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不死の番兵

ウェーデルにたどり着くまでの道のりは拍子抜けするほどに何もなかった。

てっきり妨害の一つや二つは来るものと思っていたのだが。


「さて、ここまでは何事もなかったわけだけど。」


「身体の所有権を取り戻すまでくらいの足止めはやってくると思ったんだけど…全くなかったわね。」


ウェーデルの面々もここまで何もないという状態は想定していなかったらしく、面食らっているようだった。


「まあ、戦力を温存できたと思えばいいんじゃないですか?まあ私に戦うだけの能力はないわけですが…」


というヒラソルさんの言葉には同意できる。戦闘以外の事柄をほぼ丸投げしているのだから、戦力になるかと言われたら大きな戦力なのだが本人はそれをなかなか認めようとしない。


「じゃあ、行きましょう。ヴェールさんなら大手を振ってご本人の身体のある場所まで行けますし…あれ。」


リムは今になって違和感に気付いたようで。


「リィズ様。ヴェールさんは当然、直接戦闘組…ですよね?」


出発前の確認に彼女の名前が無かったことに今気づいたようだ。


「違うのですよ、彼女は完全待機。彼女にも彼女の事情があるのです。」


「一番の戦力になる気がするんですけど、せめてその事情を…聴いてる時間が惜しいですね。わかりました。それで行きましょう。」


「あら、凄く物分かりが良い。さっきの子とは思えないわ。」


ブルーが感心したような、驚いたような声を上げている。


「じゃあ、ここからは別行動だ。そっちはそっちで、頼んだぞ。」


レッドはそう言い残し先陣を切る。次いでギエルさん、俺、リィズの順だ。

事前に身体の在処は聞いてある。おあつらえ向きに例のコロシアムの奥に居るそうだ。

街並みをすり抜けるように走り、一直線に向かう。

とはいえ、流石にここでも好き勝手させてはくれないみたいで。

コロシアムの入り口には門番だと言いたげな風体で仁王立ちしている男が居た。


「あー、あんたこの国の人間じゃねぇし、通してはくれないんだろ?」


レッドが話しかけながら心臓に向けて躊躇なく槍を突き出す。


「いかにも!某はこの場の守護を任されたケニンと申す!いざ尋常に!」


などと叫んでいるが、その間に彼の槍は心臓を貫いている。


「おっ…!?」


自分が刺し貫かれたことに気付き、その口から血を吐き出す。

だが、心臓を一刺しにした槍とその持ち手であるレッドを見比べ、笑みを浮かべてケニンと名乗った男はその槍を自らの身体から引き抜いた。


「は?」


間抜けな言葉を漏らしたのは俺だった。ケニンの横を、通れないのだ。

見えない壁のようなものがある。殴って壊したり切り裂いたりできる硬度ではないし、そもそも大きさがわからない。

見ればケニンは槍を引き抜き、胸から噴き出す血を顧みることもなく槍を持ったレッドごと放り投げていた。


「痛ってぇなてめえ…投げてんじゃねえよ。」


土を払いながら立ち上がり、槍を構えるレッド。


「某はこの場から何人も通さぬようにと仰せつかっております!たとえ他国の王家の者であろうともそれは例外にはならないのであります!」


もうとっくに致死量の出血のハズだ。なのにこの男は何故立って、叫んでいる?


「そこな王族の方!この体が死に至らないことに疑問を持っておられますな!お教えしましょう!これこそは我らがカンビオの長たるお方の魔法によるもの!我が肉体は死を超越し、今度こそ守りたいものを守り切れるようになったのであります!」


そう高らかに宣言する。

だが、こいつ今なんて言った?死を超越?そんなのは今はどうでもいい。


「おい、カンビオの長は魔法を使うのか?科学を良しとし、魔法を排斥するのがカンビオだろう?」


俺は刀を抜いて、ケニンに問いかけていた。仮に。こいつの言ったことが本当なら、俺の経験したあのループでは確証が持てなかった情報が確信になる。


「あのお方の思考は某には理解できませぬが、魔法を使えるとは伝えていいと仰せつかっております!」


「ふーん、そうなのですね。でも、そろそろ邪魔なのでどいてほしいのです。」


リィズの声はコロシアムの中から響いていた。


「な…なぜ中に侵入できているのでありますか!某の目を盗んで侵入することなど不可能!」


「さて、なんででしょうね~聞きたかったら中に入って捕まえてみたら?」


手をひらひら。煽るのもちょっとずつ上手くなっているようで。『薄化』の魔法で存在そのものが希薄になったリィズにはこの障壁は機能しなかったということか。


「………いや、いや!某のなすべきことはこの場所の死守。ここな残り三名を通さなければそれは立派な戦果足り得るのであります!」


「思ったよりちゃんとした思考してるじゃねえか。じゃあ、ひとつ俺も試してみるかな!」


ギエルさんが踏み込む。獲物はレッドと同じ槍だが、その狙いがケニンの命でないことは俺達には伝わっていた。


「某にいかなる攻撃も無意味!もはや死は恐れるに足らず!」


ケニンはさっきのように受けきる体勢。そこにギエルさんの放つ槍が当たる。

その威力は一切ケニンに伝わることは無く、後ろの壁に伝わっていた。

正確に言うと、後ろに展開されている魔法そのものに。

そして、その威力は魔法の構築自体を破壊していた。


「な、何でありますかこれは!某の絶対障壁がこんなにあっさりと…」


「そうか。そりゃたいそうな名前だな!」


もう一撃をギエルさんが放つ。今度はケニンの命を狙う一撃を。

そしてその攻撃を受けきろうとするケニンの背後ではレッドが腰に下げていた刀を抜いて振りかぶっていた。


「じゃあな、死なねえ門番さんよ。」


ギエルさんの一撃はまたもケニンの心臓を貫いた。

今回はそれだけでは終わらない。レッドの刀が首をはねていた。


「っ…!?」


頭部を失った肉体は倒れるでもなくその場に立ち尽くし。頭部はゴロゴロと地面を転がっていく。


「流石にこれで死なねえってんならやりようがねえよ。」


レッドが吐き捨てる。

と、同時に。そのケニンの身体が不気味に蠢いた。

首元の肉が盛り上がり、形を形成していく。


「あーこれはやりようない奴だわ!すぐ行くからお前らは先行け!」


レッドが叫び、俺たちは無言で頷く。

レッドを一人残し、俺たちは奥に向かう。


「なんなのですかあれは!?夢に出そうなのですよ!」


リィズにもトラウマを植え付けている。正直、あれがなんなのかは分からない。

『死を超越した』とか言っていたがどういう原理で不死なんだ。そんな魔法は聞いたこともないし、ましてそれを他の人間に付与することなど可能なのか。

…仮に、父が生きていたとしたらそれは可能だったのだろうか。


「今は考えても仕方ない。とにかく先に進んでヴェールの身体を取り戻すのが先決だ。」


と返すしかできなかった。


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