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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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35話 ニセモノの神様〜前編〜

 うずくまっているリアムに近づいたのは、アルマンやガレオではなく、カジミールだったんだ。


「来なさい」


「…殺してくれ。俺のせいで誰かが死ぬのは間違っている」


「死んでどうする?現実から逃げるつもりか?立て。お前がすべきことはここでうずくまることではない」


 カジミールに腕を掴まれて、無理矢理立たされたよ。


「…あのまま村にいればよかったんだ。こんなことにはならなかった」


「後悔は後にしろ。お前がすべきなのは休息だ」

 

「のんきに休息?俺のために誰かが死ぬのに?

 自爆ってなんだよ。そんなものを誰があの若者に教えた?今のシエロ教はどうなってる?理不尽を強いるのは許されない。

 どうしたらいいんだ?うまくいった、できたと思うとすぐに壊れる」


 リアムは身体と声が震えて止まらないんだ。


 首輪を掴んだけれど、手では千切れなくて泣きたくなったよ。欲しかった理不尽がなく、自由な世界はこの時代にもなかった。


「リアム。とにかく来なさい」


「騎士団長。この男に話があります」


 リアムより少し年上の兵士が前に出てきたよ。騒ぎを聞いて人が集まってきちゃったんだ。


「明日にしろ。みな持ち場に戻れ」


「今聞きたいのです!帝国の神とやらの教えで、十六年前の戦争が起きた。俺の親父はそれで死んだんです。そいつは帝国の神の転生者なのでしょう?神なら信者が目の前で殺されているのに、助けないのはおかしい。そいつはニセモノなんだ。ニセモノの神の教えのために俺の親父は死んだんです!

 そいつは殺すべきです!」


「私刑はならない。お前たちも持ち場に戻れ!」


「団長!」


「シランス領騎士団長。この兵士も中途半端ではよく眠れないでしょう。答えるよ」


 カジミールはリアムをこのまま発言させるのはよくないと思っていたけれど、止める間もなく爆弾は投下されたんだ。


「病や、自然や、大きな力に翻弄される、矮小な人間だ。ただ転生を繰り返したというだけのね」


 帝国の体制、シエロ教そして、十六年前に起きた戦争の帝国側の大義名分の否定。


 兵士はリアムに銃を向けたんだ。


「謝れよ!帝国にも、俺たちにも!」


 千年前、アニバルが強く否定すればシエロ教は勢力を失い、デスペハード帝国は亡んだかもしれない。


 その道を選ばず、デスペハードの存続を願って沈黙したのはアニバルの罪。


 だからこのままニセモノの神を終えよう。


 銃弾は放たれることはなく、兵士の銃は割って入った黒い影の手によって吹き飛んだよ。


 その影と目が合って、彼に殺されるなら仕方ないとリアムは思ったよ。


 割って入ってきた影――ジョゼフが兵士を羽交い締めにしようとしたのを、カジミールは止めたよ。


「やめよ!

 リアムは貴様と同じ父親を帝国に殺されている。転生だと?そんなものは妄想だ!

 命令だ、兵士は持ち場に戻れ!」


 ザワザワと遠ざかる足音たちの中、リアムとジョゼフは見つめ合っていたよ。


 ジョゼフはシエロ教徒だけど、深くは信仰していなかった。でも神様はいるんだと心の中で信じていたけれど。


 目の前にいるのは神である。


 その神は人だと宣言した。


 でも、でも、でも。


 混乱の中で、リアムがカジミールに連れて行かれるから、ついていったよ。


「兵士を止めてくれて感謝するが、お前はここにいてくれ」


 カジミールが言うけれど、ジョゼフの足は止まらなかったよ。


「…俺はランバート国民ですが、シエロ教徒です。先に言いますが、俺はあの人たちを手引はしていません。

 リアムはこのままではいけないと思うので、一緒にいさせてください」


 声は震えていないか、挙動不審になっていないか、確かめる余裕はなかったんだ。


 始祖を守れという、帝国の上層部の命令は絶対で、疑ってはならないことなのに。


 リアムが放った言葉は、常に冷静沈着でいるよう訓練してきたジョゼフさえも動揺を与えたんだ。


 ジョゼフの身のこなしと行動から、カジミールはただの傭兵ではないと感じ取っていたけれど、今はリアムを落ち着かせることが優先だと考えたんだ。


 リアムが始祖、神でなければ、帝国は彼の生死を問題にしなくなる。つまりランバートはリアムという壁を失い、敗北することになる。


 リアムは帝国の神でなければ、カジミールも命はない。


「口出しをするな」


「わかりました」


 テントに入ったカジミールは、灯りの魔法具をつけて、改めてリアムを見たよ。


「貴様の感情は知らん。我々の任務は帝国のガルシアを奪うことだ。兵の士気を下げることはやめてほしい」


 自分の思考へ落ちいたリアムはカジミールの常識(・・)に、少しずつ浮上してきたよ。


「…俺が神ではないとわかれば、帝国は瓦解する。ランバートにとって都合がよいのでは?」


「帝国が瓦解する前にランバートは亡ぼされる。皇帝はお前が始祖とやらであると信じている。死ねば報復として大軍を差し向けるだろう。

 お前が偽者だろうが本物だろうが、俺は知らん。神をやると決めたなら演じ続けろ」


「演じたことなどない。アニバルの時も、教会の祭壇の椅子にふんぞり返っていただけだ。俺は自ら神であるなんて公言したことはない!」


 入口付近で無表情でジョゼフは立っていたんだ。神と信じた者に裏切られたシエロ教徒が何をするか。カジミールには最悪を想定しながら、ジョゼフの動きも警戒したんだ。


「それも俺は知らんことだ。お前の発言は、お前を神と信じた者が命を投げ捨てて助けに来たことへの、侮辱になるが?」


「…もう(あざむ)いているから、そう思われても仕方がない。俺はこの(せい)でニセモノの神を終わらせなければならない。そうしないと俺を神だと信じる者たちが、いたずらに命を捨ててしまう」


「だったらここで死ぬな。貴様が皇帝なりなったときに話せ。こんな場所で話したところで、効果など高が知れている」


 その通りだけれど、ランバート王が帝国を奪えという命令を遂行するには、リアムがシエロ教の神として君臨していることが条件だよ。


 リアムが皇帝になったときに、俺は神様じゃないでーすって発言したら、カジミールの任務もおじゃんだよね?


「騎士団長としての発言か?ランバート王の計画が崩れるが?」


 あの王様に計画も何もないと思うけどね。


「お前の立場を考えて話したまで。貴様が我々の任務を妨害するのを阻止しなけばならない。これは理解できるか?」


「理解できる。あんたの言う通り、ここでカミングアウトしたところで、帝国やシエロ教徒たちの耳には入らない。おとなしく、従うことにするよ。

 ただガルシアに入って大勢の帝国兵が攻撃を拒否して、死ぬような事態になったらわからない。兵士の動揺が酷ければ帝国の将軍たちが、人質の俺を殺す判断をするだろう」


 カジミールは眉根を寄せたよ。


「将軍とはいえ、信仰する神を殺せるとは思えないが?」


 今度はリアムが眉根を寄せたよ。


「あんたは騎士団長として、国と自身の信仰どちらを選ぶ?個人の信仰を選ぶなら、国を守れないときもある」


「お前の殺害を将軍一人で判断はできない。皇帝やその周辺の者たちが止めるだろう。今日のシエロ教徒のように、お前を助けるために何人死のうが人を送り込むだろう。信仰は時に人を狂気に導く」


「言われなくても知っている。ルドの時代、異教徒を中央(ケントルム)教は殺してきた。

 ルドの失敗から、アニバルの時に皇帝へ信仰に飲まれるなと、忠告したし、そういう態度をしてきた。何が重要か、最終的に皇帝は判断するはずだ。

 貴族である、騎士団長も俺の言わんとがわかるだろう?それともシエロ教徒だったか?」


 カジミールはジョゼフの沈黙が気になっていたよ。いつ爆発して、リアムを襲うかわからないからなんだ。


 転生というのは半分信じられないけど、もし本当だったらと興味が湧いてしまってリアムの話に合わせたよ。


「私はシエロ教徒ではないが…。ヒューゴ様の母上様がシエロ教徒だった。父の件があったとき、私の家族は身分を剥奪された。ヒューゴ様が私たちを保護してくださり、成人した私に騎士の位を授けてくださったのだが、それまでヒューゴ様の元で育てられた。

 シエロ教は身近にあったから、少々お前の発言には戸惑う部分はある。ヒューゴ様は信仰については公言されていないが、多くの宗教が存在するシランスの地では、どの宗教も平等に扱われている。

 平等はヒューゴ様の母上様の教えであり、シエロ教の教えでもある」


「なるほど。数多の宗教が互いに認めている。素晴らしい土地だな。

 それで、何に対して衝撃を受けたんだ?俺が神でないと発言したことか?」


「それもあるが…。なんというか、他人事というか…」

 

 リアムは目を瞬かせから、またなるほどと言ったよ。肩の力を抜いて苦笑を浮かべたよ。


「他人事になるだろうよ。ルドのときは神の使い扱いだったのが、千年後転生したら神様扱いされたからな。

 教えという意味で話したことではないのに、教典として載ってたんだよ?こんなこと言ったっけみたいなことつらつら…。

 平等は俺の教えというより人にある欲求だろう?首輪をつけられて、強制労働する者と鞭を叩く者。同じ人間なのに、身分や生まれで決められるのは間違っている。それをなくしたかったんだが、一部の人間が力を持つ貴族社会が続いていると。

 ルドの時代からニ千年。人は変らない、まったくな!あの時代、身を削って築いてきたものはなんだったのだろうってね」


 ヒューゴがテントに入ってきたんだ。ジョゼフは避けて道を譲ったよ。



 今回のお話ですが、シエロ教などのおさらいをかねてる上、リアムの葛藤つらつら、人によってはイライラすると思うので、前後編にしました。


 と、前編短いのでおまけということで…卯月がクスッと笑った誤字変換コーナー!!


卯月:干し肉→星肉。


テラ:星肉って何?ブランド肉っぽいね。


卯月:ほしにくと打つと何故かこれがスマホのトップに出るんだよ。星肉、ネットで調べたけれど出ませんでした。謎。


テラ:謎なの。


卯月:帝国兵→定刻兵。または帝国→定刻。


テラ:めちゃくちゃ時間にきっちりしてそう。


卯月:カジミール→家事ミール。


テラ:スーパー家政婦みたい。ミールって英語で食事っていう意味だよね?


卯月:そう言われれば!今度から家事ミールで行こうかな。彼は家事できるの?


テラ:それはやめてあげて。生まれも育ちも貴族だから、普通は使用人にやってもらってるよ。騎士だから演習とかで培ったサバイバル料理はできるけど、まあ、うん。リアムの方がうまいんじゃないかな。


卯月:ベタ展開きそうだね…。


 またネタ上がったら報告します。お楽しみに!(いや誰も待ってないだろう







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