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魔法のような人間たち

ヴェールを開放する、とはどういうことなのか。

その話に持ち込みたいのはレッドも同じようで、道案内をしながら話し始めた。


「うちの王女サマ…ヴェールちゃんはな、強すぎたんだよ。なんでもできたんだ。でもな、一人が全部できちゃいけなかったんだ。俺たちはそこには気づけた。彼女一人に背負わせちゃいけない。国全体で、支えなきゃいけないって。」


思い出すようにしながら歩いていく。道は木々に囲まれてこそいるが、よく見れば足元は整備されており、いつでもこの通路を通れるようになっていた。


「コトが発覚したのは数年前。ヴェールちゃんは人間としての枠組みから抜けちまったんだ。」


いきなり話が飛躍した。


「訳の分からないことを言わないでください。こっちも命がけなんです。」


リムもキレている。そりゃそうだ。何でいきなりこんな話になるのか誰も理解できていない。


「あいつは、自分の才能を正しく認識した。そして、この国を自分で守るための手段を選んだんだ。」


「でも、そんなに強いって言うならなんでエリンに体を乗っ取られたり国の防衛もろくにできない状態になってるんだ?」


ギエルの疑問ももっともだ。


「まあ待てって、ちゃんと話すから。」


しばらく続く細道を抜けた瞬間だった。

先頭を行くレッドの脇腹に何者かからのドロップキックがさく裂したのは。

当たった瞬間呻くより先に右肘を振り下ろすレッド。その肘が当たることは無く空を切っていた。そして、その空間から声が響く。


「考え方は正解。でもいちいち話が長い!」


その声はこれから俺たちが救うらしい、ヴェールのものだった。

病み上がりのフィエリテ含めて全員が臨戦態勢をとる。

しかしヴェールはリベルタ達に一切見向きもせずにレッドのほうを向く。


「ちったぁ効いたはずね。目覚ましなさいこのバカ。やれば大体なんでもうまくいくのが私でしょ。」


よく見れば彼女の姿はヴェールそのものであるが、瞳の色が左右で異なっており、服装もまるで違う。そして、ウェーデルで見た時のような存在感も感じなかった。


「ヴェール…なのか?」


その姿に一番驚いているのはレッドだった。彼にとっても予想外のことらしい。


「そうに決まってんでしょ。あんな偽物を私の名前で呼ぶのすら納得いかないのにせっかくこの国に来てくれた客人に仮死状態を味合わせて敵対しかける。流石に見てらんないって話よ。」


「……面目ない。」


散々指摘されてえらく萎びた様子のレッドがそこには居た。


「客人方にはうちの者が失礼を働いてしまったわね。悪気の有無で話が変わるものではないけれど、私の顔に免じて許してあげて頂けないかしら。」


こちらに頭を下げて謝る姿に敵意は一切感じられず、まるで別人のような印象すら覚える。


「手短に今の私の状況について話します。それからあなた方が協力していただけるかを答えて頂ければ結構です。」


「本物…本物、か?」


ギエルはイメージとの差に頭がついていっていない。


「まず、私はもう人間じゃないってのは本当。私の身体は魔法に置換されて人としての縛りを抜けているの。正確に言うと魔力量とか、寿命とか。私を構成するのは魔力と、自分であることを証明し続けるためのこの魂だけ。あとは全部余分だったからまとめて置いといたんだけど、今回はそれを使われた感じね。いかに私の身体でも魂すらない空っぽの状態ならどうとでもなるってこと。私の身体を執務室の奥に放っておいた私にも責任はあるけどね。

そこのあなた…ギエルさんね。何度かライブで見かけたことあるから覚えてるわ。いつも前から三列目の真ん中あたりに居たわね。あなたの疑問も当然。でも今はこうして話しながら次の手につなげないといけない状況。わかる?」


「とりあえずギエルさん、それ本当?」


強く頷いている。頬に涙が見えるのは覚えてもらっていた嬉しさだろうか。


「確認は取れたみたいね。じゃあ次。もう歩きながら話しましょ。時間がもったいない。」


状況は全員理解しきれていないが、どうにも本人であるということは本当らしい。

彼女が歩く方向についていきながら話を聞く。


「そう、それで…うん。この先に私が即興で建てた家があるからまずはそこに。レッドはちゃんとこの可愛い女の子…リィズちゃんに土下座で謝りなさい。ちゃんとした名前も名乗っておくこと。他の皆はもう揃ってるから紹介よろしく。私は衣装変えて出直してくる。」


話し終わると同時に目の前に木製の一軒家が出来上がった。今まで何もなかったのに、だ。


「はい、みんな入って。歓迎するわ。」


自分の部下にドロップキック決める人が作ったとは思えないほど精巧に作られていた。

二階にはヴェールの部屋ガ一つ。一階はリビングといくつかの客室になっている。

用意されていた席に座ってさっきから一言も発さないレッドの話を待つ。

一分ほど経ってから口を開いた第一声は


「大変申し訳ありませんでした」


からだった。

あまりにも美しく洗練された土下座。過去何回やったらここまで綺麗になるのだろうか。

肝心のリィズは


「はい、私は構いません。仮死体験はこれまでにないモノでしたし、何よりジェイド様の命は守られていますので。皆さんも、今回のことはこれっきりにするようお願いします。特にリム。後になって因縁つけない様に。」


「わかり…ました。」


すっごく不満そうな顔はしていたが本人に誓ったのだからまあしないだろう。

俺達としてもここから敵対したい相手ではない。本人が水に流すのだから、少なくともこの場は穏便に済まそう。


「この償いは必ず。だが、今は成すべき事を成すためにこちらの戦力を先に紹介したい。まずは俺だな。世間一般には『レッド』で通している。本名は無い。元の、親に付けてもらった名前は無い。魔法は簡単に言い直せば自己強化。じゃあ次だ。どうせ全員奥の部屋に居るからついてきてくれ。」


客室の一つを開けると、二人の女性がベッドで寝ていた。


「はいこいつらね。右の黒髪ロングがブルー、で通ってる側近ね。本名はロセ。起きろー」


レッドが両腕を引っ張って起き上がらせるが、手を離すと同時にまたベッドに倒れてしまった。

そしてその横で


「うげっ」


という呻きが聞こえる。よく見ればベッドに倒れたロセの下にはもう一人の左足があった。


「あ、こっちの金髪がイエロー。本名はイータ。ほれお前も起きろー」


「いや起きてるよ!足挟まってんだからちょっとは助けろよな!」


「おーおーそんだけ元気がありゃ大丈夫そうだな。」


助ける気は、ないようだ。同じベッドで寝ている事には一切突っ込まないのか。それとも言っちゃいけないのか。


「んみゅ…眠ぃ…」


寝言のようなものを言いながらロセはイータを抱き枕代わりにしていく。

イータの足はそろそろ限界が来るんじゃないだろうか…と心配になるがレッドが助けに入る素振りが無い。


「痛いって、言ってんじゃんか!」


と叫ぶと同時にイータの左足が、取れた。

それはもう、太ももの辺りから。一切の血を流さず、人形のパーツのように綺麗に取れてしまったのだ。

そしてそのまま器用に一本足で立ち上がると自分の足をロセの下から引っこ抜き、そのままロセに叩きつけてしまった。

後ろで声にならない悲鳴を上げているフィエリテの気持ちがよくわかるが、だんだん分かってきた。この国、このくらいで驚いていられないくらいにはおかしい人しかいないみたいだ。


「僕の痛み、ちょっとは味わえよな!」


と言いながら取れてしまった自分の左足をべしべし叩きつけている。


「痛い痛い!ちょ、イーちゃんやめて!悪かったとは思ってるけどシャレにならないくらい痛いから!」


あれだけ眠そうだったロセが一瞬で目を覚ましていた。

どういう仕組みかわからないが相当痛いらしい。


「お前も一発食らっとけよな。」


レッドにも左足が当たる。それと同時にレッドは左足を抑えて床を転がりだした。


「お前なああああああああ!居たいなんてもんじゃねぇぞ!?」


全力で叫んでいる。なんとなく想像は出来た。彼女の魔法は自分の感じた痛みをそのまま他人へ伝播させるものだろう。外傷を一切与えないで、痛みだけを伝えているようだ。


「で、お前たちがヴェールちゃんの言ってた客人なんだよな?」


「あー、そんなことも言ってたねぇ。イーちゃんはよく話を聞いててえらいえらい。」


ロセはまた目を閉じて寝ようとしながらイータの頭を撫でて褒めていた。どういう光景なんだ。


「ロセが聞いてなさすぎるだけなんだよな…お客なんだし、挨拶くらいはしとけよな」


左足を元の位置に当てるとそのまま元通りにくっついてしまった。縫合の後のようなものも一切見えない。


「僕はイエロー、本名はイータ。オラリオン出身だからあんたたちのことはよく知ってるし、あの国に起きた悲劇は同情もしてる。でも、あの国自体は嫌いだ。救いに行く、とか復興する、なんて言ってたけど僕は賛同しかねるね。」


と、にわかに信じがたいことを矢継ぎ早に話す。

そしてそのままスタスタと部屋の外に歩いて行ってしまう。


「あーらら。ご機嫌ナナメなのね。」


いや、機嫌の悪さは寝相のせいだろ、とは言えない。

このロセも、俺達オラリオンの復興を願う…今は無きグランツのメンバーに対してただならぬ感情を持っているかもしれない。先程のイータの言葉には一切の嘘を感じなかった。

ロセにも何か思うところがあるのかもしれない。そう思うと軽々に口を開くことができなかった。

そしてベットに座って目を閉じたままこちらに向き直るとぺこりとお辞儀をして自己紹介を始める。


「私はブルーの名前を貰ったロセだよ。イーちゃんが大好きだからあたしはオラリオンは大っ嫌い。でも、私はオラリオン、好きだよ?私の魔法はねぇ…」


ここまで言って、本人が自分で口をふさぎ、頭を殴りだした。血が流れるほどに本気で殴っているその異様な姿に、エテルノさんが思わず止めに入る。

だが、その手を振り払ってこれまで閉じていた目を見開いて言い放った。


「あたしの身体に触んじゃねぇよ!ブルーは即ち青、空の色そのものだ!だからあたしは曇っちゃいけない。汚れちゃいけない!あたしの名前を汚そうとするな!」


…と。正直何を伝えたいのかはっきりとは誰にも全くわかっていない。だが、彼女は他人に触れられることを極度に嫌がる体質であり、エテルノさんの行動がその嫌悪を引き出した、ということなのだろうということはわかった。


「あーほら、さっさと戻れ。」


レッドがブルーの目元を隠し、そのまま瞼を下した。すると、


「あらー?またあの子が酷い事言っちゃったわね…ごめんなさい。あの子、ちょっとでも気に障るとすぐ怒っちゃうの。私はオラリオンの出身じゃないけど、あの国のことはどちらかと言えば好きなほうよ。だから復興も手伝ってあげたいしあの国の『今』がよくないことも気にはなってる。でも、今やるべきことは絶対に、少なくとも私たちにとってはそれじゃないの。優先順位が来たら、一緒に復興しましょうね?」


別人のように話し方も雰囲気も変わり、そのまま部屋を出てしまった。


「…結局、あいつら自分の魔法説明しないで行きやがった。」


レッドは頭を抱えながらうなだれていた。何かを感じ取っているのか、エテルノさんとギエルさんに肩を叩かれていた。


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