20話 ヒューゴ・シランス
「領主様にくれぐれも失礼のないように」
軍服の男の人を見て、リアムが連想した人とはかけ離れた鋭い口調と冷めた目だったけれど、声がとても似ていたんだ。
男の人を先頭にして、ガレオが部屋を出たよ。アルマンも出ようとして、コソコソっとリアムは聞いたんだ。
「ねえ、あの人ってエドおじちゃんの親戚?」
アルマンはにっこり笑って、リアムに耳打ちしたよ。
「息子よ」
エドおじさんから子どもはいないと聞いていたから、アルマンに詳しく聞きたかったけれど、お屋敷の中はとても静かだし、息子さんもそばにいたから話せなかったよ。
エドおじさんの方が肩幅がしっかりしているけれど、髪の色や輪郭が後ろから見るとそっくりだったんだ。
ある部屋で息子さんが止まってこちらをちらりと見たよ。リアムは目が合って、ニコニコっとしたんだ。
なんだこいつという顔を浮かべてから、おじさんの息子さんはノックしたよ。
「お連れしました」
ガレオが中の人に一礼して部屋に入って行ったよ。アルマンがリアムを安心させるようにウィンクして、ガレオのあとに続いたよ。
リアムも一歩入ると、奥にいた人物と目が合ったよ。
夕日を背に、優しそうな目に柔らかに微笑みを浮かべた初老の男の人が座っていて、どうしてかリアムは目が離せなくなったんだ。
ニノンと出会ったときや、ジョゼフィーヌとすれ違ったときとは違う。心にじんわりとあたたかいものが広がったんだ。
おじさんの息子さんの咳払いに、リアムは慌ててお辞儀をしてから、部屋の中に入ったよ。
「久しぶりだね。ガレオ、アルマン。元気だったかな?」
「ヒューゴ様もお元気そうで」
ガレオが緊張していたけれど、アルマンは笑顔だったよ。
「あたしは、ずっとお会いしたかったんですよ。今日は本当にお時間をいただいて、ありがとうごさいます」
「私も君たちに会いたかったが、なかなか時間が取れなくてね。それで、彼かな?シャルルの息子は」
アルマンにご挨拶してと小声で言われて、リアムはエドおじさんに習った通りに、右手を胸に当ててから頭を下げて名乗ったんだ。
「リアム・アルク、です」
ヒューゴはにこりと笑って、三人に席を勧めたよ。
「私はシランスで領主をしているヒューゴという。リアムはどこから来たのかな?」
「南です」
「南か。何州かな?」
「リューリッシュより南にあるところです」
ガレオは何でリアムは言わないんだろうと思ったよ。傭兵組合に登録したときは書けたのにね。
「ちゃんとお答えしろ」
おじさんの息子さんに怒られちゃったよ。それでもリアムは笑顔で南ですと答えたよ。
「俺、学校行ってないからわかんないです。ガレオに名字を教えてもらうまで、知らなかったんで」
おバカキャラをアピールするリアムに、アルマンもどうしたんだろうと心配していたよ。
エドおじさんの息子さんの視線がどんどん冷たくなっていくのとは反対に、ヒューゴはそうかと微笑んでいたよ。
「学校にどうして行かなかったのかな?」
「養父母の畑を手伝っていました」
農村あるある問題に、ヒューゴはそうかと言っただけだったよ。
「学校は行きたかったかい?」
「行きたいと思ってません」
「どうしてそう思ったのかな?」
「養父母の息子が通っていたからです」
「彼のことは嫌いだった?」
「はい」
リアムは聞かれたことにだけ、機械的に答えていたよ。
ガレオやアルマンとはまったく違う態度に、ガレオもリアムの意志に気づいたんだ。
「偉い人にこき使われたくない」
何度もリアムは話していた。領主という偉い人にこいつ馬鹿だと思わせて、目をつけられないようにしていたんだ。
リアムの作戦はその場にいた領主の護衛たちも引っ掛かっていて、こんな田舎のガキの相手は領主様の時間の無駄だとイライラしていたよ。
でもヒューゴはリアムにたくさん質問したんだ。
好きな食べ物はとか、リューリッシュに来てどう思ったとか、親戚のおじさんかって感じの質問ばかりだったよ。
「君のお父さんについては聞いてるかな?」
「水葬のシャルルって言われてて、ランバートの英雄だったと聞いてます」
「君はお父さんのように水魔法は使えるのかな?」
「少しなら使えます。親父には会ったことも、魔法を使っているのも見たことがないので、わかりません」
リアムの拒絶を感じ取っていたのか、ヒューゴは表情を崩さず最後にと前置きをして聞いてきたよ。
「エドガール殿は元気か?」
おじさんの息子さんが少し動くのを横目で見て、他の護衛たちの反応をリアムは気配で眺めていたよ。敵意はなさそう。
「エドガールという人は知りません」
「ん?君をリューリッシュから連れ出した人のことだよ?」
「その人はエドおじちゃんです。本名は知りません。おじちゃんがエドと呼べと言ったから、エドおじちゃんと呼んでます」
「そうか。エドおじさんと付き合いはあるのかな?」
「リューリッシュに来るまで一緒に暮らしてました」
「一緒にか。エドおじさんという人はどういう人かな?」
おじさんの息子さんはポーカーフェイスを装っているけれど、視線がきつくなってきたよ。
リアムは息子さんの境遇を想像できてしまったんだ。
非国民の息子。
リアムはエドおじさんと暮らして、辺鄙な村でも風当たりが悪かったのに、貴族をやっている息子さんはもっと酷い扱いを受けていただろうね。
お父さんを恨んだり嫌ったりするのは当たり前かもしれない。
その複雑な胸中をかかえる人の前で、お父さんの今の様子を聞き出そうとする領主。
いじめなのか優しさなのか。多分優しさなんだろうとリアムは思ったよ。
非国民の息子と呼ばれ続けて、自分から安否を確認できないから、領主さん自らリアムから聞こうとしているのかもしれないね。
「優しい人です。俺に字を教えてくれました」
「字か。アルマンから剣もできると聞いたけれど、おじさんという人から習ったのかな?」
「そうです」
リアムが息子さんの様子を伺っているのをヒューゴも気づいていたよ。
「そこにいる彼は我が領の騎士団長をしている、カジミール・ロシュだ。エドガール殿の息子だよ」
リアムはそうなんだみたいな顔をしたけれど、カジミールは冷ややかな目をしていたよ。
「領主様。私には父はおりません」
ヒューゴは頑なだなとため息をついたよ。
リアムはカジミールの完全否定にムッとしたよ。
「俺の知ってるエドおじちゃんはエドガールという人ではないですね。おじちゃんは子どもはいないって言っていたので」
カジミールは一瞬怒気を見せたけれど、すぐに冷ややかな目に戻ったよ。
「…カジミール。お君たちは下がっても構わない」
「護衛は必要です」
「騎士団長の君が私についている暇はないだろう?明日は戦地に行く。時間はいくらあっても足りない」
「承知致しました」
カジミールと数名は出ていって、領主と同じくらいの歳の軍人が残ったよ。
副団長さんらしいよ。
ヒューゴはリアムをじっと見つめたよ。
「本当にエドガール殿は子どもはいないと言ったのかな?」
「子どももいないし、結婚していないって言ってました。エドガールさんと騎士団長さんは他人です」
「リアム。意地悪をしないでくれ。カジミールはエドガール殿のことを尊敬していた。でも貴族としてやっていくには純粋に尊敬できなくなる。
戦争でこの領はどうなるかわからない。彼に少しでも父親のことを伝えてあげたかったんだ」
ニコニコしていたリアムの顔が、すっと真顔になったよ。
「あの感じだと、今会ったとしてもお互いにこじれるだけだと思うよ?」
ヒューゴも副団長も、リアムの話し方を不遜だと怒らなかったよ。
「わかっている。彼は本心では父親のことを気にかけている」
「領主様って、部下の家庭事情も気にかけるの?」
「リアムちゃん…」
言いすぎよとアルマンが咎めたけれど、リアムは気にしないよ。
「おじちゃんは自信をなくしてる。守った人たちから非国民って罵られて、自分のやったことは正しかったのかって。
俺はおじちゃんと一緒に別の国に行きたかったけど、おじちゃんは嫌がったんだ。どうしてと思ったけど、家族がいたから他国には行けなかったんだね。やっと納得した」
リアムは難しい顔して何やら考えていたよ。
「何を考えているんだい?」
「何でもないです」
エドおじさんの未練をきっぱり立ちきって、国外へ行く方法を考えていたけれど、アルマンを筆頭に怒られそうだから言うのをやめたんだ。
カジミールとの関係を完全に決裂させて、ランバートへの未練をなくすこと。
考えたは考えたけれど、あんまりよくないなと思い止まったんだ。
「今日は街に泊まるのかな?」
ヒューゴはガレオたちに聞いたよ。
「宿はいっぱいだったので、軍のテントになりました」
ガレオが答えるとヒューゴは何を思ったのか、三人とも屋敷に泊まるといいと言ったんだ。
それには副団長も驚いていたよ。
「よろしいので?」
戦争の前の晩に平民の傭兵を屋敷に泊める。問題なさそうだけれども、領主と縁のある貴族や兵士は招いていないからね。その人たちがやきもちやくんじゃないかって、副団長は心配していたんだ。
「構わない。明日はどうなるかわらないのだし、昔のことを知る者と語りたい。
リアム。君の父親は私たち、シランス領の者たちにとって英雄なんだ。エドガール殿も。君の味方でありたいと思っている。
だからエドおじさんについて教えてくれないかい?」
「ヒューゴ様はエドガール様が処刑されそうになったのを止めた方よ」
アルマンがヒューゴのことを信じてほしいと思っていたよ。
ヒューゴは目を伏せてから、ゆっくりと語り出したよ。
「十六年前の帝国との戦いはエドガール殿は助けられたが、君の父親は厳しかった。戦争前からシャルルは英雄として担がれていた。戦争で負けた英雄はどうなるか。
彼は勝つ以外に生き残るしかなかったのを、エドガール殿は一つだけ道を示した。シャルルがランバートで死んだことにして、帝国へ亡命する道だ。シャルルはそれを拒絶して、亡くなった」
「どうして拒絶したんですか?」
「君はシエロ教の信者に会ったようだね?」
リアムは記憶を掘り起こされたことを思い出して、嫌な顔をしたよ。
反応にふふとヒューゴは笑ってから、すまないと口を手で隠したよ。
「シャルルも追いかけ回されてね。嫌気が差したのと、帝国に行けば囲われると思ったようだ。もし彼が帝国の始祖の生まれ変わりだったら、護衛がたくさんついて教会や王宮から一歩も出さないようにするだろうからね。
自由がないならそれは死だ、とエドガール殿に言ったそうだ」
リアムはああと口の中で小さく呟いたよ。
「わかる。俺もそう思う」
「君もそうか。では、傭兵を辞めて私のもとに来ないかと言っても無駄かな?」
副団長もガレオたちもこれには驚いたよ。
ヒューゴは周りの反応を楽しむように見渡してから、理由を教えてくれたんだ。
「幼い君が一人残されたと聞いて、私は犠牲になったシャルルへせめてもの償いのために、引き取ろうと思っていたんだ。シャルルはエドガール殿に遺言を託していた。貴族と帝国の手に君を渡すなと。
だからエドガール殿は君を連れてリューリッシュを出た」
ヒューゴの言葉にはまったく嘘がなかったんだ。優しい人なんだなとリアムは思ったよ。
ヒューゴに育てられていたら、まったく人生が違っただろうね。
犬扱いもされず、もしかしたら英雄の子どもとしてチヤホヤされたかも。
その代わりにエドおじさんやフーと過ごした日々はなかった。
「気にかけてくれて嬉しいです。でもエドおじちゃんと過ごしたから、今の自分がいるんです。領主様が償いとか考えなくていいですよ?」
「ありがとう。私としては君たちを守りたい。意味はないかと思うけれど、君たち三人を私が雇ったことにしよう」
傭兵組合には国からの依頼で傭兵を集めていたけれど、シランス領も傭兵を集めていたよ。
決まった領主や貴族の下で雇われていない傭兵は、国が雇うという感じらしいよ。
戦地に行く傭兵なのだから、国かシランス領主かであまり変わらない気がするけれど、国よりも少しは融通してくれるって、ヒューゴは話したよ。
リアムはどっちでもいいと思っていたけれど、アルマンはとても喜んでいたよ。
「やった!ヒューゴ様に雇われたら、あたし頑張っちゃう!リアムちゃんと同じ隊にしてくださいね!」
「バヤールという傭兵ではないのかな?」
「バヤールちゃんもいてほしいけれど、あたしは今リアムちゃんにゾッコンなんですよ~。二人がいたら張り切っちゃうけど」
「ではバヤールにも声をかけておこう」
雇用については組合に領主と傭兵の双方が契約したと報告すれば、いいらしいよ。
三人は契約書を書くと食事の時間になったよ。
「泊まるってバヤールたちに言った方がいいよね?」
リアムは帰ってこないって心配させちゃうかもと思ったら、すでに副団長が根回ししてくれたみたい。
リアムたちを雇ったと聞いたカジミールは、そうですかと言っただけだったんだ。
カジミールはリアムたちの上司になったわけだけど、領主の騎士団長が直々にリアムたちに戦場で命令することはないし、顔も合わすことはないよ。
ヒューゴたち貴族と一緒ということで、リアムは緊張しながらごはんを食べたよ。今までの人生の中で一番美味しい料理だと思うけど、まったく味がしなかったようだよ。
ヒューゴはリアムが料理に合わせてスプーンやフォークを使い分けていたから褒めていたよ。
「エドおじちゃんに教わりました」
カジミールも同席していたけれど、無反応だったんだ。
戦争の話はあまりしないで、新聞に載っているようなニュースをみんな話していたよ。
リアムは新聞を読まないから、耳を澄まして聞いているだけだったんだ。
「今朝、デジャルダンに火の鳥が現れたそうですよ」
副団長が出した話題にリアムはドキリとしたんだ。フーのことが頭に過ったけれど、フーがプラット村の森から出るわけないから別の火の鳥だと考えたよ。
「写真に撮られたは初めてだったそうですね」
ガレオも知っていたみたい。アルマンも新聞を見てたらしく、あたしも興奮しちゃったと言っていたよ。
「リアムは新聞読んでいないのかな?」
ヒューゴに聞かれて、フーのことを考えていたリアムは慌てて読んでいないと答えたよ。
「写真あるですよね?新聞ってまだ売ってるかな?」
「見てみたいかい?では持ってこさせよう」
ヒューゴがいうと使用人が新聞を取りに行ってくれたよ。
新聞くらい読めとカジミールの冷たい視線がリアムに刺さっていたけどね。
借りた新聞の一面にカラー写真が載っていたのを凝視したんだ。
フーかと思ったけれど、少しふっくらしているし、別の鳥かなと思ったんだ。
「リアムちゃん、すっごい見てるわね。珍しいもんね」
「ん?うん。そうだ、シレンティウムじゃなくて、シランスの森に魔物がたくさんいるんだよね?みんなにお守り配ろうとしていたのを忘れてた」
「お守り?」
アルマンはお守りが気になったけれど、ヒューゴは別のことが気になったみたい。
「リアム。シレンティウムという言葉はどこで知ったのかな?」
「え?えっと、わかりません。シランスの森のことを最初はシレンティウムだと思ってたんですけど、バヤールに違うと言われて」
「シレンティウムは失われた言葉、中央語で静寂という意味なんだよ。若い君が知っていて驚いた。森の奥に湖があってね。その周辺に住む人はシレンティウム湖と呼んでいる」
「そうなんですね。おじちゃんが教えてくれたんだと思います」
リアムが誤魔化そうとしたけど、ヒューゴは彼も知ってるかなと懐疑的だったよ。
話題をそらそうとして、リアムは火の鳥の干し肉を出そうとしてやめたよ。
「ガレオたちに作ってから渡すね」
「お守りってなんだよ?魔法具作る気か?」
「魔法具より楽なものだよ。これがあったから、ニノンさんは助かったんだ」
「あら、その話は聞いてなかったわね」
「ニノンさん?」
ヒューゴたちは知らないから、リアムはかいつまんで説明したよ。
「まさに火の鳥が現れたのが、人喰い狼が出て、被害があったところだ」
副団長さんが言ったから、リアムは記事本文を読んだよ。
記事にはどうして火の鳥が現れたかはわからないけれど、血の臭いにつられて来たのだろうだって。しかもその日の昼にカレ商会のデジャルダン支店の建物に行ったらしいんだ。
偶然だろうと書いてあるけれど、リアムはもしかしたらと思ったよ。
マリアスさんに肉と羽根を渡してるから、敵と勘違いした火の鳥が臭いを追ってきたのでは?
「となると、まずいかも…」
「リアム?」
みんなの視線が注がれて、仕方なく干し肉を出したよ。いつも財布にお肉を少し包んだものを入れていたんだ。
「もしかしたら、これを追ってきてるのかもしれません」
「これは…?」
「火の鳥の肉です」
みんな、えって顔をしたよ。
「おじちゃんが住んでいる森に、たまたま縄張り争いをして負けた火の鳥を見つけたんです。ほとんど燃えてて、無事だったところをおじちゃんと二人で切って干し肉にしたんです。
残念ながら肉には不老不死はありませんが、魔物避けと魔力回復効果があります。
家畜も魔物も肉片があるだけで近寄りませんが、他の火の鳥の縄張りに俺が気づかずに入っていて、敵だと思って新聞の魔鳥が追ってきたのかなって…。マリアスさんにも肉を少しわけたんです」
「火の鳥を見たとは。どこの村かね?」
副団長が身を乗り出して聞くけど、リアムは笑顔で答えられないと言ったよ。
「エドおじちゃんの身の安全を確保してくれたら、教えます」
「つまり…?」
ヒューゴは納得した顔をしたよ。
「そうか、頑なに住んでいた場所を言わなかったのは、エドガール殿の手元にまだ干し肉があるからだね?欲しがる者はたくさんいるだろう。もしかしたらエドガール殿を脅迫したり、危害を与える者が出てくるかもしれない」
「理由は干し肉じゃないけど、そういうことにしておきます」
ヒューゴはにこりと笑って、リアムを褒めたよ。
「君はこの場にいる者がエドガール殿の敵か味方、いや十六年前の戦争で酷いことをした人間がいるかもしれないと警戒して彼の居場所である、君の出身地を話さなかったんだね」
「…リューリッシュの街の雰囲気はちょっと変でした。エルスター語が話せるだけで非国民扱いされる。おじちゃんはすでに非国民扱いされているから、誰かがおじちゃんを引っ張り出してきて敵扱いして、酷い目に合わすかもしれないと考えてしまったんです。
だから話しませんでした。でも、田舎だし周辺にも噂が流れてると思うし、領主様が探せば簡単にわかっちゃうと思いますけど」
「確かに危険性はある。今は探さないでおこう。こちらの配慮が足りず、すまなかった。
して、その肉は本物なのかな?」
「信じるかどうかはお任せします。動物飼ってたら嫌われるので、嫌われたくない人は持たない方がいいです」
食事に使っていない綺麗なナイフをもらって、リアムはお皿の上で切り分けたよ。
「リアムの話が本当なら大変なことになるな」
「副団長、大変とは?」
カジミールが珍しく食いついてきたよ。
「火の鳥は災害級の魔物です。それが戦場に来たら戦争どころではない。被害は酷いでしょう。もっと恐ろしいのは氷の鳥と出会うことです。
二つの魔物が出会うと世界が滅ぶという言い伝えがあります」
滅ぶとは大げさだし、具体的な話はわからないそうだよ。
カジミールは干し肉をしげしげと見てから、胡散臭そうにしていたよ。
「食べられるのか?これ?」
「戦場で魔力切れになることがないといいですけど、もしものときのためって感じで持っててください。だから、お守りです。
あ、物凄くまずいので、噛まずに飲むことをお勧めします」
食事が終わると、リアムはヒューゴとバルコニーで少しお話したよ。
リアムはヒューゴと向かい合って座って、また心の奥がほんわかあたたかくなったんだ。
「俺、領主様と会ったことありますか?初めて会う気がしなくて」
「ヒューゴと呼んでほしい。君とは今日が初めてだよ。私も初めてとは思えない気がするよ」
「前世で会ったかもしれないですね」
ヒューゴは微笑んで、そうかもしれないと言ったよ。
「リアム。私の養子にならないか?」
「養子、ですか。俺は来年成人するし、貴族になる気はないです。エドおじちゃんと大陸中を旅したいなって思ってるんで」
和やかな雰囲気の中、影からアルマンが素敵なツーショットと喜んでいたよ。
「来たかいがあったわ!あたし、もう明日死んでもいい」
「縁起でもないこというなよ」
ガレオは、アルマンに冷ややかな視線を送り続けるカジミールがいて気まずかったよ。
カジミールはリアムを信用していないみたい。
リアムは一人部屋に通されて、ふかふかのベッドに寝転んだよ。
「貴族って本当にいい暮らししてるんだね」
寝心地に慣れなかったけれど、緊張して疲れていたからうとうと眠ったよ。




