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死ねない者と、死を待つ者

「おいジェイド、これは…」


ギエルさんが何か言いたそうにしているが、俺は視えた未来を回避するために無言で彼の体を突き飛ばす。

一秒としないうちに彼の居た場所には地面から大きな、黒い何かが突き出ていた。

次の瞬間には俺の居る場所に。逃げた先を折って二度、三度と。


「ああもうなんで全部避けるんだよ!何なんだよお前!」


黒い何かから出てきたのは、最初に俺達に見せた姿をしているエリンだった。


我が身の最期が(死を以て)死足りえんとしても(死を償い)今この時の(我が生涯の)絶頂を(最高点をここに)!」


ホワイトもやっていた詠唱だろうとは思う。だが、彼のものとは根本的な趣旨が違うもののように感じた。


「あーもーめんどくさいな…俺の魔法は魂の分割(ソウル・カット)。まんまなネーミングだろ。死体だろうが魂さえありゃ動くって寸法よ。体の持ち主の意志を残すには入れる俺の魂は極力薄くしないといけないのが難点だけどな。ってな感じでよかったっけか。」


いきなり自分の魔法のタネを明かし始める。


「逐一うるさいんだよ。そろそろ黙れ。」


ギエルさんが槍を突き刺すその衝撃を、エリンに流している。


「説明くらいさせろ。」


丁度ギエルさんとエリンの中間。コロシアムの床が盛り上がり、爆発四散した。


「お前の魔法は、さっき食らったからな。俺めがけて打った魔法は俺の魂のほんの一部を巻き添えにするしかできませんでしたって話だ。床の一部に一瞬俺の魂を入れてダミーにした…とか言えばわかりやすいか?…ったく、なんで俺がこんなことをいちいち言わなきゃならねぇんだよ…」


「なら直接やればいいわけだろ?」


さっきトラップの位置は覚えた。俺が、一番はやくエリンに一太刀を浴びせられる。

脳天から体を通して両断する勢いで振り下ろす。

だが、その剣は先程も見た黒い何かに止められる。


「だから説明くらいはさせろよ。これは死の概念そのものなんだとさ。どういう理屈か知らんが俺でも武器として使えるようにうちのトップがくれたわけ。」


どこからどこまでが本当なのか。そもそもこいつの話を聞く意味があるのか。

そんなことを考えていると、あの声が響いた。


「それ、全部本当だね。」


聞こえたのは地面の方から。

ヴェールの生首が、さも当然のように話していた。


「強力な魔法には欠点だったり制約がつきもの。不死なんて普通はあり得ない。ましてそれを他人に付与するなんてあってはならない。」


「おかしいな、確かに首が飛ばされて、殺したまま生かしておいた意味がなくなったから俺お前の身体諦めたのに。」


「生憎、首飛ばされた程度じゃ死ねないんだよねこれが。第一殺しながら生かすって何よ。」


首のない身体が喋る生首を拾いに行く。


「それにジェイド君。出来る限り傷つけないでって言ったのに。」


首を元の位置に戻すと、何事もなかったようにつながっている。


「あ…はい、すみません。」


「よろしい。身体を取り返してくれたことに免じて許してしんぜよう。」


「僕の魔法、もう効かない感じか。つまんないなあ本当に。」


エリンはやる気をなくした声を発して後ろに倒れ込んでしまう。さっきから何なんだ、自分の魔法の種明かしをしたり詠唱始めたり。


「ああいう契約みたい。やっとわかった。」


ヴェールが前に出ながら話しだす。その姿はこれまでのものとは違う、威厳を感じた。


「あなたの目的までは分からなかったけど。もう十分なサンプルは取れた。もし良ければ、帰ってくれない?」


入り口を指さして言う。


「はあ。帰っていいなら帰りますよ。手出ししないでくださいね?面倒なんで。」


エリンはそれに応じてしまう。気づけば、動かされていたこの国の人々は既に動かなくなっていた。


「いいのか?」


レッドが一言だけ聞く。


「いいの。ここでやっても、どうにもならない相手だから。」


その言葉を聞いた瞬間だった


「気が変わった。やっぱりここで終わらせよう。概念射出(死ね、女王サマ)


先程も見たあの黒い何か。エリンが言うには死の概念そのもの。それが、エリンの後ろに打ち出された。

その方向には、とリィズの姿を認識した瞬間。

それと同時。俺が視たのは傷一つなく倒れるリィズの姿。

走っても、叫んでも、間に合わない。そんな未来が見えた。

傷一つなく倒れたその姿にエリンは感嘆の息を漏らす。俺は助けるための手段を何一つ持ち合わせていない。

ほんの一瞬。その一瞬のうちに在り得たかもしれない世界で彼女は何度死んだのだろう。


「…っ!」


声を絞り出して何か、少しでもと。俺の視た未来になかった行動を試みる。

何が変わるわけでもないことはわかっていた。わかり切っていた。

でも、運命は変わらないようで。

なんて嫌な気分だろう。俺のことを慕ってくれて。ついてきてくれて。信じてくれたのに。

その存在に死が撃ち込まれる瞬間が、こんなにゆっくり、はっきり見えてしまう。

自分の手は彼女には届かない。

その事実だけは間違いなく理解できてしまった。

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