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# 第二十話 普通になりたかった


 普通になりたかった。


 多分、俺が欲しかったのは最初からそれだけだった。


     ◇


 結婚して。


 子供がいて。


 仕事して。


 休日は家族で出掛ける。


 その程度の人生。


 別に金持ちになりたい訳じゃない。


 有名にもなりたくない。


 ただ普通に生きたかった。


     ◇


 スーパーで家族連れを見る。


 父親。


 母親。


 騒ぐ子供。


 疲れた顔しながらも、どこか安心している空気。


 ああいうのを見ると、時々胸が苦しくなる。


 羨ましいんだと思う。


     ◇


 俺には、ああいう物が最初から遠かった。


 子供の頃から普通じゃなかった。


 ADHD。


 集団行動が出来ない。


 余計な事を言う。


 怒られる。


 浮く。


 喧嘩になる。


 教師には殴られる。


 家でも、

「男だから耐えろ」

 だった。


     ◇


 だから、普通の人生って物が分からない。


 安心して家へ帰る感覚。


 親へ相談する感覚。


 守られる感覚。


 そういう物が薄い。


     ◇


 昔は、

「強くなれば普通になれる」

 と思っていた。


 だから格闘技をやった。


 筋トレもした。


 身体をデカくした。


 舐められないようにした。


 だが違った。


 強くなっても普通にはなれなかった。


 ただ、

「危ない奴」

 として周囲が離れただけだった。


     ◇


 しかも厄介なのは。


 俺自身も段々、人間が怖くなっていった事だ。


 裏切られる。


 舐められる。


 否定される。


 そういう警戒が常にある。


 だから人間関係が続かない。


 疲れる。


     ◇


 でも本当は。


 普通に誰かと笑いたい。


 普通に家族作りたい。


 普通に生きたい。


 多分、ずっとそう思ってる。


     ◇


 ただ現実は違う。


 睡眠薬が無いと眠れない。


 フラッシュバックが来る。


 頭痛もある。


 怒りも消えない。


 時々、人を殺す想像まで浮かぶ。


 こんな人間が、

「普通」

 へ行けるのか。


 正直、自分でも分からない。


     ◇


 夜。


 店を閉める。


 住宅街は静かだった。


 どこかの家から笑い声が聞こえる。


 風呂の音。


 テレビの音。


 普通の生活。


 普通の家庭。


 昔の俺は、そういう物を馬鹿にしていた時期もある。


 だが今は違う。


 本当は、ああいう物が欲しかった。


     ◇


 昔の俺は、

「強くなれば全部解決する」

 と思っていた。


 だが違った。


 人間って、多分。


 強さだけじゃ普通になれない。


     ◇


 それでも。


 まだ完全には諦めていない。


 結婚も。


 家族も。


 普通の人生も。


 頭のどこかでは、まだ欲しがっている。


 だから多分。


 俺は今日も生きている。

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