24話 伝説の男
ジョゼフがトラックが降りた後、助手席にいたレオが運転席と荷台を隔てた布を捲ったよ。
「誰か降りたか?」
「ジョゼフが用を足しに」
バヤールが答えるとレオが眉を寄せたよ。
「こんなときに?馬鹿か」
「そういう奴なんだよ。すぐ下してさ。何回も任務中に行くから怒られたことあるんだぜ。俺もとばっちり」
「さっき飛び降りたときに漏らしてるんじゃね?」
デジレの大笑いに場が少しあたたまって、リアムは元気になったよ。
運転席の方からザザーという音がすると、人の声がしたんだ。
「ん?誰か他にいんのか?」
みんなが一斉に吹き出したよ。
「神帝は転生じゃなくて、近代からタイムスリップしたのか?」
「まさか通信機も知らないのか?」
わいのわいの言われて、リアムはムッとしたよ。
「しょーがないじゃないか!おじちゃんケチだったから、テレビも買わなかったんだよ!」
「急にリアムになった。調子狂うぜ。それで通信はなんだって?」
ガレオが運転席の方へ覗き込んだよ。
「連中、森をぶち抜いて進んできたらしい。うちの本陣と交戦中だとよ。近くにいる兵は背後から奇襲しろだって」
「ぶち抜いて?」
デジレが外を見ろとくいっと外の方に顎を向けたよ。監視窓を開けると道から離れたところに、もう一つ道ができていたんだ。来たときにはなかったよ。
「通称トンネル砲。円状に撃ったところが削られて、トンネル掘るときに使われる。
それを戦場に持ってくるとはな…」
「え、あれ砲を撃って作った道だっていうのか?」
「神帝も驚くのか。人がくらったら骨も残らないらしいぜ」
「ヤバ…現代技術ヤバ」
「今のリアムの反応?神帝の反応?」
「両方」
そろそろ森を抜けるよ。アルマンが歩けるというから、トラックを降りて隠れながら進んだよ。
敵兵はいないみたい。
半円状に地面が削れていて、その先に小さく車両や人影を見つけたよ。
「自然破壊もいいとこだぜ。嘆かわしい」
「自然よりも今は戦争だぞ?アニバルさん」
「わかってんよ、ガレオ。ここからじゃ布陣もよくわかんないな。背後も警戒しているから、俺らの数じゃどうにもなんねえ」
「ヒューゴ様のところに行くなら迂回して行くようだが、トンネル砲何度も撃たれていたら、ヒューゴ様も無事かどうか」
「あれやればいいんじゃね?ユビなんとか」
バヤールが言わなくてもリアムはやるつもりだったよ。
「もう少し近づいて状況がわかったらだ」
視覚化魔法を使いながら敵がいないか、探り探り進むよ。
トンネル砲がランバート軍に向けられて、一発撃った後みたい。そこに兵士がいたのかはわからないけれど、戦場となった畑は土からえぐられていたよ。
帝国軍が拡声器を使って降伏を呼び掛けていたんだ。
すると背後を警備していた兵士が、リアムたちに目がけて発砲してきたよ。
「気づかれた?」
防御魔法を展開してみんなを守ったよ。ガレオが岩に隠れて叫んだよ。
「温度センサー使ってんだ。体温を感知する魔法具だ」
「火の使い手の可視化魔法の応用か?原理を知りたいが…。今は厄介な技術だな。
バヤール、自力で雷撃てるか?」
「俺のは静電気レベルだぜ?」
「構わない。水魔法を連中にぶちこむから一緒に発動してくれ」
「感電させるつもりか?ピリピリ程度だぞ?」
「コアが止まれば動揺する。ピリピリ程度でもビビる!」
「あーもー何でもいいから早くユビなんとかをしろ!近づいてきてるぞ」
ガレオたちが応戦するけど、ドンドン集まってきてしまってるんだ。
どうしてかリアムは火の鳥の肉を片手に持ちながら、ユビキタス停止の言葉を唱えたよ。
『ユビキタスよ、止まれ!』
帝国兵の銃が一斉にカチカチとトリガーを引く音だけに変わったよ。
帝国軍本体も動揺が走ったから、リアムは呪文を唱えながらユビキタスの制限範囲を探っていたよ。
「我らに恵みの雨を!」
帝国軍の上に雲が生まれたんだ。
「バヤール!」
「待て待て。あれ狙うの?届かない!」
「お前なら出来る!気持ちを大きく持て!」
「気持ちで出来たら、俺は今頃偉大な魔法の使い手になってるぜ!」
渾身の雷撃!ではなく、静電気を放つと雲の方に吸い寄せられたよ。リアムがアシストしてあげたんだけどね。
帝国軍はピリピリ豪雨にパニックになったよ。
「やったのか?俺はやっぱり出来る子なんだ」
感動しているバヤールの頭をぐいっと引っ込めたよ。
帝国兵が自力で魔法を放ってきたんだ。
リアムはお肉をムシャムシャ食べたよ。
「肉まずいし、もうないし、魔力使いすぎた。どうすっかな。数多すぎだろう、帝国。小国に対して大人げないぞ」
「これからどうすんの?」
「ノープラン」
「うぉい!俺はお前を信じてついてきたんだぞ」
「俺というより金だろう?」
「そんなことはない!俺は後輩を…祖先を大切にする男だ」
「俺は嘘を見破れる」
「嘘つきました、ごめんなさい。お金はとても大切です。神帝様を祖先として崇めていませんでした」
「アニバルさんよ!しゃべってないでなんとかしろ!」
ガレオたちが必死に銃で帝国兵を退けてくれていたんだ。
「雨降らすのに魔力超使うの!ちょっと休ませて」
「俺も休みたい!腕疲れた!」
「ガレオって結構わがままだな」
ヒソヒソ言われたバヤールは、お前も結構わがままだぜと言えなかったよ。
ザーザー降っていた雨がパッと消えてしまったから、リアムは顔を上げたよ。
「魔法が消された?」
帝国兵は動揺から活力に変わったんだ。
『雨を降らせた者。出てきなさい。このカルロスが相手になる!』
声が響くと帝国兵が戦争中なのに、拍手喝采をしていたよ。
「カルロスって誰?俺の知ってるカルロスは、イケメンで女がわんさか周りにいた奴だが」
「羨ましいぞ、カルロス!」
隠れていたアルマンが葉を掻き分けて、帝国兵の方を見たよ。
「バヤールちゃん静かに。カルロス皇子は蒼い眼で黒髪、水の使い手だから神帝の生まれ変わりと有力視されている人よ。皇帝から今回の指揮を任されているって」
「期待を背負ってここまできたのに、神帝じゃないって知る。
なんだか可愛そうだから、俺は去ろうかな」
「ここまで来ておいて!?」
「リアムちゃん、無理そうよ」
元気になっちゃった帝国兵が、わらわらやって来ちゃったんだ。
「うーむ、これはあいつを人質にすればいいか」
「え?リアムちゃん?」
リアムはお肉を食べ終わると、魔法を放ってから剣を抜いて森から飛び出たよ。
帝国兵は急に出来た溝に足を取られて転んだんだ。その上をリアムは走ったよ。
「飛んでる!」
「いや足元に氷みたいなのを張って走っているわ」
待ってくれとレオもリアムの後を追ったよ。
バヤールはこのまま隠れていようかなと思ったけれど、アルマンが飛び出そうとしたから止めたよ。
「アル姐さん、ダメだって。さっきまで怪我してたんだ、あんたは」
「このままだとリアムちゃんが危ないじゃな…」
リアムは魔法と剣を器用に使って帝国兵を昏倒させていったよ。
「あいつ強くない?」
「エドガール様の弟子だからねえ。強いとは思っていたけど」
「あ、わかった。今、神帝だから強いんだ」
バヤールは妙な現実逃避をしていたよ。
「バヤール!動けるならリアム追うぞ!」
ガレオたちも森を飛び出したよ。
「リアムが負けるわけないだろう。あいつは幾度もの転生で王になった伝説の男だぞ!王の中の王、いや皇帝の中の皇帝!最強の男だ」
とは言ったものの、リアムの周りに敵が集まってきたんだ。
リアムはニヤリと笑ってから、あることを試したよ。
『ユビキタスよ。我が手に魔法具の魔力を』
可視化魔法の上級、魔力操作をするとリアムの魔法具に魔力が集まってきたよ。
本当にできてしまって、やった本人が一番驚いていたよ。
「こんなことできたらって、開発室の連中に冗談で話した事をやってのけちまうとは。
あれから千年経った。夢は現実にってか!」
帝国兵が持っている魔法具を暴走させたり、発動して自爆させたりとリアムは好き勝手暴れていると、目当ての人が来てくれたよ。
『貴様、何故魔法具を操れる?』
皇子カルロスの登場にではなく、彼の手にする杖に興味が出たよ。
『それ、魔法具の杖か?でっかい魔石にたくさん魔法陣が書いてあるようだな。すっげえ欲しい!』
カルロスは不愉快そうだったよ。質問を無視されたからね。
『私の質問に答えろ!』
杖が光って氷の刃が飛んできたんだ。リアムは防御魔法を展開して防いだよ。
『あん?なんでユビキタスを発動したのに、お前の魔法具が動いてるんだ?』
カルロスは警戒心をあらわにしたよ。
『何故、その名を知っている?しかもランバートの傭兵風情が古語を話せるんだ』
リアムは現代デスペハードの言葉に違和感があったけれど、カルロスの会話が途中から馴染みのある発音や言葉遣いになったんだ。
『千年前の言葉を皇族は話せるのか?暇なことするな。もっと他の勉強する時間に割け』
『黙れ!神帝陛下が口にされた神聖な言葉だぞ!』
言葉が汚いってエクトルたちに怒られていたんだけどなって、リアムは苦笑していたよ。
皇子の後ろにいた男が前に出てきたんだ。
『殿下。調査員より報告がありまして…』
こそこそ話しているけれど、リアムは予想できたよ。ジョゼフは無事にリアムの言葉を上に伝えてくれたんだ。
ジョゼフもまさかリアムが自ら出向くとは思ってなかっただろうけど。
カルロスは表情を崩さずにリアムにたずねたよ。
『お前は転生者か?名は何と言う?』
『はて。いつの時代の名前ならお前にわかる?
マニュス、サクスム、ルド、アニバル。
デスペハードと関わりが深いから、今はアニバルの性格が出ちまってるけどな』
数えるように指を折って話すと、だんだんカルロスの顔が強張っていったよ。
『まさか…』
『カルロスと言ったかな?俺の知っている男の顔よりは、アニバル寄りになって残念だったな。
コアのない杖の使用は明白な俺への裏切りだと思うが?』
カルロスがぎゅっと杖を握って不安そうな顔になったよ。
もし自分ではなく、目の前の男が始祖の転生者だったら?
皇帝をはじめ、カルロスが始祖の転生者だと思っているから、身を守るために帝国の技術を集結させた、コアなしの杖を持つ資格が与えられたんだ。
―――私が始祖ではないから、私の記憶ではないこの記憶は誰のものなんだ?
カルロスは転生者だというのはわかっているけれど、前世の名前も年代もはっきりとわかっていなかったみたい。
カルロスのそばにいた男が銃を出して、リアムに向けたんだ。
リアムは防御魔法を展開したよ。
『おっと、それもコアなしか?エクトルのアニバルの来世守る計画をおじゃんにするぜ?それとも、もうそんな過去の計画は忘れ去ったか?』
男はどうしてか銃をしまったんだ。
『いえ、千年間、選定侯エクトル様の思いは伝わっております。あなたは始祖なのですね?』
『そうだと言ったら?』
先ほどから帝国兵がジリジリ後退していたから、リアムは警戒したよ。
カルロスがしきりに地面を見ていたんだ。
リアムは理由を察すると、一気にカルロスの方へ距離を詰めたよ。
『落とし穴で俺を落として捕まえる気か?面白い!落とすことはあっても落ちたことないからな!ついでにお前も一緒だ!』
カルロスは攻撃しようとしたけれど、この男は始祖かもしれない。傷つけてしまうという一瞬の葛藤をリアムに突かれて、杖を奪われてしまったんだ。
リアムは杖を先ほどいた場所に向けて言い放ったよ。
『落ちろ!』
地面が崩落し、近くにいた帝国兵は走って逃げたけれど、何人か穴に落ちてしまったんだ。
リアムは草魔法で蔦を出して、カルロスを縛ったよ。
『やっぱり他の属性を使えるって楽しいな。エドモンドに使い方を聞いたことが、今活かされるとは。我ながら勤勉だな。ははは、技術の進歩とは素晴らしい』
エドモンドはルドの友だちで土魔法の使い手だったよ。
『始祖!私を縛ってどうなさるのです!』
『皇子を放して我々と共に国に帰りましょう』
男は攻撃をせず、説得にまわることにしたようだよ。
『ふーん?お前、ウーノの家系の者か?護衛にしては側近感あるし、側近にしては殺伐とした雰囲気を持ってるしな』
『始祖。私はウーノを継いだ者です。どうかこちらに来て守らせてください。今のお名前はなんとおっしゃるのですか?教えてください』
遠くで交戦の音がして、ランバート軍はトンネル砲が発動しないなら怖くないと進軍したんだ。
撤収の時とリアムは判断したよ。
『お前たちに名乗る名はないよ。ただの傭兵だからな!』
「リアムちゃん、頑張って!」
アルマンの近い声援にぎょっとなったよ。
リアムに近づこうとした帝国兵を羽交い締めにしていたんだ。
「ちょっとアル姐さん!今、格好よく決めようとしてたのに!
あんた、戦っちゃ駄目だろう!血は戻ってないんだから」
「カッコいいリアムちゃんの姿をこの眼に焼きつけたくて…ふん!」
羽交い締めにしていた帝国兵が抵抗したから、脱臼させたよ。
「どぉ?あたしの筋肉!素手の格闘なら、こっちのものよ!」
ギュウギュウ絞められて兵士は白目をむいていたよ。
「もういい!死んじゃう、死んじゃう!」
「ほら、筋肉は鍛えるほど応えてくれて、裏切らないのよ!わかった?」
「筋肉は裏切らないが、腰は裏切る」
「関節もだぞ、ガレオ」
「ちょっとぉ。師弟そろって老け込まないでよ!」
と話ながらも、リアムに向かってくる帝国兵を三人はバタバタ倒してたんだ。
リアムはこいつら仲間でよかったと思ったよ。
アルマンの強烈キャラは言語を越えて、カルロスたちに伝わったようだよ。若干引き気味だったんだ。
ウーノは咳払いしてから、リアムにお願いしてきたよ。
『リアムチャン様。どうか我々と』
『あってるけど、違う…』
『リアム・チャン様?』
『違う。リアムだ』
さっき格好つけて、名乗る名前なんてないって去ろうとしたのに残念だね。
ジョゼフはどうやらリアムの名前を伏せて報告していたみたい。
『リアム様。カルロス様を放してください』
『やなこった。こいつは大切な人質だからな。お前たちが引くまで預かる』
『引くとは?あなたは国に帰り、神帝として即位なさるのです!ランバートの傭兵の真似事はお止めください!』
『真似事ねえ。伝言聞かなかったの?』
『聞きましが、何かの間違いかと』
現代のウーノさんは信じられないみたい。カルロスも固唾を飲んで、リアムの言葉を待っていたよ。
リアムは周りにいた帝国兵を見渡して、大声で言ったんだ。
『喜べ我が子らよ!始祖であり、水神王は今ここで目覚めた。お前たちの敵としてな!
現世の俺の父は祖国ランバートを守って死んだ。その遺志を俺は継ぐ。これ以上兵を進めるというのなら、相手になるぞ!』
数千の帝国兵はしんと静まり返ったんだ。
一方、デスペハード帝国の首都シエロでは、偉い人たちが慌てて集まって会議をしていたんだ。
『戦地で始祖が現れたというのは本当か?どんな人だ』
『ランバート兵だそうです』
『そんなわけない!神はデスペハードのどこかにお生まれになるはずだ。そいつの髪の色は!』
『送られてきた映像はヘルメットを被って見づらいですが、金のようです!』
『金…?瞳の色は!』
『蒼です!』
ざわめきがいっそう増して、始祖ではない、いや始祖だと騒ぎになったよ。
『魔法具が一斉にシレンシオの森で止まったと聞きました。事故か故意か。開発室の見解は?』
一人が口を開くとみんなピタッと黙ったんだ。
白衣の男の人が席を立ったよ。
『陛下の仰るとおり、シレンシオの森でユビキタスの停止を指示する魔法が発動されました。それも複数回。そしてコアを通して何者かが、様々な魔法具に干渉しております。
そのようなことができるのは、千年前におられたお一人だけでございます』
『では神帝陛下で間違いないと?』
『おそらくは』
皇帝は戦地から送られてきた神帝と思われる動画を見つめていたよ。
『その者は我が子らよ、聞け。俺は目覚めた。お前たちの敵としてと仰ったのですね。
では味方になるにはどうしたらいいのでしょう。神帝陛下とお話がしたい。現世の生い立ちや名前はわかるのかしら?』
『調査員の報告では、シャルル・アルクの息子だそうです』
一人の男の名前にまたもやざわめきが起きたよ。
『シャルルは始祖ではなかった』
『息子が、だと?今までどこに?』
『静粛に。報告によりますと、エドガール・ロシュが秘匿に育てていたようです』
『エドガール・ロシュ。前皇帝が悩まれておりましたわ。引き渡しを固辞したエドガールを殺してまでも、シャルルの子を皇族として育てるべきか。
悩む必要はなかった。十数年も無駄にした。神はお生まれになっていたのに、我が国にお連れできなかった。しかもランバート王国に洗脳されている。我らの敵と仰ったのはその証拠。
すぐにお救いに行かねば』
『進軍なさるつもりですか?』
『いいえ。まずはお話したい。神のお声をこの耳で聞きたい』
宰相が手配しましょうと言った瞬間、ドアが音を立てて開いたよ。
『大変です。始祖と名乗る男がカルロス殿下を拉致しました!』
『ランバートに至急連絡を入れなさい』
ランバートを瞬殺できると思ってた皇帝は、この日の予定を全部キャンセルして指令室にいることを決めたよ。
『子どもたちと午後のお茶ができなくなったわ』
『始祖と通信できれば、みなそれどころではなくなるでしょう』
いつも冷静な宰相が少し浮き足立っていたよ。
『さて、始祖の現世はどんなお話を紡いでくれるのでしょう。皇帝の子を拉致?ふふ。大胆なこと』




