表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

# 第十一話 赤字の雑貨屋



 結局。


 強さじゃ人生は何も解決しなかった。


     ◇


 朝。


 店を開ける。


 誰も来ない。


 静かだった。


 昔の俺なら、

「静かな方が楽」

 と思っていた。


 だが商売を始めると違う。


 客が来ない静けさは、そのまま金の無さだった。


     ◇


 包丁を研ぐ。


 シャアア……。


 一定の音。


 落ち着く。


 だが、スマホを見ると現実へ戻される。


 売上。


 支払い。


 税金。


 ガソリン。


 薬代。


 全部金がかかる。


 なのに客は少ない。


 五年。


 赤字だった。


 正直、笑えない。


     ◇


 YouTubeも始めた。


 動画を撮る。


 編集。


 投稿。


 料理。

 

 修理。


 刃物。


 色々やった。


 だが伸びない。


 登録者も増えない。


 再生数も止まる。


 頑張った動画ほど滑る。


 意味が分からなかった。


 しかも過去動画まで止められた。


 何をやっても噛み合わない。


     ◇


 周囲を見る。


 同級生。


 結婚。


 子供。


 就職。


 家。


 普通の人生。


 一方、俺は薬飲みながら雑貨屋をやっている。


 時々、自分でも分からなくなる。


 何を間違えたんだろうな、と。


     ◇


 昔は思っていた。


 強ければ生き残れる。


 格闘技。


 筋肉。


 喧嘩。


 実際、20歳くらいまでは何とかなった。


 舐められない。


 絡まれない。


 理不尽を押し返せる。


 だが社会は違った。


 商売は筋肉で伸びない。


 再生数も拳じゃ増えない。


 暴力じゃ客は定着しない。


 当たり前だった。


 だが昔の俺は、それが分かっていなかった。


     ◇


 店の奥。


 電卓を見る。


 数字が合わない。


 売上より支払いが多い。


 何年も。


 普通なら辞めるんだろう。


 だが辞めても、次が無かった。


 雇われも向いていない。


 集団行動も苦手。


 頭も極端。


 結局、一人でやるしかない。


 だから続けていた。


     ◇


 夜。


 動画編集。


 眠い。


 頭痛い。


 それでも作業する。


 止まると不安が来るからだ。


「このまま終わるんじゃないか」


 ずっと頭にある。


 しかも年齢だけ増える。


 身体も少しずつ壊れる。


 昔みたいに無茶も効かない。


     ◇


 それでも時々、客に感謝される。


「使えるようになった」


「使いやすい」


「ありがとう」


 その瞬間だけは少し静かになる。


 昔から、人間関係は苦手だった。


 だが道具は違う。


 直せば結果が出る。


 誤魔化しが無い。


 そこだけは好きだった。


     ◇


 深夜。


 店の電気だけが付いている。


 鏡を見る。


 クマ。


 頭痛。


 薬。


 赤字。


 動画編集。


 完全に終わってる生活だった。


 だが、それでもまだ死んでいない。


 それだけは事実だった。


 昔の俺なら、とっくに全部壊していたと思う。


 だが今は違う。


 多少は止まれる。


 多少は耐えられる。


 完全には壊れていない。


 いや。


 壊れたまま、何とか形を保っている。


 多分、それが一番近かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ