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死で遊ぶ男

でも、まずはこの人たちの開放が急務になる。あいつの相手は、その後だ。

この国に来てから何日も経つわけじゃないし、正直言ってそこまで強い思い入れがあるわけでもないが、だとしても。この惨状を見て、怒りを覚えるなと言うほうが無理な話だ。


「…ごめん。」


一言。

その言葉だけを口にして、リィズは彼らの首を後ろからはねていく。

一つ、また一つ。断面からは血が噴き出る事すらない。

もう彼らは、言葉も発さずに俺達に襲い掛かってくる。爪で、歯で、あるいは生前持っていた道具で。

その力はあまりに弱く、軽く退けるだけで対処できる。

足をつかみ、腕をつかみ、髪の毛を引っ張って。

もう残っていない力で俺達に襲い掛かろうとする姿に、俺たちは何も言えなかった。

その姿を見てあいつは、エリンはこう漏らした。


「こんだけ手間かけて手駒にしたのに使えねぇなあ…」


その言葉が発された瞬間だった。

あの槍が、入り口からエリンめがけて飛んでいく。

一直線に頭部めがけて進むその槍は、エリンの目の前で勢いを完全に失って地に落ちてしまう。


「あれ、なにこれ。こんなのが届くわけないじゃん。」


槍を蹴飛ばし、嘲笑うように観客席に座る。


「はぁ、やっぱりそうだよな。どんだけ頑張って来てみても、俺じゃあ、届かないよな。」


ため息をつきながらレッドは俺達に向き直る。


「見ての通りだ。ヴェールちゃんとの契約が生きてる以上、その身体と魔法でつながってるあいつに対して俺じゃ傷一つ負わせられない。でも、あいつらになら、俺の刃は届くんだ。この国の人間に、これ以上お前たちに危害を加えさせることはしない。俺がさせない。だから、頼む…」


「そこまでだ。あんまり国の上の方の人が頭を下げるもんじゃない。利害も、意思も一致してるんだろ?ならやることやるだけだ。だろ、ジェイド?」


ギエルさんがレッドの言葉に割って入る。


「当然です。こんなに許せない人間、俺はほかに知りません。」


「ついでに私のことを未だに諦めてないこともしつこさの権化みたいでムカついてきたのです。やり方も考え方もいちいちねちっこい上に他人に不快感しか与えないのです。」


元々、俺たちがここに来たのはウェーデルと協力関係を結ぶためだった。

でも今、俺たちはこの国の危機を救おうとしてて。俺達より数段強い人から、それを頼まれてしまってて。俺も、こいつが許せない。


「この国の人たちは、任せます。」


「ああ、責任をもって全員俺がきちんと殺し切る。」


出会ってからの時間なんて微々たるもののようなのに、俺たちは自然にお互いの考えが分かるようだった。


「あいつらがこんなに使えないなんて。ちゃんと俺がやらなきゃダメじゃん。」


エリンはそう呟きながらおもむろに観客席からコロシアムに身を投げた。

ぐしゃ、と頭と地面がぶつかる音がする。

血は飛び散らず、肉片が辺りに散らかっただけだ。さっきのケニンと言い、あいつも生きた人間など等にやめていることがよくわかる。

しかし、これまでのようにその身体が動き出すことは無く。

代わりに、ヴェールの身体が動き始める。

さっきまでのように宙づりではない。自分の足で、動いて、喋りだす。


「やっぱり、この体おかしいよな。何にも特殊な感じが無いのに何でもできちまうんだもんよ。」


「行くぞジェイド。さっさと終わらせて、ヴェールちゃんを元の身体に戻す。あいつへの対応は全員が揃わないと無理そうだ。どうやったら殺し切れるかわからん。」


ギエルさんが俺を脇に抱えてコロシアムに降りる。


「さあ、今回のチャレンジャーはこの二人…なわけないよねリィズ!どこに居るんだい!?」


どこからも返事はない。それでいい。リィズなら、あいつの意識の外から地名の一撃を加えられるかもしれない。


「あれだけやっといて俺達だけ、ってのは不満か?」


「ああ。とても。だってこれまでの僕の行動は全部、彼女に会うためだけのものだったんだから。彼女は僕に愛されるからこそ輝くんだよ。断じてお前らのような奴等じゃあない。」


何を言ってる、と考える自分を止める。考えてわかるなら苦労はしない。


「あいにくと、あいつは今俺たちの仲間なんでね。」


剣を構えて、駆ける。


「おいおい、この身体は大事にしてくれよ。一品モノだ。」


エリンが指先で空をなぞる。

そこには火も水も電気も、様々な魔法が順々に展開されていく。

その瞬間見えるのはそれらが何もかもフェイクだという未来。

あれらを俺に、あるいはギエルさんに向かって放つこともできる。そういう未来もあるが、なぜかその瞬間にヴェールの身体が解放されている。

だからなのか。奴は、俺たちの攻撃を延々と待ち続ける。俺が踏み込もうとするとそこには極力見え辛くされたおびただしい数の罠が仕掛けられている。

ネズミ捕りのようなものから毒の付いた刃物まで、いたるところに設置してある。

俺はどう動こうとも、ほとんど…それこそ、九割を超える確率で何かしらにかかっている。そして、俺を助けようとしたギエルさんがまた別のものにかかり、最後にはリィズも薄化を解いて出てきてしまう。

毒は神経毒、麻痺させるもので致死性自体はない。だが、即効性が強いようで、


「…っ!」


そこまで見えたところで試見をやめる。自分の不注意で二人を危険にさらし、命の危険を感じさせるなんてもうごめんだ。

罠のない場所はわかった。

狙うのは首元。そこに至れば殺してしまうんだろうが、どうせこいつは死なない。

身体に傷をつけない様に、って話だったがこの状態でそんなことを考えていられる相手でもなさそうだ。


「ギエルさん!足元、罠あります!それも尋常じゃない量が!」


「ちっ、なんでばれてんだよ!お前一番何にもできそうにないじゃねぇか!」


「失礼な言葉だが、大正解だよ。」


あいつが感情的に声を荒げている時間があれば、俺程度でも懐に入り込むくらいはできる。

構えた剣を振り下ろす。


「…お前、正気か?」


俺が躊躇なく振り下ろす剣を想定していなかったのだろう。俺はその質問に答えることなく、ヴェールの首を落とした。

彼女の身体からは血が噴き出し、音を立てて倒れた。


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