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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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39話 罠

 地上に出ると兵士たちが集まっていたんだ。


 ヒューゴもリアムたちのところへ行こうとしたけれど、兵士たちに危ないからって止められたよ。


 リアムは男の人を背負ったまま、屋敷に入ると記憶を頼りに医務室を探したんだ。


 アニバルの時代、領主の屋敷は住居であり、政治を行う施設であり、兵士の訓練施設もあったから怪我人がでたときのために医務室もあったよ。


 現代のガルシア領主の屋敷は兵士の訓練施設が別になっているけれど、領主一族のお抱えの医師が滞在できる部屋はあったんだ。


 リアムはなんとか医務室らしいところを探し当てて、男の人をベッドに寝かせたよ。


 現代医療の知識が皆無のリアムは、大小形が様々な魔法具に腕組みしてうなっていたよ。


「どれが、何に使うんだ?」


 カジミールが軍の医師を連れてきてくれたよ。医師は魔法具を一通り確認してから、魔力回復の魔法具で男の人を治療し始めたよ。


 リアムは敵を助けようとするカジミールに興味がわいたよ。


「手伝ってくれたのは嬉しいが、騎士団長は敵を助けるのか?」


「俺は騎士だ。騎士は人を守り助ける役目である。それに領主の息子なら人質として生かす価値もあると考えたまでだ」


 むすっとしたまま言うよ。照れ隠しに見えたけれど、リアムは触れないであげたよ。


 眠っていた男の人の顔色が戻り、目を覚ますと、ランバート人が治療していることがわかったみたい。少し警戒したように、寝ながら周囲を見ていたよ。


『起きたか。気分はどうだ?もう少し俺が行くのが遅かったら、本当に危なかったぞ』


『神帝陛下…』


 安心したのか泣きそうだったよ。


 リアムは、男の人の魔力の回復具合を確認したよ。


『誰も行かなかったら、どうするつもりだった。本当に死ぬところだったんだぞ?』


『あなたが来てくださると信じていました』


『俺は現代の屋敷の構造も技術も知らなかったんだぞ。脱出通路のことを忘れていたかもしれないし』


『でも、助けに来てくださったでしょう?』


 疑いのない眼差しにリアムは苦笑したよ。リアムが来るとしか考えていなかったみたい。


 エリシアに言われてリアムは知った訳だし、幸運だったとしかいいようがないね。


『領主の息子か?名前は?』


『ガルシア州知事の三男、イサーク・フェゴと申します』


『イサークね。少し休んでいろ』


 リアムは将軍のところには行かず、フーのところに行ったよ。ジョゼフィーヌたちの姿もあったんだ。


「ぱぱ、おなかすいた」


「ごはん全然食べてないもんな。狩りに行っておいで。あんまり北の方は行くなよ。強い魔物がいるから」


 氷の鳥がフーを見つけたらどうなるのか、リアムは不安だったよ。  


 シランス副騎士団長が氷の鳥と火の鳥が出会うと、世界が滅亡する的なことを言っていたし、フーはまだ子どもだからね。大人の氷の鳥に負けてしまうと考えたんだ。


 将軍の部下が来て、フーを一人で狩りに行かすなと言うんだ。フーに逃げられたくないみたい。


 将軍といえば、フーに乗ろうと鞍にまたがったはいいけれど、五階くらいの高さで怖くなって、それから乗っていないよ。根性ないよね。


 だから、フーに乗って帝国を攻めてよう!計画はなくなったよ。リアムは初めから、こいつ無理だろうなと思って提案していたみたいだけれど。


「ジョゼフ、頼める?」


「え?俺?」


 リアムはジョゼフに耳打ちしたよ。


「帝国側の情報がほしい」


 ジョゼフは承知したような顔をしたけれど、初飛行だからちょっと怖かったよ。


「バヤールだと、チビるかもしれないし」


 わざと大きな声にしたら、バヤールがムッとしたよ。


「あぁ?俺がチビるって?」


「バヤール、一人でフーに乗れる?」


「遠慮させていただきます」


 こちらもあまり根性なさそう。


 フーが飛び立つと、リアムは将軍のいる謁見の間に行ったよ。


 謁見の間も天井が落ちて瓦礫だらけだったし、空がよく見えたよ。


「こんな壊れた場所ではなく、もっとましなところはないのか!」


 将軍が補佐官に怒っていたよ。ヒューゴは、部屋に入ってきたリアムをチラリと見てから助言したよ。


「目ぼしいところを探しています。ですが、ほとんどがこの屋敷を模倣して造られていると聞いていますので、今更行っても破壊された後かと」


「では、進軍するしかあるまい」


「食事を取られてからの方がいいでしょう。シエロまでは距離があります」


「そうしよう。おい、傭兵。屋敷には何もなかったのか?」


 本来皇帝か、領主が座る椅子に将軍が座っていたよ。まるでここの主かのようにね。


 リアムが答えないと首がギュッと絞まったよ。わかったわかったというようにジェスチャーをすると、緩んだんだ。


「…宝物庫は無事のようです」


「ほう。逸品を持ってこい」


 と言っても、鍵がなかったから開かなかったんだ。リアムは合言葉を言えば開くことを黙っていたよ。兵士の誰かが、リアムが別の部屋で呪文を唱えて開けていたと言っちゃったから、渋々開けたんだ。


 宝物庫には仕掛けはあったけれど、解除しろと言われたから解除してあげたよ。


 金品、宝石の(たぐい)はあったけれど、リアムの目に止まったのは杖だったよ。


 カリナがくれた魔法具の杖は、ランバート王に奪われてしまったんだ。でもあの王様は使いこなせず、それに怒って見向きもしなくなったらしいよ。


 リアムは杖を取ろうとしたのがバレちゃったから、宝物庫から追い出されたよ。


 カジミールにその様子を無言で見られていたのが、ちょっと気まずかったんだ。


 リアムが欲しかった杖をカジミールが手に取ったんだ。しげしげと見つめて、これは凄いと呟いてから、ちゃっかり自分のものにしていたよ。


「盗むなよ」


「この屋敷を占領したのは我々だ。これはヒューゴ様にお渡しする」


「シランス卿が持つならいいけど。結構な使い手じゃないと使いこなせないぜ」


「分かっている。私だって今ここで使いこなせる自信はない。ただ、これがあれば貴様が魔法具を止める魔法を使っても、問題ないだろう?」


「領主なのにコアなしの魔法具持ってないのか?」


 カジミールは兵士たちが宝物庫に出入りして、誰も近くにいないのを見てから小声で言ったよ。


「あの方は生まれつき魔力がない。貴様が発動したら、あの方を守る魔法具では心もとない」


「…わかった。シランス卿の防御魔法具は止めないでおく。あんたは大丈夫だよな?エドおじちゃん並みに魔力ありそうだし」


 急に父親の名前を出されて、カジミールは一瞬動きを止めたけれど、すぐに歩きだしたよ。


「私のことは気にしなくていい」


「わかった」


 謁見の間に戻ると、カジミールはヒューゴに杖を渡そうとしたよ。それをヒューゴは将軍にと勧めたんだ。


「とても素晴らしい杖があったようですよ」


「…貴殿が持つといい」


 この将軍もカリナの杖を使いこなせなかったみたい。軍のトップなのにね。


「ありがとうございます」


 ヒューゴの手に杖が渡ると、昼食後に進軍という話になったよ。


「そういえば、帝国に占領したことを宣言したので?」


 リアムはエリシアのお願いを聞こうと思って、話題にしたよ。


「連絡ぅ?」


 将軍はガルシアを掌握したと、謁見の間の綺麗な椅子に座って満足していたみたい。ランバート王が帝国の皇帝になったら、ガルシアをもらえると思っているようだね。


 将軍の補佐官が、連絡はまだですと耳打ちしていたよ。


「体裁として、ガルシアを占拠したと内外に宣言すべきかと」


 ヒューゴはあえて話題を出すリアムの言動に注意しながら、合わせるように言ったよ。


「確かこの広間に通信魔法具があったかと。前に来たときにガルシア領主が皇帝と会談していたのを見ました。壊れていなければですが」


 カジミールも何故か協力してくれたよ。ヒューゴがリアムに協力的だからかな?


 将軍が食事をとった後に、魔法具で帝国に連絡を入れることになったよ。


 リアムはジョゼフィーヌたちと食事をしようとしたけれど、ヒューゴに呼ばれたんだ。


 壊れていない部屋の一つにヒューゴと補佐している彼の息子と、カジミールの姿があったよ。


 どこからか調達したのかわからないけれど、シチューとパンがテーブルにあったよ。


「君も食べなさい」


「ありがたくいただくよ。それで、俺を呼び出したのは?」


「カジミールから聞いたよ。皇帝と話したらしいね。半分エルスター語で彼はわからなかったらしいが」


「千年前の思い出話をしただけだ。この屋敷は当時のガルシア領主にて、皇帝になったルシオのために俺ら…神帝とルシオの弟たちと考えた。

 そことシエロは地下通路で繋がっていて、彼らは窮地に陥ったときに俺が来てくれると信じていた。そしてこの時代の領主の息子も。

 不本意ながらも、侵攻という形で俺は彼らの思いを踏みにじってしまった。あいつらが転生したら謝っておいてくれって頼んだんだ。それだけ」


 リアムは一切ヒューゴと目を合わせず、部屋の隅々を見渡していたよ。テーブルや装飾はところどころ違うけれど、千年前にルシオが執務をしていた部屋にとても似ていたんだ。


「そうでしたか。将軍に帝国と連絡を取るように助言したのは?」


「シランス卿も気づいているんじゃないか?帝国がガルシアを放棄した理由」


 ヒューゴはふーとため息をついたよ。


「わざとだね」


「あの検問所でトンネル砲を構えていれば、一直線の道を通らないといけないランバート軍の大半は消えていただろう。それをやらなかったのは、俺もいるということもあるが、ガルシアで戦おうと考えていないからだ。おそらくシエロに兵力を集中させているだろう」


 皇帝エリシアはリアムを迎えに行くと言った。シエロに集めた兵を一気にガルシアに投入させるつもりかもね。


 でもランバート側は籠城しようにも拠点にする領主の屋敷は崩れてしまっているから、またリアムは盾にされるかもしれないよね。


 どちらにしても帝国側も強気に出られないんだ。


「わかっていたことだけれども、このまま進むのはよくないね」


「ああ。帝国からランバートへの道は中央(ケントルム)に通じるが、一つとは限らないしね」


 ヒューゴは目を見開いてから、険しい顔になったよ。


 リアムは馬鹿ばかりじゃなくてよかったと、内心ホッとしていたよ。


「シランス卿。俺に協力してくれたら、皇帝に貴殿の家族とシランスの民に手を出さぬよう頼もう」


「ありがとうございます。何をすれば?」


「一分一秒でもこの屋敷にあの将軍を留めておきたい。その方が貴殿らの助命にも繋がるだろう」


「…帝国は兵を動かしているのですね。わかりました。従いましょう」


 リアムは冷めたシチューを食べてから、謁見の間に戻ったよ。


 将軍はゆっくり食事をしてくれたから、まだ帝国の意図に気づいていないみたい。


 謁見の間の瓦礫は大方撤去されて、ジョゼフィーヌやガレオたちも呼び寄せ、兵を並べて満足そうだったよ。天井ないけどね。


 まずはランバート王にご報告だよ。


 さも全部自分がやりました感たっぷりの報告をすると、ランバート王も大喜びだったよ。


 リアムは滑稽(こっけい)だなという言葉が喉から出そうなのを、必死にこらえていたよ。


「陛下直々に帝国にガルシア領占拠の宣言をしましょうよ」


 と将軍が意気揚々と言うから、この場で通信魔法具を皇帝のいるシエロと繋げたよ。


 ランバート王は高らかにガルシア占拠を宣言したんだ。

 

 堂々と着飾った皇帝エリシアはランバート王を一切見ないで、リアムの姿を探したんだ。


「リアム様はどこに?」


 ランバート王がアナベルの言葉で話したから、合わせてあげたよ。


 ガルシア占拠宣言をまるっと無視されて、ランバート王はイライラしていたよ。


「あの傭兵はどうでもいいだろうが」


「どうでもいいとは?まさか彼を?」


「生きている。リアム、通信魔法具の前に行け」


 リアムは兵士に囲まれて、通信魔法具の前に立ったよ。エリシアが微笑みを浮かべるけれど、リアムはランバート王の言動に注意していたよ。


 ランバート王は勝ち誇ったような顔をしていたんだ。


「さて、リアム。皇帝に言うことはないのかな?」


 打ち合わせをしていないけれど、リアムは察していたよ。


 ここで皇帝の座を寄越せと言えってことだね。


「何を言うんです?言いたいことは、ご自分で仰ったらいかがですか?」


 あえて言ってみたよ。


 リアムの首がぐっと絞まると、エリシアは怒ったよ。


「おやめなさい!人に首輪をし、人権を無視するのは野蛮な行為です」


 国際的な会談の場で、人の首を絞めて楽しんでいる国のトップってヤバいよね。


 その非常識な王様はニヤニヤしていたよ。


「代わりに(ちん)が言おう。リアムに皇帝の座をこの場で譲れ」


 エリシアは、ランバートが大々的にテレビでリアムが帝国の皇帝になるべきと言っていたから、ランバート王が要求する内容はわかっていたよ。要求が通らない場合、リアムを人質にするというのも想定内。


 でも実際に首を絞められているリアムの姿に、動揺してしまったよ。


 エリシアの反応を見て、ランバート王は楽しんでいたんだ。


「何が楽しいのです。おやめなさい」


「リアムが確実に皇帝になるためには、帝国の後継者も不要だ。あなたが死んで、皇帝を譲るならやめよう」


「非道な…!」


 エリシアは感情を出さないようにしていたけれど、リアム(神様)をおもちゃにされて我慢できなかったんだ。

 

 ランバート王はその様子に、もっと愉快そうに笑っていたよ。


「さあ、どうする?皇帝」

 


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