# 第十九話 謝ってほしい
俺は、多分ずっと謝ってほしかった。
◇
親。
祖父母。
親戚。
教師。
昔から俺へ色々言ってきた連中。
長男だから。
男だから。
耐えろ。
我慢しろ。
殴られて覚えろ。
お前が悪い。
お前がおかしい。
そうやって俺を押さえ付けてきた人間達。
俺は多分、一度でいいから謝ってほしかった。
◇
「悪かった」
「お前を追い込み過ぎた」
「助けるべきだった」
その程度で良かった。
別に金が欲しい訳じゃない。
土下座しろとも思わない。
ただ。
俺が壊れた原因を、
「確かにあった」
と認めてほしかった。
◇
だが、それは無理だった。
何故なら、あいつらに悪意が無いからだ。
むしろ善意だった。
「男は厳しく育てるべき」
「長男だからしっかりしろ」
「殴られて強くなる」
本気でそう思っている。
だから話が通じない。
◇
もし悪人だったなら、まだ理解出来た。
わざと傷付けていた。
嫌いだった。
そういう方がまだ単純だ。
だが現実は違う。
多分あいつらは、
「正しい事をしていた」
つもりなんだと思う。
そこが一番キツい。
◇
しかも今の俺を見ても、多分理解していない。
不眠。
フラッシュバック。
衝動。
頭痛。
睡眠薬。
精神科。
そういう物を見ても、
「本人の問題」
くらいにしか思っていない。
俺がおかしくなったのは俺の責任。
そういう認識なんだと思う。
◇
実際、俺も昔はそう思っていた。
弱い自分が悪い。
耐えられない自分が悪い。
もっと強ければ良かった。
もっと我慢すれば良かった。
そうやってずっと自分を責めていた。
◇
だが最近、少しだけ分かってきた。
子供って、本来は守られる側なんだ。
殴られ続けて耐える存在じゃない。
親の理想を押し付けられる存在でもない。
だが俺は、ずっと逆だった。
守る側だった。
耐える側だった。
壊れてもそのままだった。
◇
それでも。
今さら謝られても、多分完全には戻らない。
中学三年間は消えない。
家庭も消えない。
壊れた脳も戻らない。
だから本当は、自分でも分かっている。
欲しいのは謝罪そのものじゃない。
「お前は悪くなかった」
その言葉なんだと思う。
◇
だが、それも多分聞けない。
だから結局。
自分で自分へ言うしかない。
お前はおかしくなるべくして、おかしくなったんだと。
壊れるだけの理由は確かにあったんだと。
◇
店の奥。
砥石へ水を掛ける。
静かな音。
包丁を研ぐ。
シャアア……。
一定の音だけが響く。
昔の俺は、
「認められたい」
が強かった。
だが今は違う。
もう誰かに理解される事を、半分諦めていた。
それでも。
まだ生きている。
多分、それだけで十分なんだと思う日もある。




