銃弾に想いを込めて
「イータさん!すみません、失礼します!」
リムちゃんだ。私を抱えて、凄い速さで近くの家の屋上に上がる。意識の確認、怪我の度合いの確認などを凄い速さで進めていく。瞬く間に応急処置が終わり、そのまま彼女はいってしまう。
「うーん、ここに残されちゃったか…ここから狙えるかな。」
見たところ射程圏内ではある。だが、あの男の動きが分からない。目を離すことはしなかった。でも、後ろに回られていた。本当に、一瞬も目を離さなかったのに。
下ではロセの人格が変わってしまっていた。
「おい、あたしたちのイーちゃんに何してんだてめぇ。」
男の顔面にグーパンを決めながらロセが言っている。何って、そりゃ後ろから殴られたんですよってね。
「痛い、けど進まなきゃいけないので通してくださいお願いしますありがとうございます!」
男は一切意に介さない様子で進み始める。明らかに歯が何本か折れているが、どこ吹く風…と言った様子で。
「ちょっとはまともに話したらどうなんですか!」
リムちゃんも思いっきり踵落としを決めながら叫ぶ。
だが、明らかに頭蓋骨が折れた音がしたにもかかわらず。男は進み続ける。
「な、なんなんですかこいつ!」
リムちゃんの気持ちもわかる。
何やっても手ごたえ感じないし一人でブツブツ言いながら進み続ける変態とかできれば相手にしたくない。
「…まあ、相手にしなきゃいけないんだよな。」
やっぱり、殺す気で行かなきゃダメか。麻酔とか甘っちょろいこと言ってらんない。
「私のこの痛みを銃弾に乗せて」
使うなって言われてたし、上書きされちゃってるんだけど。まあそう簡単に自分の思いから生まれた魔法はそう簡単に完全にはなくならないわけ。
銃弾の代わりにしたのは自分の背骨。正直尋常じゃなく痛い。
照準も安定しないからとりあえず自分の右腕を外して握らせる。
「どんな狙撃だって話なんだよな…」
自分の恰好を傍から見たらあの男と同じくらいおかしいんだろうな、とか考えて痛みをごまかす。
狙うは脳天。どんだけ我慢強かろうとおかしな体してようと、直接響く痛みには少しくらい反応があるはず。あとは向こうの二人に託すとしよう。
と、思ったんだけど。
「はいちょっと待って。」
って声で静止をかけたのはヴェールちゃんだった。
「私の身体が戻って来た。だから、私はそっちに行く。これ、お願いね。」
銃弾、だろうか。ひょいと投げてよこしながら彼女は元から居なかったみたいに消えてしまう。
「情報共有が簡潔過ぎて何も伝わってこないんだよ…でも、まず第一目標は達成したんだよな。」
渡されたものを見ると、それは間違いなく銃弾で。一緒にメモも渡されてた。
『あいつと、コロシアム前に居る門番。それに多分中に居る奴も全員こちらの攻撃で出来るのはせいぜいが足止めだと思う。だから、それを最大限長くできるようにしたのがこれ。門番君は後で見に行ってみるといいけどすごい事になってる。まずはあいつを三人に頼んだからね!じゃ!』
って、可愛らしく自画像まで描いて渡してきていた。こっちは死ぬかと思ったってのに全くあの人はいつでもこの調子だ。
「まあ、これをいつどうやって打ち込むか…って話なんだよな。」
下の様子は逐一確認している。リムちゃんがどれだけ打ち込んでもダメ。吹き飛ばしてもすぐ戻ってくる。ロセの魔法で燃やしても、毒を打ってもそれほどの効果は見られず。
「じゃあ、この銃弾は何が起こるのかな…?」
幸いと言うか、あれから直接あの男が反撃したのは私だけだ。他の攻撃には反応こそあれども全く反撃しない。
「変なの。」
右腕と背骨を元あった位置に戻す。折れてるので戻すのも居たいけど我慢我慢。
ほふく前進するような形で屋根を進む。
戦いの余波に巻き込まれない様に、そっと。
いつもならほんの数十歩の距離がとても長く感じる。
「装填完了、あとは…」
もうこっちを見ようともしない男の胴体に狙いをつける。あと数分もすればコロシアムまでたどり着いてしまうだろう。
「急いで、焦らず…確実に…」
言い聞かせるように照準を付け、引き金を引く。
こちらの狙撃にはさっきみたいに気付いているんだろう。でも、一切反応することは無く。
ダメージが通らないことが分かっているかのような自信と共にその銃弾を男は受け入れた。
結果としてその銃弾は、男の身体を背中から腹にかけて真っすぐに貫通した。
そして、これまで一切反応を示そうともしなかった男は
「なんで?」
と一言漏らす。
途端、こちらを振り向く。凄い形相で睨みつけてくる。
「お前も、邪魔するのか…まだ、邪魔し足りないのか!」
侵攻してきたんだからそりゃ止めるだろ。当たり前のことを何を今さら。
「急にうるせえんだよ!黙ってぶっ倒れてろ!」
ロセ…の中のどのロセかは分からないけど。さっきのリムちゃんよろしく脳天に一撃を食らわせる。
その一撃だけで、男は呆気なく倒れてしまった。
「「…は?」」
下の二人も納得がいかない。もちろん私もだ。
「イーちゃん、これどういうこと?何打ち込んだの?」
と、聞かれましても。私だってよくわかってない。
「わかんない!とりあえず動けない様に何かやっといて!」
声を張るとやっぱり全身が痛い。
リムちゃんがぴょんと屋根の上まで飛んできて、肩を貸してくれる。
「さっきのあれね。ヴェールちゃんからついさっき貰ったよくわかんない弾だったんだよね。効果てきめんでびっくりしちゃったよ。」
一応、状況説明はね。しとかないと。
「ヴェールさん、いつの間にかいなくなってるね…街の人たちの避難もとっくに終わってるし、どこ行ったんだろ。」
「ああ、それなら多分コロシアムの方に…」
言いながら、屋根を降りてコロシアムの方へ向かおうか悩む。
第二軍が来るのか。応援に行くほうが良いのか。
『後で見に行って…』
ってな内容のメモがあったのをふと思い出す。こっちに来てね、ってことなのかなあれ。
二人にもその話をして、コロシアム方面に向かう。
例の男は結局名前もわからぬままに拘束、放置するわけにもいかないのでリムちゃんが引きずっている。
そして、コロシアムの入り口は。
凄惨、なんて言葉では済まない事態になっていた。
ヴェールちゃんのメモにあった『門番』。
恐らく、それだったのだろう肉塊がそこかしこに落ちている。だが、一番目に留まるのは四肢と首を切り落とされ、身長が半分になったのではないかというくらいに押しつぶされた男の身体だった。
その身体は、今も尚再生しようともがいている。さっきの男も無力化するにはここまでしないといけないのだろうか。
辺りに飛び散った肉塊もよく見れば身体の方に這いずった跡が見え、本体の断面部も新たな肉を作り直そうとゆっくり動き続けている。
切断された四肢と首はそれぞれ短剣で地面に縫い付けられており、動くことすらままならない状態にある。
「ここまでやったのは…まあレッドさんでしょうね。ジェイド様もリィズ様もこんなことができるお方ではありませんので。」
「だろうね~。ここまでやるのはあたしも気が引けるもん。」
「でも、これでも生きてる…んだよなこれ。」
これはもう、生きているというより死ねない、といった状態だろう。なぜこんなになるまでやったのかは想像がつくが、それでも…。
「まずは、奥に行くしかないですね。」
リムちゃんが奥に行ってしまう。私たちも追いかけるように奥に向かった。
そういえば、反対側の防衛に行ったホワイト達は大丈夫かな。




