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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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34話 差し出されたもの

 帝国の首都シエロでは、またもや偉い人が集まって激しい議論が飛び交っていたよ。


『ランバートが進軍してきただと?』


『始祖がお止めになったのではないのか?』


『昨晩始祖がテレビに出られたが…。本当に始祖なのですか?密偵から送られてきた映像を観たところ、お顔立ちも髪の色も肖像画と結びつかない』


『あの男は始祖ではない!簡単に傀儡(かいらい)などなるような、やわな男ではない。偽者だ』


(ノルテ)将軍、始祖に失礼だぞ!』


 皇帝エリシアは黙って議論というより、思い思いに話す議員たちの話を聞いていたよ。


『カルロス様はあの男は始祖だと?』


 カルロスことカリナは戦争と聞いて男装してきたんだ。議員たちは一斉にカリナを見たよ。


 カリナはゆっくりと立ち上がって、周囲の人を見渡したんだ。


『間違いなくあの方は始祖であり、神帝陛下であられる。流暢な古語を話され、ユビキタスの存在も停止方法も知っていた。私と違い、千年前の知識を持ち合わせておられる。

 そして心優しき始祖の魂を持たれている。ご自身に首輪をされ、今度は親しい人に首輪をされて脅されたようだ。

 人質を殺してまで逃げられる非情な方ではない!議論は不要!ただちに救出に向かうべきだ!』


『カルロス殿下が仰せですが、迎え撃つということでよろしいですか?』


 デスペハード帝国宰相がたずねるけれど、皇帝は思考中のようだよ。


『宰相。迎え撃てば、始祖は人の壁として扱われるでしょう。少人数の救出部隊を編成して向かわせるべきです。移動中を狙って奇襲をすれば始祖を奪還できます。ランバートは壁を失い、潰走(かいそう)するしかありません。我が国の兵も始祖の身が安全と分かれば攻撃しやすい』


 カリナはすぐに答えたよ。南の将軍と南の選定侯が待てないと言ったんだ。


『すでにシレンシオの森を抜け、中央(ケントルム)に入っています。明日にはガルシア領に入るでしょう。迎撃の許可をいただきたく』


『それではリアム様が危険だ。奇襲を』


『奇襲しやすいシレンシオの森を抜けています。移動中ではなく、野営を狙うべきかと。おそらく夜は中央(ケントルム)になるでしょう。作戦が失敗したときのために迎撃の許可は必要です』


 南の将軍が言うと、片ひじをついていた皇帝がすっと背筋を伸ばしたから、みんな話すのを止めたよ。


(わたくし)、デスペハード帝国皇帝エリシアは、リアム・アルク様を始祖であり、神帝として認め、お守りすることを優先とする。今後、リアム様が始祖か否かの議論は不要である。

 集団での攻撃はリアムが先頭に立たされる可能性があるため、奇襲をもって救出すること。リアム様の大切な者が人質になっているようだが、リアム様以外は考えなくとも良い。

 奇襲の選出はカルロス、ウーノに任す。ウーノ、今度は失敗のないように』


『御意』


 ウーノはリアム救出を一度失敗しているから、死ぬ覚悟でこの場にいたよ。失敗したのは寄り道したリアムのせいだけどね。


 皇帝は話を続けたよ。


『ガルシアには兵力の強化を許可する。この度兵を引いたあとだ。いかに迅速に配備できるかにかかっている』


『作戦が失敗した場合は?』


 ガルシア領、現代の呼び方ではガルシア州を預かる南地区の選定侯ネバダ・フェゴは、治める土地が侵略される危機に緊張しながらも、冷静さを保っていたよ。


 彼は初代南地区の選定侯エクトル・ルークススペース・デスペハードの子孫であり、代々ガルシア州を含む帝国の南の地域を治めているよ。


 領や州という呼び方は一応帝国は州制をとっているけれど、州知事は選挙が行われ、フェゴ一族から選出しているから、ある意味貴族しか知事になれない。領主と言ってもおかしくないから、呼び方はどっちでもいいって感じになっちゃっているよ。


 ちなみにランバート王国は貴族が領地を治めるため、帝国の州でも一般的に馴染みのある領という言い方をしているよ。


 この辺りの話はまた出てくるから、今度話すね。


『防衛のみ行う。侵攻の時間を稼ぐこと』


『稼ぐ?長期戦に持ち込んで疲弊させるつもりですか?しかし、冬が来れば我々も厳しくなります』

  

 皇帝は地図をちらりと視線を向けてから、四将軍を見たよ。


『長期戦にはならない。アナベルへの道は一本ではないからだ』


 承知したように頷き、四将軍は会議の後に、兵の編成を急いだよ。



 

 中央ケントルムで夜を明かすことになったリアムは、ガレオたちと一緒に行動していたよ。


 フーはテントに入れないから、リアムの近くのテントで羽を休めていたんだ。


 リアムは食事が終わるとフーのところに行ったよ。


「狩りに行ったか?」


「…」


 リアムを見るとぱぱと喜ぶフーが大人しかったんだ。


「どうした?疲れたか?」


「ぱぱ。おしりがいたいの、かゆいの。さっきようへいさんが、ふぅにさわりたいっていったから、さわらせてあげたの。おしりひっぱられて、それからへんなの」


 リアムは眉を寄せてから、フーの尾羽を確認したよ。尾羽は両側に(あか)く美しい羽が生えているんだけれど、片方がなかったんだ。


 伝説の魔鳥の羽根ほしさに誰かが抜いたんだね。


「誰か来たかわかるか?」


「ふぅのしらないひとだから、わかんない」


「そっか。怒って火を吐かなかったんだな。偉いぞ、フー。今痛いのとってやるからな」


「うん。ぱぱ、いっしょにねようよ」


「わかった。寝ような」


 痛みを和らげてあげられたけれど、羽の再生はリアムにはできなかったよ。また生えてくるのを待つしかなさそう。

 抜かれた羽は飾り羽みたいだから、飛ぶのに支障はないみたい。


 リアムはジョゼフィーヌに夜は一緒にいられないというと、ジョゼフィーヌはフーと寝ると言ったんだ。


 鞍を外せば二人くらいフーの背中で寝られそうだったよ。


 初めてフーの背中に乗ったジョゼフィーヌは、おっかなびっくりだったよ。


 寝てみるとふわふわして気持ちよかったんだ。


「フーちゃんはあたたかくてよく寝られそう。ここ寒いもの」


 アナベルの感覚で薄着で来てしまったから、中央(ケントルム)では夜は冷えるよ。


 火の魔鳥だから身体はあたたかいみたいで、ほら鳥だからね。生?の羽毛だよ。


「寝られそうならよかった」


 フーの羽を布団代わりに、二人は横になって寝たよ。


 ウトウトと眠りかけたとき人の声がして、フーが立ち上がったから目が覚めたよ。


「触らせてもらえないか?傭兵の奴が触ったって聞いてさ」


 リアムの知らない声だったよ。身を伏せたまま、見下ろすと兵士が二人立っていたんだ。


「ふぅはねむいから、いやだ」

 

「本当に話すんだな!ちょっとでいいからさ」


 兵士がフーに近づこうとしたとき、足がぬかるんではまってしまったよ。


「なんだ?」


「その傭兵ってやつ。連れてきてくれないか?」


 リアムが身を起こすと兵士は逃げようとしたけれど、足がはまって動かないよ。


「俺らは何もやってない!」


「傭兵を連れてこいと言っただけだ。片方はここに残れ」  


 一人ぬかるみに外すと、逃げるように走っていったよ。


「ふざけんなよ!」


 ぬかるみにはまっている方は、逃げた仲間に悪態をついたよ。


「さて。傭兵とやらから何を聞いた?」


「触らせてもらったって聞いただけだ。伝説の魔鳥を間近に見られることは、めったにないからさ。もういいだろう?魔法解いてくれよ」


 兵士は気を取り直して、理由を話しているつもりだけど、リアムには嘘だってわかっていたよ。膝まで埋めると、兵士は焦ってペラペラ話したんだ。やっぱり羽根目的だって。


 仲間思いなのか、逃げた兵士は傭兵二人を連れてきたよ。


「ぱぱ!このひとたち!」


「そっか」


 フーを撫でながら、傭兵二人を一気に首元まで地面に埋めたよ。


「お前ら、フーにいたずらしたんだってな」


「な、なんのことだ!」


「俺らは、この兵士に連れてこられただけだ!」


「はい。嘘。髪の毛抜かれるのと、焼き鳥にされるのと、どっちがいい?フー、焼き鳥ってなんだっけ?」


「ひあぶりのけいだよ!」


 フーが元気よく答えると傭兵だけでなく、兵士も震え上がったよ。


「素直に話そうか?」


 リアムの満面の笑顔とは対象に、傭兵たちは顔を真っ青にしていたよ。


「羽根が高く売れるから、ほしいと言った…貴族に言われて俺らは取っただけだ!俺らは羽根を持っていない」


「何の騒ぎだ」


 騒ぎを聞きつけて、ガレオやアルマンたちが遠くから様子を見ていたけれど、カジミールが来てしまったよ。


 地面から首が生えているように見えたのか、カジミールについてきた兵士がうわっと驚いていたよ。カジミールも目を細めて埋もれている傭兵たちを見たんだ。


「この傭兵二人が羽根が高く売れるからって、貴族の誰かに命令されてフーの羽を抜いたんだ。お利口なフーは怒らなかったんだよ。でもとても痛がっていたんだ。ちゃんと犯人を探してやらないとと思ってさ。騎士団長、協力してくれる?」


「わかった。まずは彼らをもとに戻してくれ」


 リアムの怒りはカジミールにひしひし伝わっていたよ。


 地面に座り込んでいる傭兵は貴族の名前を言わないんだ。カジミールはリアムに軍の規定を淡々と話したよ。


「リアムを傷つけたら罰せられるが、フーは魔物だ。魔物は討伐対象であるから、その羽をとっても軍の規定では罰することはできない。だからお前がこの兵士に危害を加えれば、逆に罰を受ける」


「ではこいつらを地面に埋めたことで、俺は罰を受けるか?」


 カジミールは遠巻きにいるガレオを見たよ。


「傭兵同士の場合、組合の規定によるが…」


「組合も同じだ。魔物と仲良くできる傭兵なんてそうはいないからな。こいつら怖がってたし、変に貴族と絡むと厄介だぞ。手打ちでいいんじゃないか?」


 リアムは許せなかったけれど、首輪をされている上、余計な面倒になるのはよくないと思ったよ。


「フーはどうしたい?許せないか?」


「んー?いたかったけど、ぱぱになおしてもらったから、だいじょうぶ」


「そうか。フーがいいなら、俺が怒るのも変だな。手打ちでいい。でも」


 リアムは傭兵二人の頭を見てから、ニヤリと笑ったよ。


「でも?」


 カジミールは聞き返したけれど、リアムは終わったと言うよ。

 

 傭兵二人はさっさと去ろうと立ち上がったとき、頭に違和感があったんだ。触ってみるとごっそり髪が抜けたよ。


「え…?」


 後頭部に十円ハゲができていたんだ。リアムはくすくす笑っているから、犯人確定だよ。


 傭兵はよほど髪が大切なのか、走って逃げてしまったよ。


 バヤールは畏れるようにリアムを見たんだ。


「今の、お前の仕業か?めちゃくちゃこえーな、お前!」


「初めてやったけど、意外とうまくいったな」


 バヤールが頭を抑えるから、アルマンが大笑いしていたよ。


「バヤールちゃん、必死ね」


「必死だよ!親父がハゲてたから、俺も将来ハゲるから怯えてんだよ」


 フーに乗っていたジョゼフィーヌも笑っていて、他のみんなも笑っていたよ。


 さあ、騒ぎは終わったから寝ようと各々テントに戻ろうとしたとき、帝国方面から爆発音がしたんだ。


「奇襲か!」


 ガレオは真っ先に思ったんだ。リアムは振り返って、フーとジョゼフィーヌに言ったよ。


「ジョゼフィーヌはここにいて。フーはジョゼフィーヌを守るんだ」


「わかった!」


「気をつけて」


 リアムは銃を取り上げられたままだけれど、剣と魔法具は持っていたんだ。


 カジミールたちと一緒に行こうとしたけれど、リアムは現場まで行けずに待機になったよ。


 帝国の仕業なら、リアムを探そうとしていると将軍は考えたんだ。


「帝国とは限らない。一部の中央(ケントルム)人は帝国の支配に抗議して、時には武力行使する。これだけの軍隊が来たなら、反応してもおかしくない」


 カジミールが教えてくれたよ。


 リアムはフーのところに戻ることにしたよ。


 ジョゼフィーヌは落ち着かず、フーから降りておろおろしていたよ。


「じょぜふぃーぬおねえちゃん。ふぅからはなれちゃだめだよ。おねえちゃん、ちいさいから、てきにやられちゃう」


「そうね。フーちゃんいるから、ここは安全ね」


 リアムがやっていたように、ジョゼフィーヌも撫でてみたよ。気持ちよさそうにしていたフーが、急にピンと頭の飾り羽を立てたんだ。


「どうしたの?」


 フーの視線の先、魔法具の灯りが届かない闇の方から音がしたんだ。ジョゼフィーヌはフーに身を寄せるとフーが口を開いたよ。


「おにいちゃんたち、おけがしてるの?」


 しばし沈黙のあと、ゆっくりと二人の男の人が姿を現したんだ。一人はリアムより若そうで、もう一人は四十代くらいだよ。

 暗がりだったけれど、白い服に赤い血のようなものがついていたんだ。


 ジョゼフィーヌは()だと思って、身を強張らせて警戒したよ。


「あなたたちは?」


「驚かしてすまない。あなたは人質ですか?神鳥を目印にくれば、神はおわすと思い、来たのですが。ここにはおられますか?」


 年上の方がジョゼフィーヌに頭を下げると、若い方もならったよ。


 ジョゼフィーヌはこの二人は宗教関係者というのはわかったよ。何の宗教かすぐにわからなかったみたい。


「神鳥?神?」


「現世の名はリアム・アルク様と仰る。神はランバートに囚われているので、我々が助けに来たのです」


「ぱぱはげんきだよ?おじちゃんのほうが、おけがしてるよ。ふぅはなおせるから、なおしてあげようか?」


 人の話し声が聞こえて、ジョゼフィーヌは咄嗟にテントに隠れるように言ったよ。


「あなたたちが奇襲したのは、リアムを助けるためだというのがわかったわ。見つかってはいけないわよね?早く隠れて」


 二人がテントの中に入ると、見回りの兵士が通り過ぎてから、リアムたちが戻ってきたよ。


「リアム!あのね!」


「ジョゼフィーヌ。心配かけたね。現場まで行けなかったから状況はわからなかったよ。朝早く出るから眠れないだろうけど寝よう」


「うん…」


 誰かがテントに入れば侵入者がいることがバレてしまう。  


 でもガレオたち以外に人の姿もあるから言えないんだ。 


 ジョゼフィーヌはフーが話さないかヒヤヒヤしていたよ。


「ジョゼフィーヌちゃんはテントで寝る?リアムちゃんは?」


 何も知らないアルマンが聞きながら、テントの入口の幕を上げようとしたよ。入口にあるわずかな血痕を見つけて、銃を構えたんだ。


「どうした?」


 ガレオも血痕に気づいて、ジョゼフィーヌの方を見たよ。ダメダメという顔をするから、察したんだ。


 兵士たちもアルマンが銃を出したから、警戒したよ。アルマンは問題ないというように、にっこり笑ったよ。  


「夜陰に紛れて侵入者がいるかもしれないから、テントに入るときは念の為よ。あなたたち、周りを見てきてくれる?」


 シランス領の兵士だったから、アルマンと顔見知りだったみたい。兵士たちは見回りに行ってくれたよ。


 アルマンはリアムたちに立ち話して、兵士が来たらよそに誘導してと言ってから、そっと中に入ると人影はなかったよ。血の跡は、暗がりに置かれている荷物の方に続いていたんだ。


「怪我してるのね。あたしはここのテントを使っている傭兵なの。リアム・アルクの仲間よ。あなたは帝国の人よね?」


 物陰から年上の方の男の人が顔を出したよ。服装からしてアルマンは彼がシエロ教徒だと判断したよ。


「神はここにおられるのですか?」


「リアムちゃんのことね。いるわ。でも逃げられないの。彼は首輪をされていて、将軍の持つリモコンから一定距離が離れてしまうと爆破してしまうの。だからあなたたちに協力したくてもできない。頃合いをみて逃してあげるから、まずは怪我を治しなさい」


「首に…?なんという非道な」


 シエロ教徒さんは身体を震わせて怒っていたよ。


「怒りたいのはわかるわ。でも冷静になって。あなたをかくまえば、リアムちゃんも危険になるの。わかって」


「我々は神の救出にきた。お助け出来ずに去ることはできない」


「この状況ではとても難しいの。あなたが死んだらリアムちゃんが悲しむはずよ。ここから出ていって」


 アルマンはテントの一部を切って出口を作ったよ。正面は兵士がいるかもしれないからね。


 外から声が聞こえて、どうやら兵士たちが戻ってきたみたい。


 アルマンはここにいるようにと言ってから、テントから出るとリモコンを持った兵士がリアムの首を絞めていたよ。


「女。何か隠しているだろう?早く話さないとお前の男の首が折れるぞ?」


 リアムを捕まえた性格が将軍に激似の軍曹がいたよ。リアム捜索時にリモコンを渡されて、まだ持っていたみたい。


「何も隠してないわよ!結局あんたが望んだ通りにならなきゃ、リアムの首を絞めるんでしょう?本当のことを言っても意味ないじゃない!」


 ジョゼフィーヌの正論を煩わしそうに軍曹はしていたよ。


 リアムはアルマンがテントから出てくるのが遅かったから、帝国側の人間がいるんだとわかったよ。だから、ずっと侵入者が出てこないことを祈っていたよ。  


「何の騒ぎなの?奇襲受けたみたいだけど、平気だったの?」


 うろたえないアルマンに興ざめしたのか、軍曹がリモコンのスイッチから指を離したよ。


「こちらへ逃げたという情報があったから確認しにきたら、あの女が怪しかったから尋問していたところだ」


「あっそう。このテントに誰もいなかったし、いてもあんたがリアムちゃんをいたぶっている間に逃げてるんじゃないの?

 明日出発早いんだから寝かせてくれない?それともあたしと寝る?」


 身体をクネクネさせるアルマンに、軍曹は完全に引いていたよ。


「…中を調べろ」


 ジョゼフィーヌは緊張した表情になったから、アルマンはわざとウィンクしたよ。

 

「血痕があるぞ!」


 その報告に軍曹は意地悪な顔を浮かべていたよ。


「隠していたのか?」


「血の跡があったから中を調べたの。誰もいなかったわ。逃げたのかも。ちょっとあたしと鞄に触らないでよ!それともあたしのパンティ見たいの?」


 アルマンに頬を(あか)くして詰め寄られた兵士は、早口にテントの中は誰もいなかったと言ったんだ。


「周辺を調べろ。いるかもしれない。お前らはテントで待機…」


 軍曹の足元から蔦が出てきて、夜陰から年上の方のシエロ教徒さんが飛び出したんだ。


 リアムの近くにいた兵士たちに発砲しながら、叫んだよ。


「神よ、早くお逃げください」


 背後から銃で撃たれてシエロ教徒さんは倒れたよ。軍曹の背後から若い方が素早く近づき、リモコンを奪ったんだ。


 リモコンを壊そうと踏みつけたけれど壊れなくて、持って逃げようとしたけれど兵士に撃たれたよ。


「やめろ!」


 リアムの叫び虚しく、リモコンを奪われると思ったのか、シエロ教徒さんはリアムに微笑みかけて、何か唱えたよ。


「フー!ジョゼフィーヌを守れ!」


 フーはバッと羽を広げたから、ジョゼフィーヌは直接惨劇を見ずにすんだよ。


 リモコンを奪おうとした兵士を巻き込んで自爆したんだ。


「あ…」


 リアムは一瞬のことで動けなかったよ。


「か、みよ…おにげ、ください。我、らに晴、天を」


 倒れている年上のシエロ教徒さんは生きている。リアムが治癒魔法を展開しながら手をのばすと、シエロ教徒さんも必死に手をのばしたんだ。


 横から押されるようにシエロ教徒さんは揺れて、頭から血が飛び散ったよ。


 軍曹が撃ったんだ。


「お前たち、何をぼうっとしているんだ!早く片付けろ」


 兵士たちは軍曹に言われて、黙々と遺体を埋めていたんだ。軍曹は嗤いながら、リアムの首輪を引っ張ったよ。


「おい、神様(・・)。どうして信者を助けなかった?」


『何故、神々はあなた方を信じる者たちを救わない?』


 前世たちが問いかけた神々からの応えはない。


 だが、軍曹の答えは出ている。


 リアムは思いっきり突き飛ばされ、埋められた信者の遺体の前でうずくまったよ。


「…ごめんなさい。俺のせいです。ごめんなさい」


「傑作だな。偽者の神を助けに来て死んだ。俺は絶対にシエロ教は信じないね。偽者の神を崇めているからな」


 楽しそうに軍曹はその場を去ったんだ。





 静かな闇夜にひときわ明るくなっているランバート軍の拠点から、戦闘音が聞こえて、カリナは望遠鏡を覗き込んだよ。


『どこの者だ?』


『確認しています。ただ、奇襲計画は失敗です』 


 後のないウーノだけれど、悲愴感はなく淡々と言ったよ。


 しばらくして密偵から連絡が入ったよ。


『過激派のシエロ教徒のようです。全員殺されたもよう』


『教会には再三手出しするなと言ったが?教皇には戻り次第抗議することにしよう。撤収!』


 その場を動かないウーノに、カリナは命令したよ。


『ウーノ、お前もだ。単身乗り込んだところで、犬死するだけだ。私の方から皇帝陛下に説明するから』


『リアム様のご様子を見に行きます。死んだのがシエロ教徒だと知れば、悲しまれるでしょう』


『お前が死んでもリアム様は悲しまれる。それにお前の死に場所はここではない、違うか?

 もう一度言う、撤収せよ』


『御意』


 後ろ髪引かれる思いで、ウーノはこの場をあとにしたんだ。

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