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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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30話 逃走

 リアムは仮眠をとってから、ウーノに宰相から報告が来たか確認したよ。短時間だし宰相もお仕事しているから、すぐに首輪の構造についてわかるとは思っていなかったんだ。


 魔力切れを狙って首輪を外す。


 でもお城の中にいたら補填されちゃうから、難しいよね。


 だからリアムは逃げ出すことにしたんだ。


 銃は取り上げられてしまったけれど、防御と属性変換の魔法具は取り上げられていなかったんだ。


 リアムはウーノに頼んで外に出してもらったよ。


 城の中にいた帝国の密偵を使ったり、衛兵にお小遣い(・・・・)を渡したらうまくいったよ。


 リューリッシュの高層ビルから離れた、少し時代を遡ったようなお城から出ると、壁に沿って造られた道路に車が停まっていたんだ。


 それに乗ろうと近づいたとき、ランバート兵が駆け寄ってきたんだ。


 脱走がばれちゃったみたい。


『始祖、我々から離れないでください』


 ウーノの一族の人たちが護衛してくれたけれど、数からして劣勢だったよ。


 リアムが乗ろうとした車に向かってランバート兵は発砲して、タイヤがパンクしてしまったんだ。


 リアムはランバート兵に足の水をいじる魔法を放ったよ。


 何人か転んだけれど、気づかれて防御されてしまったんだ。


『我々は足止めします!』


 リアムに一人だけついてきて、街の中に向かったよ。タクシーを拾おうとしたけれど、追手が来てしまったんだ。


『始祖。お供できるのはここまでのようです』


『わがまま言ってすまなかった。無理するなよ』


 リアムは走って人混みにまみれながら、変装用にもらった帽子とサングラスをつけたよ。

 

 この時、戦闘着ではなくて私服だったよ。


 街中ですれ違った人がスーツを着ていたから、スーツを着て変装しようと思ったんだ。ワイシャツの方が、Tシャツより首輪が目立たないかもと考えたのもあるよ。帽子も被っている人もいたしね。


 でも値段が高そうな専門店では顔を覚えられてしまう。


 市場の近くの古着屋さんで、売っていたのを見つけて即刻買って着替えたんだ。


 ビジネスマンですという顔をしながら堂々歩いていると、仕事中か休憩中かわからないけれど兵士の姿があったよ。


 見つかってしまわないか心臓がバクバクいっていたけれど、挙動不審にならないよう気をつけていたら、兵士は行ってしまったよ。


 リアムは首輪を外せそうな人を探したかったけれど、時間がない。


 ひとまず幅広い人脈が持つ、ある人のところへ向かったんだ。


 そこはビル街の中にあって、とても立派な建物に見えたよ。受付の人もいたんだ。


 リアムは人がいなくなったのを見計らって、受付の人にたずねたよ。


「カレ会長はいらっしゃいますか?前にお世話になりまして。近くに来たので立ち寄ったのですが」


 爽やか青年スマイルを浮かべると、受付の人は怪しまずにマリアス・カレに連絡を取ってくれたよ。


 マリアスはスーツ姿のリアムが一瞬、わからなかったみたい。


「髪切ったので印象変わりましたかね?」


 軽く帽子を取るとマリアスは驚いた顔をしたよ。


「リアム君かね?まったくわからなかったよ。どうしたんだい?」


「色々あって。少し時間もらえますか?」


 マリアスはリアムが周囲を警戒する様子に気づいたよ。戦争に行ったはずの傭兵が、スーツ姿になっているのに違和感あったしね。察してくれたみたい。


「ああ。いいよ。遠いところから来て疲れただろう?座れるところを…」


「俺が預けたものって、ここにあります?」


 マリアスはすぐに従業員だけしか入れない場所に行って、社員に部屋に入らないように言ったんだ。


「停戦になったとニュースで昨日知ったばかりだ。傭兵の君がどうしてここにいる?戦地に行ったんじゃないのかい?」


「行って戻ってきたら、王にこの首輪をされた。外し方を知りたい。マリアスさんが知らなくても、表でも()でも外し方を知っていそうな人を紹介してくれると嬉しい」


 リアムは襟元を下げて首輪を見せたよ。


「王が首輪…」


 マリアスは王様の性格を知っているのか、額を押さえたよ。国内では報道規制がされているけれど、国外で色々な意味で王様の性格は評判らしいからね。


 国外に買い付けも行くから、マリアスはランバート王国と王が外国からどう思われているか知っていたんだ。


「君が英雄シャルルの息子だから、逃げないように?」


「親父がどこの家の人間か知ってる?」


「…詳しくは知らないが」


「コートドールのアルク家は?」


 マリアスは眼を見開いたよ。


「あそこの人間だったのか!シャルルはただの傭兵だったんじゃないのか」


「ああ。アルク家は王家にとって頭の上のこぶらしい。敬っている素振りを見せないと、王家は自分の血筋を主張して偉ぶれないと思っているようだ。

 俺ももう少しそこを知っていれば、こんなヘマをしなかっただろう。自由を求めたはずが、囚われてしまった」


 首輪に触れて自嘲するリアムに、マリアスは違和感があったみたい。


「リアム君。本当に何があったんだい?短い付き合いだが、君はそんな言い方をするような人ではなかったはずだ」


「うん。色々思い出したし、色々知ったからね。

 時間がないんだ。ここにいればいるほど、マリアスさんに危険が及ぶから。巻き込んでおきながら、急かすのは悪いけれど」


「まずいことになったのはわかった。もう少し状況を教えてくれないか?それを外せるような人に話を通すが、その人も危険かもしれないんだろう?」


「王の悪趣味でつけられたが、外せば反逆者になるだろうからな。ちなみに国外に出ると爆発するらしい」


 楽しげにしているリアムとは反対に、完全にマリアスは困っていたよ。


「機械いじりが好きな友人はいるのだが…。外せるかわからない。私は銃を作るが、爆薬は専門外だ」


「わかった。首輪は諦める。ここに来た目的はもう一つあって、あの契約書はここにある?」


「羽根とは別々の場所に保管してある。羽根はここにはないんだ。返すなら、移動する必要がある」


「羽根ではなく、契約書が目的だからいい」


 マリアスはうまく状況を飲み込めないけれど、契約書が保管してあるところへ向かったよ。


 いくつも扉があり、鍵がかかったところだったんだ。


「ここにはいろんな契約書があるからね。お金と同じくらい重要なんだ」


「ここに入れるのは?」


「私と一部の限られた者だ。鍵もこれしかない」


 マリアスは内側から鍵をかけて、外から誰も入れないようにしたよ。


 広くはない部屋に棚がいくつかあって、ぎっしりファイルが並んでいたよ。


「確かにこっちに…」


「探しながら、俺が知った昔話の真実を聞いてほしいんだけど」


「昔話?」


 マリアスはファイルを手に取りながら聞き返したよ。


「レナータにいたルドという王について、知っている?」


「暴君ルドのことかね?それがどうしたんだい?」


「その男は帝国と繋がりがあるんだけれど、それは?」


 マリアスは手を止めて、眉間に皺を寄せたよ。


「始祖と呼ばれるようになったんじゃなかったのかな?私は不思議だったよ。暴力的な男が神のように扱われるのかがね。魔法で首を吹き飛ばして処刑したっていうよね。理解できん。

 うーん。この奥にしまったような…」


「ヴァリエンテでは、神を何と呼ばれているか知ってる?」


「ヴァリエンテ?あー。あそこの神はだね、光の神だよ」


「光の王ともいう」


 マリアスはゆっくりとリアムを振り返ったよ。


「君の好きな話と同じだね」


「まあね。その光の王の話を作ったのは、千年前の聖神使エジリオ十一世だった。

 ルドの時代は酷い病が流行った。その経験から帝国は病の研究が盛んだった。

 神帝はその知識を聖神使エジリオに授けた。()しくもルドと共に歩んだ聖神使の名を継ぐ男に。

 エジリオ十一世はこういった。『レナータで広がったあなたの前世の汚名は消せない。だから代わりの話を自分が広める』と。それが光の王の正体。

 暴君ルドは光の王であり、そして現世リアム・アルクの前世たちでもある」


 マリアスはポカンと口を開けて、ちょっと間抜けな顔になっていたよ。


 リアムはクスクス笑ったんだ。


「いい反応だね」


「冗談かい?驚かさないでくれ」


「本当のことを話しているけど?ランバートの何倍も兵力のある帝国が、停戦に応じたのは奇跡だと?」


「…帝国は君の話を信じたのかい?」


「証明するものをいくつかあげたから。一つはコアだ。マリアスさんは強い不信感を抱いているけれど、俺にとっては安心するものなんだ。

 コアの詳しいことは言えないが、これを作った者たちの思いを聞けば少しは嫌悪感は消えてくれるはず」


 マリアスは完全に契約書を探す手を止めて、リアムの話を聞いていたよ。


 リアムは話を続けたんだ。


「暴君ルドの末路は?」


「臣下に裏切られて殺されたって聞いているが?」


「そう。そこに居合わせたエトーレという男は神帝の時代に転生し、エクトルという名で生まれ変わった。後の初代選定侯でもある。

 前世を思い出したエクトルは、ルドの転生者である、神帝アニバルが広めた魔力砲で、アニバル自身を撃ち殺されないように、コアを作り、とある呪文を唱えれば発動しないようにした。その呪文は神帝しか知らない。

 律儀に子孫たちはコアを広め、始祖の転生者を魔法具で殺されないように千年もの間、維持し続けたんだ。お陰で魔法具の発動を止めることで、戦争を止めることができ、俺が神帝である証拠になったわけ。

 帝国がコアのない魔法具の規制したいのは、始祖を守れなくなる可能性があるから。現にコアなしの魔法具によって、俺の首は絞められている」


「筋が通っているが…。頭が追いつかない」


「急に変なことを話してしまったからね。マリアスさんの勘違いを解きたくて。あれは人を操ったりするようなものではないんだ。まあ、俺がやれといったら、あの子らはやってしまいそうだけど。

 そうそう。ルドが行った処刑方法は少し弁明させてもらえるかな?

 当時の処刑といえば斧などの刃物で首を斬る方法だった。現代のように切れ味はよくなく、一発で死が確認できるような銃はない。死刑囚に何度も打ち付けて殺したんだ。当然、死刑囚は苦しんで死ぬ。

 地獄で苦しむのに何度も苦しませるのはどうなのか。当時の俺は…ルドはおかしいと考えた。だから首を吹き飛ばす方法を考えたけれど、見てくれはよくなかったし、自分も残酷だと思って禁止したんだ。

 でも教会や貴族はこの方法を密かにやっていて、処刑方法を知らなかったルドはひたすら上がってきた処刑リストにサインをしていたわけ」


 マリアスは真剣に話を聞き入っていたよ。


「刃物の精度か。知らなかったよ。中世では、切れ味がよくなかったということだね。時代の違いは失念していた。道具は日々進歩しているわけだし」


「現代の感覚で過去を見てしまうのは俺もやるよ。アニバルやリアムの感覚からすると、ルドの思考は変だし、おかしいなって思うこともある。

 現代ではおかしいと思っても、その時代は正しいと思っていたんだ。逆もたくさんあるけれどね。でも人を支配する方法は変わらないみたい」


 リアムは首輪に触れたよ。


 マリアスは感慨深そうに頷いていたよ。すっかり手が止まっていたんだ。


「それで契約書は見つかりそう?」


「おお、そうだ。何を探していたのか忘れるところだった」


 ファイルの奥からさらに薄いファイルを取り出すと、一枚の紙をリアムに差し出したよ。


 リアムは内容を確認して、何やら一文をつけ足してからマリアスに返したんだ。


 マリアスは驚いたみたい。


「羽根をマリアス・カレに譲渡する?逃走資金が必要だったんじゃないのかい?」


「奴らが持っているリモコンとやらから離れすぎると爆発するらしい。俺は首輪がある限り、この国から出られないんだ。

 フーがマリアスさんのところに来たんだろう?追手は俺がここに来る可能性も考えて兵士を寄越すかもしれない。

 素直に答えてくれればいいし、連中がお上品な取り調べをしてくれるとは限らない。

 国外の商談に行くふりをしてしばらくランバートから離れて。俺が去ったあとすぐ!」


「…拷問するとも?」


 リアムはわざと首輪を見せたよ。


「国の頭が、帝国が神と信じている男の首にこんなものをつけるんだ。下がろくでもないといっても俺は疑わないぜ?」


「帝国は君に首輪をつけたのは?」


「知っている。皇帝直轄の護衛の頭と俺はいたからな」


 マリアスはみるみる顔が強張っていったよ。


「そんなことをしたら帝国の感情を逆撫でするじゃないか。すぐに戦争になる」


「ランバートの宰相も気づいて王を止めたけれど、聞く耳持たずだったな。俺がもし首を絞め殺されたらランバートは亡びると思って。国が落ち着くまで逃げて。

 あなたは俺に真心というものを教えてくれた。あなたのような人がいるから、俺はランバートを守りたいと思える。大丈夫。すぐに死ぬつもりはない。意地汚く足掻いてみるつもりさ」


「リアム君…」


 マリアスはリアムの真剣な様子から、信じることにしたんだ。


 契約書を見つめてから、ファイルにはしまわず、大事に内ポケットに入れたよ。


「身を寄せる場所はあるのかい?逃走資金は?」


「帝国が用意してくれている。ああ、だから少し協力してほしい。

 ランバートの追手が来たら、俺が帝国に向かったと言ってほしい」


「わかった」


「マリアスさん、元気で」


「ああ。君も…」


 マリアスはリアムの行く末を案じてか、前世が衝撃的だったのか考えがまとまらず口調が浮わついていたよ。


 部屋を出ようと鍵を外したとき、リアムの背中を見て、宿命に逆らえずにどこか遠くにいってしまうんだって思ったよ。


 少年の大きく無情な宿命を変える手立てを、マリアスは持っていない。


「リアム君。その格好で逃げるつもりかい?動きにくいだろう?こっちに来て」


 マリアスはもう一階階段を上がり、傘立てやゴルフバッグが置いてある狭い廊下を抜けて、部屋に入ったよ。


 その部屋はベッドと小さな机があったんだ。机の上にはクレマン一家の写真が飾ってあったよ。


「クレマンが仮眠室として使っていてね。まだ片付けていなかったんだ。合う服があるといいんだが」


「遺品を着させてもらうのは…」


「私は着れないし、どうせ捨ててしまうんだ。少しでも君の役に立てるなら、クレマンも喜ぶだろう」


 クローゼットからクレマンの私服を出したよ。


 襟つきのシャツがあって、リアムは着れたよ。


 着替えてるとマリアスは帽子と黒髪のウィッグを持ってきたんだ。


「リューリッシュには金色の髪の人はいるが、地方に出れば珍しい。髪の色が違うだけで印象はかなり変わるだろう」


「ありがとう。礼をしに来たのに何から何まで」


「いや、私に出来ることはこのくらいしかない。本当に気をつけて」


 リアムは変装した自分を鏡で見て、笑ったよ。


「別人みたい。逃げられそうだ」


 兵士がいないか窓から外を見たけれど、ここからでは死角がたくさんあってわからなかったんだ。


「俺、マリアスさんやクレマンさんに会えてよかった」


「リアム君。また会おう。前世の話を聞かせてくれ」


 リアムはニヤリと笑ったよ。


「四度目の転生だから、長い長い話になるよ?」


「はは、そうだね。まずは君の話を聞きたい。君の戦いが、英雄的で幸せな結末を願っている。自分を大切にね」


「ありがとう」


 リアムはカレ商会のビルを後にして、怪しまれず身を潜めながら、どうやって待ち合わせ場所まで行こうか思案したよ。


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