表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

# 第十三話 戻ってくる過去



 フラッシュバックには波がある。


 軽い時期もある。


 だが駄目な時は、本当に駄目だった。


     ◇


 その時期の俺は、かなり危なかった。


 数カ月。


 本当にずっと酷かった。


 眠れていない訳じゃない。


 睡眠薬も飲んでいる。


 三種類。


 ちゃんと寝ていた。


 飯も食っていた。


 筋トレもしていた。


 山も歩いていた。


 薬も飲んでいる。


 なのに止まらない。


     ◇


 頭の中へ過去が入り込んでくる。


 突然。


 仕事中でも。


 動画編集中でも。


 飯食ってる時でも。


 教師の声。


 殴られた感覚。


 父親。


 母親。


 怒鳴り声。


 全部戻る。


 しかも年々、映像が鮮明になっていく。


 忘れるどころか悪化していた。


     ◇


 頭痛も酷かった。


 目の奥。


 首。


 後頭部。


 全部痛い。


 フラッシュバックが来ると悪化する。


 しかも怒りまで一緒に来る。


「殺せば良かった」


 自然に浮かぶ。


 教師。


 父親。


 昔の自分。


 全員に殺意が向く。


 自分でも危ないと思っていた。


     ◇


 店の奥。


 包丁を研ぎながら、急に手が止まる。


 過去が始まるからだ。


 すると呼吸が浅くなる。


 心拍が上がる。


 イライラする。


 そのまま壁を殴る時もあった。


 完全に壊れていた。


     ◇


 なのに周囲からは分からない。


 普通に店を開けている。


 動画も上げている。


 客とも話している。


 だから余計に変だった。


 外側だけ生きていて、中身だけ腐っていく感じ。


     ◇


 夜。


 スマホを見る。


 昔の知り合いが流れてくる。


 売人。


 半グレ。


 反社。


 消えた奴もいる。


 捕まった奴もいる。


 死んだ奴もいる。


 だが時々思う。


 あいつらの方が楽だったんじゃないか、と。


 暴力。


 金。


 薬。


 そういう世界に完全に沈めば、逆に悩まなくて済んだんじゃないか。


 そんな事まで考え始めていた。


     ◇


 もちろん分かっている。


 あっちへ行けば終わる。


 まともには戻れない。


 だが、その頃の俺は、

「まとも」

 にも希望を持てなくなっていた。


 真面目に生きても赤字。


 薬飲んでも壊れる。


 努力しても伸びない。


 過去も消えない。


 だったら何の意味があるんだろうな、と。


     ◇


 死ぬ事も考えた。


 本当に。


 海。


 山。


 車。


 色々考えた。


 別に悲劇ぶってる訳じゃない。


 単純に、

「もう無理じゃないか」

 と思った。


 数カ月も頭の中が地獄だと、人間はそうなる。


     ◇


 それでも完全には壊れなかった。


 理由はよく分からない。


 仕事か。


 動画か。


 筋トレか。


 包丁か。


 多分、全部少しずつだった。


 あと、怖かった。


 死ぬのも。


 捕まるのも。


 本当に終わるのも。


 昔の俺なら突っ込んでいた気がする。


 だが今は違った。


 壊れていても、少しだけ理性が残っていた。


     ◇


 深夜。


 店の電気だけが付いている。


 鏡を見る。


 目が死んでいた。


 かなり危ない顔だった。


 昔、教師に言われた事を思い出す。


『お前はそのうち人を殺す顔してる』


 あの頃より、今の方が近かった。


 だから最近は思う。


 俺を止めてるのって、

「善性」

 じゃない。


 多分。


 ただの疲労と、現実感だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ