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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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33話 有名人

 帝国領のガルシアに向かう日、リアムは朝早く起こされたよ。


 ジョゼフィーヌとは身を寄せあって、お互いに励ましながら夜を明かしたんだ。

 

 二人とも眠い目をしながら外に出ると、フーは起きていたよ。


「ぱぱ!おなかすいた!」


 兵士たちが用意したブタだか、ウシだかのお肉は食べてなかったんだ。


 食べなくて正解で、中には睡眠薬が入っていたよ。


 魔法や物理的攻撃は全部フーに弾かれちゃったから、食べ物に薬を入れて眠らせてから首輪をつけようとしたんだ。


「がれおおじちゃんが、しらないひとからもらったたべものは、たべちゃだめっていってたの!」


 すっかりフーはガレオたちと仲良くなっていたみたい。ガレオもお肉の意図に気づいて、フーにもわかるように忠告したんだ。


 お陰で空腹のフーはいらついていて、暴れちゃったよ。


 お庭のいたるところが焦げて、焼けた臭いがしていたんだ。


「鞍は出来たのか?」


 兵士に聞くとまだ出来ていないみたいと言うよ。


 騒ぎを聞いたのか、宰相がお庭にやってきたんだ。


 全然寝てなさそうだから、寝たらと言ったら、三時間寝れましたとすっきりした顔をしてみせたけれど、寝不足なのは変わらないと思うな。


「鞍は馬のを改良してみましたが、取り付けられるか…」


 フーがご機嫌斜めだからね。つけようとすると嫌がるかもしれない。


「なんとかやってみる。試し乗りのついでにフーの餌を取りに行く。このあたりで魔物が出るところはあるのか?」


「一番豊富なのはシランスの森ですが、そこまで許可はでないでしょう。

 長くても一時間程度となれば、近場になりますが…」


 リューリッシュは人が多く住む開けた場所だから、あまり魔物がいなかったんだ。宰相は地図を持ってこさせ、候補を挙げてくれたよ。


 鞍が出来る頃、将軍もお庭にやってきたんだ。ヒューゴもお城に泊まったのか一緒に来たよ。


「フー。ごはん食べに行こう。俺も行くから、これつけてくれないか?」


 フーにつける前、リアムが鞍に毒針とか仕込まれていないか調べたよ。


 フーは頭を低くして鞍を見たよ。


「おじちゃんがつくったのとおなじ!」


「フーが大きくなったからな。あれはもう入らないだろう」


 兵士と一緒に鞍をつけて、リアムは乗ってみたよ。


 数週間フーに乗っていなかったけれど、目線が高くなったんだ。


「お前、どれだけ大きくなるんだよ」


「んー?」


 撫でられると気持ち良さそうにしていたんだ。


「リアム。また逃走したらどうなるかわかっているな?一時間だ。一分過ぎる毎に、お前の大切な人たちの頭が吹き飛ぶ」


 将軍がジョゼフィーヌを見ながら、銃をチラチラしていたよ。


 やることが完全に悪党だよね。


 リアムも脱走できるかなって淡い期待をして鞍を要求したけれど、そうはうまくはいかないみたい。


「わかっている。すぐ戻る」


 ジョゼフィーヌや、ガレオたちにすまなそうに見てから、リアムは飛び立ったんだ。


 将軍も兵もガレオたちも、感嘆や歓声を上げて見送ったんだ。


 空を飛ぶのは、人類がまだ叶えられない夢だからね。


 みんな憧れの眼差しでいたけれど、リアムはどこに向かおうかずっと考えていたんだ。


 宰相が言っていた近くの森へ行くのに車で三十分くらいかかるけれど、渋滞も信号もない空だと半分くらいで着いたんだ。


 フーが餌を狩っている間に、帝国側の人間と接触できるとは思っていなかったよ。


 リアムは息抜きだと思って、フーから降りたよ。


「フー、時間がないんだ。一体獲ったら行くぞ」


「えーたりないよ」


「少し残して、将軍に同じものを獲ってきてって頼んだら、獲ってきてくれるよ。とびきりおいしいのを獲ってきな」


「うん!わかった!」


 フーが獲物を探しているとリアムは周りに気を配ったよ。


 フーに驚いた近所の人が逃げたり、猟銃で駆除(・・)しようとするかもしれないからね。


 リアムの予想通り、フーの姿に驚いた住民がやって来たんだ。


 猟銃片手に親子なのか、男の人が二人、恐る恐る物陰に隠れながらこちらをうかがっているよ。


 リアムは笑顔で手を振ったんだ。


「驚かしてすまない。あいつの腹が膨れたら、すぐにいなくなるから」


 猟銃を持った親子は、リアムを見て驚いた顔をしたよ。


「統一王マニュスの生まれ変わりさんですか?」


 今度はリアムが驚いたよ。


「もうテレビでやったの?」


「は、はい。夜に」


 一夜でリアムは有名人になっちゃったみたい。


 ちょっと恥ずかしそうにしていたら、フーが獲物を持ってきたよ。


「おいしいの、いない」


「いないか。ちょっとお前では小さいんじゃないか?もう少し獲ってこい」


「うん!」


 親子にこの辺りに魔物はいないかと聞いたら、近くに被害があったというよ。


「フー。人に酷いことをする魔物がいるようなんだ。退治に行こう」


「ごはん!ごはん!」


 リアムはフーに乗ると、親子が教えてくれた場所まで行ったよ。


 収穫した作物を入れる倉庫が壊れて、魔法が使われた形跡があったからここかなと思ったよ。


 フーが獲物を探し始めたから、近くに魔物がいるみたい。


 人々が家から出てきて空を見上げたよ。


 そのせいか魔物が森から出てきたよ。フーの大好物のイノシシの魔物だったんだ。


「ごはん!」


 フーはテンション上がっちゃったみたいで、群れの魔物に向かって火を吐いたよ。


 魔物だけではなく、周りの草木も燃えてしまったんだ。


「あ!フー火力弱めろ!周りが燃えてる!」


 リアムは水魔法で消火したよ。


 プスプスと焼け死んだイノシシの魔物は六体いたんだ。一体が大きくて、あとはみな同じくらいのサイズだったよ。


「親子だったかな?」


 リアムは少々罪悪感を覚えたけれど、フーはごはんに夢中の様子だったよ。


「あの…」


 ご近所さんがリアムに近づいたんだ。


「お騒がせしてすみません。すぐに行くので」


「魔物を退治してくれてありがとうございます。あなたはテレビに出てた人ですよね?」


 リアムという名前は覚えていないみたい。まあ、リアムは覚えてほしいとは思っていなかったみたいだけど。


「そうです。フーが…あの火の鳥(オワゾ・デ・フウ)の餌を探していまして。魔物の被害があると聞いて退治しながら、ちょうどいいかと思ったんだけど、逆に被害が出たな…」


 消火したけれど、一部がお庭や小屋みたいなところを燃やしちゃったんだ。


「いえ退治してくれて助かります。戦争に行ったこの辺りの兵士が戻ってきていないので、困っていたところなんですよ」


「そうだったんですね。魔物の肉を置いていくけど、いくつ必要ですか?」


「必要とは?」


「料理したら普通のブタよりおいしいですよ。子どもは柔らかいし、何でも使い勝手がいい。いらないですかね?」


 シランスと違って、このあたりは魔物を食べないようだよ。


「猟師ならさばけるかな?」


 一般人は魔物をさばいたことがないみたい。


 キミたちもシカやクマをさばいたことあるかな?なかなかないよね。この辺りの人たちもそんな感じみたいだよ。


 さばいてあげる時間はないから、とりあえず置いておいてあげて残りは…フーはすでに三体食べちゃっていたよ。


「もう食べるな。一体持って帰るよ」


「わかった!」


 フーは一体を嘴に咥えたよ。


「魔物がしゃべった!」


 住民たちの反応にリアムは笑ってから、お城へ戻ったんだ。


 途中、地上からリアムへ手を振る人がいて、振り返したよ。


 約束の時間より五分前に到着して、将軍はちょっと残念そうにしていたよ。


「しょーぐん。ふぅはこれとおなじのがいいな!」


 フーが将軍の前に焼けた魔物の肉をドサッと置くと、将軍や兵士たちは後退りしたよ。フーの姿を見に来ていた女性の使用人さんたちは、魔物の死骸に悲鳴をあげていたんだ。


「一体でいいのか?」


 リアムが降りながら聞いたよ。


「ん?たくさん!」


「フーは三体以上食べて、まだ足りないそうだ。飼うなら頑張って餌とりしてくださいね」


 リアムは他人事のように言ったよ。狩りに行くのは将軍ではなくて、兵士たちだろうね。


「…すぐに出発する。支度しろ」


「したく?」


「お前も出陣するんだ」


 帝国侵略を呼び掛けておいて、首都にお留守番っていうのも格好がつかないもんね。


「俺は帝国に行かないんじゃないのか?」


「行くことになった。早くしろ」


 昨日は皇帝に行かないと言わせていたのにね。


 リアムは方針の統一感のないランバート首脳陣に、よく国として機能していたなと半ば呆れながら、魔物の血がついたフーを水で綺麗に洗ってあげたよ。


 支度もなにもリアムは身一つだからね。


 将軍たちの準備を待ってから、デスペハード帝国へ向かったよ。



 ジョゼフィーヌも連れて行くというから、リアムだけではなくヒューゴも反対したんだ。ジョゼフィーヌは兵士ではないし、リアムの時代も女性は戦場にいるものではないという考えが大半だったよ。


 将軍はジョゼフィーヌに意地悪した方が、リアムの行動をコントロールしやすいと考えたようなんだ。  


 リアムのいないところでも、ヒューゴは将軍にジョゼフィーヌを連れて行かないほうがいいと言ったけれど、聞く耳持たずだったんだ。  


「陛下より指揮権を与えられているが、私に軍事権があることを忘れずに」


 と釘を打つ始末。ヒューゴの苦労は増えていく一方みたい。


 ジョゼフィーヌはお城に残るより、リアムといた方が安心だったよ。知らない人ばかりだし、人質だからね。あの王様が何をするかわからないから、リアムも目の届くところにいてくれた方がいいと思うことにしたよ。


 軍用のトラックで首都を出発して、シランス領に入ったよ。


 ヒューゴのお屋敷には寄らず、そのままシランスの森へ進んだんだ。


 リアムはヒューゴの配慮で、ガレオたちと同じトラックに乗れたよ。ジョゼフィーヌもすぐにガレオたちと打ちとけたみたい。


 フーはというと、空を飛んでついてきたよ。


 将軍が連れて行けと言われなくても、フーはリアムと行くと言ったんだ。


 フーがいて百人力いや千人力だと、将軍は自信満々だよ。


 フーのおかげか、魔物は出ずにシランスの森を抜けたんだ。


「そろそろ見えるわよ」


 魔物や敵の気配もないから、アルマンが窓を開けたよ。


「三千年以上前に造られた、鉄の壁よ」


 リアムとジョゼフィーヌは身を乗り出すと、錆びた鉄色の壁があったよ。


 昔、中央(ケントルム)人が南から侵入するの騎馬民族を防ぐために築いたと言われているんだ。今ではほとんどが壊れてしまっていてるよ。 


「有名な観光スポットだけど、世界三大ガッカリ名所の一つと言われているぜ」


 微妙な知識人・バヤールが言うと、リアムは頭を傾けたよ。


「世界三大ガッカリ名所?」


「鉄の壁とかいうから強そうだし、高そうだろう?実際は鉄なんかで出来てないし、崩れて低いわで観光客が来て損したって思うわけ」


「そういうことか。俺はずっと来たかったから、満足だけど。やっぱり三千年前に見ておけばよかったな。当時は累々とある壁が壮観だったと聞いている」


 マニュスの時代より少し前に建てられたから、壊れてはいなかっただろうからね。


「状況が変わったけれど、見に来られたわね」


 アルマンがにこりと笑ったよ。帝国との戦争は、中央(ケントルム)にある壁まで来られたら勝ちだねっていう話をしていたよ。


 つい数日前なのに、シランスの森へ来たときの話が嫌に昔に感じられたよ。


「そうだね」


 観光に来たわけじゃないから、車はあっという間に壁を過ぎてしまったよ。


 心なしか風が冷たくなってきて、太陽の匂いがするランバートとは違う空気に変わってきたんたんだ。


「ここが大陸の真ん中、中央(ケントルム)か。今日は帝国には着かないな。

 なあ、バヤール。デスペハードってどういう意味だ?」


 ガレオが何を思ったか、バヤールに聞いたよ。


「晴れっていう意味だ。ガキのころ住んでたけど、晴れている日は少なかったぜ」


「よく晴れているから、名前がついたんじゃないのか?」


「逆だ。冬の間は全く晴れず、太陽のあたたかさを求め願ったことから、その名がつけられた」

 

 そう言うとみんなリアムの方を見たよ。ジョゼフは知っていそうな顔をしていたけれど、他の人は知らないみたい。


「エルスターの真冬は雲と雪に閉ざされる。建国したフェデリーゴ、初代と呼ばれているが、故郷のレナータとは違う過酷な環境で、末の娘と多くの仲間を失っている。飢えと寒さで、少しでも晴れてほしいと願ったという。

 首都シエロは空という意味で、彼らがよく空を見上げて祈ったことから由来する。

 アナベルのように雪が降らず年中あたたかい場所だったら、フェデリーゴの苦労も違っただろうな」


「南に行けばよかったじゃないか」


 ガレオはルドやアニバルの時代に詳しくないみたいだよ。名前を聞いたことがあっても、実際に何をしたか言えるランバート人は少ないよ。


「南は敵、北に味方がいる。ガレオならどっちにいく?」


「味方のいる方へ行くな」

 

「だろう?ゲレル国、今のヴァリエンテ王国は友好関係にあったフェデリーゴを保護して、北へ逃した。

 デスペハードは今のように、はじめから栄えていたわけではない。国を追われた者たちが作った国なんだ。

 だからあの王がデスペハードをほしいと聞いて、どこまであの寒さに耐えられるか気になるところだ」


 リアムが笑うけれど、ジョゼフはランバート王は耐えられないと思ったから、こう言ったんだ。  


「北の寒さは忍耐が必要だから、あたたかなランバートにいるだろうよ。ま、反乱が起きてうまくいかないのは目に見えているから、冗談でも皇帝の座をすすめるなよ?」


 ジョゼフィーヌはジョゼフが帝国側の人間だと知らないから、リアムは帝国出身とだけ教えてあげたよ。


「冗談はいわないよ。俺は素直だから嘘つけないし?」


「本当に嘘をつかない奴は自分から言わない」


「アニバルさんは嘘を言って、楽しんでそうだが?」


 ガレオに言われて、リアム思考でアニバルの性格を考えたらそうかもなって思ったよ。


 シランスの森より北は帝国領でも、再戦とはならなかったんだ。国境沿いには帝国兵はいたけれど、数が少なくて攻撃もして来なかったからランバート側は肩透かしを食ったよ。


 将軍はリアムとフーがいるから手が出せないんだと、さも自分の実力かのように、喜んでいたみたい。



 日も傾いてきたから、野営をすることになったよ。


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