制約と作戦
食事も終わり、俺たちは今後の行動について意見を交わしている。
リムは『これ以上リィズ様を危険な目には合わせられません!』の一点張りだしイータは『僕は後方支援に回ることが確定事項だから前衛の行動には関与しないことにしたんだ…よな。』語尾に汗がにじんでいるかのような声で言葉を放つ。ヴェールに至っては『今なら私そのものを敵にしないで済むからさっさと終わらせたいんだけど』とか言い出す始末。少しは情報の共有をしてくれ。もうちょっとまともな作戦会議はできないんだろうか。
「ああもう、こんなになるならさっさと私が決めてしまうのです!」
机をバンと叩いてリィズが叫ぶ。いきなりの怒声に思い思いの声は消えてしまう。
「とにかく、今回やらなきゃならないのはヴェールさんの身体の奪還。ひいてはウェーデルそのものの救出にある。ここは間違いないのですね?」
皆無言でうなずく。俺も含めて。
「ならそっちにまずは戦力を割くのが先決なのです。ヴェールさんはここに参加できないっぽい空気醸し出してるのでたぶんダメなのです。こっちにはギエルさんとジェイド、あとレッドさん、あとは私の四人少数精鋭の形をとるのです。」
…俺だけ敬称が無いんだが。一応リーダー、のハズだよな?俺達の中で。
「ちょっと待ってください!これ以上リィズ様を危険な目に合わせるわけにはいきません!ジェイド様はまだしも、リィズ様は他方に向かってください!」
まだしもってなんだ。
「ジェイドは『試見』で周りの危機を察知して窮地を救う役割を担ってもらうのです。それの護衛には私が。主戦力としてギエルさんとそこなレッドさんの二人を添える形なのです。」
「その護衛はリムの方が適任です!リィズ様はジェイド様を特別視しすぎです!リムの方が多機能的な魔法の応用が聞きます。リィズ様にはリィズ様にしかできないことをやってもらわなければ困ります!それと、戦力として明らかに抜きんでていることが分かっているウェーデルの方々からレッド様のみを選出なさった意図を説明頂きたいです!」
まくしたてるように反論するリム。俺の存在が軽く扱われているようにも聞こえるが、一応守ろうという気はあったようだ。守られてばかりにならないようにしなければならないのも本当だが、今の俺では頼りない思いの方が勝つだろう。
「自分の慕っている人の命を特別視してしまうのは致し方のない事なのです。でも、選出にはきちんと意味があるのです。あくまで仮説、とはいえ確信ではあるのです。」
「前半の話は置いておいて。その理由とは何なんですか?納得する理由ならちゃんと意見も通します。」
「簡単な話なのです。ここのウェーデルのメンバー、全員ヴェールさんに敵対することができない様になっていると思うのです。たぶん、継承の受諾における定めか何かで…」
確かに、『俺達には出来ない様になってる』とあの森で言ってた。でもそれ、リィズは聞いてないはずでは…?
「その通り。だからあんな手順で君たちを無理やりでも協力する形にした。本当に済まないと思ってる。そうなってる理由もドンピシャで正解だ。ウェーデル国民は皆ヴェールちゃんに継承の承諾をしている。だから反旗を翻せないんだ。たとえ中身が違くとも、体はヴェールちゃん本人だからな。」
レッドから即座に種明かしが入る。そういうことはもっと先に言ってほしい。確かに、気付ける要素はあったとは思うが。
「そして私が直接前線に立つのも、私の魔法が一番混戦時のサポートに向いているから。そして、私の魔法ときちんと契約しているのはジェイドだけだからなのです。」
「ジェイド様…そんな話初めて聞きましたよ?本当なんですか?」
確かに、している。ややもすれば俺をこの場で尋問しかねないような迫力に押されて俺は首を縦に振った。
「さ、これで文句はないはずなのです。」
強気にリムに言い返すリィズ。リムは反論したいようだが言葉が見当たらずに呻いている。
「それに、リムには後で別に頼みたいことがあるのです。」
「本当ですか?なんだか煙に巻かれる感じがあるんですけど…」
さしものリムも怪しんでいるが、結局このメンバー構成が変わることは無かった。
残りの人員は主に市民の保護。と言ってもウェーデルの人々は皆一定以上の戦闘は出来るようなので、ヴェールの身体を乗っ取っている張本人の仲間に備えることになった。
そしてその張本人も、恐らくはエリン。姿を変えるのではなく、他人そのものを奪い取る魔法だとすればきっと可能だろう。なぜこんなことをするのか、それは皆目見当もつかないが、看過できる事態でもない。今後の俺たちの行動のためにも、きちんと決着を付けなければ。
「さて、じゃあ話は決まりましたね。ジェイド、リィズ、レッド、ギエル。その四人でヴェールさんの本体の奪還に向かいます。その間残った私たちは市民の安全確保。また、ヴェールさんの身体を乗っ取った者への援軍などへの対処。これで間違いありませんね?」
ヒラソルさんが会話をまとめ直す。
「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか…」
ホワイトが小さく手を上げる。
「身体を乗っ取った者への援軍…さも当然のように言ってますが、心当たりがあるんですか?」
そうか、確かにエリンの話はしていなかった。
「あ、いえ。僕もこれが個人の享楽によるものだとか考えてるわけじゃなくてですね…」
話すべきなのだろうが、ヴェール本人も言っていたようにさっさと終わらせに行くほうが良いだろう。ヴェールの言う『抑えていられる時間』もそう長くはないはずだ。
「あー、いいのいいの。エレは真面目だから気になっちゃうだろうけど、私はもう知ってるし後で皆に伝えとくから。」
横から回答したのはヴェール本人だった。
「あ、はい。そうだったんですね…失礼しました。」
カンビオとグランツの対立だとか過去のあれこれを説明した覚えはまるでないが、本人が言うんだ。何かで知ったんだろう。どうせ俺の心を読んだ魔法をここの誰かに使ったとかで。
「じゃあ、今すぐにでも出発したほうがいいんだよな。」
やっと終わったか、とでも言いたげなくらいにやる気のない声だった。たぶん寝てたな。
外を指さすので見てみれば、家の前から他の不要なものを一切えぐり取ったような武骨な一本道がウェーデルに向かって作られていた。
「話してる間に作っといたんだよな。僕もたまには優秀でしょ。」
ふん、と鼻高々な様子のイエローをこっそり写真に収めているブルーを見たことは黙っておくほうがよさそうだ。
「おー、姿が見えないと思ったらそんなんやってたのか。もうこんなん、立派に宣戦布告じゃねえか。」
レッドも言っているが確かにそうだ。向こうからすれば自分の奪っている身体の支配権をいきなり邪魔された挙句に森の中から国に向かう一本道がいきなりできている。偶然とみる方がおかしいだろう。
「普通はもう少し綿密に作ると思うんですよ、作戦って。」
エテルノさんも多少呆れたような顔をしている。
「でもま、ここまでやっちゃったら後にも引けないでしょ。向こうも流石に気付いてるだろうし。ってわけで私の身体奪還作戦開始!」
美味しいところだけ持って行った号令と共に俺たちはウェーデルに向かって走り始めた。




