるのが。


 揉めるのが。


 人生終わるのが。


 それを少し考える。


 多分、ようやく現実感が出てきた。


 昔は自分が壊れてもどうでも良かった。


 だが今は違う。


 まだ店がある。


 動画もある。


 やりたい事も少し残っている。


 だから止まる。


 止まれる時がある。


     ◇


 店の奥。


 睡眠薬を水で流し込む。


 薬漬けだった。


 笑える。


 ガキの頃は、

「精神科なんて恥」

 と言われた。


 だが今の俺は、薬無しだとまともに眠れない。


 まともに生きられない。


 結局。


 昔の大人達は何も分かってなかったんだろう。


 気合いで治るなら。


 俺はとっくに普通の人間になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ