22話 前世の名
先陣をきって戦っていたレオが、いつの間にかリアムを見下ろしたよ。
「だめだ、ガレオ。アルマンとリアムを置いていくぞ。本当にがっかりだ。勇敢な男に会えたと思ったのに」
「リアムは初陣なんだ。アルマンも置いていけない」
ガレオがフォローしたけれど、力がなかったよ。もう少しリアムが動けると思っていたんだ。
「アルマンはもうだめだ。二人を置いていく」
レオの言葉は酷いと思うかな?
ガタブルする新人君と負傷者を守る余裕は、レオたちにはなかったんだ。周りはすでに敵が囲んでいるからね。
「行け。俺は二人を守る。リアムを置いていっては、戦友に合わす顔がない」
ガレオが言うと、バヤールもマジ?という顔をしたよ。
ガレオの師匠も口を開いたよ。
「俺も残ろう。シャルルのお陰で俺は今日まで生きてこられた。奴に借りを返す時が来た。
それに老兵は足を引っ張るだけだしな」
「好きにしろ!行くぞ!」
レオについていったのは、バヤールとデジレだけだったよ。
ジョゼフは戸惑ったような顔をしていたから、ガレオが行けと言ったよ。
ジョゼフが走り出そうとしたときに、銃声と敵の動きが止まったんだ。
敵は何か叫んでいるよ。
「銃撃が止んだ。連中は何か叫んでいるが、バヤールは何て言っているかわかるか?」
ガレオの師匠は強いみたいだね。リアムとアルマンを守りながら戦っていたのに、腕を撃たれたようだけれど、掠り傷程度だったよ。
「降伏しろだって。その方がいいかもな。ざっと見たところまだ五十人以上いるぜ」
相談するためにレオたちはガレオのところにきたよ。
生き残るには降伏しかない。
駄々をこねたのは一人、いや二人だったよ。
「俺は戦うぜ!降伏なんて、ヴァリエンテの男がするようなことじゃない!そんな不名誉なことを受け入れるなら、ここで死ぬ!」
レオが行こうとすると、リアムがみんなに聞いたよ。
「捕虜になったら、帝国に連れていかれる?」
ガレオはリアムが怖いんだろうなと思っていたよ。
「わかんねえ。最悪、その場で殺されるかもしれないが、傭兵の俺らはないだろうよ。その場でランバートとの雇用契約を破棄すると誓えばいい」
「そうか。捕まったらランバートとデスペハードと交渉する機会が失われるな」
「リアム?何を言って?」
顔をあげると、そこには一切の怯えはなく、鋭い眼があったよ。
「ビビってて悪かった。もう覚悟した。敗けは決まったわけじゃない。
足引っ張ったやつの言葉を聞く義理はないと思うが、アルマンを治したい。時間を稼ぐのに協力してくれないか?」
「リアム、急に…。別人みたいに。恐怖で頭イカれたか?」
バヤールは困惑していたよ。
リアムらしくない口をニヤリと歪めたんだ。
「別人だ。前世の記憶を通して話しているからな。
デジレたちには話していなかったが、リアムにはところどころ前世の記憶があった。それを全部思い出したわけだ。リアムの思考では勝てないと踏んで、前世の記憶を引っ張ってきて話している。分かりにくいなら、霊がついたとか多重人格とかそういう扱いでいい」
「ちょっと今ここでファンタジーな話をすんなよ?」
デシレは混乱していたけれど、ガレオは真顔だったよ。
「マジか。誰だったんだよ」
「名乗っても俺のことをわかんねえよ。ガレオは千年前の帝国人で知り合いいるか?」
「いない…」
「だろう?」
リアムは止血を終えると痛みで苦しむアルマンに、薬屋さんからもらった薬を半分水に溶かし、火の鳥の肉も細かく切って飲ませたよ。
「で、前世はどういう人間だったんだ?」
ガレオに聞かれて、リアムは銃のコアを出して見せながら言ったよ。
「こいつを作った技術者だ。敵の魔法具の止め方を知っている。だが、この方法を使えば味方のコアも止まる。だから自力で魔法が使えて、コアなしの魔法具をどのくらい持っているかにかかっているが…」
「それは本当にできるのかな?」
老戦士の疑問はごもっともだね。
リアムはコアを解析したよ。
「千年間で随分技術は進んでいる。コアの基礎は…変わっていないようだ。えらく色んなものをぶちこんでいるようだが、おそらく使える。誰か防御壁系の魔法具持っているか?」
老戦士が指輪を外してリアムに見せたよ。
「…ふーん。これはかなり広範囲の防御可能だな」
「シランスの森に行くとわかったからな。寝るときにテントごと防御したいと思って奮発した」
「なるほど。それは便利だ。今アルマンの止血はしたが、中はやられたままだ。治癒魔法を使いたいが、その間俺は無防備になる。俺を守ってほしい。
出来た奴には報酬を払うぜ。金がないと思ったか?
お前たちに配った肉はパハロ…じゃなかった。火の鳥の肉だ。俺には羽根もある。買い手はすでについているんだ。乗るか乗らないかは、今からやることを見てから決めてくれ」
リアムは老戦士に指輪を返して、呼吸を整えてから呟いたよ。
『ユビキタスよ』
この場にいた人たちはリアムが、何の言語で何と唱えたか全くわからなかったよ。
えっと思っている間に老戦士の魔法具が発動して、四方に防御壁が出来たんだ。
「な…。俺は何もしていない」
老戦士は驚いて防御壁に触れたよ。
「ユビキタス…帝国の作ったコアはすべて一つの装置に繋がっている。ある方法を取れば周囲の魔法具に干渉できる。つまり乗っ取ることが可能だ。
ヤバい技術なのはわかるだろう?この方法を知っているのは千年前では限られていた。帝国にその事が現代まで伝わっていれば、俺がコアの技術者の転生者だと連中は信じる」
「捕虜になって帝国側に行った方が話が早くないか?」
ジョゼフの言うことはごもっともだけれど、リアムは苦笑したよ。
「捕虜は殺されるかもしれないんだろう?装置の話はおそらく末端には伏せられているはずだ。上層部の人間と直接話がしたい。
あとランバート側にデスペハードの元王族…今の言い方だと皇族か。その生まれ変わりがいるとわかれば、攻撃してこないはずだ」
「リアムの前世は皇族だったのかよ。で、リアムだと思えないからとりあえず名前を教えてくれるか?」
ガレオはこうなったら、リアムの話を信じるしかないと思ったみたい。
リアムはアルマンが苦痛の表情が和らいだのを確認してから、名乗ったよ。
「アニバルだ。皇族になる前は狩人だった。だから気楽にしてくれ」
「アニバルな、わかった」
ガレオが普通に返していたけれど、バヤールが目を見開いて叫んだよ。
「狩人でアニバルって名前なら、神帝だぜ!千年前の人間だし、まさか本物とか言うなよな?」
「バヤールは意外と物知りだな。所持している武器をベラベラ話すから馬鹿かと思ってたぜ」
「は、はあ?」
ニコニコいい子の後輩に、まさかそんなことを思われているとは。
リアムことアニバルは頭をかいて、反省していたよ。
「悪い。言いすぎた。口が悪いのはよくエクトルたちに怒られてたからよ。育ちが悪いんで、直らねえもんは直らねえ。
神帝という地位には千年前はついていない。正確には水神王だ。どうやら俺が死んでから、あの子らは神帝と呼ぶようにしたようだな」
「あんたが神帝ということは、デスペハードの始祖ってことか?」
バヤールが恐る恐る聞くと、リアムはあっさり答えたよ。
「そうだが?」
「まさかの田舎少年が神帝の生まれ変わり?やべー。頭がついていかねぇ…」
「デスペハードの始祖の転生者はシャルルではなく、息子のリアムだったということだな」
老戦士は納得しているよ。
「信じるのか?」
「半分な。だが帝国は信じるだろう。嘘だとなればただでは済まないが?」
リアムは肩を落としたよ。
「アニバルの時も大騒ぎだったから、なんとかする。アルマンに飲ませた薬が効いてきたようだ。
そろそろ始めようか。もう一度言うが、俺がコアに干渉すればすべての魔法具は停止する。帝国製のコアなしの魔法具を持っていない奴は?」
ジョゼフ以外は持っていたよ。
「…お前ら金持ちだな」
妙な敗北感を味わっているジョゼフに、リアムはマリアスが作った銃を渡したよ。
「剣は使わないだろう?」
「何でコアなし持ってるんだ?」
「マリアス・カレは帝国陰謀論者だった。コアなしの銃を自作していたのを譲りうけた。
まさかこんな状況になるとは思わなかったけどな」
「金持ちって妙に秘密結社だとか陰謀論好きだよな。どうでもいいや、借りるぜ」
ジョゼフが銃を受け取った瞬間、リアムが彼の腕を掴んだよ。
「勝手に用を足しに行くなよ?」
見定めるように見るリアムの眼に、ジョゼフはきゅっと表情を引き締めたよ。
「…はい」
「リアム、じゃなかったアニバルさんよ。囲まれてるぜ」
ガレオたちは防御壁の四方を確認してくれていたよ。
帝国兵が銃を構えて、ゆっくり近づいてきたんだ。
「リアムでいいぜ?壁を取っ払った瞬間しゃがめ。
血を借りるぞ。アルマン」
服や周囲に流れたアルマンの血を魔法で浮かしたよ。細菌とかが入り込んでいるから、身体には戻せないからね。
「お前、俺らの血を操ったりしないよな?」
バヤールがビビっていたよ。リアムはニヤリと笑ったんだ。
「始祖の逸話は知らねえのか?俺の機嫌を損ねないことだな。行くぜ。野郎ども!」
「俺はお前の手下じゃねぇ」
「任務を遂行した奴には約百万円やる」
「何でもやります、アニバルさん。いや神帝様」
バヤールがひらりと態度を変えたよ。
ガレオが気前のいいリアムを胡散臭そうに見ていたよ。
「どこに金があんだよ」
「帝国財布」
「子孫にたかるのか。恐ろしいな、神帝は」
老戦士は愉快そうに笑ったよ。
ガレオたちは銃を構えて身を伏せたよ。
リアムは中央の言葉で詠唱したんだ。
『ユビキタスよ。千年の眠りから目覚め、我の意志に答えよ』
リアムはとある魔法も発動して最後の言葉を放ったんだ。
『止まれ!!』
壁が消えると帝国兵は銃を撃ったんだけど、全然発砲しないから混乱したよ。
血の弾が飛んできたから、一斉に帝国兵は隠れたよ。
それに乗じてガレオたちは攻撃したんだ。
リアムは茂みにアルマンを連れていくと、薬でうつらうつらしていたアルマンが目を覚ましたよ。
「リアムちゃん…」
「今、治すから色々我慢してくれ」
ジョゼフはリアムの周りを警戒しながら、近づく兵士に向かって発砲していたよ。
リアムの身体が淡く光るのを見て、ジョゼフは慌てて肩を掴んだよ。
「その魔法は!」
「お、知ってんの?調整するし、アルマンの魔力も借りるから問題ない」
ジョゼフの手を振り払って、リアムは口移しで治癒魔法をアルマンに流し込んだよ。
寝ぼけ眼だったアルマンは、リアムのキスにかっと覚醒したよ。
「リ、リアムちゃん!」
「どうだ?傷は?」
アルマンはゆっくり傷に手を置いたよ。まるで傷がなかったように消えているんだ。
「何が起こったの?」
「治したが血の量は戻せていない。気休めだが、これ食え」
差し出された火の鳥の肉ではなく、リアムを見つめていたよ。
「あなた、誰?」
「あ?俺?リアムの前世でアニバルという。現代では神帝って呼ばれてる。
それは今はどうでもいい。つらいと思うが、逃げる準備しておいてくれ。ちょいと帝国の奴らを脅かしてくる。ジョゼフ、アルマンを守れよ?」
「…俺も行く」
「アルマンがやられたらどうする?」
「あなたがやられたら困る」
リアムとジョゼフはしばし見つめあったよ。様子がおかしいから、アルマンは不安そうに二人を交互に見ていたんだ。
「お前には色々聞きたいことがある」
「俺も神帝陛下には、お伝えしないといけないことがあるので」
リアムはため息をついてから、ジョゼフに指差したよ。
「命令だ。アルマンを守れ。ただし、お前の身が危ういと思ったら逃げろ」
「承知致しました」
ジョゼフ帝国の密偵説が確実になって、リアムはどうしたものかと考えながら戦況を確認したよ。
アルマンも勘づいたんだ。
「ジョゼフちゃん、あなた」
「アル姐に黙ってて悪かったけど、俺はシエロ教の信者なんだ。あまり深くは信仰していないけど、もしリアムが神なら従うつもりだ」
リアムは身を隠しながらチラリとジョゼフを見たよ。嘘は見られなかったんだ。
帝国兵は魔法を使っているけれど、バヤールの魔法具なしくらいのレベルだったよ。
帝国兵はコアつきの魔法具しか持っていなかったようなんだ。みんな銃以外の武器は持っていなかったみたいで、素手でガレオたちに対抗するしかなかったよ。
『残念だ。もっと強い奴がいると思ったのに』
エルスターの言葉で舌打ちをしてから、大規模魔法を放ったよ。
帝国兵は足を押さえてバタバタ倒れていったんだ。
「なんだ?」
ガレオたちは困惑しているから、説明してあげたよ。
「水魔法だ。攻撃はよしてくれ。もう奴らは戦えない。
自力で防御もできなくなったのか、現代の帝国兵は。随分と軟弱になったもんだ」
神帝お怒りのご様子にガレオたちは道を開けたよ。
倒れた帝国兵にリアムはエルスターの言葉で話したよ。
『俺の言葉が判るか?千年前の言葉だから判りづらいだろう。
戦いをやめて、皇帝に伝えろ。俺は目覚めた。お前たちの敵として、とな』
次回の投稿は水曜日の予定です。
セリフで帝国財布とありますが、最初テラが帝国銀行と言っていたところを変えました。帝国銀行という名前は昔日本や世界にもあったようなので。そちら連想する人もいるかなと思い、財布に変えました。テラは本当は帝国バンクと言いたかったらしいですが。お好きな言い方で置き替えてみてください。




