# 第十一話 赤字の雑貨屋
結局。
強さじゃ人生は何も解決しなかった。
◇
朝。
店を開ける。
誰も来ない。
静かだった。
昔の俺なら、
「静かな方が楽」
と思っていた。
だが商売を始めると違う。
客が来ない静けさは、そのまま金の無さだった。
◇
包丁を研ぐ。
シャアア……。
一定の音。
落ち着く。
だが、スマホを見ると現実へ戻される。
売上。
支払い。
税金。
ガソリン。
薬代。
全部金がかかる。
なのに客は少ない。
五年。
赤字だった。
正直、笑えない。
◇
YouTubeも始めた。
動画を撮る。
編集。
投稿。
料理。
修理。
刃物。
色々やった。
だが伸びない。
登録者も増えない。
再生数も止まる。
頑張った動画ほど滑る。
意味が分からなかった。
しかも過去動画まで止められた。
何をやっても噛み合わない。
◇
周囲を見る。
同級生。
結婚。
子供。
就職。
家。
普通の人生。
一方、俺は薬飲みながら雑貨屋をやっている。
時々、自分でも分からなくなる。
何を間違えたんだろうな、と。
◇
昔は思っていた。
強ければ生き残れる。
格闘技。
筋肉。
喧嘩。
実際、20歳くらいまでは何とかなった。
舐められない。
絡まれない。
理不尽を押し返せる。
だが社会は違った。
商売は筋肉で伸びない。
再生数も拳じゃ増えない。
暴力じゃ客は定着しない。
当たり前だった。
だが昔の俺は、それが分かっていなかった。
◇
店の奥。
電卓を見る。
数字が合わない。
売上より支払いが多い。
何年も。
普通なら辞めるんだろう。
だが辞めても、次が無かった。
雇われも向いていない。
集団行動も苦手。
頭も極端。
結局、一人でやるしかない。
だから続けていた。
◇
夜。
動画編集。
眠い。
頭痛い。
それでも作業する。
止まると不安が来るからだ。
「このまま終わるんじゃないか」
ずっと頭にある。
しかも年齢だけ増える。
身体も少しずつ壊れる。
昔みたいに無茶も効かない。
◇
それでも時々、客に感謝される。
「使えるようになった」
「使いやすい」
「ありがとう」
その瞬間だけは少し静かになる。
昔から、人間関係は苦手だった。
だが道具は違う。
直せば結果が出る。
誤魔化しが無い。
そこだけは好きだった。
◇
深夜。
店の電気だけが付いている。
鏡を見る。
クマ。
頭痛。
薬。
赤字。
動画編集。
完全に終わってる生活だった。
だが、それでもまだ死んでいない。
それだけは事実だった。
昔の俺なら、とっくに全部壊していたと思う。
だが今は違う。
多少は止まれる。
多少は耐えられる。
完全には壊れていない。
いや。
壊れたまま、何とか形を保っている。
多分、それが一番近かった。




