# 第二十二話 成功したら救われるのか
最近、時々分からなくなる。
もし店が成功したら。
もし金が増えたら。
もし動画が伸びたら。
俺は本当に救われるんだろうか、と。
◇
昔から、
「結果を出せば全部解決する」
と思っていた。
強くなれば舐められない。
金があれば認められる。
成功すれば見返せる。
だからずっと必死だった。
◇
格闘技もそうだ。
喧嘩もそうだ。
筋トレも。
商売も。
動画も。
全部、
「負けたまま終わりたくない」
からやっていた。
◇
だが最近、少し怖くなってきた。
もし仮に成功しても。
俺の中身はそのままなんじゃないか、と。
◇
例えば。
動画が急に伸びたとする。
店が繁盛したとする。
金も増える。
周囲の見る目も変わる。
多分、一時的には気持ちいいと思う。
だが、その後は?
◇
中学の記憶が消える訳じゃない。
教師に殴られた事も。
親に守られなかった事も。
フラッシュバックも。
全部そのまま残る。
◇
じゃあ結局。
俺は何を取り返したいんだろうな、と最近思う。
金か?
名声か?
勝利か?
違う気もする。
◇
本当は。
「お前は悪くなかった」
が欲しいだけなんじゃないか。
時々そう思う。
◇
だが、それはもう手に入らない。
親も。
教師も。
祖父母も。
多分一生認めない。
だから俺は別の物で埋めようとしてる。
成功。
金。
結果。
数字。
全部そうだ。
◇
でも、人間って怖い。
数字が増えても慣れる。
再生数も。
登録者も。
売上も。
最初だけだ。
結局また足りなくなる。
◇
だから最近、少し思う。
もし本当に店が成功しても。
俺は次の日、
「で?」
ってなるんじゃないか、と。
◇
実際、格闘技がそうだった。
昔は、
「強くなれば人生変わる」
と思っていた。
だが強くなっても。
喧嘩に勝っても。
周囲がビビっても。
夜になると普通に苦しかった。
フラッシュバックも消えなかった。
孤独も消えなかった。
◇
結局。
外側を変えても、中身はそのままだった。
◇
店の奥。
薄暗い照明。
包丁を研ぐ。
シャアア……。
一定の音。
頭の中が少し静かになる。
◇
昔の俺は、
「勝てば救われる」
と思っていた。
だが今は違う。
多分、俺が欲しかったのは勝利じゃない。
安心だった。
普通だった。
誰かに、
「お前はそのままで良かった」
と言われる感覚だった。
◇
だが、それが分からない。
だから今でも走ってる。
店。
動画。
筋トレ。
研ぎ。
全部止めたら、多分過去が追い付いてくる。
だから動き続ける。
◇
時々、本当に怖くなる。
もし全部成功しても。
それでも空っぽだったらどうするんだろうな、と。
◇
夜。
店を閉める。
静かな住宅街。
どこかの家から笑い声が聞こえる。
普通の家庭。
普通の人生。
俺が欲しかった物。
◇
空を見る。
別に今日も何も解決していない。
金も無い。
頭も痛い。
未来も不安。
それでも。
まだ店を閉められない。
多分。
俺は今でも、
「次こそ救われる」
をどこかで信じている。




