『魔法』
「さて、それでは聞かせてもらおう。この国の魔法は何なんだ?」
エテルノさんが話の筋をそちらに戻す。
「本当はもうちょっと後で話そうと思ってたんだけど…後じゃダメ?」
「ダメだ。こちらのリーダーがあんなにされてるんだ。こちらが聞く順番くらい融通してもいいだろう。」
「うわ、あの人面倒なタイプだよ。嫌なことも普通の顔していってくる。」
レッドに耳打ちしてるが、聞こえている。それはもう盛大に。隠す気が微塵も感じられない。
「まあそう言うなよ、どっちみち言う予定だったんだし。」
レッドもそう返したこともあり、次の手合わせの前にこの国の魔法について聞くことになった。
「まず、私たちの魔法もあなた方が使う魔法も何も違わないということだけ先に明言しておきます。私たちは、誓って同じ土俵で戦っています。」
エテルノさんは何か口を挟みたそうにしていたが、今は何も言わずに聞くようだ。なら俺もそうしよう。
「そして、あなたたちに問います。魔法、とはどのようにして身に付くものですか?」
俺達は顔を見合わせて考えるが、それこそ『気づいたら使えるようになっていた』というものが共通の見解だった。何か特別なことをしたわけでは無い。
「そこが、大きな見解の相違です。私たちは、魔法を得る際に必ず『憧れ』たはずです。」
その言葉に、各々思うところはある。
俺の場合は自分の祖国、オラリオンの事件の顛末を聞いた時だ。確かに思った。
『父さんに未来が分かったら母さんの命も助かったのではないか』
と。
他の皆も口には出さないが何か納得したような顔をしている。
「魔法は憧れの具現。一定以上の憧れを最初に抱いたもの、それが発現することが殆どです。」
「それじゃあ、家系によるもの…なんてのはどうなるんです?」
ヒラソルさんが聞く。魔法を使う家系に生まれなかったから諦めている、と以前聞いたことがあるが、今の話の通りなら彼にも使えて然るべきということにもなる。
「家系による遺伝、そんなものは一切ないと言い切りましょう。ですが、子は往々にして親に憧れを持つことが多いもの。大人になるにつれその思いが薄れるものもいるとしても。最初に憧れるのは多くが親。そうなりたい、そう思う心が親と同じ魔法を発現させたとて、不思議はないはずです。」
「では、何故私は何の魔法にも目覚めなかったというのです。」
「ですから、親に憧れたのです。あなたのご両親、商才に恵まれていましたよね?それこそが魔法。人を惹きつけ、自らの話を聞いてもらう。そんなところです。」
開いた口が塞がらないと言う様子だ。ずっと自分が何の魔法も持たないと思っていたら、自分は既に使っています、と言われたのだから無理もない。
「じゃあ今度は俺から質問なんだが。ヒラソルの商売は何度か見てる。でもその行動に魔力は一切感じないし、周りの人々にも強制良くはないように見えた。それはどういう説明になるんだ?」
ギエルさんが問う。確かに、ヒラソルさんから魔力を感じたことは一度もない。
「ですから、『商才』そのものが後天的に魔法によって与えられたものなのです。そこから先は本人の努力と工夫。彼は一切魔法に頼らない道を歩んでいるだけのことです。」
言い表すのなら『自分に才能を与える魔法』…とでもいうのか。
「さて、そのまま私の部下の魔法を紹介していきますね。」
ヴェールがちょいと手招きをしてレッド達を並ばせる。
が、そこで。
「――――――疲れた。」
とヴェールがぼやいた。
「もう普通にしゃべっていい?こう、丁寧な語り口調は性に合わないんだ。」
いきなりか。まあ別に何でも構わないが後ろの方では
「今回は割と長かったな。」とか「それだけ悪かったなとは思ってるんですよ…私も反省してます。」とかなんか聞こえてくる。
「ああ、構わない。俺たちは事実が聞ければそれでいいからな。」
「ありがとー、じゃあ、紹介してくね。」
まずはブルー、ロセを指さして。
「はい、君が精神的にコテンパンにやられたブルーちゃん。彼女は重度の家庭内暴力被害者です。なので、自分をいくつも用意して身代わりにしたかったんですねー。で、それを区別するために名前が必要で。名前、つまりは呼び名が増えるたびに彼女の中には新しい彼女が産まれているのです。」
「えへへ、実はそういうことです。」
ロセ自身は何故か照れくさそうにしているが、そんなものに彼女は『憧れ』たというのだろうか。
「ちなみに彼女の魔法には自分がその時に痛みを感じない以外にもおまけのような利点があってね。彼女、自分が増えるたびにその自分が新しい憧れを見つけちゃってて、人格一つに付き一つの魔法が使えるようになっちゃったんだよ。凄い副産物だよね。」
つまり彼女は、全く違う憧れを持った彼女自身を何人、何十人と内包しながら生きているというのか。そんなことがあり得るのか。
「さあ、サクサクいくよ。次はイエロー、イータちゃんだ!」
「過去を語られるのはちょっと恥ずかしいけど、まあ仕方ないよな。」
「はい、了承も得たので言っちゃうとね、彼女は痛覚障害を持って生まれています。そのせいで、彼女は人体実験にいいように使われてしまいました。手足への薬物、毒物、酷い時には高熱、寒冷、何でもありでした。最後まで痛みもなく、それでも死にかけながら生き残った彼女は復讐を考えます。それが、自分の受けた痛みをそれ以上にして相手に返してあげる事でした…って感じ。この二人はかなり特殊で、『憧れ』ってより目的のための『手段』として発言したパターンね。」
「そ、僕ってば悲劇のヒロインだったんだよな。」
どこか誇らしげにも見えるくらい堂々と言ってのけるが、その境遇は想像をはるかに超えていた。
「…あれ、でもさっき感覚が残ってるって言ってなかったですか?」
フィエリテが問う。そんなことを言ってたような気が…しなくもない。
「あ、そこ聞く?僕の魔法ね、痛みを返す、ってヴェールちゃんは言ったよね。もちろんそれで正しいんだけど、痛みを感じない僕がいくら返しても元がゼロじゃあ意味なくて。僕は自分の魔法に強制的に痛覚を治されちゃったんだよな。いやいやびっくりしたよ?いきなり痛みが来るんだよ。それも尋常じゃないやつ。」
もう、何も言葉は出なかった。この国はどうなっているんだ。
「あ、今ちょっと心外なこと考えたね?この国はなんなんだ~、みたいな。」
ヴェールは読心術でも使えるのか。
「うん、使えるよ。術じゃなくて魔法だけどまあそれは置いといて。この実験をやってたのはオラリオンで、だよ?うちじゃあない。」
場の空気が凍ったのが分かる。俺達のうち、誰もそんな事実は知らないし、やっていたとも思いたくない。
「もちろん、王族がかかわっているわけじゃ無い。それどころか軍部も、国の主要部分は一切ノータッチだった。あまりに綺麗な国過ぎて怖いくらいだよね。だから、疑うことをしなかったのかもしれないし。もしかしたら他国がオラリオンの中で勝手に進めていたのかもしれないし。でも、結局あの国で行われてしまったんだよね。そりゃ、イータちゃんの中のオラリオンの心証は最悪さ。」
納得は、いかない。オラリオンの内部の人物によって行われていた確証もなければ、それがオラリオンで行われていた事実すら危ういと思える。
だが、その非道な実験が行われたのは事実なことは間違いないだろう。
「じゃあ、今の彼女の手足は…なんで着脱可能なのです…?」
「ああそれ。ヴェールちゃんにいい感じにしてもらったらこうなったんだよね。」
いい感じってなんだ。さっきまでの重い話から一転、なんだその理由は。
「それに、僕の魔法はある意味おかしな部分があって…正確に言うと『自分の感じた痛みを等倍以上で相手に強制的に感じさせる』魔法なんだよな。」
はて、どこがこれまでの説明と違うのか。
「そっか、そこの説明もしなきゃだね。じゃないとイータの戦い方はびっくりされちゃう。」
ヴェールが解説に割り込む。
「彼女の魔法で受ける痛みは別に相手から受けなくても良いって話さ。最悪、ここでこの私ヴェールちゃんがイータをこてんぱんのボッコボコにしても、それを敵に数倍にして伝えることができるってワケ。把握したかな?」
なんて理不尽な魔法だ。こっちの攻撃じゃなくても勝手に痛みが飛んでくるなんて。
「さ、それじゃあ次の試合に行ってみようか。こっちからはせっかくだしイータが出るよ。そっちは?」
「じゃあ、ここは私が出ようかなー。あんまり魔法見せたこともないし、良い機会でしょ。」
そう言って前に出たのはフィエリテだった。
「大丈夫?ちゃんと手加減しないでやるからかなり痛いんだよ?」
イータからも、自分が負けることは無いという自信が感じられる。だからと言ってなんで毎回こっちを軽く煽るんだここの奴等は。
「ええ、お構いなく。それよりそっちも散々やられて泣かない様に注意したほうが良いと思いますよ?」
おーおーこっち陣営もなかなか言うなあ…こんなに口悪かったっけフィエリテ。




