第04話 到着駅
「あっ……。」
目が覚めると、右目だけが強烈に眩しかった。
閉じようとしても閉じられず、光が動く。
「右目よし。次、左目を失礼しますね」
やがて、それは左目へと変わる。
眩しさの慣れた右目は、やけに白い天井を映した。
規則正しい小さな電子音が、すぐ近くで聞こえている。
「……ここは」
声が出ない。
喉が酷く乾いている。
そう思った瞬間、急に潤った。
「蘇生を確認。
ユウキ・ミカムラさん、おかえりなさい」
淡々とした声が降ってくる。
ベッドだったものが、動作音と共に椅子へと変わった。
仮装大会だろうか。
白衣の男の目には白がなく、黒で塗りつぶされていた。
肌も灰色だ。
「ああ、私の外見が気になりますか」
「す、すみません」
左手で、空間を叩いている。
まるでパソコンのキーボードを打つように。
「いえいえ、当然のことです」
「我々、ナノナ種が人類と初接触したのは約千八百年前。宇宙種族としては後発に属します」
理解が追いつかない。
視線を左右に走らせる。
ここがどこか、ようやく分かった。
病院だ。
置かれている機器などに見覚えは一つもないが、病院独特の空気が濃い。
目を瞑り、大きく息を吐く。
「ユウキさんは、約三千年の長期休眠状態にありました」
「……俺は」
「あなたは一度死にました」
その一言に、すべてがつながった。
「あっ……。」
コールドスリープだ。
ついさっき、泣き笑いで見送ってくれた両親の顔が浮かぶ。
「宇宙暦3224年の現在、人は三度死ねます」
強い達成感に、思わず両拳を握りしめた。
あまりに簡単だった。
コールドスリープのボタンを押すときは必死だったのに、今は当たり前のように握れた。
「一度目、肉体の死」
目の前に両手を持ち上げる。
白くて、細い手だ。
骨と皮だけだった手よりは、ずっとマシだ。
病後だと考えれば、こんなものか。
リハビリを頑張ろう。
夢に思い描いていた、ムキムキマッチョを目指してやる。
指を開いたり閉じたりさせる。
「二度目、脳の死」
顔を触る。
すべすべのぷにぷにだ。
その瑞々しい若々しさに、うんうんと頷いた。
「三度目、データ消滅の選択」
頭を触る。
薬の副作用で抜け落ちたはずの髪が、そこにあった。
しかも、長い。
毛先が胸を触れ、そのくすぐったさに笑みがこぼれる。
「あなたは今、『一度目の死』を終え、『二度目の生』に移行したのです」
「……なんだ、これ?」
そして、思わず下に向けた目を見開いた。
一拍遅れて、違和感が形になる。
二つの膨らみ。
その中心にある桜色のぽっち。
「……おっぱいだ」
「平均的なサイズです。ご安心ください」
猛烈に嫌な予感がした。
おっぱいが邪魔で見えない下半身に手を伸ばす。
「……ない」
「何がです? 全て機能は揃ってますよ?」
信じられなかった。
だから、両足を椅子に乗せた。
足を開き、そこも両手で開いた。
「なああああああああああいっ!?」
完全に女だった。
いや、実物を見るのは初めてだ。
こっそりネットの動画で見たことはある。
******
「なるほど……。ユウキさんは、男性だったのですね」
「……はい」
あまりに取り乱してしまい、鎮静剤を打たれた。
今どきの注射器は、銃みたいだった。
最初に見たときは、びびった。
プシュッ、という音がした。
痛みはちくりともしなかった。
今は気分がぽやぽやしている。
「データは、名前だけしか残っていませんでした」
「そのため、性別の判断は日本語が分かる人に行ってもらったのですが……」
医者の言葉を聞きながら、今更ながら思う。
今、俺は何語を喋って、何語を聞いているのだろうか。
日本語しか知らないはずなのに、なぜか理解できている。
「まあ、よくあるケースです。気にしないでください」
俺の人生の一大事を軽く流された。
かちんときた。
「いや、ねーよ! あってたまるか! 超気にするよ!」
俺は肘置きを拳で叩き、勢いよく椅子から立ち上がった。
「はい、注射しますよー」
プシュッ、と即座に一発。
ぽやぽやした気分が、さらに強くなっていく。
「あっ、あああっ……。」
「楽にしてくださいねー」
立っているのだがだるくなり、俺は椅子に戻った。




