小さな、刺客
「レッドさんにも気づかれなかったのは久々なのでいつ名乗り出るべきか分からなくて…」
声も小さい。ずっと居た、と言うがいつから居たんだ?
「はい、ちゃんと自己紹介ね。ハキハキ喋ること!」
ヴェールがホワイトと呼ばれた彼を指さして言う。
「は、はい!えっと、僕はホワイトと呼ばれてます。本名はエレと言います。僕の存在感が薄いのは別に僕がこんなだからってわけじゃ無く、僕の魔法のせいです。僕自身自分の魔法の管理ができていないので、自分の存在感が皆無になってしまうんですよね。」
言われた通りハキハキと、さっきの声よりも大きな声で説明してくれた。
「それで、僕の魔法は『霧消』と言われてます。目の前に居ても突然見えなくなったりしちゃうみたいで、しかもその状態がだいぶ続いちゃうんです。」
丁寧な口調できちんと説明してくれている。
「なあ、俺の覚えが正しければ『残り一人はグリーン』だって言ってなかったか?」
そんな言葉も、あったような…?ギエルさん、よく覚えてるな。
「ああ、戦闘には基本出てこないからなグリーンは。正直なところ、一人って言っちまったのは…ホワイトのことが記憶から抜け落ちてたわけで…。」
「それは…あんまりではないのですか?」
「そうですよ!自分の仲間くらいちゃんとわかっておいてあげてください!」
リィズとリムから猛抗議。
「まあ、先に僕を試合に出してくれれば水に流しますので、そんな感じでどうですか?」
「あー、うん。もうそれでいいよ。」
さっきまでの気弱な感じはどこへやら。堂々と順番をもぎ取っていった。
「じゃあここは俺が行くかな。そろそろやりたいと思ってたんだ。」
ギエルさんが名乗りを上げる。リムもリィズも問題ないようで、こちらの人選も決まった。
「はい、じゃあスタート。」
覇気のない開始宣言で試合は始まった。
…さて、どうしたもんか。
ギエルは悩んでいた。自分の魔法に自信がないわけではなく、実力を信じられていないわけでもない。だが、この国に来てから味わった力の差。あまりにも大きく感じられたそれは目の前の小柄な少年に必要以上の警戒をする理由には十分すぎた。
「じゃあ、僕はこれ使いますね。」
そう言って目の前で取り出したのは、何枚かの札だった。
「|我が命に応じ我が敵を討て《さっさと出てこい》」
なんて雑な詠唱だ。それでも発動するくらいに出来がいい道具なんだから、多分ヴェールちゃんから貰った何かなんだろう。
出てきたのはホワイトにそっくりの何か。明らかに違うところと言えば長剣を携えているところだろう。
「僕の魔法って戦いに向かないうえに制御できてないんで、こういうものに頼っちゃうんですよね。」
こういうもの、なんて言ってるがそんなモノ見たことも聞いたこともない。
「それはしょうがないだろ。戦い方は人それぞれ、文句言う気なんて元から無いしな!」
先手必勝、槍を構えて突っこむ。
あの札一枚一枚がそれぞれあいつの姿に似た分身のようなものを出すのなら、さっさと決めに行かないとどんどん不利になる。
「攻勢を中止、守勢に回れ」
そっくりさんがホワイト本人の前に戻る。そのまま剣を構えて防御の体制を見せた。
「そんなもんで、防げるかよ!」
こういった類の相手は初めてだから分からないが、俺の仮説が正しいなら…
防御の体制を取っている長剣に思いっきり槍を突きつける。当然、防がれてしまうのだが。
俺は、その衝撃を『流した』。
地面に逃がすわけでもなく。まして自分に返すわけでもない。
魔力的に繋がっているはずの、ホワイト本人に武器同士の衝突の衝撃を伝えてやった。
出来るかどうかは半信半疑だった。俺の魔法で流すものを魔法を媒介に遠隔操作したことなんてなかったし、上手くいかなかったらきっと次の札の使用で一気に不利になっただろう。
だが、俺の目論見は当たっていた。小さな体は何に当たったわけでもないのに突然吹っ飛び、
そのまま地面を転がる。
攻撃を防いだそっくりさんは消え、ホワイトは動かない。
「じゃあ、これは俺の勝ちってことでいいか?」
ヴェールちゃんに聞くが、彼女は首を振る。
「まだ、参ったも聞いてないし吹き飛んだだけで戦闘続行不可能にも見えないしね。」
との事だ。仕方がないので倒れたホワイトのところに向かい、槍を首元にあてがう。
「おい、いつまで伸びてる。もう勝負は決した。」
彼は声をかけられるとやっと目を開け
「たまにはちゃんと言いましょうか。伸びろ。」
と、呟いた。
瞬間、ホワイトがずっと握っていた札の一つが鋭利な刃物のように変形し、首元めがけて一直線に伸びてくる。
「てめえ、寝たふりかよ!」
間一髪、槍を振るいその札を叩ききる。
「四方に結を、その地に必滅の光あれ」
気付いた時には、遅かった。
足元にちりばめられた四枚の札。上方に見える三枚の札。
足元の物は俺の四肢を縛る茨と化し、上方の三枚からはいかにも高威力そうな光が降り注ごうとしていた。
「視線誘導、最後の一撃へ」
だが、その言葉の瞬間に光は消え、上方の札が爆散する。
そして俺の胸元には、ホワイトが剣を寸止めにしていた。
槍を持つ手は全く動かない。というか四肢が完全に封じられてる。
その上、戦場だったら命を取られている状況だ。
「参った。俺の油断だ。」
負けを認めるしかなかった。情けない話だ。ここに来てから負けてばかり。フィエリテの嬢ちゃんにもジェイドにも合わせる顔が無い。
「なあ、二つ聞いてもいいか?」
戦闘中、どうしても気になったことがある。
「あ、はい。何でしょうか。」
「お前の詠唱、あれ必要なのかってのと…あと、戦闘中の口調変わり過ぎじゃないか?」
「あ、そこですか。実際は詠唱要らないんですけど、ヴェールちゃん曰く『気分が乗るほうが魔法の調子も良い』らしくて。実際僕の鏡人形も、詠唱あるほうが動きがキビキビしてるんですよ。口調については、なんかテンション上がるといつもあんな感じになってしまって…えへへ。」
俺にかけた魔法を解きながら解説してくれる。
詠唱か…考えたこともなかった。でも、それって意味あるんだろうか…気分の問題らしいが。




