# 第十三話 戻ってくる過去
フラッシュバックには波がある。
軽い時期もある。
だが駄目な時は、本当に駄目だった。
◇
その時期の俺は、かなり危なかった。
数カ月。
本当にずっと酷かった。
眠れていない訳じゃない。
睡眠薬も飲んでいる。
三種類。
ちゃんと寝ていた。
飯も食っていた。
筋トレもしていた。
山も歩いていた。
薬も飲んでいる。
なのに止まらない。
◇
頭の中へ過去が入り込んでくる。
突然。
仕事中でも。
動画編集中でも。
飯食ってる時でも。
教師の声。
殴られた感覚。
父親。
母親。
怒鳴り声。
全部戻る。
しかも年々、映像が鮮明になっていく。
忘れるどころか悪化していた。
◇
頭痛も酷かった。
目の奥。
首。
後頭部。
全部痛い。
フラッシュバックが来ると悪化する。
しかも怒りまで一緒に来る。
「殺せば良かった」
自然に浮かぶ。
教師。
父親。
昔の自分。
全員に殺意が向く。
自分でも危ないと思っていた。
◇
店の奥。
包丁を研ぎながら、急に手が止まる。
過去が始まるからだ。
すると呼吸が浅くなる。
心拍が上がる。
イライラする。
そのまま壁を殴る時もあった。
完全に壊れていた。
◇
なのに周囲からは分からない。
普通に店を開けている。
動画も上げている。
客とも話している。
だから余計に変だった。
外側だけ生きていて、中身だけ腐っていく感じ。
◇
夜。
スマホを見る。
昔の知り合いが流れてくる。
売人。
半グレ。
反社。
消えた奴もいる。
捕まった奴もいる。
死んだ奴もいる。
だが時々思う。
あいつらの方が楽だったんじゃないか、と。
暴力。
金。
薬。
そういう世界に完全に沈めば、逆に悩まなくて済んだんじゃないか。
そんな事まで考え始めていた。
◇
もちろん分かっている。
あっちへ行けば終わる。
まともには戻れない。
だが、その頃の俺は、
「まとも」
にも希望を持てなくなっていた。
真面目に生きても赤字。
薬飲んでも壊れる。
努力しても伸びない。
過去も消えない。
だったら何の意味があるんだろうな、と。
◇
死ぬ事も考えた。
本当に。
海。
山。
車。
色々考えた。
別に悲劇ぶってる訳じゃない。
単純に、
「もう無理じゃないか」
と思った。
数カ月も頭の中が地獄だと、人間はそうなる。
◇
それでも完全には壊れなかった。
理由はよく分からない。
仕事か。
動画か。
筋トレか。
包丁か。
多分、全部少しずつだった。
あと、怖かった。
死ぬのも。
捕まるのも。
本当に終わるのも。
昔の俺なら突っ込んでいた気がする。
だが今は違った。
壊れていても、少しだけ理性が残っていた。
◇
深夜。
店の電気だけが付いている。
鏡を見る。
目が死んでいた。
かなり危ない顔だった。
昔、教師に言われた事を思い出す。
『お前はそのうち人を殺す顔してる』
あの頃より、今の方が近かった。
だから最近は思う。
俺を止めてるのって、
「善性」
じゃない。
多分。
ただの疲労と、現実感だ。




