その時までは。
「さ、とりあえずこんなもんにしときましょうか。」
ヴェールちゃんが試合の終了を宣言しようとする。
…が。
「いやいやちょっと待て!俺の番はどうなったんだよ!」
レッドが猛反対している。まあ彼の性格ならそうなるだろう。『先に』僕が~とか言ってたから先に出ることも認めてたし。
「ちゃんと後で出番はあるから、今はご飯作って。おなか減ったしそろそろ皆で話も進めたいから。」
魔法になった、と言ってたが腹は減るのか。ヴェールちゃんはまだまだ分からないことが多い。
「んー、なるほど?そういうことならまずは飯にするか!料理はささっと作っちまうからテーブルの準備でもして待っててくれ。」
やけにあっさり引き下がるな。何かあるのかと思ってジェイドの方を見るが、向こうも首を振っている。少なくとも、『試見』出来るような何かは無い様だ。
「じゃあ皆で家に戻りましょー!」
ヴェールちゃんが走ってさっさと帰るのを見て、他の面々も家に戻り始める。
相も変わらずヴェールちゃんはこの瞬間にカメラを持っていたなら絶対にシャッターを切っているくらいには可愛らしく走っていたが、その後ろ姿を見てふと気づいてしまう。聞くのなら今しかないと。
「なあレッドさん。あんた、ヴェールちゃんのこと、好きだろ。」
女性陣の視線が一斉にこっちを向く。こういう話には特に敏感なようで。
だがレッドは
「当然!この国に住んでるやつで嫌いな奴を探すほうが無理ってなもんだ。じゃ、俺は準備があるからお先に!」
とか返してさっさと行ってしまう。逃げられた。
「ふふん。そこは私がお答えしておきましょう。なに、歩きながらでも家に着くまでに終わる話よ。」
ブルー…いや、名前で覚えるべきだろうか。ロセが話し出す。
「彼、ヴェールちゃんのことだーい好きなの。そりゃもう、本人が言わなくても国中にばれてるくらいにはね。」
相当じゃねえか。
「でも、本人はそれを良しとしてない。本人たちが話してないからはっきりは言わないけど、ヴェールちゃんが今こうなってるのも半分くらいレッドのせいだから。自分が成すべきは彼女の幸せを一つでも作ることだと胸に決めてるの。」
全員に話しながら歩き続ける。
「国中が分かってても、皆応援するつもりでも、本人がどうあっても一歩を踏み出さないの。ヴェールちゃんもレッドの事大好きだからいっつも絡みに行くのに当のレッドがそれを普通に流しちゃうんだからあいつもなってないわよね、って話。はい到着。準備しちゃいましょう。」
過去に何があったか、を聞くのはきっとタブーなんだろう。俺たちみたいな出会ったばかりの他国の人間に話すこともなさそうだ。
ジェイドたちともこの件については、少なくとも今は変に深追いしないことにした。
そうして食事の準備をし、持ってこられた料理は短時間で作ったとは思えないほどに美味しいものだった。料理の腕でも負けているのが悔しいし、なんでここの国の人間は一芸どころじゃなく長けてるんだ。
時間はほんの少し戻ってレッドがキッチンに行ってからすぐ。
私は、自分用に作った部屋に居た。
うちのレッドが頑張って料理を作ってくれている間に。私はやることをやらなきゃならない。本当は守ってもらったり、彼の後ろに隠れて雄姿を見ていたりしたいんだけど。
この場で一番強いのが私で、一番の原因になってるのも私なんだから仕方ない。
「さて、たまには頑張らなきゃ。そろそろ自分の身体が勝手に使われるのも嫌だしね。」
今の私の手は小さくて、きっと彼に握ってもらったら彼の手がとっても大きく感じるんだろうな、とか考えながら自分の身体に干渉する魔法を組み立てる。
今回は五つくらい併用すれば自分の身体の支配権は一時的にでも自分に戻せそうだ。
「思ったよりかかっちゃうなぁ。出来れば三つくらいに抑えたかったんだけど。」
ぼやいても誰も返してはくれない。まあそうだろう。自分の部屋は外に聞こえる音をコントロールできるようにできている。
「じゃあ、頼むね。サーク、ウェンダ、セテ、ダン、ニーダ。皆の協力で、今日からの私が変わるから。」
呼んだ名前はかつての同志。私の為に命尽きても協力してくれる優しすぎる人たち。
自分自身の身体くらい自分一人でも特定できる。ならそこにかけられた魔法を『解錠』し、中に居る不届き者を『排出』。その状態を『保持』する魔法に『統合』して、自分の身体に『伝達』する。これだけでも数時間か、上手くいけば数日は動きを止められる。
「はぁ、疲れた…皆、いつも協力ありがと。こんな目に合わせちゃってごめんね。」
自分だけの部屋で大人数と話すかのように独り言を言うさまは何も知らない人が見たらとても異常な光景なのかな、なんて考えるとちょっと笑えてしまう。
まだ少し時間はありそうだし、睡眠でもとっておこうか。でも、もう魔法に身体を書き換えてからは眠気もなければ疲れもない。おなかも減らないし、食べても味がしない。水が無くても生きていけるのは自分自身で実験したし、なんなら首が飛んでも生きていた。
全てここと同じ造りの部屋で実験したことだし他の人間が知る由もないが、察せられててもおかしくはなさそうだ。うちの人間はカンが良い人も多い。そう言えばオラリオンから来たって言ってたあの一行はどうなんだろう。私のことには気づいてるかな。あとでちょっと心の中を覗き見してみようかな。
誰に言うわけでもない言葉を自分の頭の中でずっと反響させて、自分で会話にしていく。こんなことやるくらいなら、と思ってアイドルなんて始めてみたけどあれは失敗だったかなぁ。歌ったり踊ったりするのは楽しいけど汗を作るのには苦労した覚えしかない。汗一つ流さずにライブをやり切るアイドルなんて、そうそう居るはずもないし。
「まあ、ちょっと睡眠っぽいことをしてから向かおうかな。」
今日の夢は何にしよう。自分の身体を全てコントロールできる以上、夢の代わりに頭に浮かぶ光景も自分の思うままだ。まあ、何にしようかと考えるまでもなく、私の夢もどきは一択なんだけど。
今でも忘れない、自分が魔法になっていく感覚。自分の身体が自分のものではなくなっていく気持ち悪さ。無理やりにでも止めようとしてくれたレッド。いや、あの時にはまだ名前もあったっけ。でも、その当時の記憶は皆改変しちゃったから私に都合のいいようにしちゃったし。あの時は本当にうれしかったなあ。私の愛する人が私の為に命がけで助けに来ようとしてくれて。結局上手くいかなくて、私を見ていい男が台無しになるくらいに泣いちゃって。
でも、そのおかげで今の私がある。後悔はしてない。不満はあるけど。
いつかは彼の方から私にちゃんと言葉にしてくれるはず、そうなったらどう返そうかな。
もう人間じゃなくなってて。私の行動のせいで彼の人生には大きな大きな枷がついちゃってて。
でも、いつか来るその時に、私はなんて応えようかな。
ああダメだ、また夢から脱線しちゃってる。あの時のことをちゃんと覚えておかなきゃいけないんだから。
でも、ここまでみたいだ。下の階から呼ぶ声が聞こえる。新しく戦力として数えられそうな人を増やすためにも、私ももうちょっと頑張らないと。
お願いだからその時まで、何もボロを出しませんように。




