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# 第十四話 確認



 強迫性障害になったのは二十二歳の頃だった。


 多分。


 俺の中で何かが限界だったんだと思う。


     ◇


 それまでの俺は、

「耐えるのが普通」

 だと思っていた。


 長男だから。


 男だから。


 我慢しろ。


 耐えろ。


 弱音吐くな。


 昔からずっと言われてきた。


 殴られても。


 理不尽でも。


 苦しくても。


 全部。


「男なんだから」


 それで終わりだった。


     ◇


 だが二十二歳くらいで、急に崩れた。


 本当に突然だった。


 今まで信じていた物が、一気に嘘っぽく見えた。


 何で俺だけ耐えてたんだ?


 何で助けられなかった?


 何で妹は守られてた?


 何で教師は許されてた?


 何で俺だけ我慢が当然だった?


 頭の中で全部繋がり始めた。


     ◇


 多分。


 洗脳が解けたんだと思う。


 家族。


 学校。


 昔の価値観。


 全部。


 それまでは、

「俺が悪い」

 で無理やり飲み込んでいた。


 だが耐え続けた結果、逆に限界が来た。


     ◇


 そこから確認が始まった。


 鍵。


 火。


 財布。


 車。


 店。


 異常なくらい確認する。


 一回閉めたのに戻る。


 本当に閉めたか?


 本当に消したか?


 ずっと頭の中で続く。


     ◇


 確認しないと不安になる。


 だが確認しても安心出来ない。


 確認した記憶そのものが信用出来ないからだ。


 脳が壊れていた。


     ◇


 しかも最悪だったのは、

「思考」

 まで止まらなくなった事だ。


 昔の事を何度も考える。


 教師。


 父親。


 母親。


 暴力。


 差別。


 全部。


 しかも延々繰り返す。


「何で?」


「何で俺だった?」


 止まらない。


     ◇


 夜。


 布団へ入る。


 だが脳が動き続ける。


 鍵は閉めたか。


 火は消したか。


 あと、昔の記憶。


 それも始まる。


 殴られた事。


 怒鳴られた事。


 助けられなかった事。


 全部戻る。


 酷い時は朝まで止まらない。


     ◇


 今思えば、

「耐え続けた反動」

 だったんだと思う。


 昔の俺は、自分を騙していた。


 長男だから。


 男だから。


 耐えるのが普通。


 そう思い込まないと、生きられなかった。


 だが二十二歳で、それが壊れた。


 すると今度は、

「本当はずっと壊れていた」

 事だけが残った。


     ◇


 店の奥。


 シャッターを見る。


 鍵は閉めた。


 ちゃんと確認した。


 分かってる。


 だが脳の奥で、

「本当か?」

 が始まる。


 昔の俺は、

「耐えれば何とかなる」

 と思っていた。


 だが今は分かる。


 人間は、壊れたまま耐え続けると。


 ある日突然、脳から壊れる。

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