第03話 64ビット遺跡
「おい~ら、トレジャーハンター~」
遠くで、何かが衝突する音がした。
衛星軌道上から落ちてきたデブリが、大気を裂いて地表に叩きつけられる。
いつものことだ。
俺は気にせず、歌を口ずさむ。
「おい~ら、トレジャーハンター~」
ここは、はるか昔に『地球』と呼ばれたゴミ捨て場。
いまいち当てにならない古地図によると、北米という領域らしい。
「ゴミの中から、お宝発見だ~」
ゴミ漁りとバカにすることなかれ。
世の中には、もの好きはいくらでもいる。
最近は、『太古ブーム』なんてものまで来ている。
どう見てもゴミでも、そこに値打ちが付く時もある。
「ガッポリ! やっぱり! 大正解!」
ただ、この星は砂っぽいのが駄目だ。
すぐに身体のあちこちのギアに噛むから、一日ごとのメンテナンスが欠かせない。
ガイガーカウンターなんて、メーターを振り切っている。
高い金を払い、対放射能ボディに変えて、本当に良かった。
「おーーい! みんな、来てくれー!」
仲間の呼び声が聞こえた。
「おっ!?」
俺はガラクタを放り投げる手を止めると、すぐさま駆け出した。
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「深いな……。」
見つかったのは、奈落かと思うほどの穴だった。
ゴミと土砂が絶妙な具合に積み重なり、その隙間が竪穴を作っている。
「……どうする?」
仲間が怖気づくのも分かる。
さっき石ころを落としたが、音が返ってくるまで数秒かかった。
「そりゃ、行くだろ」
「でもよー……。」
「手つかずのお宝が眠っているかもしれねーんだぞ?」
「……まあな」
だが、トレジャーハンターとして、ここで退くのは嘘だ。
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「想像以上に深かったな」
「二百メートルは下りたかな?」
三人で穴に入り、一人は途中で引き返した。
あいつは、今夜の酒の肴だな。
しっかり笑ってやるか。
「おっ、気をつけろ」
「すまねえ」
ヘッドライトで前を照らす仲間が、段差で躓きそうになった。
だが、俺は暗闇でも昼間同然だ。
暗視熱探知眼球。
トレジャーハンターの基本だよな。
「……ドアだよな?」
「俺に任せろ」
ただ、俺はソフトに弱い。
場所を譲ると、仲間は指先からケーブルを伸ばし、ドアボタンらしきものに接続した。
仲間の目が忙しなく動く。
ハッキングを行っているのだろう。
「すげぇ……。これ、二千年以上前の形式だぞ」
やがて、仲間が息を飲んだ。
「に、二千年?」
「いや、もっとか? 原始的すぎる」
「いけるか?」
胸が高鳴った。
お宝の予感だ。
「楽勝だ。
動力は……。なんだ、これ? 電力?」
電力、聞き覚えのないエネルギーだった。
今はナカマツドライブが標準だ
「はっはっ! 1ナノナカマツで足りるぞ」
「おいおい、大丈夫か? 俺の欠伸にもならねーじゃねえか」
期待が一気に下がった。
「よし、開くぞ!」
動作音が響いて、ドアが開く。
俺は目を見開いた。
「こいつは……。まっさらじゃねえか!」
それは、このゴミ捨て場の星で幾度も見てきた『遺跡』とは違っていた。
荒らされた痕跡が一切ない。
降り積もった埃だけが、静かに二千年以上の時を積み重ねていた。
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「すげえ! これ、64ビット端末だぞ!」
ここは、お宝の山だった。
仲間は黒い箱を解析しながら、興奮している。
「64ビット? 128エクサ規格と互換あるのか、それ?」
「……あるのかな?」
「それより、あれだ。あれ」
だが、俺はもっと気になるものがあった。
この部屋のドアだ。
やけに頑丈そうだった。
遺跡自体はそれほど大きくない。
一通り見て回ったが、この先が最奥だと、俺のトレジャーハンターの勘が言っている。
そこに、何かがある。
「……だな。
ちょっと待ってろ。この64ビット端末で動くはずだ」
期待は、最高潮に達していた。
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「なんだよ、もーー……。」
ドアは開いた。
しかし、天井が崩れ落ち、部屋は半壊していた。
無事な部分には、金属製のタンクがいくつも転がっているだけだった。
近くのタンクを覗いてみる。
何もない。
「まっ、64ビット端末で十分だろ」
仲間はそう言ったが、声には落胆が混じっていた。
腹立たしさに、思わずタンクを蹴ろうとした。
その時だった。
「いや、待て」
「どうした?」
「あれだけ違うぞ」
俺の熱探知が、端に立つ二つのタンクの異常を捉えていた。
タンク内はマイナス187度だった。
「……見なかったことにしてぇー」
思わず目を手で覆う。
嫌な予感がした。
「どうした?」
「たぶん、人だ。生きてる」
仲間の戸惑いに、ため息で応える。
「……マジかよ」
仲間も、ため息を落とした。
宇宙には、三つの国がある。
それぞれの主義は相容れず、二千年近く戦争を続けている。
だが、たった一つの共通する法がある。
生存者を発見した場合、救助は絶対義務だ。
これがあるからこそ、人々は宇宙を探査できた。
灼熱の星だろうと、極寒の星だろうと、ブラックホールへの突入すら。
それが、人々の版図を広げた。
「ここへ来て、まだ一週間だよな」
「……大赤字だな」
「64ビット端末なら! 64ビット端末なら!」
「それ、この辺境まで来る燃料代になるのか?」
「たぶん……。きっと……。」
「お前が穴を見つけたからだ!」
「うるせー! お前、ノリノリだっただろ!」
つまり、俺たちは帰らなければならない。
地上ではなく、最寄りの文明圏へ。




