話すべき事
丁度、イータたちが戦っていた場所から反対側。
私とホワイト、そしてエテルノはそちら側の担当だった。
「今のところ、怪しい気配もなければ敵意もないですね。」
「あ、はい…そうですね…なんでだろ、僕が場所間違えたのかな…」
ずっとこの調子だ。実力があるのは認めているものの、これではコミュニケーションがとりづらい事この上ない。
「…もう少し、手分けして索敵してみましょう。市民の方々への避難誘導も同時に。」
「そう、ですね。わかりました!」
一人で行ってしまう。まだ誰がどこを担当するかも言っていないのに。
「まあ、引き留めることもないでしょう。私たちにはまだ心を開くだけの実績も理由もない。」
声をかけようとする私を制したのはエテルノだった。
「ですが、いざという時に意思疎通ができないのは…」
「意思疎通を図るまでもない、と。彼の中での我々の評価はそうなんでしょう。」
私は、エテルノのこういった面が少し苦手だ。言いたいことはわかるが、どこか達観してしまっている。
過去にあったことが原因、とだけヒラソルから聞いてはいるが、それ以上は話してくれなかった。
私を育ててくれたことには感謝してもしきれないくらいの恩があるが、慣れない者は慣れない。
「では、私達も行きましょうか。」
「そうですね、何かあったら知らせてください。」
他人の過去を詮索する趣味もない。言いたくないのだからそこまでで止めておくべきなんだろう。
私も、私のなすべきことをしなければ。少しでも犠牲を減らすために。
道行く人に声をかける。ここも危険かもしれないから避難してくれと。
その言葉に対する返答はあまりにもあっさりした了承だった。
「まぁたヴェールちゃんが何かやったんだろ?見ない顔だけど大体わかるよ。」
って。なんだそりゃ。
あまりに気になったので聞いてみる。
「いつも、こんなことがあるんですか…?」
「ああ、よくあることだよ。うちの王女様は小さいけど強いからね。いろんな国から目を付けられちゃってるんだよ。」
なんて慣れた口調だろうか。こんな、国に何かが起こることが当たり前だと周知されているようなトップが居ていいのか…
「あんたも巻き込まれた感じだろ?大変だろうけど、嫌いにならないでやってくれな。」
「あ、はい。わかりました。」
この返しは失敗だったかな、なんてすぐに思うけど
「はは、正直なお嬢ちゃんだな。機会があったらヴェールちゃんの話し相手にでもなってあげてくれると嬉しいかな。」
なんて返されて、この人はいい人なんだろうな、と思う。
いきなり話しかけられて、こんなに話してくる人も珍しい、と思っていたがどうもこの国は皆同じような感じらしい。さっきの人が近くの人に言って、それがまた…といった具合に一瞬で避難勧告は広まっていく。
「僕たち、やること無くなっちゃいましたね?」
やれやれ、といったようにエテルノが呟く。確かに、ここに敵の襲撃の気配もなければ残された住民もいないように見える。
辺りを確認しながら、街の内側に足を向ける。
「エテルノさんは、もしここで襲われたらどうするんですか?」
ふと、気になったので聞いてみた。
戦闘技能においては全くからきしの彼は、今襲われたらどうするのだろうか。
ふむ、と一瞬考えてから
「私は、戦闘において役立つことは何もできません。」
彼はその一言から話し始めた。
「でも、私は戦わなければならないんです。強いて言うのなら、家族のため……いえ、そう言うのは卑怯ですね。自分自身で決着をつけるために、とでも言いましょうか。」
「決着、ですか。それは、私がまだ知らないエテルノさんの過去に関係しているのでは?」
いつもの口調が出ない。どうしても、堅苦しくなってしまう。彼の言葉の一つ一つにこれまで聞いたことが無いくらいに感情が現れていたから。
「そうですね。もう、ずっと、いつ話そうかと考えていました。こういう状況になったのもあのヴェールさんの手引きなのかもしれませんね。」
実際、彼女はそれくらいやっていそうな気がするから困る。
「私の家族…正確に言えば私の妹、ですね。彼女は、まだほんの小さいときにオラリオンの手の者に殺されています。おかしな話ですよね。オラリオンの復興を願っているのにその国の手引きで妹が殺されているんですから。」
歩きながら、まるで小説のあらすじのように淡々と話す。
「でも、後悔はしてないんです。妹は、ジェイド様を守ってくれたんですから。」
この言葉は嘘だ。私にもわかる。家族が殺されて、後悔も何もないわけがない。
「誰が仕組んだわけでもない。オラリオンの王子であったリベルタ様は、最愛の妻を亡くされ、私は妹を。最後に残ったのはジェイド様と自分。リベルタ様は最後までオラリオンを守るために身命を賭しておられました。」
歩くスピードが自然に上がっている。ヒラソルの後ろを追うように速さを合わせる。
「なぜ妹が。そう考えなかったことが無いとは口が裂けても言えません。何度も、何度も、考えました。ああ、あの時ジェイド様が亡くなっていたのならどうなっていたのか、と。」
「それを、私に言っていいんですか。仮にも私は…」
「いいんです。いつかは言わなければならない。あなたを拾って、育てると決めたその時にわかっていたことです。」
「なら、なんで話そうと?最後まで黙っていてもいいじゃないですか。」
「そうですね、なんでなんでしょう。話して、楽になりたかったのかもしれませんね。」
声は話の途中から震えている。速足になった歩みを追い越さない様に後ろで話を聞く。
「私に話して、少しは楽になりましたか?」
さっきの街の人との会話といい、どうしてこう、私はこういった会話が下手なんだ。ジェイドと話すときみたいにもっと普通の、気のきいたセリフでも言えたらいいのに。
「ええ、ずっと話す機会をうかがっていただけあって一つ肩の荷が下りた気分です。」
こちらに振り返り、彼はいつもの商談の時のような笑顔でそう言った。
結局、こっちには敵は来ないしホワイトは一切合流しようともしないしで。
どうしようもないのでジェイドたちが居るコロシアムの方に行こう、と話がまとまった。




