受け継がれる魔法
数十分後、憔悴し切ったイータとやり切った顔のヴェールが戻って来た。
「今日この時からイータの魔法は上書きしましたので、その辺りの周知お願いね。」
「はい…今後は基本的に後方からのバックアップに回りましゅ…あんな戦い方してすみませんでした…」
イータは半泣きでこちらに謝罪しているが、いやそれよりも。
「上書きって…なんだよそれ。さっき言ってた『憧れ』云々の話はなんだったんだよ?」
使用可能な魔法を書き換えるなんて話、聞いたことが無い。それにそんなものがあり得るのなら、どんな魔法でも作れてしまうことにもなりかねない。
「えーーと、これについては話すのが面倒だからちょっと後でね。あとフィエリテちゃん、そろそろ返してくれないかな?」
手首から先がなくなった右腕をぷらぷらさせながらヴェールは言う。
「ちゃんと話してくれたら返しますよ?」
フィエリテは満面の笑みで返す。何となく起こったことの想像はついているが、ヴェール相手に取引をするのは大丈夫なんだろうか、と一抹の不安がよぎる。
言ってしまえば、彼女は右手が使えない状態でも悠々とイータを捕縛、無力化することができたということで。それはつまり、万全でなくともレッドやブルーよりも、おそらくは強いわけで。その気になれば俺達をどうすることも簡単だろう。レッドにもできたことだし。
常に『試見』の自動起動はオンにしてある。万一の俺達の命の危険に備えて。
「やっぱり、あのグループってリーダー以外が優秀なタイプだよね。」
「いやいや、そんなにはっきり言ったら可哀想だろ。ほら、彼も顔とか整ってるし。」
またレッドとヴェールが話してる。今度は完全に俺の悪口じゃないか。事実だと受け止めるしかない内容なのが実に心苦しい。
「で、この条件で話してくれる、よな?」
ギエルさんが話を戻す。
「まあ、仕方ないかな。人質…ならぬ、なんだ?モノ…は違うし、まあいいや。そっちに私の右手が渡っちゃってるのは事実だし。」
「完全に自分の油断と慢心だったけどね。」
横からロセが写真を渡しながら痛いところをついている。
「ぐぬ…言うようになったなほんと…まあいいや。じゃあ私の話だね。こうなった原因の一端であるイータはこの話終わるまでそこで正座ね!」
「はい…」
すっごく素直だ。
「じゃあ話すけど、一応今となっては自分の存在自体が魔法になってる私だけど。元は人間なの。それもレッドと幼馴染。すごいっしょ。」
うんうんとレッドも頷いている。
「私の魔法は『継承』。普通は『けいしょう』って読むんだけど、私はこっちの呼び方の方が好きだからこう呼んでる。読んで字のごとく他の人の魔法を自分のものとして継承する魔法。もちろん条件はあるし、多少の弱体化はあるけどね。」
ここまではいい、と確認をとり話を続ける。
「私の魔法に必要な条件は二つ。相手からの承諾と、相手の絶命。看取ったりする必要はないけれど、生前に相手から私に引き継がれる旨をきちんと了承を得ないといけない。それで最初に私が継承したのが『上書き』。さっきも使った上書きの魔法ね。これは私の方が立場が上と判断した相手にのみ効果を発揮する魔法になってる。効果は相手の上体の書き換え。使用可能魔法、地位、役職、大体なんでもいける。でも、相手の心の問題があるから使い勝手はよくないんだよねこれ。」
「ちょっと質問なのです…今現在、あなたはいくつの魔法を使えるのですか?」
リィズが問う。理論上無限と言うことにもなるが…
「うん。よく使うのは10個くらいかな。全部で言うと130個。これは私があの国で守れなかった人の数でもある。」
一瞬、ヴェールの口が止まる。
「…失礼。今はその救えなかった人を悼む時間じゃないからね。それで、あの国の住人は皆私の契約を承諾している。私は彼らを力の限り守り、国として発展させる。そういう国なんだよ。ウェーデルは。」
国の中が役持ちだらけだったのは『上書き』したからってことだろう。
だが、
「肝心のヴェール本人の魔法化についてがまだだ。」
あれはまるで理屈が追い付かない。
「まあそう焦るなって。私は稀代の天才でね?これでも十やそこらの数の魔法は人間のまま内包できたんだ。でもさすがに人間にもともと一つしか与えられない魔法を抱え込みすぎるのは無理があって。しかもそれが無限に増える可能性すらあると。だから私は私を『書き換え』たわけ。さっきの『上書き』とは別の魔法だけどね。」
「つまり、自ら望んで人間を辞め、魔法にその身を変化させたと?」
「うん、そういうこと。実際、死の概念が取り払われて外見も自由自在。魔法そのものへの理解もぐっと深まったしね。ああでも、絶対に君たちはやらないほうが良い。死を恐れないのは戦いにおいて一番よくないからね。そこなイータちゃんのように。」
名前を呼ばれた瞬間に肩が震えている。顔は下を見て一切動かない。どれだけやられたんだ。
「まあ、こんな感じで、ね?そろそろ返して?」
「…まあ、これ以上をやろうとするのは流石にやり過ぎですね。わかりました。」
右手を振るうと、一瞬でヴェールの元に右手が復元されていた。
「それにしても良い魔法だよねそれ。私も欲しいくらい。」
「ダメです。この魔法を仮に渡すとしてももっと信用できる人にします。」
「ありゃ、フラれちゃった。」
「ところで、その魔法は何なんだ?こっちもそれくらい聞く権利はあるだろ?」
まあ、レッドの意見ももっともではあるのでフィエリテにも頷いて合図する。
「私の魔法は『簒奪』。簡単に言えば奪い取る魔法ですね。相応のリスクと相手の承認が要りますが。」
「なるほど、それであの時『手を貸して』って言ってたわけか!あれで承認扱いになるのはなんか詐欺っぽい匂いがするけどな…ヴェールが引っかかるわけだ。」
「いや、私はそれ気付いて手を貸してたし。」
ヴェールがそっぽ向きながら反論している。
「ちょっとどうなるのか気になって罠にかかってみただけだし。」
苦しい反論だ。
「じゃあ次からはかからないよね?でも残念。もうおしまい。」
と口を挟むのは、いつの間にかそこに居た知らない男だった。
「誰だお前は!」
戦闘態勢を取り声を張るが、この距離まで接近を許している時点で自分の力不足はよくわかっている。
「私はカンビオn…」
「あーもーうるさい。帰って。」
名乗りを上げる間もなく、その男はヴェールに触れられて消えてしまう。
「今のはたぶんあれでしょ。私を殺せるとか思ってちょっと張り切っちゃったタイプのカンビオさん。ここまで来るのは確かに頑張ってるけどでもそこまでって感じ。」
「だよなぁ。全然殺気も隠せてないしイータもそこで正座しながら銃構えてるし。」
見れば、確かに手元に小型の拳銃を構えている。
「それに、楽しく話してる時間を邪魔するのはやっぱり許せないってことで基地までおかえり願いました!二度と来るな!」
全く滅茶苦茶だ。試見が発動しなかったのは一切命の危険が無かったからなのだ。
「とりあえず私の身体の問題を解決したらあなたたちにはあのカンビオを倒すための協力をしてもらおうと思ってます。そっちとも利害は一致するはずだし、問題は無いよね。」
願ってもない言葉だ。元々そのつもりだったのだから。
「じゃあ、続き…やる?次はうちのレッドかもう一人…ホワイトが居るんだけど。」
「え、あいつ今居るのか。全然気づかなかった。」
そう言えばもう一人いると言っていたのをすっかり失念していた。
「あの~…僕、一応ここにず~っと居たんですけど…」
声は足元から。そこに居たのはえらく小柄な、消えてしまいそうな存在感の少年だった。




