# 第十話 強さは正義
昔の俺は、やたら喧嘩していた。
小学生の頃からそうだった。
集団行動が出来ない。
思った事を口に出す。
揉める。
殴り合う。
教師にもキレる。
中学では、それに教師からの暴力が加わった。
三年間。
殴られた。
蹴られた。
見せしめにされた。
親も助けなかった。
だから途中から、人間に期待しなくなった。
その代わり。
暴力への抵抗だけが消えていった。
◇
高校へ入ってから、俺は格闘技を始めた。
そこで完全に変わった。
強さを覚えたからだ。
もちろん、道場では弱かった。
プロ格闘家。
ガチでやってる社会人。
そんな連中に高校生が勝てる訳がない。
毎回ボコボコだった。
だが外では違う。
相手は素人だ。
だから勝てた。
◇
普通の喧嘩ってのは、大体ぐちゃぐちゃになる。
殴り合う。
組み付く。
転がる。
上取って。
また返される。
そんな感じだ。
だが俺は違った。
打撃も多少はやれた。
だが本当に強かったのは組みだった。
投げ。
ポジション。
寝技。
締め。
立ったままのギロチン。
関節。
引き出しが多かった。
だから負けなかった。
空手齧ってる奴。
ボクシングやってる奴。
そういう連中にも普通に通用した。
理由は単純。
喧嘩慣れしてる奴ほど、
「殴れば終わる」
と思っているからだ。
だが実際は違う。
組まれると終わる。
倒されると焦る。
地面に押さえ付けられると、人間は一気に弱くなる。
俺はそれを知っていた。
◇
しかも俺は性格が悪かった。
本当に。
普通なら、殴って失神させて終わる。
だが俺は違った。
あえて壊し切らない。
投げる。
上を取る。
軽くパウンド。
掌底。
また止める。
逃げようとしたら押さえる。
そしてまた軽く殴る。
恐怖だけ植え付ける。
そういう喧嘩をしていた。
最悪だったと思う。
今なら分かる。
あれは勝ちたいんじゃない。
支配したかったんだ。
昔、自分がされたみたいに。
◇
高校時代。
SNSでもリアルでも喧嘩を売りまくった。
「あいつダサい」
「イキってるだけ」
「雑魚」
平気で言う。
当然揉める。
だが結局、向こうが引く。
一回やると分かるからだ。
ああ、コイツ面倒だ、と。
◇
高校には変なルールも多かった。
一年はローファーかスニーカーで来い。
ブーツ履いてきたら取られる。
先輩には逆らうな。
そういう暗黙ルール。
だが俺には無かった。
普通にブーツ履いていた。
誰も取らない。
理由は簡単。
揉めると面倒だからだ。
結局、人間は強い奴に逆らわない。
そこで俺は勘違いした。
「強さは偉さ」
本気でそう思った。
◇
だが実際は違う。
あれは強さじゃない。
ただの恐怖だ。
周囲が、
「関わりたくない」
と思っていただけ。
なのに当時の俺は、それを成功体験にしてしまった。
だからどんどん尖る。
どんどん壊れる。
強くなるほど、人間から離れていった。
◇
店の奥。
昔の写真を見る。
ブーツ。
細い身体。
尖った目。
完全に危ないガキだった。
だが当時の俺は、本気でこう思っていた。
強ければ生き残れる。
強ければ踏まれない。
強ければ偉い。
結局。
俺にそれ以外を教えた大人は、一人もいなかった。




